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第181話 漢文と古語
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「探すの大変。あと女王が使ってた屋敷は3つ。それ以外の場所、誰か知ってる?」
「いえ、全く見当もつきませんね。ですが強いて言うならやはりメイリングのどこかでしょうか」
「そう考えるのが妥当だろうな。アメリア達はどこまで解読出来ていたのかも謎だ」
「今のところ集まった文章を見る限り暗号として残したかったであろうものとそうでないものがあります。普通の文章の方は解読出来ていたかも知れませんが、この漢文と古文を混ぜたものは解読出来ていないと思いますよ」
シャルはそう言ってメモを指さした。そこには漢文と古文が混ざった文章が書かれている。
「そうなの? これはニホンゴではないと言うこと?」
「この文章の横に1とかレとか書いているのは漢文というんですよ。これは中国という国の古代の文章でそのまま上から読んでも意味が分からないんです。そしてこちらは日本の古語ですね。あえて漢字ではなくひらがなで書いているので、意味を分からなくする為の細工でしょう」
「で、シャルはこれが分かんのか?」
「ええ。ノアも分かるはずです。アリスは……どうでしょうね……」
アリスに搭載されていたAIが果たして古語に精通しているかと言われれば謎である。というよりも、何となくこういう分野はあえて勉強していなさそうな気がする。
それを聞いてエリスとセイとアランは感心したように頷いた。
「ここまでして隠したい何かがあったという事がこれで分かります。ただ一度消してわざわざ書き直した跡があったのが謎ですが、とりあえず私たちは残りの文章も探しましょう。とは言えメイリングに入るのは危険ですね。あちらはやはり何かを企んでいるようなので」
言いながらシャルはスマホのメッセージをチェックした。そこにはシャルルからのメッセージが届いている。
「僕の所にもルイスから気をつけろと言うメッセージが届きました。メイリング王はレヴィウスで何かを探しているようです」
「ええ。私にもほぼ同じメッセージが届いています。セイさん、あなたはラルフ王を護衛しに戻った方がいいかもしれません」
「そうみたい。僕の所にも兄さんから戻れって連絡があった。エリス、続き任せてもいい?」
「ああ、もちろん。仲間呼び寄せるわ」
「うん、そうして。それじゃあ僕は行く。後はお願い」
セイはそれだけ言ってスッと手を差し出してきた。それを見て首を傾げたシャルとアランに、あれちょうだい、と催促する。
「ああ! 妖精手帳ですか? はい、どうぞ」
「ありがと。それじゃ」
言うなりセイは妖精手帳にラルフと書いてその場から消えてしまう。
「セイさんは本当に……何ていうか独特の雰囲気ですね……」
「全くです。あの人、感情が薄すぎません?」
「それをシャルが言うんですか?」
苦笑いしたアランにエリスもこっそりと頷いて、別の場所を捜索していた仲間たちを呼び寄せて、引き続き謎の文章を探しだした。
イブリンが息を引き取る瞬間を見てノアが死んでしまった時の事を思い出したアリスは、顔面蒼白でオリバーを振り返り何かを訴える。
オリバーはそんなアリスを見て頷き妖精手帳を取り出して『ドロシー』と書きつけようとしたのだが、書こうとして躊躇った。
ドロシーの魔法はドロシーの命を削るものだ。正直に言うとあまり使わせたくないというのが本音だ。
そんなオリバーの心がわかったのか、いつまでも書けないオリバーを見てキリが慰めるように肩を叩いてくる。
そんな中、何を思ったのかライラがポシェットから小瓶を取り出して徐にその中身を今しがた息絶えたイヴリンにぶちまけたではないか。
