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第123話 強くてニューゲーム!

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 そう言ってキリは大きく息を吸い込んで力の限り叫んだ。

「皆さん、スマホが繋がりました! すぐさまお嬢様が俺たちの言いつけを破って坑道内で迷子になってしまったとノア様に報告しなければ!」

 キリがそう叫んだ途端、壁の中からアリスの焦った声が聞こえてきた。

『やっぱりキリの声だ! ヤバい、兄さまに言いつけられる!!! いる! ここにいるよ~~~!!』

 声がしたと同時に何もなかった壁からアリスがにょきっと出てきた。もちろん影アリスも一緒だ。二人は手を繋いで肩で息をして青ざめている。

「飼い主に忠実だね」
「飼い主っすか」

 リアンの言葉に苦笑いを浮かべたオリバーはキリにしこたま叱られているアリスを見て目を丸くした。

「……何か、アリス若返ってないっすか?」
「……ほんとだ。え? 見間違い?」

 ゴシゴシと目をこすったリアンがじっとアリスを見るが、どう考えても若返っている気がする。そう、あの学生時代ぐらいの頃に。

「ここはディノの庭だから。その生物が最盛期を迎えた頃まで時間が戻る。そしてここの中に居ればそのまま時間は止まる。ずっと起きないディノみたいに」
「という事は、お嬢様は今学生時代まで時が戻ったということですか?」
「身体だけだけど。身体能力が戻ったって言えばいいのか」
「え、地獄じゃん」

 今でも十分体力おばけアリスが学生の頃の体力を取り戻したとしたら、それは周りの人間にとっては地獄である。

「え? もしかして私、強くてニューゲーム出来るの? ラッキー! 言われてみれば身体が軽い気がする!」

 アリスはその場で飛び跳ねて少しだけ軽くなった身体に気づいて喜んだが、キリとリアンとオリバーは引きつっている。

「何てことしてくれたんですか! 年をとっても異常な体力だったというのに、最盛期に戻るだなんて!」
「俺に言われても知らないよ。あいつが勝手に入ったんだろ? アリス、どうやってここに入った? ここには許された者しか入れない」
「え? どうやってって普通にドーンって」
「ドーン?」
「通訳します。ドアがあったので、普通に押し開けたけど? とうちの猿は言ってます」
「ねぇ! 何であんたはいっつも私に対してそんな敵意に満ちてんの⁉」
「敵意など! 全て本当の事です」
「ドア、何色だった?」

 オズワルドの質問にアリスは腕を組んで考えている。

「確か緑だった気がする。こう、ドアの枠組みのとこに蔦の絵が描いてあったよ」
「蔦の絵? ああ、じゃあやっぱり庭だな。アリスでも寝室には辿り着けなかったか。俺も以前来た時は客間だったんだ」

 ディノの屋敷は入る者を選ぶ上にそこから先もディノの元へは辿り着けない。オズワルドがこの世界に降りてきて真っ先に試したのはディノの元へ向かう事だったが、ディノはオズワルドに会ってはくれなかったのだ。

 その理由がディノが眠りについているからだと知ったのはそれからしばらく経ってからだった。

「とりあえずこの先がディノの屋敷って事なんだよね? で、そこには選ばれし者しか入れない、と。じゃ、引き返そっか」

 リアンが言うとキリが頷く。

「ちょ! 気になんないんすか⁉ 俺はめっちゃ気になるんすけど!」
「だって、選ばれない者は入れないんだから気にしても仕方無くない? そんな事より僕たちのすべき事はシュタに繋がる道の調査だよ。本当ならこんな所で油売ってる場合じゃないんだから」
「リアン様の言う通りです。オズワルド、あなたが言っていた上の道というのはシュタ同士を繋ぐものなのですよね?」
「そう。出口にはディノの眼が置いてある。そのおかげで沢山の鉱夫達を一斉に運ぶことが出来たんだ」
「あ、それね。ここにあるよ! ぎゃん!」

