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第214話 未だおが屑の王
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『話か。俺たちにもさっぱりだ。ディノの春の庭の東屋に女が落ちてきた。そこには何故か大量の赤ん坊が居たんだ。とりあえずその東屋の天井には結界張って塞いできた』
「なるほど。その東屋と地上が繋がってたって事なんだね? ところで春の庭って言った? もしかして秋の庭って言うのもある?」
『あるよ。四季の庭だ。本来の目的はディノが種の保存をする為に作った庭だったみたいだけど』
オズワルドが言うと、ノアがハッと息を飲んだ。
「じゃあ果てた者達は?」
『それは知らない。レックスなら知ってるんじゃないか?』
「そう、ありがとう。赤ん坊はこっちに寄越してくれていいよ。僕達は今、ルーデリア城の王の私室にいるから」
『助かる。それじゃあちょっと送る』
オズワルドとの電話を終えてノアが部屋に戻りしばらくすると、突然部屋に赤ん坊が大量に送られてきた。おむつの代わりに大きな葉っぱを巻いているのが何とも言えないが、何もなくて苦肉の策だったのだろう。
「た、大変! チームキャロラインを招集するわ!」
キャロラインはそう言ってすぐさま部屋に添えつけてあったベルを鳴らした。
「これ何だろ」
ノアは言いながら赤ん坊と一緒にキラキラしたムーンストーンが詰まった袋を開けて目を丸くした。中には簡単なノエルからのメモも入っている。
ノアがそれを読んでムーンストーンを全員に配っていると、まさかキャロラインが戻ってきているとは思って居なかったであろう一番年若いカテリーナが半信半疑で部屋にやってきた。
「お、お、お嬢様!? い、いつお戻りになられました!?」
「カテリーナ、この子たちを保護してやってほしいの」
驚くカテリーナにキャロラインが抱いていた赤ん坊を預けると、カテリーナは赤ん坊を見てさらに目を丸くする。
「こ、こ、この子たちは一体……? お、お嬢様……まさか……う、浮気?」
そう言ってカテリーナが視線を送ったのは奥に居たルイスだ。
「え?」
「何てこと! しかもこんなに! 同じ年頃の子たちばかり!」
カテリーナは赤ん坊を抱きしめてルイスを怒鳴りつけた。これはもうルイスが浮気をしてどこかで作ってきた赤ん坊達に違いない。それをキャロラインは保護しろだなんて、どこまで優しいのか。
でもそんな事キャロラインが許してもカテリーナは絶対に許さない。
カテリーナは赤ん坊をもう一度キャロラインに渡してツカツカとルイスに近寄ると、ルイスを見上げて怒鳴った。
「今すぐお嬢様と離縁していただきます! ルイス様がこんなにも尻軽だったなんて軽蔑しました!!!」
「り、離縁!? 何故だ!」
突然の離縁宣告(しかも本人からではない)に驚いたルイスが固まると、そんな様子をじっと見ていたカインが笑った。
「お前の浮気を疑われてんだよ」
「俺が!? ば、ばか言うな! キャロが居るのに浮気などするはずないだろうが! 大体これだけの子どもを一斉に作れる訳ないだろう!?」
「いいえ、いいえ! そんな事分かりません! 同じ時期に沢山の方たちと、という事もあります!」
「王子ってば全く信用されてないじゃん。お姫さま、助けてやんなよ」
流石にルイスが可哀想で思わずリアンが助け舟を出すと、それまでポカンとしていたキャロラインがハッとしてカテリーナの腕を引いた。
「カテリーナ落ち着いてちょうだい。この子達は今しがた地下から送られてきたの」
「地下……から?」
そう言えばライアンも地下に行っていると言っていたが、もしかしたらその事と何か関係があるのだろうか?
