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第166話 地下の子どもたち
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「言われてみればさっきからミアさんから連絡が全くありませんね」
「そうなんだよ。僕とリー君、あとライラちゃんの魔法も使えないと思う。スマホが使えないのはかなりの痛手だね」
ここからさらに二手に別れようかと思っていたが、どうやらそれは止めておいたほうが良さそうだ。
「そっちも心配っすけど、メイリングの幌馬車の話も気味悪いっすね。ノアの言う通り人間を運んでるんだとしたら……」
「うめき声を聞いた人が居るのなら、生きたままの状態で火口に投げ入れていると言うことですか?」
ライラが青ざめて言うと、ノアとリアンがコクリと頷いた。
「たぶんね。でもどういう意図があってそんな事をしてるのかが全く分からない。それに本当に人間が入ってるのかどうかも分かんないしね」
「兄さま、ふと思ったんだけど」
鍋をかき回しながらアリスが言うと、ノアは「ん?」と振り返る。
「その火口にカール達って居るんじゃないのかなぁ?」
「なんです、突然」
また突拍子もない事を言いだしたアリスにキリが言うと、アリスは今度はシチューの味見をしながら言う。
「だってね、紅の騎士団と蒼の騎士団がメイリングに散らばってて何の証拠も出ないって事は、地下みたいな秘密の場所があるって事なんじゃないのかなって」
「あんた、たまには良い事言うじゃん。それはそうかもしんないね。僕たちはあの一件があるまで地下には土しか無いって思ってた。でも実際行ってみたら花畑はあるし温泉もあるし大量の鉱石の部屋があったりしてある意味では地上よりも豊かだったんだもんね」
「そう。火口イコール危ない場所って思うけど、本当はそうじゃないのかも」
味見にしてはシチューをゴクゴク飲もうとするアリスを止めながらノアは頷いた。
「なるほど……そういう固定観念は捨てた方がいいって奴だね。ただ問題はどうやってそこに辿りつくかって事だよ。流石に火口からパラシュートで降りようとしたら僕は止めるよ? アリス」
そう言ってニコッと笑ったノアを見てアリスは頬を引きつらせて頷いた。まさにそうしようと思っていたのだろうが、そうはいかない。
「飛び降りる事が出来ないならどこかに穴でも掘りますか?」
「待って、キリも飛び降りようとしてたの?」
「ええ、まぁ。その方が早いなとは思いました。すみません」
言われて初めて自分の思考がどんどんアリス化している事に気づいたキリは、反省したように頭を下げた。
「飛び降りるのは無しだよ。本当にどこかに繋がってるって確証もないんだから。オリバー、ちょっとメイリングの地図出してくれる?」
「っす」
ノアに言われてオリバーはリュックを漁ってふと手を止めた。
「そういえばこれ、置いてくるの忘れてたっす」
そう言って取り出したのはレヴィウスのシュタを守っていた珠だ。それを受け取ったノアはしばらくそれを眺めていたかと思うと、徐に手を打った。
「これ使えないかな? どこに辿り着くかは分からないけど」
「変態、あんたもしかしたら国宝級かもしれない珠さえ使うつもり?」
「壊さなきゃいいと思う。まぁ壊れたらその時は世界を救う為だったって言って許してもらお」
「……ノア様、ノア様もお嬢様に感化されすぎでは?」
キリの言葉にノアはテヘペロをして珠を自分のリュックに仕舞い込んでオリバーの地図を待つ。
「これっすね」
オリバーが地図を取り出すと、しばらくノアはその地図にじっと見入ってふと口を開く。
「あの山がここ。で、ここがメイリングの人が開けたディノの不思議な通路の入り口。さらにここがメイリングの人たちが開けた横穴なんだけどね、ユーゴの話ではここからは何も出なかったらしいんだ」
