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第110話 やっとできた実家

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「賢いよ。だから妖精王に眠りにつくと言って地下に身を隠したんだ。彼には彼のやりたい事があった。それを妖精王には知られたくなかったんだ」
「なるほど、それでディノは姿を隠した、に繋がるのか」
「そう。後は自分を利用しようとするよくない者から自分を隠すためでもある。特に人間なんかはすぐに他人の力を利用しようとするだろ?」
「う~ん……否定出来ないっす」

 実際キャスパーに母親を人質に取られていた利用されていたオリバーとしては頷くしかない。

「ディノの眼かぁ~」
「探すんですか? お嬢様」
「どうだろう。ディノがどう思ってるのかが重要だと思うな。人間が起こした事にオズワルドとかディノを巻き込むのは違うと思うもん」
「そうですね。それは俺もそう思います」

 珍しくまともな事を言うアリスにキリは深く頷いたが――。

「でも全部終わったら叩き起こすよ! だって一緒に遊びたいじゃん! ぎゃん!」
「舌の根も乾かないうちにあなたという人は!」

 まともなアリスなどアリスではない。ふとノアが幼い頃に言った一言を思い出したキリは容赦なくアリスの頭を打った。
 
 
 
 オルトからのビデオ通話を切ったノアは腕を組んで考えていた。

「パズルを完成させると何かが起こるって考えればいいんだろうけど、一体どういう事なんだろうね?」
「さっぱりだな。ただ言えるのは、アメリア達はあの戦争をしかけてきた後、さらに何かをしようとしていた訳だ。そして今、それを完成させようとしている?」
「だが実際の所はそのような動きはどこからも出ていない。妖精王が力をオズワルドに封印されただけだぞ」
「そこなんだよ。何か仕掛けてくるつもりなのか、それともこのまま終わりなのか、そこが分からないんだ。でもどちらにしたってこれは回収しておいた方が良さそうだなって思うよ」

 何かが起こってから動いているのでは遅いということを前回実感したノア達である。

 ノアの言葉に仲間たちが全員頷いた。

「ではどうするの? とりあえず私達は流石にそろそろ公務に戻らなければならないわ。今はトーマスやルカ様たちが代理をしてくれているけれど、いつまでもそれでは通用しないし、オズワルドが妖精王の力を使って何かをするつもりではないと分かった今、いったん皆仕事に戻る?」
「そうですね。うちもそろそろイライジャが頭から火を吹くかもしれません。一度戻って違う方面からあちらの動向を見てみましょう」
「子どもたちはどうしますか? このまましばらく預けておきますか?」

 アランの言葉にカインが頷いた。

「うちはそのつもり。どのみち市井を見て回らせようと思ってたから丁度いい。な? フィル」
「うん。ルークもやっと慣れてきた。最近は楽しそうだし、もうちょっとお願いしてみるよ」
「そうだね。子どもたちはもうしばらく預けておいた方がいいかもね。もしもメイリングとアメリア達が何かするとすれば、間違いなく狙ってくるのは子どもたちだろうから」
「だな。じゃあそういう事で一旦は解散な。オズワルドがとっとと妖精王の封印解いてくれれば話も早いんだけどなぁ」
「全くだ。そもそもどうしてオズワルドは妖精王の力を封印したんだ?」
「単純に邪魔だったんじゃないの?」
「それだけが理由かなぁ? 僕はもう少し理由があると思うけどね。まぁそれはここで考えても仕方ないね。皆、おのおの子どもたちと電話でもして話を聞いておいて。あの子達が流してこなかった情報の中にも、もしかしたら重要なのがあるかもしれないし」
「そうですね。そしてそれをまた持ち寄りましょう。私も子どもたちに学園で何か変わった事はないか聞いておきます。リンとカミラならもしかしたら学園で何か掴んでいるかもしれません」

