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第215話 神への冒涜 ※少し胸糞悪い話です。ご注意ください。

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「なるほど。そんな訳だからアルファさん、今更裏切ったら君を待ってるのは死あるのみだよ?」

 ノアがライラに乗っかってそんな事を言うと、ライラは「ひゃー! 名台詞!」などと言いながら手帳にペンを走らせている。どうやら今回の事も漫画にするつもりらしい。

「……多分、その子達はあの……貴族たちだと思い……ます」
「へぇ?」

 ニコニコするノアに耐えかねたようにアルファは重い口を開いた。そんなアルファをメリーアンが驚いたような顔をして見ている。どうやらメリーアンはその事を知らなかったらしい。

 アルファの話が正しいとすれば、スヤスヤと眠る無垢な赤ん坊達はかつて奴隷を買い、いたぶった者たちだ。

「どういう事です? この子達が消えた貴族たちと言う事ですか?」

 シャルが問うと、アルファはコクリと頷いた。

「はい。信じられないかもしれませんが……」

 きっと信じてなどもらえないだろう。そう思ったからアルファは黙っていたのだが、アルファの言葉に英雄たちは互いの顔を見合わせた。

「いや、信じるよ。実際そういう噂も出回ってる。この子たちが元々大人だったって言われても不思議じゃない」

 ノアがそこまで言った時だった。突然キリのスマホが鳴った。

「すみません、ミアさんです。出てきても構いませんか?」

 言いながらキリは既にスマホの通話ボタンを押して部屋の扉に手をかけている。

「あんたは駄目って言っても出るでしょ? てか、もう通話押してんじゃん!」

 アリスが半眼でキリを見ると、キリは悪びれる事もなく頷く。

「当然です。相手がミアさんだったら何をしていてもどんな時でも秒で出ます。ちなみにお嬢様からの電話は極力出たくありません」

 絶対にロクでもない事でかけてきているのが分かるからだ。そういう意味ではノアからの電話もあまり受けたくないキリである。

「酷くない!? ねぇ、あんたバセット家の従者だよね!?」
「そうですが、勤務外の連絡は控えてほしいです」
「キリってば! アリスからの連絡は勤務内でも出ないのに! いっつもキリに無視される可哀想なアリス! 大丈夫、アリスからの連絡は僕が秒で出るからね」
「うぐぅ……」

 ノアに言いたくないからキリに電話しているというのにこのザマである。しかも何故アリスが苛められるとノアはいつもこんなにも嬉しそうなのだ!

 拳を握りしめて悔しさのあまり縦揺れするアリスを無視してキリが廊下に出た。しばらくして戻ってきたと思ったら、キリはアリスに向かって手を差し出してくる。

「お嬢様、今すぐあの便利手帳を出してください。ミアさんを迎えに行ってきます」
「いいけど、何かあったの?」
「はい。どうやらミアさんがお手柄をあげたようです。流石ミアさんです」

 それを聞いてユーゴが楽し気に尋ねる。

「へぇ、何したのぉ?」
「それはここでは言えません。ですがやはりミアさんの情報収集能力は素晴らしいです。そんな訳なのでお嬢様、さっさと手帳を出してください」
「うん。はいこれ。気をつけてね」
「はい。すぐ戻ります。あとこれを。ミアさんから送られてきた最新情報です。一斉送信しておきます」

