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第103話  いつものアリス

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「……しっかり読んでるじゃないですか! 大体どうやったらそんな端と端にある写真とメッセージのボタンを押し間違うんですか⁉ ノアですね? 絶対ノアですね⁉」
「いやいや、やっぱり親としては子どもの事は気になるものなんだよ。あの子、ちゃんと生活してるのかしら? ってさ」
「そんな風に思った事なんて一度もないでしょう⁉」

 そう言ってシャルはノアのポケットからスマホを無理やり奪ってガラス板の窪みにはまった自分のスマホと取り替え、メッセージボタンを押してアリスとのやりとりをガラスに映し出した。

「あ! こら!」
『アリス! いつになったら帰ってくるの!』
『アリス! 今どこにいるの⁉』
『アリス! 晩ごはん出来たよ! 早く戻ってきなさい!』
『アリス! どうして脱いだ服をそこら辺に置いとくの! また靴下片っぽないよ!』
『アリス! キャシーからダイレクトミルクは止めなさいってあれほど!!』
『アリス⁉ アリス! 返事しなさい! アリス!!!』
「……ノア……」

 ガラスに映し出されたメッセージを見て全員の視線がノアに集まる。その視線はもれなく憐れみだ。

「お母さんかよ」
「こうなってくるとキリの方のメッセージも見てみたい気がするな」
「アリス……あの子だけはほんとに……」
「アリスってば本当に毎日叱られてるのね! 面白いわ」
「……見なければ良かったと私は今とても後悔しています」

 ポツリと言ったシャルルにシャルも頷いて、ガラス板からノアのスマホを無言で外してノアに返す。

「すみません、ノア。私だけ幸せで」
「僕だって幸せだよ! ところでミアさん、キリから何か連絡ある? この通りアリスは全く連絡を寄越さないんだ」
「あ、はい。底に到着した、と。アリス様が持ってきたパラシュートを使ったら一瞬だったそうです」
「……あの大荷物、何かと思ったらそんな物持ってってたのか……」

 数十分おきにアリスに連絡を取ろうとするも、その全てを無視され続けているノアである。あちらの世界でもそうだったが世の中が便利になればなるほどその弊害も出るものだ(あちらではノアが無視する側だったが)。

「ま、まぁあれだ。アリスちゃんは心で繋がれるらしいから、きっとお前ともそうなんだよ。な?」
「でもどう見ても一方通行だよ?」
「フィル! それは言っちゃ駄目! ほら、写真みようぜ! な?」

 慌ててフィルマメントの口を塞いだカインは苦笑いを浮かべてシャルのスマホを操作して、今度はちゃんと写真を開いた。

「気を取り直して。これは……シュタのあの丘だよな?」
「ええ。まだここには祠はありません。次の写真です。こちらはシュタの北の方なのですが」
「これは? 随分大きな石ね」
「はい。既に苔むしてよく分からなくなっていますが、この石の奥から風が吹いてくるので何かあるようなんです。残念ながら石をどける事は出来ませんでしたが、これから推測するにやはりこの時には既にシュタには何かがあったのではないでしょうか。そして次です」

 そう言ってシャルは次の写真を見せた。ただの野原の真ん中に大きな湖がある。その真ん中にはレヴィウスのシュタと同じぐらいの島があり、そこに色とりどりの花が咲き乱れている。

「これはどこなんですか?」

 ライラが問うと、シャルは髪を拭きながら言う。

「ルーデリアのシュタの今は禁足地と呼ばれている場所です。まだ目隠しの魔法などもかかっていませんが、生憎ここから先へは進めませんでした。浮遊魔法を使っても途中で押し戻されるのです。同じ原理で泳いでも無理でした」
「浮遊魔法を使っても泳いでも無理? 何故だ?」
「分かりません。どうやってアリス達は向こう岸に渡ったんでしょうね……。ちなみにこの場所は花畑以外は遠くから見る限り何もありません。近くにはまだ人も住んで居ないようだったので、ここもまだ開発されていないようです」