 シャルルの所の子どもたちはお披露目会も終わり、既に学園に入学してしまっている。そのためなかなか情報を仕入れる事は出来ないが、学園だからこそ入ってくる情報もある。何よりフォルス学園は今やどこかの要塞かと思うほどセキュリティはガチガチだ。

「それじゃあ皆、その方向で。ミアさんはしばらくうちに泊まり込むかアニー連れてキャロラインの所に居てくれたら安心かな。キリと子どもたちも居ないのに二人だけで家に帰したりしたら僕がキリに殺されかねない」

 冗談めかして言ったノアにミアは小さく笑って頷くと、チラリとキャロラインを見た。そんなミアにキャロラインも頷く。

「ではミア、キリが戻るまであなたはまたチームキャロラインに復帰してちょうだい。私もその方が安心だわ。それにエイダンの遊び相手にアニーが居てくれたら喜ぶと思うの」
「はい! ではノア様、しばらく留守にします」
「分かった。家の掃除とかはハンナに頼んでおくよ」
「お願いします!」

 ミアはそう言って頭を下げるとすぐにキリにメッセージを送ってみたが、やっぱり返信は返ってこない。こんな事は初めてで悲しくなるが、何故か心配にはならない。不思議な話だが。

「ついでにライラ、あなたもお城にいらっしゃい。もちろんドロシーもよ」

 リアンとオリバーも居ない今、この二人も家に戻すのが心配なキャロラインが言うと、ライラは頷いたがドロシーは首を振った。

「お誘いいただいて光栄なんですが、私はダニエル達の所に行きます。ダニエル達と約束してるんです。オリバーが仕事で家に居ない時は、絶対に戻ってくるようにって」

 実家が無いドロシーにとってダニエルのこの言葉は泣きそうなほど嬉しかった。その気持が正しく伝わったのか、そう言って笑ったドロシーを見てキャロラインは心底嬉しそうな笑みを浮かべる。

「そうなの! ダニエルの所なら安心だわ。あそこは今や大所帯ですものね!」
「はい! ついでにエマ達のお仕事のお手伝いも出来るので」

 チャップマン商会はあれから飛躍的に大きくなった。今や沢山の妖精や人たちがありとあらゆる場所で活躍するかなり大きな商会だ。あまりにも忙しすぎてダニエルとエマはほとんど販売に回れない状態だ。

「素晴らしい家族ね、ドロシー。分かったわ。でもその代わり何かあったらすぐに連絡してちょうだい。それから、あなたには私の妖精手帳を渡しておくわね」
「え⁉ でもそんな事したらキャロライン様のが……」
「大丈夫よ。私はルイスのを使うから」
「そうだぞ、ドロシー。何も心配はするな。何かあったらすぐにそれを使え」
「は、はい!」
「そうと決まれば皆、戻ろうか。あ、シャル。君はうちに泊まり込みね」
「なぜ?」
「エミリーが隠したであろうピースを探しに行くからだよ。この中で暇なの、僕と君ぐらいでしょ? それともまさかとは思うけど帰ってオリジナルアリスとイチャイチャするつもりだった?」

 そんな事絶対にさせないぞ、というノアの鉄の意志を感じ取ったシャルは渋々頷く。

「……分かりました。アリスにそう伝えます」

 曲がりなりにもノアは一応シャルの生みの親だ。おいそれと逆らえないのは今も変わらない。

「大丈夫大丈夫! 見つけたらすぐ解放してあげるから!」
「絶対ですよ⁉ 約束ですからね!」
「はは、嫌だなぁ! 僕が約束破った事なんてあった?」
「山程ありますよっ!」

 珍しく声を荒らげたシャルにノアはカラカラと笑う。アリスには狼狽えるくせに相変わらずノアはノアである。

「お前たちは仲良しだな。さて、では戻るか」
「ではまた」
「ええ。どうせまたすぐに集まる事になると思いますが」

 苦笑いを浮かべたアランに仲間たちは全員苦笑いを浮かべてそのまま秘密屋敷を後にした。
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