 キリはそれだけ言って仲間たちにミアからの情報を一斉送信すると、受け取った妖精手帳を使って消えてしまった。

「一つずつ証拠が集まりだしているな」

 ルーイは膝の上で微睡んでいる赤ん坊を見下ろして言った。赤ん坊には記憶が無いのかもしれないが、奴隷を買っていたと分かってしまった今となっては何とも言えない気分だ。

 今しがた読んだミアからのメッセージが本当だとすれば、この赤ん坊達はやはり元々は大人だったのだろう。

 そしてミアはどうやら騎士団が全力で探していた、メイリングから逃げた貴族の娘を見つけ出したらしい。

 やがて部屋にチームキャロラインとサマンサとステイシアがやってきた。彼女たちは赤ん坊を食事を運ぶ台に隠してそのまま部屋を出ていく。

 赤ん坊が居なくなった部屋は何だか急にガランとした様子で落ち着かない。

「とりあえず話を戻そうぜ。ミアちゃんからのメッセージにもあったけど、アルファ、どうしてあんたはあの子達がその貴族だって思うんだ?」

 成り行きをしばらく見ていたカインが問うと、アルファは俯いたまま話しだした。

「どういう理屈かは分からなかったんですが、アンソニー王とカールは囚えた貴族の時を巻き戻すとよく言っていました。そこで集めた負の種を世界中にばらまき、少しずつこの世界を蝕む。もう何年も続いてきた事だ、と」
「では、うちの子達が聞いた噂は噂でも何でも無かったのですね」

 シャルルがリンとカミラに聞いた話をすると、アルファは目を見張った。

「そんな噂が流れているのですか?」
「ええ。人の口に戸は立てられません。フォルス学園にはメイリングやレヴィウスの生徒も居るので。子どもは大人が思っているよりもずっと敏感に注意深く物事を見ていますよ」
「……そうですか。僕にも彼らがどんな魔法を使ったのかは分かりませんが、メイリングはそれこそずっとそんな事をしてきたと言うことです。奴隷として売られていた人たちの中にもそういう人たちが居たんじゃないでしょうか……」
「……まるで牧場っすね。赤ん坊に戻して育てて売るって……」
「まぁ実際その通りだったんじゃないかな。そうでもしないと奴隷人口がどんどん減ってしまう。質も落ちるし」
「質って……あんた、凄い事言うね」
「でもその通りでしょ? 器量の悪い子を売り捌くよりも美人な子を若返らせて何度も売るほうがいい。だから貴族の子たちが売り捌かれてるなんて話が今まで表沙汰にならなかったんだよ」
「どういう事なの? ノア」
「それを理解した上でコネがないと質が良い奴隷は買えなかったって事だよ。一般に売り出されてたのは多分、普通の人達だよ。でも貴族相手に売り出されてたのはそういう子たちだったんじゃないかな。つまり、妖精の奴隷はそういう奴隷たちの隠れ蓑だったって事」

 ノアの言葉にその場に居た全員が青ざめた。

「で、でもどうやってそういう子たちを回収したんだ?」
「それこそ簡単だよ。最初にそういう契約をして、病気になったりある一定の年齢になったらディノの庭に放り込めばいいんだ。そうしてまた赤ん坊に戻した状態でその貴族の元に戻す。そうすればお気に入りの子をほぼ永遠に側に置いて置くことが出来る」
「……悪魔かよ」
「悪魔だよ。正真正銘悪魔の所業だ。でもそう考えればあの火口に放り込まれた物が何かの説明がつく。代わりに持って帰った物もね」
「……投げ入れていたのは回収された奴隷で、持って帰っていたのは若返った赤ん坊という事――か」

 先程まで赤ん坊が微睡んでいた膝をじっと見下ろしたルーイがポツリと言うと、皆は黙り込んだ。

「もっと最悪なのは、下手したらそういう子たちを貴族自身が作っていたかもしれないって事だよ」
「どういう事ぉ?」
「質の良い奴隷を作るために子どもを作っていた可能性もあるよね? って話」
「それは……それは神への冒涜よ! そんな事絶対にしてはならないわ!」

 怒りに震えて立ち上がったキャロラインを見てノアは真顔で頷いた。

「もちろんそんな事は許されないよ。でもキャロライン、世の中には子どもを売る親も居るんだよ。大抵は自分たちが食べる事に困ってだけどね」

 もしもそんな事が貴族の間でまかり通っていたのだとしたらそれは絶対に許されないが、アルファの話を聞く限りそれがまかり通っていたのかもしれないのだ。

「今までの話をまとめると、火口に投げ入れられていたのは貴族の奴隷たちで、ディノの庭で赤ん坊に戻して誰かが回収し、その子達をまた売っていたという話ですか?」
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