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第170話 オリバーの禁断魔法

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「ごもっともです。では我々は近くに温泉が無いか探しましょう。ほら、お嬢様早速出番ですよ。ゴー!」
「よしきた!」

 キリの言葉にアリスは鼻をゴシゴシとこすって辺りの匂いを嗅ぎだした。
 

「凄いっすね。これはリー君嫌がったんじゃないっすか?」
「ははは、うん、悪態ついてたね。オリバーはこんなの平気でしょ?」

 自分の背丈ほどもある草を避けてノアとオリバーはのんきにそんな話しをしながら歩いていたが、ふとオリバーが立ち止まって姿勢を低くする。

 それに気づいたノアもそっとしゃがんで気配を消すと、遠くからいくつかの足音が聞こえてきた。

「この足音、傭兵っすね。騎士団じゃないっす」
「分かるの?」
「っす。騎士団が履いてるブーツには金属のバックルがついてんすよ。だから歩くと小さく金属音がするんすけど、それが全く聞こえないっす。歩き方に迷いが無いし出来るだけ音を立てないようにしてるので傭兵だと思うんすよ。聞こえてくる足音から察するに5人以上はいるっすね」

 オリバーが言うと、ノアは感心したように頷く。

「凄いね。やっぱりオリバー連れて来て良かったよ」
「てか、あんたが俺を連れてきたのも万が一の時の為の保険っしょ?」
「御名答! 流石元殺し屋だね!」

 オリバーをここに連れてきたのは戦えるという理由の他にオリバーの魔法を当てにしてだった。何が起こるか分からないし、いざという時の保険はとても大事だ。本当はアリスを連れて来たかったが、アリスの魔法をそんな事に使うと後でキャロラインに何を言われるか分からない。

「まだ誰も殺してないっすよ!」

 声を潜めながらジリジリと小屋に近づいていくと、案の定小屋は何者かに囲まれていた。とても見覚えのあるその姿は、忘れもしないあいつらだ。

「覆面……?」
「傭兵じゃなかったんすね……」

 中に居るルーイとユーゴは気づいているのかいないのか分からないが、ノアとオリバーはその場で身を伏せたままそれぞれの武器をそっと構えた。それと同時に覆面たちは合図をし合って小屋の中に飛び込んでいく。

 激しい音を立てながら小屋を壊してしまうつもりかと思うほどの突入っぷりにノアが目を丸くしていると、小屋の中からルーイとユーゴが飛び出してきた。

「あんた達の情報は入ってたんだよねぇ~。てかぁ、ちょっと来るの早くなぁい?」

 言いながら外に居た覆面を剣の柄で殴りつけたユーゴが言うと、呆れたようにルーイも次々と剣の柄で相手を失神させていく。

「お前は本当にどんな時でも余裕だな。こちらは既に6人やられてるってのに」
「余裕っていうかぁ、こう見えても俺、怒ってんすよぉ~。今更騎士道がどうとか言わないっすけどぉ、あまりにも不躾っていうかぁ~」

 ユーゴはそう言って中にまだ数人の覆面が居るにも関わらず、小屋の中に何かを投げ入れて乱暴にドアを閉めてルーイと共に走り出す。

「ヤバ! オリバー、伏せて」
「え!? な、なんなんすか? あれ」
「花火だよ」

 ノアが言った途端、大きな音を立てて小屋の屋根が吹き飛び、空に大きな花火が上がる。

「派手な事するなぁ!」
「……隠す気ないっすね」

 思いもよらぬ二人の作戦にオリバーが思わず呟くと、ノアは笑いながら頷き辺りを伺い言った。

「そろそろ行く?」
「っすね。派手な事するからあちこちから集まってきてるっすね」

 足音を聞く限り敵も味方もごちゃまぜにやってきているのが分かる。オリバーは細身のソードを握りしめて言うと、ノアもガンソードを撫でながら頷いた。

 しばらくして小屋の周りには騎士団の面々が数人と、覆面たちが数十人集まってくる。まるであの花火が合図だったようだ。それを見てユーゴは呆れながら言った。

「えぇ~こんだけなのぉ~?」
「すまん! 思ったよりも大勢で襲ってきたんだ!」
「ドラセナ、報告を」
「はっ! 西と南の小屋は予定通りです! 東の方は苦戦しましたが何とか解体完了しました。負傷者12人。軽症ではありますが、何やらおかしな武器で気を失ってしまっています!」
「おかしな武器?」

