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第158話 一日下僕券
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ドヤァと胸を張ったオズワルドを見て何かに気づいたようにノアとリアンは顔を見合わせて頷く。
「なるほど、そういう事。それじゃあそういう書類を作ろうか」
「そだね。じゃオズ、アリス工房のモニター契約よろしく。変態ついでにリゼのも作ってよ」
「分かった。で、地下に行くのは結局誰なの?」
「お前らの子ども全員だろ? 俺はそう聞いてる」
「あ、うちの子達とテオは除外して。今商会の方手伝ってるから」
リアンが言うと、オズワルドはコクリと頷く。
「我も! 我も行くぞ!」
すっかり忘れ去られていた妖精王が声を上げると、オズワルドは真顔で首を振った。
「お前は無理。言ったろ? 妖精王の加護が無い奴とディノが許可した奴しか入れないって」
「ていうか、あんた妖精王そのものじゃん。加護もクソもないよね?」
「う……うぅ……我も行きたい……」
オズワルドとリアンに真っ向から否定された妖精王がしょんぼりと俯くと、それをじっと聞いていたアミナスが口を開いた。
「じゃ、またクロちゃんになればいいじゃん!」
それを聞いてアリスはポンと手を打つ。
「アミナス天才!? 流石兄さまの子! そうだよ! オズがもっかい妖精王から力奪っちゃえばいいんだよ! 妖精王はもっとディノの事知ったほうがいいよ!」
「えへへ! キメッ!」
アリスに褒められたアミナスはそれだけ言って飽きてきたのか屋敷の探検だぁ~! などと言って部屋を出て行ってしまった。
相変わらず自由気ままなアミナスを見てノアが苦笑いを浮かべる。
「あの思考回路はどう考えても君の血だと思うんだけど、まぁアリスの言う通りかもね」
ノアが苦笑いしながら言うと、仲間たちは不安げな表情を浮かべる。
「そんなことして大丈夫かよ?」
「そっすよ。せっかく妖精王から逃げたのにそんな事したらディノが可哀相じゃないっすか?」
「そうよノア。今ディノの怒りを買うような事はしないほうがいいと思うわ」
あまり強大な力を持つ者の機嫌を損ねたくないというのがキャロラインの本音だけれど、ノアはその言葉にそっと首を振った。
「ここに居る妖精王は記憶は継いだかもしれないけど、ディノを創った妖精王じゃない。ディノはそれはちゃんと理解してると思う。何より妖精王は一度地下を見てディノが本当に作りたかった世界を見てくるべきだと僕は思うよ。そもそも何故ディノがそうまでして妖精王から逃げたかったのかをちゃんと知るべきだ」
「それはそうかもしれんな。俺たちは妖精王の言い分しか知らない。ディノの言い分は誰も知らないんだからな。それは公平ではないだろう」
「公平ではない……そうですね。オズ、妖精王からもう一度力を奪う事は出来ますか? 是非とも彼も地下へ連れて行ってやってください」
シャルルの言葉にオズワルドは一瞬面倒そうな顔をしてチラリとリーゼロッテを見た。リーゼロッテは既に自ら進んで黒猫に姿を変えた妖精王を抱っこして満面の笑みを浮かべている。
「猫ちゃん可愛い。暖かいね、クロちゃん」
「うむ。我はいつだってホカホカだぞ。さぁオズワルド、我から力を奪うが良い!」
妖精王がオズワルドに魔力を奪われるのをキラキラした顔で待っていると、オズワルドも仲間たちも呆れた様子で妖精王を見た。
「ねぇ、こんなのがこの星守ってるってのが一番やっちゃった案件じゃないの?」
「……かもっす」
「俺も身内とは言え何か色々不安になってきたな」
これがあの妖精王か。そう思うと何だか急に色んな事が不安になってくるが、ノアの言い分も理解出来る。妖精王もまた子どもなのだ。だかこそオズワルドにあんな事をしでかしたのだろう。
