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第134話  お花畑のドラゴン

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「ああ。鉱石で出来た巨大なドラゴン。ディノは言葉を話すことも文字を書くことも出来る。恐らくここに居る連中よりも遥かに頭がいい。ディノは比較的温厚ではあるけど、やっぱり他のドラゴンと同じ様に好戦的な部分はあると思う。だからあまり怒らせない方がいいと思うけどね」
「ドラゴンなのにか? ドラゴンは大体お花畑ではないか?」

 ルイスが言うと、それを聞いてカインが眉を釣り上げアリスが机を叩いて立ち上がる。

「こんのバカチン! その頭の中はまだおが屑か! もしかしてルイス様、未だにこの世界で人間が最も優れているだなんて思ってたりしませんよね⁉」
「そうは言うが、俺の知っているドラゴン代表と言えばドンだからな。あれは言っちゃなんだがお前そっくりだぞ?」
「そ、それは私がお花畑だと⁉ そういう事を言いたいって事ですか⁉ よーし分かった。喧嘩だ、表出ろ!」

 おもむろに腕まくりをしたアリスを見てキャロラインがやんわりとアリスを止めた。

「アリス、許してやってちょうだいな。ルイスは多分ドラゴンは平和主義者だろう? という事が言いたかっただけなの」
「そう、キャロの言うとおりだ。ドラゴンは気の良い連中が多いだろう? と言いたかったんだ。俺はお前をお花畑だとは思うがバカだと思った事はないぞ?」
「え? な~んだ! 私の早とちりか! じゃあ良し!」

 ルイスの言葉に気を良くしたアリスがニコニコしていると、そんなアリスに白い目を向けてリアンが言う。

「え? そうなの? 僕はコイツの事を本気でお花畑でおバカだと思ってるよ?」
「俺もです。大半の方はそう思っていると思っていました」
「こら! リー君とキリ! めっ! アリスは賢くは無いかもしれないけど可愛いよ!」
「そうよ、リー君。アリスはお猿さんだけどお猿さんだからこそ私達には思いもつかない事が出来るのよ。それにおバカと天才は紙一重よ、リー君」
「ライラ、それ結局褒めてないよね?」
「……ノア様、今は可愛さの話はしていませんし、ライラ様もお嬢様を変な方向に持ち上げないでください」

 キリが二人を嗜める隣で案の定アリスは無駄に照れているし、ノアとライラはテヘペロをしている。

「話が逸れたな。それでディノはどうして眠りについたんだ?」

 ルイスの言葉にオズワルドは今度は足を組んで横柄な態度をとる。本当に分かりやすい。

「それは俺も知らない。俺がここに来たときにはディノは既に眠っていたし、ディノの友人も既に姿を消していた。ディノが眠った理由が知りたいならディノの友人に話を聞くのが一番早いと思うけど?」
「ディノの友人? そんなのが居るのか?」

 そこまで言ってルイスはふとキャメルから借りている日記の事を思い出して思わず立ち上がった。

「そう言えばシャルル! あの日記の最後のページ覚えているか⁉」
「最後のページって、確か「もうすぐ命は尽きる。後は子どもたちに、子孫たちに任せよう。このシュタは始祖様の加護がついた土地だ。未来永劫この地に災いが起こらぬ事を祈っている。彼の友人にはいずれ」でしたっけ?」
「それだ! その最後の彼の友人と言うのが、もしかしてオズワルドの言う奴と同じなのではないか⁉」
「それは無理がありますよ。あの日記自体どれだけの年月が経っているか。その友人というのがドラゴンだとしても、既に寿命は尽きているでしょう」
「それもそうか……すまん」

