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第160話 可愛いってお得!
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「お前らもそろそろ行くぞ。あいつ放っておいていいの?」
オズワルドの言葉に子どもたちがハッとしてはしごのかかった穴を覗き込むと、地下からアミナスの呼び声が聞こえてくる。
「いこっか。アミナスあの調子だとどんどん先行っちゃいそう」
言いながらノエルがはしごを下りだすと、後からぴったりとライアンとルークがくっついて下りてくる。
「と、途中で道が途切れたりはしないよな?」
「多分……悪しき心じゃなかったら……」
「お二人ともそんなに後ろめたいのですか?」
「そこまで不安がるなんて、何か疚しいことがあるのでは?」
「疚しい事など無いに決まっているだろうが!」
「そうだそうだ! 疚しい事は無いけど……不安にはなるでしょ……?」
語尾を濁したルークに双子が鼻で笑う。
「俺はなりません。日々自信を持って生きています」
「俺もです。父さんはいつも言います。自分は絶対に間違えていないという強い心を持たないとお嬢様の世話など出来ない、と」
「いや、それは何か違う気がするんだけど……」
「ははは、確かにアミナスのお世話は大変だよね。いつもありがとう、レオ、カイ」
しばらくして子どもたちはようやく下にたどり着くと目を丸くした。
「凄い……これが地下……?」
ノエルは目の前の光景に思わず息を呑んだ。後ろからやってきたライアン達も息を飲む音が聞こえてくる。
「これは……一体何だ。どうなってるんだ……」
子どもたちに続いて地下に降り立った妖精王が呟くと、最後にリーゼロッテを抱いてフワフワと下りてきたオズワルドが口の端だけをあげて笑う。
「凄いだろ? これがディノの世界だ。良かったな妖精王。無事に辿り着けて」
とは言えドラゴンが妖精王を乗せてシュタの浮島に運んだ時点で妖精王がここまで下りてこれる事は分かっていたのだがそれはあえて教えてやらない。
「あ……ああ……想像以上だ」
言葉を失くすというのはきっとこういう時に使うのだろう。そんな妖精王を他所に子どもたちはドーム状になった広場の壁画を見て周っている。
「見て見て! 母さまの絵みたい!」
アミナスが壁の下の方にある絵を指差すと、ノエルはそれを見て笑顔を浮かべた。
「ほんとだね。隣に小さな手形があるから、きっと小さい子が描いたんだろうね」
「つまり、アリスの絵は小さい子が描く絵と同じという事?」
レックスが不思議そうに言うと、ノエルは苦笑いを浮かべて頷く。
「母さまは芸術関連はからっきしなんだ。下手したらこの子の方が上手いよ」
「ですが奥様は自分を天才的な芸術家だと思い込んでいるのです」
「この間も芸術は爆発だ! と言ってよく分からない等身大の人形を作ってアニーを泣かせました。あれは呪いの人形です。あれのおかげで作物の盗難がめっきり減ったと隣村からは喜ばれています」
アリスがアニーのおもちゃに、と作った善意の塊のような不気味な人形は今は隣村で立派な盗難防止として役立っている。
「ねぇねぇリゼ、私達もここに何か描いていこうよ!」
この間のバーベキューですっかりリーゼロッテと仲良くなったと勝手に思っているアミナスがリーゼロッテに言う。
「え? で、でもいいのかな……?」
「聞いてみよ! レックス~!」
突然のアミナスの発言にリーゼロッテが戸惑うが、アミナスは細かい事は気にしない質だ。くるりと振り返ってレックスに大声でここに自分たちも絵を描いていいか尋ねると、レックスはコクリと頷く。
「いいって! リゼ何色がいい?」
ポシェットからガサガサと色鉛筆を取り出したアミナスを見てリーゼロッテは目を丸くする。
