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第132話 肉は焼くのではない!育てるのだ!

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 しかし直接天罰を与えてしまうとその時点で妖精王の名は剥奪される。それが分かっているからずっと手出し出来ずに居たが、オズワルドがお仕置きと称して罰を与えてくれたおかげで、こそこそと暗躍していた奴隷商とそれに手を貸していた貴族たちが続々と捕まりだした。

 そして思ったのだ。オズワルドは万物を愛する妖精王にはなれないかもしれないが、公正な判断を下す立場としてこの世界に導かれたのではないだろうか、と。元々は教会が呼んだのかもしれないが、それすらも予定調和の出来事だったのではないだろうか。

 妖精王に一連の事情を聞いて仲直りがすんだところで、久しぶりに家族たちが集まっていつものバーベキューが始まった。

「あれ? もしかしてもう解決してしまいましたか?」

 そこへキリがコロンと首が落ちる紐を持って戻ってきた。

「うん。家族の信頼を最低ラインにまで落とすっていう最高に痛い思いをしてね」
「そうですか。一応保険でつけておいてもいいのでは?」
「キリの言い分も分かるけどね。今回は最大限に恩も売れたから良しとしよう。いざという時は消えてでも力を使ってもらわないと。ね?」
「……」

 そう言ってにっこり微笑んだノアこそが魔王だ。キリはそんな事を考えながら、そっと首がコロンと落ちる紐を仕舞ったのだった。


「つまり何か、地下には既に絶滅した植物や動物たちも暮らしているということか」
「そうなんです! もうね、めっちゃ綺麗でした! 特にディノの庭! あそこは凄いよ! 出てきたら何か若返るし! そうだ! 兄さま、稲あったんだよ、稲!」

 肉を頬張りながらルイスの質問に答えていたアリスは思い出したように言った。それを聞いてノアが目を輝かせる。

「稲⁉ 本当に? この世界にもあったんだ!」
「うん。でも絶滅しちゃったみたい。どうりでいくら探しても見つからないはずだよ。持って帰って来ようと思ったんだけど、皆に盗人みたいな真似するなって怒られちゃったの。だから全部終わったらディノを起こして直接聞くことにしたんだ!」
「諦めてなかったのか」

 オズワルドの言葉にアリスは真顔で頷く。

「諦める訳ないじゃん! 私はやるって言ったらやる! おにぎり食べる!」

 その時のために梅干しも作らないとな……そんな事をアリスが考えていると、斜め向かいに座ったレックスと目が合った。

「どしたの? レックス」
「……何でも無い。ディノ、起きるといいね」
「起きなくても起こすんだよ! でないともったいないでしょ? これから一番面白い時代に突入しそうなのに!」
「面白い時代? そんなの始まるの?」
「始まるよ! 想像してみて? 全部終わった後の事を。見える……私には見える! 食卓に並んだ大きな肉塊に小さな肉塊……その傍らに寄り添うようにして並ぶ色んな具のおにぎり……あ、丼物も忘れないで……私はカツ丼が好き……」
「肉塊ばっかだし、後半誰に向かって喋ってんの?」
「想像の中の私。ね? 面白そうでしょ?」

 リアンの突っ込みに目を閉じたままアリスは答える。

「あんただけがね。あのね、この子はそういう事聞きたいんじゃないんだよ、多分」
「アリスは本気でお花畑だ。ノア、よくこれと結婚したな」

 呆れながらも生ハムを食べて目を輝かせるオズワルドにノアは無言で頷いた。

「こういう所がいいんだよ。何か色々馬鹿らしくなってくるでしょ?」

 アリスのいう夢の食卓はノアにも容易に想像することが出来る。ちなみにノアは海鮮丼が好きだ。

 ニコッと笑ったノアを見てオズワルドは何かに納得したように頷いた。

「ああなるほど。いっつも考え事してるような奴には丁度いいんだな。で、俺らに何か聞きたいことあるんだよね?」
「あるよ。沢山ある。でも今はとりあえずお腹いっぱいになるまで好きなだけ食べて。話はそれからだよ」