 どれほど長寿の者でも流石にもう生きてはいない。そう言われては返す言葉もない。ルイスは大きなため息を落としてソファに座り込む。

 そんなルイスの何がおかしかったのか、突然オズワルドが声を出して笑いだした。

「そういう概念は早く捨てた方がいいと思うけどな」
「どういう意味?」

 ノアが問うとオズワルドはフンと鼻で笑う。

「そのまんまさ。ディノは妖精王に匹敵する魔力を持つんだよ。俺はその時の事は知らないしその友人とやらの事も知らない。でも想像はつく」

 挑戦的なオズワルドの言葉にノアは腕を組んで言った。

「なるほど。ディノの友人はまだ生きてるって事か。しかも友人はドラゴンではない。そういう事なんだね」
「どうしてそう思う?」
「君が言ったんだよ。ディノの友人に聞くのが一番早いってさ。てことはその友人は今も生きてるし僕たちが話を聞くことが出来る存在って事だ。それは人の言葉を話すって事だよね。そしてディノは妖精王の話では言語や知識はドラゴンには渡さなかった。つまり、ディノの友人っていうのは人間だって事だよ」
「それは分からないだろ? それこそ地下でドラゴンが違う進化を遂げてる可能性だってあるし、ディノがこっそり言語を教えてた可能性だってあるんじゃね?」

 カインが口を挟むと、ノアはゆるゆると首を振る。

「いいや、それは無いよ。もしも今も地下に進化したドラゴンが居たとしたら、きっともうとっくに地上に出てると思う。そしてこの星は間違いなくドラゴンが支配していただろうね。それからカインの言う通り、ディノは多分ドラゴンに言語と一部の知恵や知識は教えてると思うよ。何故かってドラゴン同士は僕たちのように高度な会話をしているし、おまけに他の動物とも話している。話せないのは人間の言語だけ。それなのにドラゴン達は僕たちの言葉は完璧に理解してる。という事は、ディノがドラゴンに与えなかったのは人と会話をする為の術って事だよ。そこから推測するにディノがドラゴンに教えなかったのは発声方法、だったんじゃないのかな? これを踏まえて考えると、ディノの友人はやっぱり人間だって事になるよね?」
「うん、それでこそノアだ。俺の作戦をことごとく駄目にしやがって」

 言いながらオズワルドは楽しそうに笑ってきちんと座り直す。

「合ってた?」
「合ってる。ただあと一歩が足りない。最後の答えだ。俺は今日、その最後を見つけたよ」
「今日見つけた?」
「そう、今日見つけた。ヒントはもう出さない。妖精王が言ってたろ? 自分の頭で考える事に意義があるって。今までのこと、よく思い出してみな」
「あと……一歩。最後の答え……」

 ノアが口元に手を当てながら考え込んでいると、オズワルドは立ち上がってリーゼロッテの手を引いた。

「俺は最後の答え合わせをしに行く。じゃあな」
「えー! もう行っちゃうの?」

 立ち上がった二人にアリスが言うと、オズワルドはコクリと頷く。

「俺は別にお前らと仲間って訳じゃないからな。でも楽しかったよ。また遊びに来る」
「ぶー! 影アリス、ちゃんとリゼちゃん守ってね!」

 アリスの言葉に影アリスはすかさずキメッをしてリゼを抱き上げた。そんな様子をオズワルドは呆れたように見ているが、どうやらもう色々諦めたようだ。

「リー君の言う通りどんどん本物に感化されてく気がする。ポシェットにも戻りたがらないなんて」
「仕方ないです、オズワルド。お嬢様の特性はどんどん感染するそれはそれは恐ろしい病なのです」
「それ、完全に奇病だよね?」
「リー君! シッす!」
「酷くない⁉ あんまりじゃない⁉」
「まぁまぁアリス、落ち着きなさいな。オズワルド、何か道中で困ったらすぐに連絡してちょうだい。それから、ありがとう。またゆっくり話を聞かせてくれると助かるわ」

 そう言ってキャロラインは真新しいスマホをオズワルドとリーゼロッテに渡した。子どもたちが戻った後、アランにこの二人の分を手配してもらったのだ。

「くれるの?」
「ええ。あなたには必要ないかもしれないけれど、リゼちゃんにはあった方が便利だと思うわ」
「ふぅん。まぁ面白そうだし、ありがとう」
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