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第183話 方向音痴はアリス由来
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オリバーが言うと影アリスは身振り手振りで何か伝えようとしてくるが、あいにく何を言っているのかさっぱり分からない。分からないが、しきりに通路の奥を指さしている。
「何すか、あっちに何かあるんすか?」
無言で質問に頷いた影アリスを見てオリバーは仕方なくカインを担ぎ直して影アリスに従う。
向かおうとしていた温泉とは真逆だが、影アリスがここに居るということはきっとオズワルド達が近くにいるはずだと判断したオリバーはそのまま影アリスについていくことにしたのだが、オリバーはすっかり忘れていたのだ。アリスは影も本体も極度の方向音痴だと言うことを!
「……誰も来ない」
レックスがポツリと言うと、オズワルドは飄々とした顔で言った。
「まぁ、いつか辿り着くだろ」
「お主、わざとやったのではあるまいな?」
「まさか。俺はちゃんとここに呼んだ。でも何か途中で爆発した感じがしたから座標が狂ったんだろ」
「ふむ。ということはあいつらは今、地下で迷子になっているという事か」
妖精王が腕を組んで言うと、それを聞いてノエルがギョッとした顔をした。
「父さまとキリはともかく、母さまが迷子はダメだよ!」
「そうです。奥様が迷子は下手したら一生ここに辿り着かない可能性があります」
「いえ、もしかしたら奥様はここには辿り着かなくても、うっかりディノの寝室に辿り着いてしまう可能性が無きにしもあらず……」
「……その方が厄介」
双子の意見を聞いて珍しくレックスが顔色を悪くしたが、そんな中アミナスだけは全く動じていない。
「大丈夫だよ! 母さまは父さまと居るから!」
「どうしてそう思うの? アミナス」
「だって、キリが言ってたもん! 何があっても父さまは底なし沼みたいな愛を持ってして母さまと自分を離さないに違いないって!」
その後にキリは、そして自分は間違いなくミアを絶対に離さないと断言していた。だから多分今回もそうだろうと思うアミナスだ。
それを聞いたノエルと双子は妙に納得したような顔をして頷くと、ホッと息をついている。
「それもそっか。父さまだもんね」
「そうでした。旦那様が奥様と父さんと離れる訳がありませんでした」
「全くです」
「おい! お前たち信じるのか!? そんな話を!」
「そうだぞ。流石に爆発に巻き込まれてんならそれどころじゃないと思うけど」
青ざめるライアンとルークにノエルと双子はきょとんとして言った。
「いや、だって父さまだもん。アミナスの言う通りだよ」
「そうです。旦那さまの愛情は底なし沼だとバセット領では有名です」
「セイさんも言ってましたね。ノアの愛が怖い、と」
そんな話を聞いたレックスは腕を組んで考え込んでいた。
多分皆はノアの事を褒めているのだろうが、どうにも褒めているように聞こえないのは何故なのだろうか、と。これもまた愛の形、なのだろうか?
「まぁいいや。とりあえず他の奴らも呼ぶか?」
オズワルドが言うと、妖精王は頷いた。
「そうだな。これはもう国同士の戦いではない。あの時から全て繋がっている。この星の秘密を我も語ろう。もちろん子どもたちもだぞ」
妖精王の言葉に子どもたちは真剣な顔をして頷いた。妖精王の言う通り、もうこれは動植物も含めたこの星に住む全ての者の問題だ。
「こ、ここは一体……?」
寝巻き姿のシャルルはシエラを抱きかかえてポツリと呟いた。
目の前には腕を組んで偉そうにふんぞり返った妖精王が仁王立ちしている。
その隣では同じ様に唖然としたキャロラインとミア、ルイスとシャルとアランが居る。
「ん? うちの婿はどうした?」
「カインか? カインはノア達に連れ去られてまだ戻っていないが……ここはどこだ?」
「父さん! 母さん!」
ルイスが首を傾げるよりも先にルイスの足にライアンが飛びついてきた。
「まぁ! ライアン!」
「ライアン! お前が居るということは、ここは地下……か?」
「さよう。実はな――」
戸惑う英雄たちに簡単に事情を説明すると、英雄たちは全員が顔を見合わせて神妙な顔をして頷いた。
「なるほど。それで、一番の功労者はどうしたんだ?」
「アリスか? それが――」
そっちも手っ取り早く説明した妖精王に血相を変えたキャロラインが飛びかかってくる。
「爆発ですって!? あの子達は大丈夫なの!? 皆、無事なの!?」
アリス達にもしも何かあったら……そう考えたキャロラインは妖精王の肩を激しく揺さぶる。
「大丈夫だよ。あいつらの文字は消えてない。皆まとめて地下に居る。どこに居るかは分からないけど」
本を見ながらそんな事を言うオズワルドにキャロラインは胸を撫で下ろして、妖精王の服をそっと直してやった。
「ごめんなさい、私ってば」
「構わん。それほどお前があいつらの事を思っていると言う事だ。しかしあいつらはいつここに辿りつくんだ?」
「一応影アリスは向かわせたけど?」