「アミナスちゃん、いつもこんなの持ってるの?」
「アミナスでいいよ! うん、どこで何があるか分からないから、いつも何でも持ってる! 後ね、持ちきれないのは兄さまとレオとカイとレックスのリュックに入れてもらってるよ!」
人のリュックまで自分のリュックのように扱うアミナスにリーゼロッテは大きな目をさらに見開いた。
「そ、そんな事して怒られないの?」
「怒られないよ~! お願い! って可愛く言ったら全然怒られない!」
実際の所は皆すでに諦めているだけなのだが、アミナスはアリスの娘ゆえ、ポジティブハートもアリスからしっかり受け継いでいる。
「そうなんだ……お得だね」
アミナスの性格はお得だ。色んな事をウジウジ考えてすぐに卑屈になってしまう自分とは違うアミナスが羨ましくてポツリと言うと、アミナスはニカッと笑う。
「うん! 可愛いってお得だよ! だからリゼもやってみなよ! リゼも超可愛いからお得出来るよ!」
「う、うん?」
そういう事が言いたかった訳ではないのだが……。リゼはそんな言葉を飲み込んでアミナスに借りた色鉛筆を使って、生まれて初めて絵を描くという行為をした。それはとても新鮮で面白かった。
「それは何の絵?」
「え?」
どれぐらい夢中になって絵を描いていたのか、気づけばすぐ後ろにオズワルドが立っていてこちらを見下ろしている。リーゼロッテは驚いて振り返って慌てて背中で絵を隠した。
「こ、これは何でも無いよ!」
「どうして隠すの?」
「だ、だって下手くそだもん。オズが見たら笑っちゃうと思う」
「絵って下手だと笑うの?」
「わ、分かんない……けど」
少なくともアミナスが描いた絵を見てライアンとルークは大爆笑していた。
モゴモゴと言うリーゼロッテとは裏腹にオズワルドは腕を組んで考え込んでいる。どうやらオズワルドの中では下手な絵を笑うという感覚は無いらしい。
それに気づいたリーゼロッテは背中で隠した絵をオズワルドに見せた。
「これ……オズと私……」
「ふぅん。いいんじゃない。俺とリゼか。ちゃんと人間に見えるし手も繋いでる」
そう言ってオズワルドはスマホを取り出してリーゼロッテが描いた絵を写真に残した。何故か残しておきたいと強く思った。これが何という感情かは分からないが。
「お前たち、いつまで遊んでいるんだ? 日が暮れるぞ!」
いつまでも広場から移動しない子どもたちに妖精王が声をかけると、ようやく子どもたちは動き出した。普段しっかりしているノエルと双子でさえ夢中になっていたので、やはりまだまだ子どもである。
「そうだった! ここからどうする?」
ノエルが言うと全員が首を傾げる。そりゃそうだ。特に目的もなく地下にやってきてしばらく隠れていろと言われたのだから、何の計画も立てていない。
「そうですね……まずはすべき事を整理しましょう。一番始めにしなくてはならないのは食料と飲料の確保です。それが済んだらその付近に拠点となる場所を確保します。我々はいつ地上に戻れるかも分からないので、食事もそのうち自分たちで賄わなければならなくなると思います。その為に炊事場も必要ですね。あと洗濯などが出来る場所もレックス、後で案内してください」
淡々と言うレオにレックスはコクリと頷いた。
「分かった。水はこっち。食料も多分まだ倉庫にいっぱいあると思う」
言いながらレックスが歩きだすと、それを聞いて妖精王はギョッとした顔をした。
「待て、何故お主がそんな事を知っているのだ? ここへ来たことがあるというのか?」
この中で事情が全く分からないのは妖精王だけだ。他の皆はもうレックスが何者かは知っているので妖精王がレックスの正体を知らない事さえすっかり忘れていた。
驚いてレックスに詰め寄る妖精王にレックスはコクリと頷く。
「僕はディノの友人。ここで生まれた最後の子ども。地下は僕の故郷だよ、妖精王」
