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第112話 ノアとノエルの本音

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 結局ノエルはテレビ電話が終わるまでずっと話さなかった。

 自室に戻ってアミナスを寝かしつけた後、ノエルはスマホを見てため息をつく。何となく泣きそうになって袖で目をこすっているとスマホが鳴った。相手はノアだ。

「父さま⁉ 何かあったの?」

 驚いてノエルがスマホを覗き込むと、ノアはすっかり寝間着に着替えて笑顔で首を振った。

『さっきね、ノエル話さなかったなって。何か言いたい事あったんじゃないかなって思ったんだよ』
「……」

 ノアのその言葉を聞いてノエルはとうとう涙をこぼした。

「あの、あの……」
『うん?』
「父さまは……僕たちの事も……好き?」

 レックスにノアが好きだよと言った時、何故か急に胸が苦しくなった。すごく悲しくなった。何故かは分からないけれど、どうしてそんな風に思ってしまったのかは分からないけれど、とにかくそれ以上ノアの顔が見れなくなってしまったのだ。

 ノエルの言葉を聞いてノアは小さく笑い声を漏らした。

『いきなり何を言うの。当然でしょう? 僕が世界で一番愛してるのはいつだって家族だよ』
「……うん」

 それは分かっている。それなのに何故こんな気持になってしまうのか。咄嗟にレックスにノアを盗られてしまうんじゃないかとまで思ってしまったのだ。

 それを正直にノアに告げると、ノアは見たこと無いぐらい嬉しそうに笑った。

『ノエルがそんな事言うなんて! これは奇跡かな⁉ ねぇノエル、僕ね、アリスがずっとずっと好きだったんだ。僕たちは小さい頃兄妹みたいに育って、ずっと自分たちは兄妹なんだって思い込んでた』
「……うん」
『でもね、僕はアリスと離れるつもりは全然無かったんだ。結婚出来なくてもいい。大好きな子どももいらない。それでもアリスとずっと一緒に居たかった。でもね、ある日アリスが妹じゃないって知った時、僕がどれほど嬉しかったか分かる?』
「……ううん」
『それが分かった日、僕はその場でアリスにすぐさまプロポーズしたんだよ。それぐらい僕はアリスが好きだった。諦めたアリスとの結婚も、二人の子どもを持つことも許されたんだ。そうして生まれてきたのがノエルとアミナスなんだよ。君が生まれた時、僕は嬉しすぎて思わず泣いてしまった。あまりにも僕にそっくりで、おまけに君の魔法がアリス譲りだって分かった時も嬉しくて仕方なかった』
「そう……なの?」
『そうだよ! だって、紛れもなく君は僕たちの子だって証拠なんだから! 僕の愛はキリに言わせると底なし沼みたいな愛なんだって。ドロドロで底が無いって。そんな僕が世界で何よりも愛して守りたいのは家族なんだよ。レックスだって好きだよ。でもそれはノエルやアミナスへの愛とは全然違う。君たちは僕たちの唯一の宝物なんだ。それを忘れないでね、ノエル』
「うん」

 それを聞いてノエルはようやく安心したように笑った。自分の中にこんな気持があるなんて初めて思い知ったのだ。

『ノエルは聞き分けがいいからそんな事考えてたなんて僕はすごく嬉しいよ。そういう所はアリス似なのかなってずっと思ってたから』
「母さまに似てるの?」
『そうだよ! 僕からのアリスへの愛はノエル達も知ってると思うけどいつだって一方通行でしょう⁉』
「あ……うん。ごめんなさい」

 一方通行だとは思わないが、確かにアリスはノアのようにはノアに接しない。何せアリスは人類どころか全ての生物を植物も含めて平等に愛しているからだ。

『謝らなくていいよ。僕はアリスのそんな所が好きなんだから。でもねたまに、たま~にね、寂しくなるよね。それこそノエルみたいな気持ちになる時があるよ。独占欲ってやつだよ』
「独占……欲」
『そうそう。僕だけを見てよ! ってね。でも今のノエルの話を聞いて安心した! やっぱり君は僕の子だなって』
「……」