 シャルが腕を組んで言うと、それを聞いていたノアがポツリと言った。

「でもこれで一つ分かったね。やっぱり鉱夫達はここを抜けてこちらに来たんだよ」
「なんでそんな事が分かるんだ?」
「だって、外から泳いでも魔法を使っても渡れないという事は、誰があそこに教会を建てたの? あちら側に誰かが居たって事だよ。まさかディノが建てた訳ないだろうし」
「でも月に一度道が出来るのでしょう? だったらそれを知った後の人たちがそこを渡って教会を建てたとは考えられないかしら?」
「それは無いよ。キャロラインは教会って何する所だと思う?」

 突然のノアの質問にキャロラインはキョトンとして答えた。

「何する所って……そりゃお祈りをする所よ」
「そうだね。それは月一なの?」
「何を言うの! 毎日に決まっているわ! せめて週に一回……あ……」

 そこまで言ってキャロラインはハッとした。ノアの言う通りだ。教会への祈りは大体の人が最低でも週に一度はする。多い人は朝も夜も教会で感謝の祈りをする。だからこそルーデリアのシュタは教会をわざわざ別に作ったのだから。

「でしょ? 月に一回しか渡れないような場所にあえてそんな物作らないよ。指導者やあそこに住んでいる人たちが勝手に教会って言ってるだけで、本来は教会として建てられた物じゃなかったんじゃないかな」
「それが鉱夫達の手によって作られたって事かよ?」
「僕はそう思ってる。でもだとしたら変なんだ」
「何がです?」

 シャルルの質問にノアは腕を組んで言う。

「もしも鉱夫達がこちらにやってくる為だけにこの道を通ったのだとしたら、何故この建物をわざわざ建てたのかが謎なんだよ。だってさ、一度通ればこの道にもう用は無いはずなんだ。それでも彼らはここに建物を建てた。その理由が分からないんだよ」
「そう言えばそうですよね。感謝の気持ちで建てるのなら、何か記念碑のような物でいいんですもんね」

 ライラはノートに写真に写っているシュタの花畑を描き写しながら言う。リアンが帰ってきたら見せてやるつもりだ。

「そうなんだよね。ライラちゃんの言う通り、記念碑とかでいいはずなんだ。でも教会だと思える程度のものが建ってるって事は、何度もそこに出入りをした可能性が高いって事だよ」
「確かにそうだな。でも入り口はメイリングの城に繋げられた。戻ることはもうないだろうし、あと考えられるのは……地下で暮らしてた可能性……かな?」
「うん。それしかないよね。だとしたらディノの道はただのシュタ同士を繋ぐ通路なんかじゃないって事だよ。何の為に作られた道なのかアリス達が帰ってくるのを待つしか無いね」

 カインとノアが地図を見ながら腕を組んでいると、ふとルイスが思い出したかのように言った。

「そう言えばさっきの写真なんだったんだ?」
「え? ああ、ノエルからのやつ? これもよく分からないんだよ。ちょっと取り替えるよ」

 言いながらノアはシャルのスマホを取り外して自分のスマホを取り付けて、ついさっきノエルから送られてきた写真をガラスに写した。それを覗き込んだシャルルがポツリと言う。

「何でしょう……動物の板と……金のピン、ですか?」
「うん。狼と熊の板だね。で、次の写真がこれなんだけど」
「刺さってますね。板にピンが」
「そうなんだ。ね? 何だかさっぱり分かんないでしょ?」
「ええ、全く。でもこれがあの秘密箱に入っていた、と?」
「そ。しかも持ち主は多分アメリアだよ。てことは何か重要なものなんだろうけど、さっぱり分かんない」

 そう言ってノアは写真を拡大してみるが、動物を象った板と金のピンと言うことしか分からない。
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