「ラ、ライラ!? 何やってんの!?」
驚いたライラの肩をリアンが掴んで止めようとすると、ライラは振り返ってにっこりと微笑む。
「いやだ、リー君ってば。何って妖精王の粉をかけたのよ。だってこれ、こういう時に使う物よね?」
「はっ! そ、そういえばそんな物があった!!!」
アリスはライラの言葉を聞いて急いでポシェットから瓶を取り出そうとしたのだが、それをノアに止められた。
「兄さま?」
「見てごらん」
ノアが指さした先にはまだ真っ黒のイヴリンが横たわっている。その傷跡に妖精王の粉が振りかかりキラキラと輝き出した。やがて光はだんだん強くなり、とうとうイヴリンが見えなくなるほど輝き出し、仲間たちは全員目を覆う。
しばらくしてようやく光が収まったかと思うと、今まで横たわっていたイヴリンがムクリと体を起こした。
先程まで真っ黒に焦げていた肌や髪はまるで赤ん坊のようにツヤツヤと輝き、燃え尽きていた服も新品のように元に戻っている。
「あ……あら? 私、一体どうなったの?」
起き上がったイヴリンは自分の体のあちこちを見てギョッとしたような顔をしているが、そんなイヴリンをユーゴが真正面から力いっぱい抱きしめた。
「イヴリーン!!! 心配させんなよぉぉぉぉ!」
「ご、ごめんなさい。ねぇ、一体何が起きたの?」
確か自分は何かを踏んで爆発に巻き込まれたはずだった。意識が無くなる直前にルーイに電話をした所までは覚えているのだが、その先は全く思い出せない。それをユーゴに伝えると、ユーゴは涙を零しながら笑う。
「お前ぇ、無意識であっちに誰か居るって伝えようとしたのぉ? もぉ! もぉ!!!」
ヒヤヒヤさせやがって! と怒鳴ったユーゴはもう一度強くイヴリンの体を抱きしめた。
「く、苦しいわ、ユーゴ」
「こんぐらい我慢しろよぉ! 言っとくけど隊長めちゃくちゃ怒ってるからねぇ!」
「……ええ、覚悟してる」
涙を浮かべてまだ抱きついてきて離れないユーゴの背中を撫でながらイヴリンはルーイの怒った顔を想像して困ったように微笑んだ。
「あと、皆で見守るって決めてたけど、こんな事が今度いつあるか分からないんだからいい加減腹くくって団長に気持ち打ち明けなよ、イヴリン」
珍しく真顔でそんな事を言うユーゴにイヴリンは視線を伏せて頷く。
「そうね……そう思ったわ、私――」
イヴリンが言い終えるか終えないところでどこからかルーイの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ほら、行くよ」
「……ええ。ありがとう」
イブリンは少しだけ微笑んで声のする方に駆け出す。坑道の中は迷路のようになっていたが、ノアが機転を利かして分かれ道に矢印を書いてきていたので迷うことはないはずだが、念のためユーゴは案内役をしてくれるようだ。
二人を見送った仲間たちは突き当りになっている壁を見上げた。
「さて、この奥って言ってたね。見たところ完全に行き止まりなんだけど。オリバー、ちょっとカインをお願い」
ノアはまだ半分寝ている状態のカインをオリバーに渡してイブリンが先程指さした場所の壁を叩きながら言うノアの言葉に仲間たちは全員頷いたが、ふとアリスが鼻を擦りだした。
「なんかね、奥から花の匂いがするよ。あと薬品の匂いも混じってる」
「あんたの鼻は本当にすごいね。こんな時だけは本当にそう思うよ」
相変わらず犬並みの嗅覚をしているアリスに感心と呆れの視線を送ったリアンを見てアリスはすかさずテヘペロをする。
「花と薬品ですか……何だか嫌な予感しかしませんね」
「全くっす。てか、マジで壁しかないんすけど」
ノアと同じ様にしばらく壁を叩いていたオリバーが言うと、それまでじっと壁を見ていたライラがふと口を開いた。
「ここ。ここだけ何だか他と色が違う気がします」
「ここ?」