 こんな事で安心するのも変な話だけど。そう言って笑ったノアの顔はノエルはよく見る顔だけど、誰かが居る時には絶対に見せない笑顔だ。それに気づいたノエルはやっと心底笑う事が出来た。

「母さまは父さまの事一番好きだよ。態度には出なくても僕たちには分かるもん。多分、好きとかそういう次元じゃないんだと思う。母さまも多分、父さまが居ないと駄目だと思うな」
『ほんとに~? ほんとにそう思う~?』
「本当だよ! 何で疑うの?」

 笑いながらノエルが尋ねると、ノアは苦笑いを浮かべる。

『だってアリスだよ~? あの子にそんな感情あるかなぁ? ほっといたらすぐにでも野生に還っちゃうと思うんだけど』
「父さま……たまにキリより酷い事言うね」
『ははは! だからこそ僕がしっかり態度で示していかないとね。今度帰ってきたらアミナスはアリスに任せて久しぶりに一緒に寝ようか。アリスの武勇伝を沢山聞かせてあげる』
「うん!」
『楽しみにしてて。愛してるよ、ノエル。ゆっくりおやすみ。アミナスに気をつけて』
「はい!」

 そう言ってノエルは電話を切ってベッドのど真ん中で大の字になって寝ているアミナスを押して隣に転がった。その時アミナスからむにゃむにゃと寝言が聞こえてくる。

「う~ん……父さま~母さま~兄さまも~……待ってぇ……おにくぅ」
「ふふ! またお肉の夢見てるの? アミナス、僕はここに居るよ。ちゃんと一緒に居るからね」

 ノエルはそう言ってアミナスの手を握って眠りについた。
 
 
 
「あっつい! もう無理!」

 そう言って温泉から一番最初に出たのはリアンだった。リアンは手早くタオルで体を拭いて着替えると、まだ温泉でのんびりしている仲間たちに言う。

「僕ここらへんの近くにどっか泊まれそうな所ないか先に見てくるよ」
「大丈夫っすか? 迷子になったら大変っすよ。俺もすぐ出るんで一緒に行くっす」

 立ち上がろうとしたオリバーをリアンは手で制して首を振った。

「大丈夫。コイツみたいにどんどん先行かないから。オズワルド、何か良さそうな所この辺にないの?」
「あるよ。もうちょっと行った所に昔診療所として使ってた所がある。俺たちはそこで寝るつもりだった。リー君達も来る?」
「いいの? ラッキ! そこ、ここから近い? すぐ分かる?」
「分かると思うけど口で説明しにくいからこれ連れてって」

 そう言ってオズワルドはパチンと指を鳴らしてアリスの影を呼びつけた。

「私だぁ~! ちょっと、めっちゃ可愛いんだけど! ね? ねっ⁉」

 喜ぶアリスに白い目を向けるキリとオリバーを無視してリアンは抗議した。

「いや、他のにしてくんない⁉ コイツと繋がってたら滅茶苦茶するでしょ⁉」
「思考は繋げてないから大丈夫。このアリスは大分まとも」
「あ、そう。まぁ強いもんね。じゃ、影アリスよろしく」

 コクリ。影アリスは頷いておもむろにリアンの手を取ってグイグイ引っ張る。そんな影アリスにリアンは引きずられながらオズワルドに怒鳴った。

「ちょ、痛い! 強い! ねぇ! こいつ本当に大丈夫なのぉぉぉ~――」
「居なくなった」

 叫びながら温泉から姿を消したリアンを見てリーゼロッテがポツリと言うと、オズワルドも頷く。

「思考を切り離すことも出来るんすね」
「出来る。最初は思考も同じままでお前らを襲わせたけど失敗だった。だから思考を切り離したんだ。そうしたら影キリは本気でアリスを襲ったけど返り討ちにあっちゃった。やっぱりアリスにはアリスをぶつけないと駄目だなぁ」
「いや! そもそも襲ってこないでほしいんすけど⁉ 一体俺らに何の恨みがあるんすか!」
「恨んではないよ。僕の計画が滅茶苦茶にされたってだけ。だからちょっと意地悪しようと思ったんだ。面白かっただろ?」
「面白いわけないでしょ⁉ 大好きな人と戦うのなんて嫌だよ! オズだってリゼちゃんと戦うの嫌でしょ⁉」
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