 ルーイがそう言って振り返ろうとしたその時、何かが頬の横を横切り次の瞬間、ドラセナが声を発する事もなくその場に倒れた。

「な、なんだ!?」

 急いで振り返るとそこにはメイリングの覆面たちがグルリと自分たちを囲うようにして立っている。手には見たこともない何かを構えていて、頭にはお馴染みのあの黒い覆面だ。

「……一体何が起こったんすか……?」

 目の前で起きた事が理解出来ないオリバーが言うと、隣で伏せていたノアから小さな舌打ちが聞こえてくる。

「やっぱり転生者か。テーザー銃を使ってくるなんて……」
「何なんすか? それ」
「簡単に言えば電気が飛び出る武器だよ。相手を感電させて動けなくする為に使うんだけどね、ドラセナさんが意識を失った所を見ると、それ以上の電流を流してるね」
「や、やばくないっすか!?」
「やばいよ。あの銃の先から小さな針が飛び出す仕掛けになってるんだ。それが相手に刺さったら電流が一気に流れ込む。身体が濡れてたりしたら本気でやばい」

 ここでは魔法が使えない為、おそらく向こうはアリス商会と同じ様に電気を作る物を何か使っているのだろうが、それにしてもこんな所で地球の武器を見ることになるとは思ってもいなかった。

「助けに行かなくていいんすか?」
「行きたいけど、もうちょっと待って。すぐに襲いかかるつもりはなさそうだよ」
「……っす」

 ノアの言葉にオリバーは頷いて剣を握り直した。いつでも飛び出ることが出来るようにしておかなければならない。

「ドラセナに何をした?」

 静かな声でルーイが言うと、覆面の一人が話しだした。

「そちらこそ、崇高な王の計画を邪魔をしようなど、罰当たりにもほどがある。ましてやお前たちはアメリア様を迫害した。それだけで万死に値する」
「崇高な計画ねぇ。それが火口に誰かを投げ入れる事なのぉ?」

 ドラセナが無事であることを確認したユーゴが立ち上がりながら言うと、覆面達は途端に笑いだした。

「ああ、あれを見たのか! あれは逝くべき者たちだ。この計画はもうはるか昔から始まっている。今は最後の総仕上げの真っ最中なのだ! 今後レヴィウスで逃げ隠れしている奴隷達を買った事がある者たちは自らここへやってくる事になる! 全てが揃えば、計画の総仕上げだ。我らがアンソニー王とカール閣下の元に、偉大なる裏妖精王が真の力を発揮する! そうなればお前たちなどひとたまりもない」

 声を上げて笑う覆面達は銃を構えた。それを見てノアが肘でオリバーを小突いてくる。

「そろそろ行かなきゃかな。オリバー、僕たちが戦っている間の記憶をどちらからも奪っちゃって」

 ここに来ていることをまだあちらには知られたくない。ノアはそう考えての事だったのだが、それを聞いたオリバーが緩く首を振った。

「そんな事しなくても、ノア耳塞いどいてほしいっす。俺の詠唱を聞かないように」

 オリバーはそう言って詠唱して広範囲に魔法をかけた。そしてすかさず印を結ぶと、それまでテーザー銃を構えていた覆面達がぞろぞろとまるで操られているかのように小屋から離れていく。もちろんルーイとユーゴも屋根が無くなってしまった小屋の中へ戻って行ったではないか。

「え!? オリバーの魔法って記憶を奪うだけじゃないんだ!?」
「はは、これは禁断魔法っすよ。月に一回ぐらいしか使えないんすけど、少しだけ時間を巻き戻す事が出来るんすよ」
「凄いね! そんな事出来たんだ!?」

 まさかそこまで出来るとは思ってもいなかったノアが珍しく驚くと、オリバーは苦笑いを浮かべる。
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