「はぁ、分かった。結局俺が言うことを聞くのか。これはいつ役に立つんだ?」
言いながらオズワルドがポケットから妖精王にもらった『何でも言うこと聞く券』を2枚取り出すと、それを見てノアが吹き出した。
「妖精王、何だってそんな物渡したの? それは別名『一日下僕券』なのに。だからノエルは絶対にアミナスに使わないんだよ」
「な、何だと!?」
「へぇ? 良い事聞いた。じゃあ遠慮なくお前の力を奪ってやるよ。お前は今日一日俺の下僕だ」
「ま、待て! ちょっと待てオズワルド!!!」
妖精王が慌てて子どもの姿に戻ってオズワルドの詠唱を止めるよりも先にオズワルドは魔法陣をさっさと作って妖精王から力を奪った。
「か、返せ! 我の力を戻せ!!」
「嫌だね。この魔法は疲れるからそんなしょっちゅう使いたくない」
髪をかきあげながらそんな事を言うオズワルドに妖精王は掴みかかろうとしたが、それをノアに止められた。
「妖精王、あなたは少し妖精王としての自覚を持つべきだ。上に立つ者の自覚を」
「ど、どういう意味だ?」
「根本的な事があなたは理解出来てないって言ってるんだよ。世界を支配するっていうのは容易くないよ。全ての者に加護を与えるっていうのはそんな生易しくない。力だけあっても意味がないって事をあなたは知らなさすぎる。だからこれはあなたにとってちょうどいい機会だと思う。たまには誰かに使われる経験をしてみるといいよ」
「……むぅぅ……」
妖精王はノアの言葉に黙り込んだ。確かにこうなってしまったのは自分にも原因があるのではないか。いつもどこかでそう思っていたからだ。
けれどどこをどうすればより良い世界に向かうのかが分からないまま今まで過ごしてきたが、ノアの言う通りこれはそれを知るいい機会なのかもしれない。
「分かった。我は今日は下僕だ。何でも言うがいい」
「ああ、そのつもり。だからその姿でいるだけの魔力は残したんだ。猫のままでは役に立たなさすぎる」
子どもの姿のままの妖精王にオズワルドが言うと、そんなオズワルドにアリスが笑った。
「まったまたぁ~! オズってば素直じゃないなぁ。リゼちゃんがクロちゃんをずっと抱っこしてるのが気に食わなかったんでしょ~? このこの~!」
「……違う」
アリスに肘で小突かれて咄嗟に否定したが、本当の事はよく分からない。以前キリがリーゼロッテの髪に触った時と同じ嫌な気持ちがした。それだけだ。
アリスに指摘されて不貞腐れたオズワルドを見てリーゼロッテが不安そうな顔をする。そんなリーゼロッテの頭を撫でたオズワルドは、ようやく心が落ち着いていくのを感じていた。
大陸の方ではその頃、エミリーの元に見張りに行っていた騎士たちから連絡が入っていた。
「どういう事だ。エミリーが姿を消した、だと?」
ラルフが報告を受けた騎士に顔を顰めて尋ねると、騎士は申し訳無さそうに項垂れた。
「はい。レインボー隊から連絡が入ってすぐに向かいましたが、その時には既に小屋からエミリーの姿は消えていました」
「荷物はどうだ? 何かあったのか?」
「いいえ、めぼしい物は何も。それはレインボー隊も確認してくれたのですが、エミリーが屋敷から持ち出したのは紙切れ一枚だった、と」
エミリーに動きがあればすぐに身柄を拘束出来るよう、見張りに置いていたレインボー隊から少し離れていた所で野営していた騎士たちだったが、深夜に小屋を見張っていた傷だらけのレインボー隊に叩き起こされたのだ。
「見張りが寝ていたのか?」
「いえ……はい……どうやらそのようです……申し訳ありません」
「何故――」
言い訳をしようと頭を下げた騎士を怒鳴ろうとしたその時、執務室にセイが騎士団を連れて入ってきた。
