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第193話 皆のお墓?

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 ルーイは妖精王の粉に期待しているようだが、あの爆発に巻き込まれたのだとしたら、その妖精王の粉すら飛び散ってしまっているだろう。

「気をつけてって……どっちがだよぉ……死んじゃったら意味ないじゃん……」
「……」

 ユーゴはグス、と鼻をすするとポツリと呟いた。そんなユーゴの言葉にイヴリンも涙を拭って俯いて歩き出す。

「早く……出してやろう。そして出来るだけ綺麗にしてやろう」
「お墓は立派なの建てようねぇ……皆がお参り出来るようなとこに」
「お墓? 誰のお墓建てるの?」
「そりゃ皆のだよぉ……こんな爆発に巻き込まれて生きてるなんて到底思え――ん?」

 俯いていたユーゴの耳に何だか聞き覚えのある声がしたような気がしてふと顔を上げると、坑道の外で何故かアリスがニカッ! をして立っていた。その後ろには爆発に巻き込まれたと思っていた仲間たちがカイン以外揃っているではないか!

「皆って誰のこと? もしかして僕たちの事じゃないよね?」

 完全に固まっているルーイとユーゴとイヴリンにリアンが意地悪げに微笑むと、3人はその場に崩れ落ちてこちらを指さしてガクガクしている。

「な、な、な!?」
「お、お、おばけ……?」
「っっっ!」
「いや~参った参った。オズワルドが居なかったら本当に僕たちのお墓が建つ所だったよ」

 驚きすぎて腰を抜かした3人を見てノアが苦笑いを浮かべて3人に近づきルーイに手を差し伸べた。

「とりあえずここ出よう。何があったかちゃんと説明するよ」
「っ!!!」

 差し伸べられた手を掴んだルーイは無言でノアを引っ張り、ノアがバランスを崩して倒れ込んできた所をそのままの勢いで強く抱きしめる。

「ちょちょ、お、男に抱きしめられる趣味ないっ、く、くるし――」
「うるさい! お前たちは本当に――本当にっ!!!」
「……うん、ちゃんと生きてるよ。心配かけてごめんなさい」

 抵抗しようとするノアをそれでも離さないルーイの背中をノアは苦笑いして軽く叩く。

「ああ」

 何だかんだ言いながらアリス達との付き合いはもう随分長い。ルイスやキャロラインがいつも言うように誰が欠けても駄目なのだ。それがチーム聖女の絶対の掟なのだから。

 声もなく涙を零すルーイを見て感極まったユーゴがリアンを見て手招きすると、リアンが訝しげに近寄ってきた。

「りーくぅん、俺もハグしてほしいぃ」

 それを聞いてリアンが一歩後ずさる。

「なんで」
「一番可愛いからだよぉ。ほんとはライラちゃんがいいけどぉ」
「嫌だし絶対駄目。キリ、ハグしてやって」
「え、嫌です。モブさん、どうぞ」
「俺も嫌っすよ」
「皆冷たいよぉ……でも……安心した」

 相変わらずの塩対応な3人を見てユーゴが気が抜けたように笑みを零すと、何を思ったかアリスがトコトコとやってきてユーゴの首根っこを捕まえて立ち上がらせてそのまま思い切り正面から抱きついてきた。