指先で一箇所ずつ指差したノアに全員が頷く。
「何も出ないっていうのは変だと思わない?」
「なんで?」
「ここで働いていた人達の物も出なかったって事だからだよ。坑道で仕事をするからにはトロッコや線路、資材なんかが置いてあるはずなんだ。撤収してもそういうのまでは引き上げない。でもユーゴさんはまるで新品みたいだったって言ってた。それはそもそもこの坑道を使ってないって事なんじゃないのかな」
ノアの言葉に全員が顔を見合わせてゴクリと息を呑んだ。
地下に潜った子どもたちは拠点にする場所にそれぞれのテントを張っていた。
レックスはその様子を眺めながら、当時の事を思い出す。
ここはかつて地下の人たちが憩いの場として使っていた場所だ。すぐ右隣の部屋は子ども部屋で左隣には炊事場がある。
ここに住んでいた人達は子どもたちを子ども部屋に預けて親たちは炊事場で料理をしたり洗い物をしたりしていた。こういう場所が地下の至るところにある。それほど沢山の人たちがここで一緒に暮らしていたという証拠だ。
「アミナスはテントなんていらないんじゃ?」
以前アミナスに寝袋を盗られかけたレックスが言うと、ノエルが笑って言った。
「必要ないのかもしれないけど、皆の真似したいんだよ。可愛い所あるでしょ?」
「……うん?」
可愛い……だろうか? よく分からないがここは頷いておいた方がいいのだろうと察したレックスは、ぎこちなく頷いてリーゼロッテと楽しそうにテントを組み立てるアミナスを見た。
「リゼそっち持って!」
「うん。ここの穴にこれ刺すんだよね?」
「そうだよ! 抜けないようにしっかり地面に刺してね!」
「分かった」
同じような年頃の女の子とこんな事をした事がないリーゼロッテが楽しそうにハンマーでペグを地面に打つ。
「リゼ、それじゃあ全然ダメだ。貸して」
「うん」
しばらくリーゼロッテがペグを打つのを見ていたオズワルドはリーゼロッテの手からハンマーを受け取ってしっかりペグを打ち付けた。
「ありがとう、オズ」
「うん。妖精王、俺達のは出来た?」
オズワルドが振り返るとそこには一日オズワルドの下僕となった妖精王がオズワルドとリーゼロッテのテントを四苦八苦しながら組み立てている。
「むむむ……ここがこうなって? こっちの布は……」
最初はどうして自分が! とは思ったものの、一度やり始めるとこれはこれで楽しい。
「爺ちゃん、手伝おうか?」
「うむ。ではそちらを押さえておいてくれぬか」
「いいよ。ライアン、ちょっと上引っ張っといてよ」
「ああ」
和気あいあいと呑気にテントを組み立てる地下組をしばらく見ていたノエルが、ふとレックスの袖を引っ張って廊下に出た。
「今のうちにお米探そっか」
皆が何かに夢中になっている今こそ、こっそり動くのに良いのではないか。ノエルはそう判断してレックスに言うと、レックスもコクリと頷いた。
「そうしよう。ディノの野菜畑は現存する植物ばかりを集めた所とそうでない所がある。そうでない所にはディノの許しが無いと入れない」
「え……僕入れるかな?」
「多分大丈夫。妖精王とかは無理かも」
「あー……うん。それは仕方ないね。あとアミナスも入れない方がいいと思うな。悪気なく荒らしそうだから」
「分かった。アミナスも入れない」
素直に頷いたレックスを見てノエルが笑うと、部屋を覗き込んで仲間たちに声をかけた。
「皆ー、ちょっとレックスと向かいの部屋で野菜の調達してくるよー」
「野菜! 兄さま! 私も――やっぱいいや! 行ってらっしゃ~い!」
ノエルの声にアミナスがパッと顔を上げてついて行くと告げようとしたが、ふとリーゼロッテが寂しそうな顔をしたのが見えてアミナスは二人を大人しく見送った。
「行かなくていいの?」
