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第191話 稲様とばっちい手
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「出来るだけしない。でもいざって時は僕たちも戦わなきゃいけなくなると思う。もしもの時の事はあまり考えたくないけどね」
「……うん」
「そんな顔しないで、ノエル。皆も。先のことはどうなるか分からないんだから」
「そうだよ! 兄さまの言う通り未来は分からないんだよ! だからそんな顔しないの! ニカッ! ほら、皆一緒に! ニカッ!」
しょんぼりと俯いてしまった子どもたちにニカッ! を強要したアリスにキリが白い目を向ける。
「止めてやってください、お嬢様。アミナス以外嫌がってるじゃありませんか」
「ぶー! 笑うと考えがポジティブになるのにな! で、これからどうするの? 私たちは今日はここでお泊り?」
「そういう訳にはいかないよ。今頃僕たちが消えたって騎士団の人たちが騒いでると思うし」
「俺たちもだ。明日も朝から会議だからな!」
「私達も残りの小屋を探しに行かなければいけません」
大人たちはそれぞれの場所に戻らなければならない。また子どもたちとはしばしのお別れだ。
「そんな訳だからオズ、妖精王、子どもたちをまだしばらくよろしくね」
「ああ。こいつらは手がかからないからいいよ。ただこいつらをどうにかしてくれ」
そう言ってオズワルドが指さしたのはアミナスと妖精王だ。
「私はちゃんと言うこと聞いてるもん!」
「なにおぅ! 我がアミナスと同じだと言うのか!」
「アミナスよりややこしい事するじゃん、お前。まぁ面白い話が聞けたから今回はいいけど、とりあえずお前は明日も下僕な」
「何故!?」
何だかんだ仲が良さげなオズワルドと妖精王に仲間たちは安心したように笑った。
「さて、それじゃあ僕たちも叱られに戻ろっか。イヴリンさんのその後も気になるし」
何せ一度死んだイヴリンだ。いくら妖精王の粉が万能とはいえ、心配なものは心配である。
「あ、待って変態。ついでだからメイリングの話もしとこ」
「ああ、そうだね。もしかしたらレックスとかディノは何か知ってるかもしれないし」
「どうしたの? メイリングで何かあったの?」
爆発に巻き込まれたというぐらいだから何かはあったのだろうが、キャロラインが問うとメイリング組が頷くよりも先に我先にアリスが話しだした。
「えっとですね、メイリングの人たちってば火山に人を投げ込んでてね、おまけにあの時の覆面がまた出てきて山が一つ覆面の処刑場でね、イヴリンさんが死んだと思ったらオズの粉で生き返ってね、爆発に巻き込まれたんです!」
「……え!?」
「じょ、情報過多すぎて何も頭に入ってこないのだが」
「ちょっと待って、まとまりすぎてて意味がぜんぜん分からないんだけど?」
アリスの説明を聞いて仲間も子どもたちもオズワルドと妖精王でさえキョトンである。
「あー……いや、でもまとめればこいつの言った通りって言うか、まぁそんな感じの事が起こったよって言う報告だよ」
「いやいやリー君!? ちょっと丸投げしすぎじゃない!?」
「宰相頭いいでしょ? 大丈夫大丈夫。一晩寝たら理解出来るって!」
「リー君もだんだんアリスに感化されてってるのがよく分かるっすね」
「まぁまぁ皆。噛み砕けばそんな感じなんだけど、ちょっと気になる事があってさ、レックスとディノは何か知らないかな? メイリングの地図にない山の火口にメイリングの人たちが恐らく人間だと思われる何かを投げ入れてるんだけど」
「何だそれ!? 怖い怖い怖い!」
青ざめて縦揺れするルイスを見てリアンが慌てて付け加えた。
「いや、中身はまだ分からないんだけどさ、大きさと状況的にそうかなって話だよ。レックス、何かディノ言ってない?」