「彼らは悪くない。皆、意図的に眠らされていたみたい。だから気づくのが遅れた。向こうはかなり用意周到だと思う」
「なるほど、そういう事。それじゃあそういう書類を作ろうか」
「そだね。じゃオズ、アリス工房のモニター契約よろしく。変態ついでにリゼのも作ってよ」
「分かった。で、地下に行くのは結局誰なの?」
「お前らの子ども全員だろ? 俺はそう聞いてる」
「あ、うちの子達とテオは除外して。今商会の方手伝ってるから」
リアンが言うと、オズワルドはコクリと頷く。
「我も! 我も行くぞ!」
すっかり忘れ去られていた妖精王が声を上げると、オズワルドは真顔で首を振った。
「お前は無理。言ったろ? 妖精王の加護が無い奴とディノが許可した奴しか入れないって」
「ていうか、あんた妖精王そのものじゃん。加護もクソもないよね?」
「う……うぅ……我も行きたい……」
オズワルドとリアンに真っ向から否定された妖精王がしょんぼりと俯くと、それをじっと聞いていたアミナスが口を開いた。
「じゃ、またクロちゃんになればいいじゃん!」
それを聞いてアリスはポンと手を打つ。
「アミナス天才!? 流石兄さまの子! そうだよ! オズがもっかい妖精王から力奪っちゃえばいいんだよ! 妖精王はもっとディノの事知ったほうがいいよ!」
「えへへ! キメッ!」
アリスに褒められたアミナスはそれだけ言って飽きてきたのか屋敷の探検だぁ~! などと言って部屋を出て行ってしまった。
相変わらず自由気ままなアミナスを見てノアが苦笑いを浮かべる。
「あの思考回路はどう考えても君の血だと思うんだけど、まぁアリスの言う通りかもね」
ノアが苦笑いしながら言うと、仲間たちは不安げな表情を浮かべる。
「そんなことして大丈夫かよ?」
「そっすよ。せっかく妖精王から逃げたのにそんな事したらディノが可哀相じゃないっすか?」
「そうよノア。今ディノの怒りを買うような事はしないほうがいいと思うわ」
あまり強大な力を持つ者の機嫌を損ねたくないというのがキャロラインの本音だけれど、ノアはその言葉にそっと首を振った。
「ここに居る妖精王は記憶は継いだかもしれないけど、ディノを創った妖精王じゃない。ディノはそれはちゃんと理解してると思う。何より妖精王は一度地下を見てディノが本当に作りたかった世界を見てくるべきだと僕は思うよ。そもそも何故ディノがそうまでして妖精王から逃げたかったのかをちゃんと知るべきだ」
「それはそうかもしれんな。俺たちは妖精王の言い分しか知らない。ディノの言い分は誰も知らないんだからな。それは公平ではないだろう」
「公平ではない……そうですね。オズ、妖精王からもう一度力を奪う事は出来ますか? 是非とも彼も地下へ連れて行ってやってください」
シャルルの言葉にオズワルドは一瞬面倒そうな顔をしてチラリとリーゼロッテを見た。リーゼロッテは既に自ら進んで黒猫に姿を変えた妖精王を抱っこして満面の笑みを浮かべている。
「猫ちゃん可愛い。暖かいね、クロちゃん」
「うむ。我はいつだってホカホカだぞ。さぁオズワルド、我から力を奪うが良い!」
妖精王がオズワルドに魔力を奪われるのをキラキラした顔で待っていると、オズワルドも仲間たちも呆れた様子で妖精王を見た。
「ねぇ、こんなのがこの星守ってるってのが一番やっちゃった案件じゃないの?」
「……かもっす」
「俺も身内とは言え何か色々不安になってきたな」
これがあの妖精王か。そう思うと何だか急に色んな事が不安になってくるが、ノアの言い分も理解出来る。妖精王もまた子どもなのだ。だかこそオズワルドにあんな事をしでかしたのだろう。
「はぁ、分かった。結局俺が言うことを聞くのか。これはいつ役に立つんだ?」