アミナスがここに残ってくれた事にホッとしながらもリーゼロッテが言うと、アミナスはいつものようにニカッと笑う。
「そうなんだよ。僕とリー君、あとライラちゃんの魔法も使えないと思う。スマホが使えないのはかなりの痛手だね」
ここからさらに二手に別れようかと思っていたが、どうやらそれは止めておいたほうが良さそうだ。
「そっちも心配っすけど、メイリングの幌馬車の話も気味悪いっすね。ノアの言う通り人間を運んでるんだとしたら……」
「うめき声を聞いた人が居るのなら、生きたままの状態で火口に投げ入れていると言うことですか?」
ライラが青ざめて言うと、ノアとリアンがコクリと頷いた。
「たぶんね。でもどういう意図があってそんな事をしてるのかが全く分からない。それに本当に人間が入ってるのかどうかも分かんないしね」
「兄さま、ふと思ったんだけど」
鍋をかき回しながらアリスが言うと、ノアは「ん?」と振り返る。
「その火口にカール達って居るんじゃないのかなぁ?」
「なんです、突然」
また突拍子もない事を言いだしたアリスにキリが言うと、アリスは今度はシチューの味見をしながら言う。
「だってね、紅の騎士団と蒼の騎士団がメイリングに散らばってて何の証拠も出ないって事は、地下みたいな秘密の場所があるって事なんじゃないのかなって」
「あんた、たまには良い事言うじゃん。それはそうかもしんないね。僕たちはあの一件があるまで地下には土しか無いって思ってた。でも実際行ってみたら花畑はあるし温泉もあるし大量の鉱石の部屋があったりしてある意味では地上よりも豊かだったんだもんね」
「そう。火口イコール危ない場所って思うけど、本当はそうじゃないのかも」
味見にしてはシチューをゴクゴク飲もうとするアリスを止めながらノアは頷いた。
「なるほど……そういう固定観念は捨てた方がいいって奴だね。ただ問題はどうやってそこに辿りつくかって事だよ。流石に火口からパラシュートで降りようとしたら僕は止めるよ? アリス」
そう言ってニコッと笑ったノアを見てアリスは頬を引きつらせて頷いた。まさにそうしようと思っていたのだろうが、そうはいかない。
「飛び降りる事が出来ないならどこかに穴でも掘りますか?」
「待って、キリも飛び降りようとしてたの?」
「ええ、まぁ。その方が早いなとは思いました。すみません」
言われて初めて自分の思考がどんどんアリス化している事に気づいたキリは、反省したように頭を下げた。
「飛び降りるのは無しだよ。本当にどこかに繋がってるって確証もないんだから。オリバー、ちょっとメイリングの地図出してくれる?」
「っす」
ノアに言われてオリバーはリュックを漁ってふと手を止めた。
「そういえばこれ、置いてくるの忘れてたっす」
そう言って取り出したのはレヴィウスのシュタを守っていた珠だ。それを受け取ったノアはしばらくそれを眺めていたかと思うと、徐に手を打った。
「これ使えないかな? どこに辿り着くかは分からないけど」
「変態、あんたもしかしたら国宝級かもしれない珠さえ使うつもり?」
「壊さなきゃいいと思う。まぁ壊れたらその時は世界を救う為だったって言って許してもらお」
「……ノア様、ノア様もお嬢様に感化されすぎでは?」
キリの言葉にノアはテヘペロをして珠を自分のリュックに仕舞い込んでオリバーの地図を待つ。
「これっすね」
オリバーが地図を取り出すと、しばらくノアはその地図にじっと見入ってふと口を開く。
「あの山がここ。で、ここがメイリングの人が開けたディノの不思議な通路の入り口。さらにここがメイリングの人たちが開けた横穴なんだけどね、ユーゴの話ではここからは何も出なかったらしいんだ」
指先で一箇所ずつ指差したノアに全員が頷く。
「何も出ないっていうのは変だと思わない?」
「なんで?」