「……地図にない山……火口に何かを投げ入れる……?」
リアンに聞かれてレックスはディノに質問を投げかけてみたが、ディノから反ってきた反応はやはりルイス達と同じような反応だ。つまり、ディノも何も知らないという事なのだろう。
「俺が見てきてやろうか?」
何か楽しそうな話だと食いついたオズワルドだったが、それをリーゼロッテが止めた。
「駄目。オズは行っちゃ駄目」
「何故?」
「……何となく。メイリングはオズには合わないと思うから……」
今まで何も知らなかったリーゼロッテはほぼ勘だけで生きてきた。何となく今回もその勘が告げている。オズワルドをメイリングには近づけてはいけない、と。
「何となく、な。分かった。じゃあ止めとく」
「うん、ありがとう」
大人しく従ってくれたオズワルドにホッとしつつリーゼロッテがアミナスを見ると、アミナスは何故か目を輝かせてリーゼロッテとオズワルドを見ている。
「アミナスちゃん? どうしたの?」
「んーん! 年の差カップルもいいなぁって見てただけ! そうだ! 母さま、これね、兄さまとレックスが泥だらけになって持って帰ってきてくれたよ!」
そう言ってアミナスはすっかり忘れていた稲が入ったバケツを足元から取り出した。それを見てアリスとノアがハッとして固まる。
「ま……まさか、これは伝説の……」
「稲……だね。どう見ても……アリス!!!」
「兄さまっっ!!」
机の上に置かれた稲を見るなりアリスとノアは互いの顔を見合わせてヒシッと抱き合った。
異様にテンションが上がった二人を見てルイスが不思議そうに稲に手を伸ばそうとすると、アリスに勢いよくその手をはたき落とされる。
「バカチン! ばっちい手で触るな! ここにあらせられるのはかの偉大な稲様ですぞ!!! ばっちい手で触ることは許されませんぞ!」
「ば、ばっちい……」
はたかれた手を見てルイスがポツリと呟くと、ノアもうんうんと頷いている。
「そんなキャラブレするほど凄いの? これ」
悲しげにまだ自分の手を見ているルイスを横目にリアンがそーっとバケツから稲を一本抜き取ってしげしげと見つめていると、ルイスがそれを見て怒鳴った。
「おい! リー君は触ってもいいのか!? リー君の手だってばっちいかもしれんだろうが!」
「リー君はばっちくないよ。ねぇ兄さま?」
「そうだね。リー君はこの歳になっても未だにこんなに可愛いんだよ。リー君の存在も稲と同じぐらい奇跡だよ」
「それ褒めてんすかね?」
「「めちゃめちゃ褒めてる!」」
「ぐぬぅぅぅ! それは完全にお前らの主観だろうが!」
拳を握りしめて唇を噛み締めたルイスにとどめを刺したのはキリだ。
「単におが屑に触れてほしくないだけでは?」
「もっと関係ないだろうが!!! どうしてバセット家はいつも俺にだけそんなに塩対応なんだ!!!」
「我にもだぞ! 一体どうなっているんだ!」
「ふふふ、きっとバセット家の中ではお二人はそういう位置づけなんですね。ほら、動物がランク付けをするあれと一緒です」
悪気なくコロコロと笑うライラに全員が黙り込んだところで、アリスはそっとバケツを置いてアミナスとノエルとレックスを抱きしめた。
「ありがとね。お米出来たら皆でいっぱい食べようね」
「うん!」
「僕も楽しみ!」
「僕も楽しみにしてる。もちろんディノも」
ワクワクする感じがディノからも伝わってきたのでそれをアリスに伝えると、アリスは嬉しそうに笑って頷く。
アリスはお花畑かもしれないが、ディノと同じ様に誰かが喜ぶのが心の底から嬉しいのだろう。
けれどディノと大きく違うのは、アリスは自分の立ち位置をきちんと理解している事だ。自分に出来る事と出来ない事、していい事としてはいけない事をちゃんと理解している。
