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第198話 あると安心!幸せになれる工具セット

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 奥の部屋に消えていったルーイ達を横目にノアは大剣を振り払って向かってきた敵を薙ぎ払っていたが、どうも手応えがない。

「皆、これは多分シャルが使う覆面と同じような奴らだよ! 遠慮なく壊していい」
「そなの? じゃ、安心だねっと!」

 ノアの言葉を聞いてリアンはすっかり手に馴染んだクローで遠慮なく敵を殴りつけていく。

 そんな仲間たちを横目にキリがまだ目を擦っているアリスの手からディノの眼を奪い、自分のリュックの奥底に放り込んだ。ここでこれをあちらに取られる訳には絶対にいかない。

「キリ、今どんな状況?」
「役立たずのお嬢様以外は出来合いの覆面と戦っています。サーチも使えないのであまり派手に動き回らない方がいいかもしれません。どこにどんな罠が仕掛けてあるか見当もつかないので。それから部屋の奥にアーバンの両親だと思われる人物が連れ去られました。ルーイさん達が追っています」
「分かった。ありがと!」

 しばらく目を閉じていたアリスだったが、ようやくここで視力が回復した。どんな事が起こるのか少しも見逃したくないという思いが逆に仇となってしまった。

 アリスは何度かまばたきをして完全に視力が戻った事を確認すると、地面を勢いよく蹴って走り出した。

 ノアが言うにはこれはシャルが作った覆面と一緒だと言う。ということは、剣を使うほどでもない。

「そこをどけぇぇぇ!」

 わらわらと寄ってくる敵をアリスは容赦なく拳で打倒し、キリが言った部屋の奥を目指す。その後から何かを察したノアとキリがピタリとついてくる。

「リー君、オリバー、ここは任せるよ!」
「了解!」

 リアンは言いながらもクローで敵を殴りつけていく。力は弱いが機動力に優れたリアンは、すばしこく逃げ回ってクローで引っ掻くという作業はとても向いている。最初にこの武器を与えられた時はどうなることかと思ったが、今思えばこれが一番自分には合っていたようだ。

 一方オリバーは相変わらず静かに敵を倒していた。流石元隠密である。 素早く敵の後ろに回り込んで首を搔き切る作業をさっきからずっと黙々とこなしていた。

 そんな仲間たちを横目にノアが部屋の奥の扉を指差す。

「アリス、あの奥だよ」
「うん!」
「お嬢様、気をつけてください。くれぐれも暴れすぎないように」
「分かってるよぅ!」

 しっかりとキリに釘を刺されたアリスがゆっくりとドアノブを回すと、部屋の真ん中には戸惑うルーイと見知らぬ男女が椅子に括り付けられた状態でぐったりとしていた。

 ルーイの足元には3人の男が仰向けになって泡を吹いて倒れていて、縄できつく縛り上げられている。

「どういう状況?」
「ああ、近寄れないんだ。あの二人に何かを仕掛けて逃げやがった。多分あの逃げたのが幹部の一人なんだと思う。これを落としていった」

 そう言ってルーイがノアの手に腕章を押し付ける。腕章にははっきりと紋章が描かれているが、それはどう見ても――。

「これは……アーバンが描いてた紋章だ」

 歯車に蛇が絡んだ紋章は紛れもなくアーバンが描いてくれたものと同じだ。

 ノアはそれを受け取ってポシェットに仕舞うとゆっくりと二人の男女に近寄った。

「あなた達はアーバンのご両親?」

 そう尋ねた途端、二人はハッとして顔を上げて目を輝かせる。無言ではあったが何か言いたげな顔を見てノアは頷いて二人の状態を目視で確認した。すると二人を縛っている椅子の裏側に何かが張り付いていて、側には砂時計が置いてある。

「ああ、時限爆弾か。本気で小賢しいね」
「なんなんだ、その時限爆弾というのは」
「時間を設定してその時間になったら爆発する爆弾だよ。これを解除しないと二人を動かせないんだけど……アリス、武器の知識いっぱい持ってるよね?」
「うん! どれどれ……これは化学反応させるタイプみたいだよ! 後は開けてみないと分からないよぅ」
「まぁそうだろうね。キリ、ちょっと工具貸して」
「ええ」