 言いながらノアは焼けた肉を次々に子どもたちの皿に配り、焦げたものは全部ルイスとカインの皿に放り込む。

「だから! どうして俺たちにだけそんな塩対応なんだお前は! これなど炭ではないか!」
「焼けてるのなんてマシだろ、ルイス。さっきのほぼ生だったんだから」
「何を言ってるの二人共。僕はこうやって君たちの軟弱な胃腸を鍛えてあげようとしてるんじゃない。むしろ感謝してほしいよ。あ、いい感じだ。はい、リゼちゃんね」
「ありがとう、ノア。オズ半分こする?」
「いい。それはリゼが食べて。俺はこれを待ってる」

 肉の焼き方を覚えたオズワルドはアリスに勧められた肉を自分で焼いてみた。こうして人間の事を何でも体験したいオズワルドだ。そんなオズワルドと同じような事をレックスもしている。

「お前も育ててるのか、肉を」
「うん。意外と難しい。どれぐらいがベストかまだ計算出来ない。もしかしたらそんなものは存在しないのかもしれない。ただひたすらその時を待つだけなのかも。肉を焼くのは星造りと同じ。タイミングが全て」
「……至言だな。俺もそう思う」

 二人して網に乗った肉をじっと見ている横でアリスは次から次へと肉を焼いては食べていく。

「ほとんど生なのに食べてる」

 ポツリとレックスが言うと、アリスは突然立ち上がって肉について語り始める。牛肉、鶏肉、豚肉の違いからそれらにつく菌、そしてそれを処理する方法などを事細かく教えてくれた。

「つまり! 新鮮な牛肉は! 表面をきっちり焼けばそれでいい! ただし! 臓器は駄目、絶対! あと生で食べる時は自己責任だよ!」

 力いっぱい肉について力説するアリスを見てレックスとオズワルドが唖然とした顔をしてこちらを見ている。

「肉について詳しすぎないか」
「凄いな。どこから得た知識なんだろう? 肉への執着が尋常じゃない」
「ふたりとも、こいつが詳しいのは肉だけじゃないよ。食に対する執着が尋常じゃないんだよ。ほらピザが出来たってさ。ありがと、ハンナさん」

 リアンが焼きたてのピザを皆のテーブルに配るハンナに礼を言ってオズワルドとリーゼロッテに渡すと、リーゼロッテは嬉しそうに笑って子どもたちと談笑しながら食べている。大人と違って子どもはすぐに仲良くなる事が出来て少し羨ましいリアンだ。

「リー君、これは販売しない?」

 ピザを食べて目を輝かせたオズワルドにリアンとオリバーは腕を組んで言った。

「販売したいのは山々なんだけど、アリス曰く急速冷凍が出来ないと無理なんだってさ。普通に冷凍じゃ駄目みたい。冷凍したまま持ち運べないと駄目だし、なかなか難しいんだよね」
「そうなんすよ。あと冷凍出来たとしてもどうやって戻すかも問題っす」

 リアンとオリバーの言葉に頷いたオズワルドは2枚のお守りを取り出して、その裏に何かを書き込んでいく。

「出来た」
「なにこれ」

 色違いの護符をリアンに渡すと、それを側で見ていた妖精王が青ざめる。

「そ、そなた何をしておるのだ! そ、そんな物作ってどうする!」

 この世の理を完全に無視した護符に妖精王は愕然としたが、そんな事はオズワルドには関係ないようでフンと鼻で笑っただけだった。

「使えない力を持つのは不便だな、妖精王。俺はお前と違って自由だ。星が発展する為の魔法を使って何が悪い?」
「そ、それはそうだが……それは自分たちで見つけるべきでだな……」
「その理屈は無理がある。無理やり発展させたアリスの側に居てそれはおかしい。それならばアリスも罰するべきだ」
「ぐぬぅ……で、何に使うつもりなんだ? その護符を使って。やましい事に使うつもりではないだろうな?」
「何って、ピザに使ってもらうんだ。はい、リー君。これダニエルに渡しといて。青い護符は箱に貼って中にピザ入れたらすぐ冷凍してくれる。こっちの赤い護符は凍ったピザ入れた入れ物に貼ったら焼き立てに戻る」
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