言いながらオズワルドがポケットから妖精王にもらった『何でも言うこと聞く券』を2枚取り出すと、それを見てノアが吹き出した。
「妖精王、何だってそんな物渡したの? それは別名『一日下僕券』なのに。だからノエルは絶対にアミナスに使わないんだよ」
「な、何だと!?」
「へぇ? 良い事聞いた。じゃあ遠慮なくお前の力を奪ってやるよ。お前は今日一日俺の下僕だ」
「ま、待て! ちょっと待てオズワルド!!!」
妖精王が慌てて子どもの姿に戻ってオズワルドの詠唱を止めるよりも先にオズワルドは魔法陣をさっさと作って妖精王から力を奪った。
「か、返せ! 我の力を戻せ!!」
「嫌だね。この魔法は疲れるからそんなしょっちゅう使いたくない」
髪をかきあげながらそんな事を言うオズワルドに妖精王は掴みかかろうとしたが、それをノアに止められた。
「妖精王、あなたは少し妖精王としての自覚を持つべきだ。上に立つ者の自覚を」
「ど、どういう意味だ?」
「根本的な事があなたは理解出来てないって言ってるんだよ。世界を支配するっていうのは容易くないよ。全ての者に加護を与えるっていうのはそんな生易しくない。力だけあっても意味がないって事をあなたは知らなさすぎる。だからこれはあなたにとってちょうどいい機会だと思う。たまには誰かに使われる経験をしてみるといいよ」
「……むぅぅ……」
妖精王はノアの言葉に黙り込んだ。確かにこうなってしまったのは自分にも原因があるのではないか。いつもどこかでそう思っていたからだ。
けれどどこをどうすればより良い世界に向かうのかが分からないまま今まで過ごしてきたが、ノアの言う通りこれはそれを知るいい機会なのかもしれない。
「分かった。我は今日は下僕だ。何でも言うがいい」
「ああ、そのつもり。だからその姿でいるだけの魔力は残したんだ。猫のままでは役に立たなさすぎる」
子どもの姿のままの妖精王にオズワルドが言うと、そんなオズワルドにアリスが笑った。
「まったまたぁ~! オズってば素直じゃないなぁ。リゼちゃんがクロちゃんをずっと抱っこしてるのが気に食わなかったんでしょ~? このこの~!」
「……違う」
アリスに肘で小突かれて咄嗟に否定したが、本当の事はよく分からない。以前キリがリーゼロッテの髪に触った時と同じ嫌な気持ちがした。それだけだ。
アリスに指摘されて不貞腐れたオズワルドを見てリーゼロッテが不安そうな顔をする。そんなリーゼロッテの頭を撫でたオズワルドは、ようやく心が落ち着いていくのを感じていた。
大陸の方ではその頃、エミリーの元に見張りに行っていた騎士たちから連絡が入っていた。
「どういう事だ。エミリーが姿を消した、だと?」
ラルフが報告を受けた騎士に顔を顰めて尋ねると、騎士は申し訳無さそうに項垂れた。
「はい。レインボー隊から連絡が入ってすぐに向かいましたが、その時には既に小屋からエミリーの姿は消えていました」
「荷物はどうだ? 何かあったのか?」
「いいえ、めぼしい物は何も。それはレインボー隊も確認してくれたのですが、エミリーが屋敷から持ち出したのは紙切れ一枚だった、と」
エミリーに動きがあればすぐに身柄を拘束出来るよう、見張りに置いていたレインボー隊から少し離れていた所で野営していた騎士たちだったが、深夜に小屋を見張っていた傷だらけのレインボー隊に叩き起こされたのだ。
「見張りが寝ていたのか?」
「いえ……はい……どうやらそのようです……申し訳ありません」
「何故――」
言い訳をしようと頭を下げた騎士を怒鳴ろうとしたその時、執務室にセイが騎士団を連れて入ってきた。
「彼らは悪くない。皆、意図的に眠らされていたみたい。だから気づくのが遅れた。向こうはかなり用意周到だと思う」
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