「よし! それじゃあ育て方書いてグリーンさんのとこに送ろっと! ひょひょひょ! グリーンさんはグリーンサムの持ち主だからなぁ! これは増える! 増えるぞ!!」
「……うん」
「そんな顔しないで、ノエル。皆も。先のことはどうなるか分からないんだから」
「そうだよ! 兄さまの言う通り未来は分からないんだよ! だからそんな顔しないの! ニカッ! ほら、皆一緒に! ニカッ!」
しょんぼりと俯いてしまった子どもたちにニカッ! を強要したアリスにキリが白い目を向ける。
「止めてやってください、お嬢様。アミナス以外嫌がってるじゃありませんか」
「ぶー! 笑うと考えがポジティブになるのにな! で、これからどうするの? 私たちは今日はここでお泊り?」
「そういう訳にはいかないよ。今頃僕たちが消えたって騎士団の人たちが騒いでると思うし」
「俺たちもだ。明日も朝から会議だからな!」
「私達も残りの小屋を探しに行かなければいけません」
大人たちはそれぞれの場所に戻らなければならない。また子どもたちとはしばしのお別れだ。
「そんな訳だからオズ、妖精王、子どもたちをまだしばらくよろしくね」
「ああ。こいつらは手がかからないからいいよ。ただこいつらをどうにかしてくれ」
そう言ってオズワルドが指さしたのはアミナスと妖精王だ。
「私はちゃんと言うこと聞いてるもん!」
「なにおぅ! 我がアミナスと同じだと言うのか!」
「アミナスよりややこしい事するじゃん、お前。まぁ面白い話が聞けたから今回はいいけど、とりあえずお前は明日も下僕な」
「何故!?」
何だかんだ仲が良さげなオズワルドと妖精王に仲間たちは安心したように笑った。
「さて、それじゃあ僕たちも叱られに戻ろっか。イヴリンさんのその後も気になるし」
何せ一度死んだイヴリンだ。いくら妖精王の粉が万能とはいえ、心配なものは心配である。
「あ、待って変態。ついでだからメイリングの話もしとこ」
「ああ、そうだね。もしかしたらレックスとかディノは何か知ってるかもしれないし」
「どうしたの? メイリングで何かあったの?」
爆発に巻き込まれたというぐらいだから何かはあったのだろうが、キャロラインが問うとメイリング組が頷くよりも先に我先にアリスが話しだした。
「えっとですね、メイリングの人たちってば火山に人を投げ込んでてね、おまけにあの時の覆面がまた出てきて山が一つ覆面の処刑場でね、イヴリンさんが死んだと思ったらオズの粉で生き返ってね、爆発に巻き込まれたんです!」
「……え!?」
「じょ、情報過多すぎて何も頭に入ってこないのだが」
「ちょっと待って、まとまりすぎてて意味がぜんぜん分からないんだけど?」
アリスの説明を聞いて仲間も子どもたちもオズワルドと妖精王でさえキョトンである。
「あー……いや、でもまとめればこいつの言った通りって言うか、まぁそんな感じの事が起こったよって言う報告だよ」
「いやいやリー君!? ちょっと丸投げしすぎじゃない!?」
「宰相頭いいでしょ? 大丈夫大丈夫。一晩寝たら理解出来るって!」
「リー君もだんだんアリスに感化されてってるのがよく分かるっすね」
「まぁまぁ皆。噛み砕けばそんな感じなんだけど、ちょっと気になる事があってさ、レックスとディノは何か知らないかな? メイリングの地図にない山の火口にメイリングの人たちが恐らく人間だと思われる何かを投げ入れてるんだけど」
「何だそれ!? 怖い怖い怖い!」
青ざめて縦揺れするルイスを見てリアンが慌てて付け加えた。
「いや、中身はまだ分からないんだけどさ、大きさと状況的にそうかなって話だよ。レックス、何かディノ言ってない?」
「……地図にない山……火口に何かを投げ入れる……?」
リアンに聞かれてレックスはディノに質問を投げかけてみたが、ディノから反ってきた反応はやはりルイス達と同じような反応だ。つまり、ディノも何も知らないという事なのだろう。