ライラが指さした先は他と同じような土壁だ。パッと見他との違いなど分からないが、リアンはそれを聞いてその場所に近づいた。
「いえ、全く見当もつきませんね。ですが強いて言うならやはりメイリングのどこかでしょうか」
「そう考えるのが妥当だろうな。アメリア達はどこまで解読出来ていたのかも謎だ」
「今のところ集まった文章を見る限り暗号として残したかったであろうものとそうでないものがあります。普通の文章の方は解読出来ていたかも知れませんが、この漢文と古文を混ぜたものは解読出来ていないと思いますよ」
シャルはそう言ってメモを指さした。そこには漢文と古文が混ざった文章が書かれている。
「そうなの? これはニホンゴではないと言うこと?」
「この文章の横に1とかレとか書いているのは漢文というんですよ。これは中国という国の古代の文章でそのまま上から読んでも意味が分からないんです。そしてこちらは日本の古語ですね。あえて漢字ではなくひらがなで書いているので、意味を分からなくする為の細工でしょう」
「で、シャルはこれが分かんのか?」
「ええ。ノアも分かるはずです。アリスは……どうでしょうね……」
アリスに搭載されていたAIが果たして古語に精通しているかと言われれば謎である。というよりも、何となくこういう分野はあえて勉強していなさそうな気がする。
それを聞いてエリスとセイとアランは感心したように頷いた。
「ここまでして隠したい何かがあったという事がこれで分かります。ただ一度消してわざわざ書き直した跡があったのが謎ですが、とりあえず私たちは残りの文章も探しましょう。とは言えメイリングに入るのは危険ですね。あちらはやはり何かを企んでいるようなので」
言いながらシャルはスマホのメッセージをチェックした。そこにはシャルルからのメッセージが届いている。
「僕の所にもルイスから気をつけろと言うメッセージが届きました。メイリング王はレヴィウスで何かを探しているようです」
「ええ。私にもほぼ同じメッセージが届いています。セイさん、あなたはラルフ王を護衛しに戻った方がいいかもしれません」
「そうみたい。僕の所にも兄さんから戻れって連絡があった。エリス、続き任せてもいい?」
「ああ、もちろん。仲間呼び寄せるわ」
「うん、そうして。それじゃあ僕は行く。後はお願い」
セイはそれだけ言ってスッと手を差し出してきた。それを見て首を傾げたシャルとアランに、あれちょうだい、と催促する。
「ああ! 妖精手帳ですか? はい、どうぞ」
「ありがと。それじゃ」
言うなりセイは妖精手帳にラルフと書いてその場から消えてしまう。
「セイさんは本当に……何ていうか独特の雰囲気ですね……」
「全くです。あの人、感情が薄すぎません?」
「それをシャルが言うんですか?」
苦笑いしたアランにエリスもこっそりと頷いて、別の場所を捜索していた仲間たちを呼び寄せて、引き続き謎の文章を探しだした。
イブリンが息を引き取る瞬間を見てノアが死んでしまった時の事を思い出したアリスは、顔面蒼白でオリバーを振り返り何かを訴える。
オリバーはそんなアリスを見て頷き妖精手帳を取り出して『ドロシー』と書きつけようとしたのだが、書こうとして躊躇った。
ドロシーの魔法はドロシーの命を削るものだ。正直に言うとあまり使わせたくないというのが本音だ。
そんなオリバーの心がわかったのか、いつまでも書けないオリバーを見てキリが慰めるように肩を叩いてくる。
そんな中、何を思ったのかライラがポシェットから小瓶を取り出して徐にその中身を今しがた息絶えたイヴリンにぶちまけたではないか。
「ラ、ライラ!? 何やってんの!?」
驚いたライラの肩をリアンが掴んで止めようとすると、ライラは振り返ってにっこりと微笑む。
「いやだ、リー君ってば。何って妖精王の粉をかけたのよ。だってこれ、こういう時に使う物よね?」