「ここで働いていた人達の物も出なかったって事だからだよ。坑道で仕事をするからにはトロッコや線路、資材なんかが置いてあるはずなんだ。撤収してもそういうのまでは引き上げない。でもユーゴさんはまるで新品みたいだったって言ってた。それはそもそもこの坑道を使ってないって事なんじゃないのかな」
ノアの言葉に全員が顔を見合わせてゴクリと息を呑んだ。
地下に潜った子どもたちは拠点にする場所にそれぞれのテントを張っていた。
レックスはその様子を眺めながら、当時の事を思い出す。
ここはかつて地下の人たちが憩いの場として使っていた場所だ。すぐ右隣の部屋は子ども部屋で左隣には炊事場がある。
ここに住んでいた人達は子どもたちを子ども部屋に預けて親たちは炊事場で料理をしたり洗い物をしたりしていた。こういう場所が地下の至るところにある。それほど沢山の人たちがここで一緒に暮らしていたという証拠だ。
「アミナスはテントなんていらないんじゃ?」
以前アミナスに寝袋を盗られかけたレックスが言うと、ノエルが笑って言った。
「必要ないのかもしれないけど、皆の真似したいんだよ。可愛い所あるでしょ?」
「……うん?」
可愛い……だろうか? よく分からないがここは頷いておいた方がいいのだろうと察したレックスは、ぎこちなく頷いてリーゼロッテと楽しそうにテントを組み立てるアミナスを見た。
「リゼそっち持って!」
「うん。ここの穴にこれ刺すんだよね?」
「そうだよ! 抜けないようにしっかり地面に刺してね!」
「分かった」
同じような年頃の女の子とこんな事をした事がないリーゼロッテが楽しそうにハンマーでペグを地面に打つ。
「リゼ、それじゃあ全然ダメだ。貸して」
「うん」
しばらくリーゼロッテがペグを打つのを見ていたオズワルドはリーゼロッテの手からハンマーを受け取ってしっかりペグを打ち付けた。
「ありがとう、オズ」
「うん。妖精王、俺達のは出来た?」
オズワルドが振り返るとそこには一日オズワルドの下僕となった妖精王がオズワルドとリーゼロッテのテントを四苦八苦しながら組み立てている。
「むむむ……ここがこうなって? こっちの布は……」
最初はどうして自分が! とは思ったものの、一度やり始めるとこれはこれで楽しい。
「爺ちゃん、手伝おうか?」
「うむ。ではそちらを押さえておいてくれぬか」
「いいよ。ライアン、ちょっと上引っ張っといてよ」
「ああ」
和気あいあいと呑気にテントを組み立てる地下組をしばらく見ていたノエルが、ふとレックスの袖を引っ張って廊下に出た。
「今のうちにお米探そっか」
皆が何かに夢中になっている今こそ、こっそり動くのに良いのではないか。ノエルはそう判断してレックスに言うと、レックスもコクリと頷いた。
「そうしよう。ディノの野菜畑は現存する植物ばかりを集めた所とそうでない所がある。そうでない所にはディノの許しが無いと入れない」
「え……僕入れるかな?」
「多分大丈夫。妖精王とかは無理かも」
「あー……うん。それは仕方ないね。あとアミナスも入れない方がいいと思うな。悪気なく荒らしそうだから」
「分かった。アミナスも入れない」
素直に頷いたレックスを見てノエルが笑うと、部屋を覗き込んで仲間たちに声をかけた。
「皆ー、ちょっとレックスと向かいの部屋で野菜の調達してくるよー」
「野菜! 兄さま! 私も――やっぱいいや! 行ってらっしゃ~い!」
ノエルの声にアミナスがパッと顔を上げてついて行くと告げようとしたが、ふとリーゼロッテが寂しそうな顔をしたのが見えてアミナスは二人を大人しく見送った。
「行かなくていいの?」
アミナスがここに残ってくれた事にホッとしながらもリーゼロッテが言うと、アミナスはいつものようにニカッと笑う。
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