あっさり自分の正体をバラしたレックスに妖精王は驚きすぎて思い切り仰け反った。
オズワルドの言葉に子どもたちがハッとしてはしごのかかった穴を覗き込むと、地下からアミナスの呼び声が聞こえてくる。
「いこっか。アミナスあの調子だとどんどん先行っちゃいそう」
言いながらノエルがはしごを下りだすと、後からぴったりとライアンとルークがくっついて下りてくる。
「と、途中で道が途切れたりはしないよな?」
「多分……悪しき心じゃなかったら……」
「お二人ともそんなに後ろめたいのですか?」
「そこまで不安がるなんて、何か疚しいことがあるのでは?」
「疚しい事など無いに決まっているだろうが!」
「そうだそうだ! 疚しい事は無いけど……不安にはなるでしょ……?」
語尾を濁したルークに双子が鼻で笑う。
「俺はなりません。日々自信を持って生きています」
「俺もです。父さんはいつも言います。自分は絶対に間違えていないという強い心を持たないとお嬢様の世話など出来ない、と」
「いや、それは何か違う気がするんだけど……」
「ははは、確かにアミナスのお世話は大変だよね。いつもありがとう、レオ、カイ」
しばらくして子どもたちはようやく下にたどり着くと目を丸くした。
「凄い……これが地下……?」
ノエルは目の前の光景に思わず息を呑んだ。後ろからやってきたライアン達も息を飲む音が聞こえてくる。
「これは……一体何だ。どうなってるんだ……」
子どもたちに続いて地下に降り立った妖精王が呟くと、最後にリーゼロッテを抱いてフワフワと下りてきたオズワルドが口の端だけをあげて笑う。
「凄いだろ? これがディノの世界だ。良かったな妖精王。無事に辿り着けて」
とは言えドラゴンが妖精王を乗せてシュタの浮島に運んだ時点で妖精王がここまで下りてこれる事は分かっていたのだがそれはあえて教えてやらない。
「あ……ああ……想像以上だ」
言葉を失くすというのはきっとこういう時に使うのだろう。そんな妖精王を他所に子どもたちはドーム状になった広場の壁画を見て周っている。
「見て見て! 母さまの絵みたい!」
アミナスが壁の下の方にある絵を指差すと、ノエルはそれを見て笑顔を浮かべた。
「ほんとだね。隣に小さな手形があるから、きっと小さい子が描いたんだろうね」
「つまり、アリスの絵は小さい子が描く絵と同じという事?」
レックスが不思議そうに言うと、ノエルは苦笑いを浮かべて頷く。
「母さまは芸術関連はからっきしなんだ。下手したらこの子の方が上手いよ」
「ですが奥様は自分を天才的な芸術家だと思い込んでいるのです」
「この間も芸術は爆発だ! と言ってよく分からない等身大の人形を作ってアニーを泣かせました。あれは呪いの人形です。あれのおかげで作物の盗難がめっきり減ったと隣村からは喜ばれています」
アリスがアニーのおもちゃに、と作った善意の塊のような不気味な人形は今は隣村で立派な盗難防止として役立っている。
「ねぇねぇリゼ、私達もここに何か描いていこうよ!」
この間のバーベキューですっかりリーゼロッテと仲良くなったと勝手に思っているアミナスがリーゼロッテに言う。
「え? で、でもいいのかな……?」
「聞いてみよ! レックス~!」
突然のアミナスの発言にリーゼロッテが戸惑うが、アミナスは細かい事は気にしない質だ。くるりと振り返ってレックスに大声でここに自分たちも絵を描いていいか尋ねると、レックスはコクリと頷く。
「いいって! リゼ何色がいい?」
ポシェットからガサガサと色鉛筆を取り出したアミナスを見てリーゼロッテは目を丸くする。
「アミナスちゃん、いつもこんなの持ってるの?」
「アミナスでいいよ! うん、どこで何があるか分からないから、いつも何でも持ってる! 後ね、持ちきれないのは兄さまとレオとカイとレックスのリュックに入れてもらってるよ!」