「俺が見てきてやろうか?」
何か楽しそうな話だと食いついたオズワルドだったが、それをリーゼロッテが止めた。
「駄目。オズは行っちゃ駄目」
「何故?」
「……何となく。メイリングはオズには合わないと思うから……」
今まで何も知らなかったリーゼロッテはほぼ勘だけで生きてきた。何となく今回もその勘が告げている。オズワルドをメイリングには近づけてはいけない、と。
「何となく、な。分かった。じゃあ止めとく」
「うん、ありがとう」
大人しく従ってくれたオズワルドにホッとしつつリーゼロッテがアミナスを見ると、アミナスは何故か目を輝かせてリーゼロッテとオズワルドを見ている。
「アミナスちゃん? どうしたの?」
「んーん! 年の差カップルもいいなぁって見てただけ! そうだ! 母さま、これね、兄さまとレックスが泥だらけになって持って帰ってきてくれたよ!」
そう言ってアミナスはすっかり忘れていた稲が入ったバケツを足元から取り出した。それを見てアリスとノアがハッとして固まる。
「ま……まさか、これは伝説の……」
「稲……だね。どう見ても……アリス!!!」
「兄さまっっ!!」
机の上に置かれた稲を見るなりアリスとノアは互いの顔を見合わせてヒシッと抱き合った。
異様にテンションが上がった二人を見てルイスが不思議そうに稲に手を伸ばそうとすると、アリスに勢いよくその手をはたき落とされる。
「バカチン! ばっちい手で触るな! ここにあらせられるのはかの偉大な稲様ですぞ!!! ばっちい手で触ることは許されませんぞ!」
「ば、ばっちい……」
はたかれた手を見てルイスがポツリと呟くと、ノアもうんうんと頷いている。
「そんなキャラブレするほど凄いの? これ」
悲しげにまだ自分の手を見ているルイスを横目にリアンがそーっとバケツから稲を一本抜き取ってしげしげと見つめていると、ルイスがそれを見て怒鳴った。
「おい! リー君は触ってもいいのか!? リー君の手だってばっちいかもしれんだろうが!」
「リー君はばっちくないよ。ねぇ兄さま?」
「そうだね。リー君はこの歳になっても未だにこんなに可愛いんだよ。リー君の存在も稲と同じぐらい奇跡だよ」
「それ褒めてんすかね?」
「「めちゃめちゃ褒めてる!」」
「ぐぬぅぅぅ! それは完全にお前らの主観だろうが!」
拳を握りしめて唇を噛み締めたルイスにとどめを刺したのはキリだ。
「単におが屑に触れてほしくないだけでは?」
「もっと関係ないだろうが!!! どうしてバセット家はいつも俺にだけそんなに塩対応なんだ!!!」
「我にもだぞ! 一体どうなっているんだ!」
「ふふふ、きっとバセット家の中ではお二人はそういう位置づけなんですね。ほら、動物がランク付けをするあれと一緒です」
悪気なくコロコロと笑うライラに全員が黙り込んだところで、アリスはそっとバケツを置いてアミナスとノエルとレックスを抱きしめた。
「ありがとね。お米出来たら皆でいっぱい食べようね」
「うん!」
「僕も楽しみ!」
「僕も楽しみにしてる。もちろんディノも」
ワクワクする感じがディノからも伝わってきたのでそれをアリスに伝えると、アリスは嬉しそうに笑って頷く。
アリスはお花畑かもしれないが、ディノと同じ様に誰かが喜ぶのが心の底から嬉しいのだろう。
けれどディノと大きく違うのは、アリスは自分の立ち位置をきちんと理解している事だ。自分に出来る事と出来ない事、していい事としてはいけない事をちゃんと理解している。
「よし! それじゃあ育て方書いてグリーンさんのとこに送ろっと! ひょひょひょ! グリーンさんはグリーンサムの持ち主だからなぁ! これは増える! 増えるぞ!!」
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