 ノアに言われた通りキリはアリス工房の新商品『あると安心! 幸せになれる工具セット』を取り出してノアに渡した。

「液体窒素があれば一瞬なのになぁ~」

 ぶつくさ言いながらアリスはノアと一緒に椅子の下に潜り込んで爆弾を見上げた。

「僕の予想ではそんな凝った事してないと思うんだよね。せいぜい揺れたら爆発するぐらいじゃないかな」
「私もそう思う。この大きさだだし威力はこの二人が消し飛ぶぐらいかなぁ?」

 何気なく言ったアリスの言葉に椅子の上のアーバンの両親が息を飲んだのが伝わってくる。それに気づいたノアが苦笑いして言った。

「アリス、二人にごめんなさいして」
「ごめんなさい。でも絶対助けるからね! もうちょっとじっとしててね!」

 爆弾には様々な種類がある。ちょっと動かしたり蓋を開けるだけで爆発するものや、それこそ中の火薬が水に濡れた途端駄目になるお粗末な物まで様々だ。よく見る赤と青の線なんて物はもうほとんど実在しないという。

 そんな爆弾の解除をするのに一番手っ取り早いのは液体窒素をぶっかけて中の起爆装置を止めてしまう事である。

 だがこの世界に液体窒素なんてものは無い。魔法も使えないし氷の魔法を使っても厳しいだろう。

「お! 開いた! あ~……やっぱ化学反応タイプか。兄さま、信管どこだろう?」
「この裏じゃないかな。あ、良かった。重さとかそういうセンサーはついてないみたいだ。キリ、ルーイさん、二人の縄をそーっと外してこの部屋から避難させて」
「分かりました。お二人共、椅子が動かないよう慎重に椅子から離れてください」

 キリの言葉に二人はコクリと頷いて静かに縄が解かれるのを待ち、そっと立ち上がる。その体をルーイとキリが慎重に抱えあげて二人を椅子から離した。

 その途端二人は安堵のため息を落としてその場に崩れ落ちて涙を零す。無言で涙を零す二人をちらりと見たノアはやっぱり無言でキリに目配せをする。それを見てキリはコクリと頷いて二人の背中を支えながらルーイと共にまだ気を失っている男たちを連れて部屋を出て行った。

「さて、アリス。まずはこの袋を破かないように取り出そうか」
「うん!」

 部屋から誰も居なくなった事を確認した二人はゴクリと息を飲んで爆弾の解除を始める。ここが地上であればいっそ爆発させてしまった方が良かったのかもしれないが、生憎ここは地下だ。また生き埋めになどなってしまったらそれこそ大惨事である。

 普段は細い作業が大の苦手なアリスだが命が関わっている時は別だ。無言でノアに手を差し出して工具を受け取り少しずつ爆弾を解体していく。

「アリスのAIが無駄に武器の知識を詰め込んでくれてて良かったよ」
「へへ! お勉強とか常識とかはからっきしだけどね! キメ!」
「……うん、そうだけどそれ自分で言っちゃ駄目なやつだよ」

 軽口を叩きながら作業するが別に余裕がある訳ではない。そんな事でも言っていないと息が詰まりそうなのだ。

 しばらく作業していた二人はようやく奥に隠れていた信管を見つけた。起爆装置になる薬剤はジワジワ染み出して一つの瓶に入っていく仕掛けになっている。全てが混ざりあえば起動するタイプのようだ。その瓶にしっかりと固定された信管をアリスはピンセットを使ってつまんだ。

「兄さま、これ瓶に固定されちゃってる。どうしよう?」
「瓶ごと取れそう?」
「無理そう。完全に薬剤の入れ物とも固定されてる」
「それじゃあ先に揺れ感知の所を解除しちゃおう」
「うん」

 ノアの言葉に従ってアリスは箱の外についた棒をそっと抜き取った。揺れ感知の原理はとても簡単だった。その棒が動くと中の薬剤の袋に刺さって破れ、一気に混ざり合って爆発するという物だ。
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