人のリュックまで自分のリュックのように扱うアミナスにリーゼロッテは大きな目をさらに見開いた。
「そ、そんな事して怒られないの?」
「怒られないよ~! お願い! って可愛く言ったら全然怒られない!」
実際の所は皆すでに諦めているだけなのだが、アミナスはアリスの娘ゆえ、ポジティブハートもアリスからしっかり受け継いでいる。
「そうなんだ……お得だね」
アミナスの性格はお得だ。色んな事をウジウジ考えてすぐに卑屈になってしまう自分とは違うアミナスが羨ましくてポツリと言うと、アミナスはニカッと笑う。
「うん! 可愛いってお得だよ! だからリゼもやってみなよ! リゼも超可愛いからお得出来るよ!」
「う、うん?」
そういう事が言いたかった訳ではないのだが……。リゼはそんな言葉を飲み込んでアミナスに借りた色鉛筆を使って、生まれて初めて絵を描くという行為をした。それはとても新鮮で面白かった。
「それは何の絵?」
「え?」
どれぐらい夢中になって絵を描いていたのか、気づけばすぐ後ろにオズワルドが立っていてこちらを見下ろしている。リーゼロッテは驚いて振り返って慌てて背中で絵を隠した。
「こ、これは何でも無いよ!」
「どうして隠すの?」
「だ、だって下手くそだもん。オズが見たら笑っちゃうと思う」
「絵って下手だと笑うの?」
「わ、分かんない……けど」
少なくともアミナスが描いた絵を見てライアンとルークは大爆笑していた。
モゴモゴと言うリーゼロッテとは裏腹にオズワルドは腕を組んで考え込んでいる。どうやらオズワルドの中では下手な絵を笑うという感覚は無いらしい。
それに気づいたリーゼロッテは背中で隠した絵をオズワルドに見せた。
「これ……オズと私……」
「ふぅん。いいんじゃない。俺とリゼか。ちゃんと人間に見えるし手も繋いでる」
そう言ってオズワルドはスマホを取り出してリーゼロッテが描いた絵を写真に残した。何故か残しておきたいと強く思った。これが何という感情かは分からないが。
「お前たち、いつまで遊んでいるんだ? 日が暮れるぞ!」
いつまでも広場から移動しない子どもたちに妖精王が声をかけると、ようやく子どもたちは動き出した。普段しっかりしているノエルと双子でさえ夢中になっていたので、やはりまだまだ子どもである。
「そうだった! ここからどうする?」
ノエルが言うと全員が首を傾げる。そりゃそうだ。特に目的もなく地下にやってきてしばらく隠れていろと言われたのだから、何の計画も立てていない。
「そうですね……まずはすべき事を整理しましょう。一番始めにしなくてはならないのは食料と飲料の確保です。それが済んだらその付近に拠点となる場所を確保します。我々はいつ地上に戻れるかも分からないので、食事もそのうち自分たちで賄わなければならなくなると思います。その為に炊事場も必要ですね。あと洗濯などが出来る場所もレックス、後で案内してください」
淡々と言うレオにレックスはコクリと頷いた。
「分かった。水はこっち。食料も多分まだ倉庫にいっぱいあると思う」
言いながらレックスが歩きだすと、それを聞いて妖精王はギョッとした顔をした。
「待て、何故お主がそんな事を知っているのだ? ここへ来たことがあるというのか?」
この中で事情が全く分からないのは妖精王だけだ。他の皆はもうレックスが何者かは知っているので妖精王がレックスの正体を知らない事さえすっかり忘れていた。
驚いてレックスに詰め寄る妖精王にレックスはコクリと頷く。
「僕はディノの友人。ここで生まれた最後の子ども。地下は僕の故郷だよ、妖精王」
あっさり自分の正体をバラしたレックスに妖精王は驚きすぎて思い切り仰け反った。
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