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第164話 メイリングの秘密

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 それを聞いてハッとしたのはアランだ。シャルの言ってる意味が分からないセイと騎士団の面々は首を傾げている。

「待ってください! 科学って、アリスさんやノアがいつも言うあれですか?」
「ええ、あれです。この星のモデルになった星で発展していた魔法のようなもの。それが科学です。そしてその技術を使った特定の人物だけに電流を流す武器。それをテーザー銃と言います」
「テーザー……銃」
「はい。引き金を引くと銃口から細い電気を通した線が発射されます。それが刺さると同時に感電するのです」
「作ろうと思えばいくらでも作れそう」

 セイの言葉に騎士団の面々も頷いた。思いつくかつかないかは別として、原理はとても単純だ。

「それをいくつも使ったという事ですか?」
「いえ、魔法とテーザー銃の原理を組み合わせたのではないでしょうか。狙った相手にだけ針を刺してまわり、その針に一斉に電気を送ることで気づかない間に複数人を気絶させたのではないかと。その際に出来たのが火傷の跡です」
「なるほど……どうして気絶だけさせたんだろう。その武器なら殺してしまう事も可能なのに」
「恐らくですが、その日はとても乾燥していたのでは? 電流で人を殺すには水でもぶっかけないと。ほぼ水で出来ているレインボー隊の被害が一番大きかったのはそれが理由でしょう」
「なるほど、一理ある」

 頷いたセイと騎士団を見てアランが続きを話しだした。

「ではこういう事でしょうか? エミリー達は部屋の中に何かが仕掛けてられていることに気づき、テーザー銃を使った。レインボー隊にも使われた可能性を考えると、微力でも電流が流れている物を狙うことが出来るという事なのでしょうか」
「ええ、多分。焦げるほどの電流を相手は流したのですから、完全に殺す気満々だったと思いますよ」

 言い切ったシャルに全員が黙り込んだ。



 一足先にメイリングに調査に来ていた騎士団の面々は、まずは城下町で聞き込みをした。

 メイリング城から定期的に大きな幌馬車で何かがどこかに運ばれて行くという話はメイリングでは有名だったようで、それこそ城下町で少し話を聞けばすぐに集まった。

 ただその幌馬車がどこへ向かい、何が積んであるのかは誰も知らなかった。

 けれどそれはもうずっと昔、それこそ何十年も続いていた事で今更誰も気にも止めていなかったようなのだが、つい最近その幌馬車から何かのうめき声のようなものが聞こえたという話が出回っていたという。

 おまけに何故かここに来て前の戦争で排除したと思っていた黒い覆面の話題もちらほらと聞いた。

 そんな訳でとりあえずルーイとユーゴが城の側を張っていた所、運良く幌馬車が城から出ていくのに遭遇したので、二人は急いで後をつけた。

『団長ぉ、これ、どんどん山登ってません~?』
『登ってるな。しかしこの先はもう山頂だぞ。こんな所に何があるというんだ? まだ覆面の連中も居るらしいし、一体どうなっているんだ』

 ルーイは辺りを見渡しながら幌馬車が向かう先を見て言った。この先はもう山頂だ。この山は休火山で山頂にあるのは火口だ。そんな所に一体何の用事があるというのか。

 二人は顔を見合わせて火口に近づこうとしたが、山頂は霧で覆われていて近づくにつれて視界が悪くなっていく。

 どうにか火口付近までやってきた二人は目を凝らしてうっすらと見える河口付近に止まっている幌馬車を見ていた。

『ユーゴ、何か見えるか?』
『な~んにも。あ、でも何か馬車から下ろしてるっぽいですよぉ~。何だろぉ……長方形の……箱みたいなものぉ?』
『箱? なんだ、それは』
『こっからじゃそれぐらいしか分かんないですねぇ。あ、また! えっとぉ……1,2,3、4――9本ですねぇ。あれをどうするんだろぉ』