「はっ! そ、そういえばそんな物があった!!!」
アリスはライラの言葉を聞いて急いでポシェットから瓶を取り出そうとしたのだが、それをノアに止められた。
「兄さま?」
「見てごらん」
ノアが指さした先にはまだ真っ黒のイヴリンが横たわっている。その傷跡に妖精王の粉が振りかかりキラキラと輝き出した。やがて光はだんだん強くなり、とうとうイヴリンが見えなくなるほど輝き出し、仲間たちは全員目を覆う。
しばらくしてようやく光が収まったかと思うと、今まで横たわっていたイヴリンがムクリと体を起こした。
先程まで真っ黒に焦げていた肌や髪はまるで赤ん坊のようにツヤツヤと輝き、燃え尽きていた服も新品のように元に戻っている。
「あ……あら? 私、一体どうなったの?」
起き上がったイヴリンは自分の体のあちこちを見てギョッとしたような顔をしているが、そんなイヴリンをユーゴが真正面から力いっぱい抱きしめた。
「イヴリーン!!! 心配させんなよぉぉぉぉ!」
「ご、ごめんなさい。ねぇ、一体何が起きたの?」
確か自分は何かを踏んで爆発に巻き込まれたはずだった。意識が無くなる直前にルーイに電話をした所までは覚えているのだが、その先は全く思い出せない。それをユーゴに伝えると、ユーゴは涙を零しながら笑う。
「お前ぇ、無意識であっちに誰か居るって伝えようとしたのぉ? もぉ! もぉ!!!」
ヒヤヒヤさせやがって! と怒鳴ったユーゴはもう一度強くイヴリンの体を抱きしめた。
「く、苦しいわ、ユーゴ」
「こんぐらい我慢しろよぉ! 言っとくけど隊長めちゃくちゃ怒ってるからねぇ!」
「……ええ、覚悟してる」
涙を浮かべてまだ抱きついてきて離れないユーゴの背中を撫でながらイヴリンはルーイの怒った顔を想像して困ったように微笑んだ。
「あと、皆で見守るって決めてたけど、こんな事が今度いつあるか分からないんだからいい加減腹くくって団長に気持ち打ち明けなよ、イヴリン」
珍しく真顔でそんな事を言うユーゴにイヴリンは視線を伏せて頷く。
「そうね……そう思ったわ、私――」
イヴリンが言い終えるか終えないところでどこからかルーイの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ほら、行くよ」
「……ええ。ありがとう」
イブリンは少しだけ微笑んで声のする方に駆け出す。坑道の中は迷路のようになっていたが、ノアが機転を利かして分かれ道に矢印を書いてきていたので迷うことはないはずだが、念のためユーゴは案内役をしてくれるようだ。
二人を見送った仲間たちは突き当りになっている壁を見上げた。
「さて、この奥って言ってたね。見たところ完全に行き止まりなんだけど。オリバー、ちょっとカインをお願い」
ノアはまだ半分寝ている状態のカインをオリバーに渡してイブリンが先程指さした場所の壁を叩きながら言うノアの言葉に仲間たちは全員頷いたが、ふとアリスが鼻を擦りだした。
「なんかね、奥から花の匂いがするよ。あと薬品の匂いも混じってる」
「あんたの鼻は本当にすごいね。こんな時だけは本当にそう思うよ」
相変わらず犬並みの嗅覚をしているアリスに感心と呆れの視線を送ったリアンを見てアリスはすかさずテヘペロをする。
「花と薬品ですか……何だか嫌な予感しかしませんね」
「全くっす。てか、マジで壁しかないんすけど」
ノアと同じ様にしばらく壁を叩いていたオリバーが言うと、それまでじっと壁を見ていたライラがふと口を開いた。
「ここ。ここだけ何だか他と色が違う気がします」
「ここ?」
ライラが指さした先は他と同じような土壁だ。パッと見他との違いなど分からないが、リアンはそれを聞いてその場所に近づいた。
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