「仕方ないなぁ! じゃあ私が! ふんっ!」
「いだいっ! お、折れる! 背骨が折れるっ! ハグの強さじゃないっ!!!」
「アリス~ほどほどにしとくのよ~」

 ライラの声にアリスは嬉しそうに頷いて最後の力をユーゴに込めた。するとユーゴは低いうめき声を漏らしてぐったりと動かなくなってしまった。

「よし次はイヴちゃんね!」
「え!? わ、私はいいわ、大丈夫! 遠慮しておくわ!」

 アリスがユーゴを離した途端、ユーゴは違う意味でその場に崩れ落ちた。それを見てイヴリンは慌てて首を振ってカサカサと這いずりライラの足元に避難する。

 結局アリスに締め付けられて意識を失ってしまったユーゴをアリスが担ぎ上げ、全員で山を下りた。 

「さて、ではまずはイヴリンの話から聞こうか。一体何があったんだ?」

 麓には散らばっていた蒼の騎士団が集まってきていた。


 その後、蒼の騎士団と仲間たちはそのまま近くの宿で泊まることになり、全員ノアの部屋に集まってくる。

「私は皆と分かれた後、あの坑道より一つ手前の坑道を探していたの。そうしたら坑道の入り口から何かが破裂するような音と誰かの悲鳴が聞こえてきて慌てて様子を見に戻ったのよ。そうしたら覆面の男が一人まっ黒焦げになって倒れてて、その男の側に誰かが立っていたの。私は慌てて隠れてその男の行動を見張ったわ。男は焦げた男の体をあちこち探って何かを探していたみたいだけど、結局何も盗らずにその場を去ったの」
「その男っていうのも覆面だった?」

 ノアの言葉にイヴリンは頷く。

「ええ。顔の覆面は取ってたけど、あの衣装は覆面達のものだったわ」
「兄さま!」
「うん、そいつがいわゆる処刑人だったんだろうね。それで?」
「私はもちろん後を追ったわ。そうしたら男はあの坑道に入っていったの。事前に団長からあちこちに罠が仕掛けられてるって聞いてたから用心して出来るだけ何にも触れないように男の後をつけていたんだけど、突き当りまで辿り着いた時、男の姿はもうそこには無かったの。でもわずかに壁の奥から声が聞こえたのよ。誰かの叫び声と怒鳴り声みたいなものが。それを確かめようとして……あのザマよ」

 付かず離れずで男の後を追っていたイヴリンだったが、少しの間に男は姿を消した。その後坑道内が爆発して巻き込まれ、どうにかそれを伝えようとして壊れかけのスマホでルーイに連絡をしたイヴリンだ。

「なるほど。その短時間の間に転移魔法を使ったということか?」

 ルーイの言葉にイヴリンは頷いてゴクリと息を呑む。

「転移魔法はかなり高度な魔法だよ。そんな短時間でどうにか出来るとは思えない。一つ考えられるとしたら、ディノの転移魔法装置かなって」
「そうですね。ディノの転移魔法装置は触れるだけで動かす事が出来るようですから」
「でもディノの眼は僕たちが持ってるよ?」
「そうだね。でも他にもディノの転移装置があるとしたら? ほら、レックスが言ってたじゃない。ディノは魂の加護がない人達を保護するために至るところに出入り口を作ったって。そこにそれぞれ転移装置があったんだとしたら?」
「あー……そか。そうかも。このおっきい奴はあくまでも沢山の人を一斉に運ぶため、なんだもんね」
「そういう事。一人なら他所のディノの転移装置も使えるんじゃないかな」
「一体何の話ぃ? ていうか、皆どうやって助かったのぉ?」

 どう考えてもあの坑道の崩れ具合からして助かる可能性はほぼゼロだったはずだ。それなのに何故か仲間たちは傷一つ負っていない。

「なんかね、爆発が起こった瞬間オズに呼び出されたみたいでさ、気づいたら地下にいたよね! テヘペロ!」
「ど、どういう事ぉ?」
「そのまんまの意味だよ。僕たちはオズに助けられたって事。いや、向こうは助けようとして助けてくれた訳ではないんだけどさ」
「レックスとディノの秘密を俺たちに聞かせたくて呼んだようです。間一髪でした。被害状況はお嬢様の髪が一房焼けたぐらいです」
「えぇ……あれだけの爆発で髪だけぇ? どんだけ強運なの君たちぃ」
「アリスの名前はビカビカの極彩色だから何も不思議ではないと思うの」

 今回の事は偏にアリスの持つ豪運のせいだろうとライラは思っている。言い切ったライラの言葉に思わず仲間たちは頷いてしまった。

「で、地下で何か分かったのか?」

 ルーイの言葉にノアは緩く首を振った。

「決定的な事は何も。でもこの星の事が少しだけ分かったよ。あの火口の事はレックスにもディノにも分からなかったみたい。ただ、イヴさんの言う通りあの坑道の奥に誰かがいるとしたら、そこはディノの坑道なのか、それとも違うどこかの坑道なのか、どっちだろうね」
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