散り散りになってしまったアリス達を迎えに行くよう影アリスには伝えたが、果たして無事に会えただろうか? オズワルドの言葉に今度はシャルがギョッとした顔をする。
「影アリス、ですか? それは……余計にここに辿り着けなくなるのでは?」
「どういう意味?」
「影とは言えアリスでしょう? アリスは引くほど方向音痴なんですよ?」
その言葉に仲間たちはハッとした顔をして一斉にオズワルドに掴みかかってきた。
「シャルの言うとおりだ! あいつの方向音痴っぷりは凄まじいぞ!」
「それをルイスが言うのはどうかと思いますよ?」
呆れた顔で言うアランにキャロラインも控えめに頷く。
「こちらから辿る事は出来ないのですか?」
ミアの言葉にオズワルドは首を振った。
「本を使えば出来るけど、一人ずつ探すのは面倒だからしたくない」
「……」
オズワルドにしたくないと言われてしまっては誰も何も言い返せない。あくまでもオズワルドは今は手を貸してくれているだけで、決して仲間ではないのだから。
大きく息をして頷いたキャロラインは、椅子に座って静かに言った。
「とりあえず、あの子達が来る前に私達の秘密を話すわ。シャル、お願い出来る?」
「構いませんよ。この中では私だけですもんね、全てを語れるのは」
そう言ってシャルも椅子に座り、レヴィウスのアリス工房で忙しくしているオリジナルアリスを想った。
彼女の存在こそが乃亜に、シャルにあそこまでさせたのだから。
座ったシャルに従うように全員がそれぞれ好きな場所に座る。全員が座った事を確認したシャルは、静かに何かを思い出すかのようにゆっくりと話しだした。
「もう! 何で皆ウロウロするのかな!? はっ! もしかして私を探してるとか……? 全く! 仕方ないなぁ!」
火薬の匂いを辿っていたアリスは動き回る火薬の匂いに気づいて、相変わらずの鋼鉄メンタルを発揮していた。
「ライラさんはともかくリアン様はどうですかね?」
「だね。リー君が探してるとしたら……水場かな」
ノアがポツリというと、キリが首を傾げる。
「どうしてです?」
「リー君は凄く真面目で現実的だからだよ。多分皆がどこに集まるかを一番に考えると思うんだよ。で、真っ先に目指すのは水場かなって。僕ならそうするからね」
「なるほど。確かに遭難した時の鉄則をリアン様はしっかり守りそうですね」
「アリス、そんな訳で水場を虱潰しに探すよ」
「分かった! あのね、あっちからずっと硫黄の匂いがしてるんだよね! やっぱここディノの地下道だよ!」
「何すか、あっちに何かあるんすか?」
無言で質問に頷いた影アリスを見てオリバーは仕方なくカインを担ぎ直して影アリスに従う。
向かおうとしていた温泉とは真逆だが、影アリスがここに居るということはきっとオズワルド達が近くにいるはずだと判断したオリバーはそのまま影アリスについていくことにしたのだが、オリバーはすっかり忘れていたのだ。アリスは影も本体も極度の方向音痴だと言うことを!
「……誰も来ない」
レックスがポツリと言うと、オズワルドは飄々とした顔で言った。
「まぁ、いつか辿り着くだろ」
「お主、わざとやったのではあるまいな?」
「まさか。俺はちゃんとここに呼んだ。でも何か途中で爆発した感じがしたから座標が狂ったんだろ」
「ふむ。ということはあいつらは今、地下で迷子になっているという事か」
妖精王が腕を組んで言うと、それを聞いてノエルがギョッとした顔をした。
「父さまとキリはともかく、母さまが迷子はダメだよ!」
「そうです。奥様が迷子は下手したら一生ここに辿り着かない可能性があります」
「いえ、もしかしたら奥様はここには辿り着かなくても、うっかりディノの寝室に辿り着いてしまう可能性が無きにしもあらず……」
「……その方が厄介」
双子の意見を聞いて珍しくレックスが顔色を悪くしたが、そんな中アミナスだけは全く動じていない。
「大丈夫だよ! 母さまは父さまと居るから!」
「どうしてそう思うの? アミナス」
「だって、キリが言ってたもん! 何があっても父さまは底なし沼みたいな愛を持ってして母さまと自分を離さないに違いないって!」
その後にキリは、そして自分は間違いなくミアを絶対に離さないと断言していた。だから多分今回もそうだろうと思うアミナスだ。
それを聞いたノエルと双子は妙に納得したような顔をして頷くと、ホッと息をついている。
「それもそっか。父さまだもんね」
「そうでした。旦那様が奥様と父さんと離れる訳がありませんでした」
「全くです」
「おい! お前たち信じるのか!? そんな話を!」
「そうだぞ。流石に爆発に巻き込まれてんならそれどころじゃないと思うけど」
青ざめるライアンとルークにノエルと双子はきょとんとして言った。
「いや、だって父さまだもん。アミナスの言う通りだよ」
「そうです。旦那さまの愛情は底なし沼だとバセット領では有名です」
「セイさんも言ってましたね。ノアの愛が怖い、と」
そんな話を聞いたレックスは腕を組んで考え込んでいた。
多分皆はノアの事を褒めているのだろうが、どうにも褒めているように聞こえないのは何故なのだろうか、と。これもまた愛の形、なのだろうか?