 そう言ってアリスは徐にオリバーのリュックに手を突っ込んであの玉を取り出した。それを見て容赦なくリアンがアリスの頭を打つ。

「この馬鹿! どうして切り札を何の警戒心もなく出しちゃうの⁉」

 警戒心が強いリアンはここに来てもなおオズワルドの事は心からは信用していない。だから黙っていようと思ったのに、アリスはあっさり玉を出してしまった。

「え~? オズワルドは大丈夫だよぅ! だって、この人私達の行動に何の興味もないもん」
「そうなのですか? オズワルド」
「うん、別に興味ない。人間が何をしようが俺には関係ない。ふぅん、ディノの眼持ち歩いてんだ。それ持ってるとドラゴンが良くしてくれるよ」

 それを聞いてオリバーはハッとした。だからあの時、珍しくドラゴンがオリバーに頬を擦り寄せてきたのだと。

「ディノの眼!? え、これ返した方がいい感じっすか?」
「別にいいんじゃない? そもそもそれは鉱夫達を逃がす為だけのただの起動装置だから」
「ふぅん、そうなんだ。モブ、仕舞っといて」
「っす」

 取り返そうともしないオズワルドを見てようやくリアンも納得したらしい。

「あとオズワルド、疑ってごめん。正直言うと僕はまだあんたを完全に信用しちゃいない。ここで魔法使えんのはあんただけだから大人しくしてたけど、本当は結構疑ってる」

 正直なリアンの言葉にオズワルドは一瞬キョトンとして次の瞬間声を出して笑った。

「モブは律儀でリー君は正直だ! なるほど、嘘ばかり並べ立てた教会よりはずっと良い。だから妖精たちはこぞってこちらに手を貸したのか」
「オズが笑ってる! やっぱりアリス達は悪い人たちじゃないんだ」

 リーゼロッテが言うと、オズワルドはすぐさま真顔になった。

「それは分からない。リゼはリゼでちゃんと見極めないと駄目だよ。俺の反応を見て決めちゃ駄目だ」
「……うん、分かった」

 シュンと項垂れたリーゼロッテを影アリスが抱き上げて小さな頭を撫でた。どうやら影アリスはリーゼロッテが心配なようだ。

「じゃ、そろそろ上の坑道探索して私達も帰ろっか。皆心配してるもんね!」

 アリスの言葉に仲間たちが頷き、全員でオズワルドを見る。

「なんだよ?」
「上まで送って? ついでに一緒に調査して外まで送ってくれたりなんかしたら嬉しいなぁ! テヘペロ!」
「あっつかましいな!」

 アリスのテヘペロを見て引きつった顔をしたオズワルドだったが、嫌な気分にはならない。それがどんな感情なのかはイマイチよく分からないまま、オズワルドは魔法陣を開いたのだった。
 
 
 
 シュタに到着したノア達はまずはシュタの教会を目指した。

 禁足地に繋がる湖の前では指導者と村人たちが心配そうにあちらの岸を眺めている。

「すみません、つかぬことをお伺いしますが」

 ノアが祭服を着た指導者に声をかけると、指導者はくるりと振り返ってノア達を見るなり息を呑んで頭を下げる。

「も、申し訳ありません! まだ戻って来られないんです!」

 指導者は突然尋ねてきたルイス達を見て震え上がった。やはり何としてでもアリス達を止めるべきだった。あそこに何があるのかは分からないが、まさか一晩も戻って来ないとは思ってもいなかったのだ。

 滝のような汗をかきながら頭を下げる指導者を見てルイスは鷹揚に笑った。

「頭を上げてくれ! 俺たちは別に怒鳴り込みに来た訳じゃないんだ。少しここの伝説や昔話を聞きたいんだ」
「昔話……ですか?」

 あまりにも予想もしていなかったルイスの言葉に指導者はキョトンとする。

「ああ。ここの隣町には不思議な昔話があるそうでな。何でも地下から蘇った者達が火を買いに来るという昔話なんだが、誰か聞いた事はないか?」
「どんな些細な昔話でも構わないわ。誰か不思議な話を知ってる人はいないかしら?」

 キャロラインが集まった人たちに問いかけると、その場に居た人たちが口々に話し出す。そんな村人たちを見て指導者は苦笑いをして手を上げた。
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