 幌馬車から降ろされた箱状の何かは全部で9本だった。そしてそれを何故かおもむろに次から次へと火口に投げ捨てていく。

『何を……してるんだ?』
『なんでしょうねぇ……不法投棄……とかぁ?』
『わざわざ火口にか?』
『ですよねぇ……気味悪いなぁ、もぅ』

 結局全ての箱を火口に投げ捨てると、幌馬車に今度は何かを積み出した。捨てられていく箱ばかり見ていたので、どこから現れた物かは全く気づかなかった。

『あれはいつの間に現れたんだ?』
『さっぱりですねぇ。でも今度のは袋っぽいですよぉ? 元々あったのかなぁ』

 結局幌馬車は今度は何かを積んでそのまま帰路についてしまった。二人は帰りも幌馬車を追ったが、どこに止まることもなく幌馬車は真っ直ぐ城に戻っていってしまったのだ。


「と、言うわけなんだよぉ」
「……変態、どういう事?」
「え? 僕に聞かれても分からないけど……それってどこの山?」
「それがねぇ、帰ってから団長と地図で調べてみたけどどこにもそんな山無いんだよねぇ。場所的にはここら辺なんだけどねぇ」

 そう言ってユーゴは机の上に広げられた地図に赤い印をつけた。それを見てノアは口元に手を当てて考え込む。

「なるほど。地図にない山、か。その袋っていうのも気になるね。元々そこにあったのか突然現れたのか。うめき声っていうのもどうなんだろう。ミアさんの話ではその幌馬車から逃げてきた人が居るっていう話なんだよね?」
「らしいね。まだ見つかってないんだっけ?」
「うん。まぁ見つかったとしても話せる状態かどうかは分からないけど。ユーゴさん、袋はいくつ積んでたか分かる?」
「えっとねぇ~袋は7つだったよぉ~」
「なるほど。さっぱり分かんないね。箱と袋の大きさは?」
「う~ん……遠目だったからよく分からないけど、箱は運んでる人と同じぐらいの大きさだったと思うよぉ。でも袋はもっと小さかったねぇ」

 何かを思い出しながら言うユーゴにノアはコクリと頷く。

「今までの話を一本に繋げて仮説を立てるとしたら、箱の中には人が入っていて、それを火口に投げ込んでるって考えるのが妥当かな。ただその袋っていうのが分からないんだよね」

 ノアの言葉にリアンとユーゴとルーイは真っ青になる。

「ちょちょちょ、待って待って! どうしてそうなるの!? 怖すぎるんだけど!?」
「そうだよぉ~! どんな推理なのぉ~」
「いや、だって幌馬車の中からうめき声が聞こえたって言ってたじゃない。てことは運ばれてたのは生き物だと仮定出来るし、そもそもミアさんの聞いた話が正しいとしたら、その幌馬車から逃げてきたのは貴族の娘なんだよ。つまり?」
「……長方形の箱には人が詰められてる……って事?」
「そう。ちなみに帰りに積んでた袋の大きさってどれぐらいだった?」
「これぐらいだけどぉ……」

 そう言ってユーゴが示したサイズは丁度サシャぐらいの大きさだ。

「そのサイズって……」

 ポツリとノアが言うと、リアンは慌ててノアの口を塞いだ。

「それ以上は言わなくていいから! ていうか、絶対に止めて! 考えただけで胸糞悪い!」
「言わないよ。僕だって胸糞悪いから。でも……奴隷商は子どもも扱ってた。火口に投げ込まれた箱とその袋の意味が分かれば一気にメイリングを叩けるかもしれない。中に何が入ってたのかは分からないけど、早くどうにかしないといけないね」

 ノアは小屋の外を睨みつけながら言った。一体メイリングでは何が行われているのか、火口に何かを投げ入れるなんてまともではない。

「とりあえずメイリングがやっぱり何かしてるのは分かったよ。で、アメリアに関しては何も出ない? おまけに覆面がまだ居るって?」
「そうそう。覆面が今も居てな~んかコソコソしてるみたいだよぉ~この山で。だからこそこの小屋買い取ったんだよぉ。あとアメリアに関してはなぁ~んにも。たださぁ、おばあちゃんになっちゃってるんだよね、アメリアってさぁ……だから人混みとかに紛れ込まれたら気づかないよねぇ」
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