「まぁいいや。とりあえず他の奴らも呼ぶか?」
オズワルドが言うと、妖精王は頷いた。
「そうだな。これはもう国同士の戦いではない。あの時から全て繋がっている。この星の秘密を我も語ろう。もちろん子どもたちもだぞ」
妖精王の言葉に子どもたちは真剣な顔をして頷いた。妖精王の言う通り、もうこれは動植物も含めたこの星に住む全ての者の問題だ。
「こ、ここは一体……?」
寝巻き姿のシャルルはシエラを抱きかかえてポツリと呟いた。
目の前には腕を組んで偉そうにふんぞり返った妖精王が仁王立ちしている。
その隣では同じ様に唖然としたキャロラインとミア、ルイスとシャルとアランが居る。
「ん? うちの婿はどうした?」
「カインか? カインはノア達に連れ去られてまだ戻っていないが……ここはどこだ?」
「父さん! 母さん!」
ルイスが首を傾げるよりも先にルイスの足にライアンが飛びついてきた。
「まぁ! ライアン!」
「ライアン! お前が居るということは、ここは地下……か?」
「さよう。実はな――」
戸惑う英雄たちに簡単に事情を説明すると、英雄たちは全員が顔を見合わせて神妙な顔をして頷いた。
「なるほど。それで、一番の功労者はどうしたんだ?」
「アリスか? それが――」
そっちも手っ取り早く説明した妖精王に血相を変えたキャロラインが飛びかかってくる。
「爆発ですって!? あの子達は大丈夫なの!? 皆、無事なの!?」
アリス達にもしも何かあったら……そう考えたキャロラインは妖精王の肩を激しく揺さぶる。
「大丈夫だよ。あいつらの文字は消えてない。皆まとめて地下に居る。どこに居るかは分からないけど」
本を見ながらそんな事を言うオズワルドにキャロラインは胸を撫で下ろして、妖精王の服をそっと直してやった。
「ごめんなさい、私ってば」
「構わん。それほどお前があいつらの事を思っていると言う事だ。しかしあいつらはいつここに辿りつくんだ?」
「一応影アリスは向かわせたけど?」
散り散りになってしまったアリス達を迎えに行くよう影アリスには伝えたが、果たして無事に会えただろうか? オズワルドの言葉に今度はシャルがギョッとした顔をする。
「影アリス、ですか? それは……余計にここに辿り着けなくなるのでは?」
「どういう意味?」
「影とは言えアリスでしょう? アリスは引くほど方向音痴なんですよ?」
その言葉に仲間たちはハッとした顔をして一斉にオズワルドに掴みかかってきた。
「シャルの言うとおりだ! あいつの方向音痴っぷりは凄まじいぞ!」
「それをルイスが言うのはどうかと思いますよ?」
呆れた顔で言うアランにキャロラインも控えめに頷く。
「こちらから辿る事は出来ないのですか?」
ミアの言葉にオズワルドは首を振った。
「本を使えば出来るけど、一人ずつ探すのは面倒だからしたくない」
「……」
オズワルドにしたくないと言われてしまっては誰も何も言い返せない。あくまでもオズワルドは今は手を貸してくれているだけで、決して仲間ではないのだから。
大きく息をして頷いたキャロラインは、椅子に座って静かに言った。
「とりあえず、あの子達が来る前に私達の秘密を話すわ。シャル、お願い出来る?」
「構いませんよ。この中では私だけですもんね、全てを語れるのは」
そう言ってシャルも椅子に座り、レヴィウスのアリス工房で忙しくしているオリジナルアリスを想った。
彼女の存在こそが乃亜に、シャルにあそこまでさせたのだから。
座ったシャルに従うように全員がそれぞれ好きな場所に座る。全員が座った事を確認したシャルは、静かに何かを思い出すかのようにゆっくりと話しだした。
「もう! 何で皆ウロウロするのかな!? はっ! もしかして私を探してるとか……? 全く! 仕方ないなぁ!」
火薬の匂いを辿っていたアリスは動き回る火薬の匂いに気づいて、相変わらずの鋼鉄メンタルを発揮していた。
「ライラさんはともかくリアン様はどうですかね?」
「だね。リー君が探してるとしたら……水場かな」
ノアがポツリというと、キリが首を傾げる。
「どうしてです?」
「リー君は凄く真面目で現実的だからだよ。多分皆がどこに集まるかを一番に考えると思うんだよ。で、真っ先に目指すのは水場かなって。僕ならそうするからね」
「なるほど。確かに遭難した時の鉄則をリアン様はしっかり守りそうですね」
「アリス、そんな訳で水場を虱潰しに探すよ」
「分かった! あのね、あっちからずっと硫黄の匂いがしてるんだよね! やっぱここディノの地下道だよ!」
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