「そうよ。この子たちも事件の被害者かもしれないの。この事は決して誰にも漏らさず、チームキャロラインで保護してやってちょうだい。出来るわね?」
真剣な顔でキャロラインが言うと、ようやくカテリーナは納得したように頷いた。
「もちろんです! チームキャロライン、一丸となってこの子たちを守り抜きます! サミーさんとステイシアさんをお借りしても?」
「もちろんよ。どこに匿うかは任せるわ」
「分かりました! それではすぐに他のメンバーたちを呼んできます!」
そう言ってカテリーナが出ていこうとすると、後ろからルイスが怒りのこもった声が聞こえてくる。
「待て、カテリーナ。お前、俺に何か言う事ないのか?」
一番年若いカテリーナはチームキャロラインの中でも一番のキャロライン厨だ。キャロラインへの愛はアリスやミアと同じぐらいだと言っても過言ではないほどだ。それは分かっているが、疑われたのは癪に触る。
ルイスの言葉にカテリーナはクルリと振り返った。
「謝りません! 私はまだお嬢様を私達から奪った王の事を信用していませんから!」
カップリング厨として二人が付き合っている時は微笑ましく見守れたが、いざ結婚したとなると心の底から素直に喜べない複雑なカテリーナである。
「な、な、なに!?」
「王はまだ色んな所がおが屑ですから! 立派な木材になったら謝罪いたします! それでは失礼いたします」
「まぁ、カテリーナってば。ごめんなさいね、ルイス」
バタンと勢いよく閉じられたドアを見てキャロラインが苦笑いする隣で、ルイスは唖然としてドアを見つめている。
「……おが屑が進化すると木材に……なるのか?」
「いやそこじゃないだろ? てかお前、まだ信用されてないの? そっちのが問題じゃない?」
「大丈夫よ、カイン。ああ見えてあれはカテリーナの愛情表現なの。ノアやリー君と同じでああやってルイスに甘えているのよ」
「え?」
「ん?」
にっこり微笑んだキャロラインを見て突然名前を出されたノアとリアンが顔を見合わせる。二人の顔には明らかに「そうだっけ?」と書かれているが、誰もそれには触れないでおこうと口を噤んだ。
「まあいい。で、これで赤ん坊は全部か? 一人、二人、三人――」
数えると全員で15人居る。ノアが先程言っていた数と同じなのでこれで全てだろう。
ルイスが赤ん坊を数えているのを横目にノアは青ざめて震えているアルファの前にしゃがみ込んでニッコリと笑った。
「さてアルファさん、何隠してるのかな? この子たちの正体があなたには分かってるんじゃない?」
「そ、それは……」
「さっさと言った方がいいと思うよ? 変態はね、それこそ蛇のようにしつこいから」
「そっすよ。嘘ついたら泣いて懇願するまで許してくれないし離してくれないっすよ」
「まるっきりお嬢様の事ですね。そしてその後は安定の豚小屋行きです」
にっこり笑顔のノアが異常にしつこいのは仲間内では有名だ。キリの言葉に仲間たちは全員真顔で頷いた。
そんな中、今までずっと黙っていたライラがにこりと微笑んで呟く。
「裏切り者には死を」
突然のライラの言葉に仲間たちは全員ギョッとした顔をしてライラを見る。
「な、なんですか? それは」
驚いたメリーアンがライラに問うと、ライラは真顔で言う。
「『アリス・バセットの受難』に出て来る有名なノア様の名台詞です。オビにも記載されていました! ちなみに一番人気の名台詞はアリスの『筋肉は! 裏切らない!』です! そんな訳なのでアルファさん、早く言った方がいいと思います」
ライラの言葉にアルファとメリーアンは二人して首を傾げている。
「それ、ずっと思ってたんだけど僕そんな事言ったっけ?」
ライラの言葉に青ざめてアルファの腕を揺さぶるメリーアンを見ながらノアが小さく首を傾げて小声でライラに問うと、リアンの隣のライラがすかさずテヘペロをした。
「あ、すみません。ちょっと脚色しました。その方が迫力出るかなって」
物語に山場と名台詞は必須だ。その為には捏造も厭わないライラである。そしてそんな脚色した名台詞は各巻の帯にまでなっている。
「なるほど。その東屋と地上が繋がってたって事なんだね? ところで春の庭って言った? もしかして秋の庭って言うのもある?」
『あるよ。四季の庭だ。本来の目的はディノが種の保存をする為に作った庭だったみたいだけど』
オズワルドが言うと、ノアがハッと息を飲んだ。
「じゃあ果てた者達は?」
『それは知らない。レックスなら知ってるんじゃないか?』
「そう、ありがとう。赤ん坊はこっちに寄越してくれていいよ。僕達は今、ルーデリア城の王の私室にいるから」
『助かる。それじゃあちょっと送る』
オズワルドとの電話を終えてノアが部屋に戻りしばらくすると、突然部屋に赤ん坊が大量に送られてきた。おむつの代わりに大きな葉っぱを巻いているのが何とも言えないが、何もなくて苦肉の策だったのだろう。
「た、大変! チームキャロラインを招集するわ!」
キャロラインはそう言ってすぐさま部屋に添えつけてあったベルを鳴らした。
「これ何だろ」
ノアは言いながら赤ん坊と一緒にキラキラしたムーンストーンが詰まった袋を開けて目を丸くした。中には簡単なノエルからのメモも入っている。
ノアがそれを読んでムーンストーンを全員に配っていると、まさかキャロラインが戻ってきているとは思って居なかったであろう一番年若いカテリーナが半信半疑で部屋にやってきた。
「お、お、お嬢様!? い、いつお戻りになられました!?」
「カテリーナ、この子たちを保護してやってほしいの」
驚くカテリーナにキャロラインが抱いていた赤ん坊を預けると、カテリーナは赤ん坊を見てさらに目を丸くする。
「こ、こ、この子たちは一体……? お、お嬢様……まさか……う、浮気?」
そう言ってカテリーナが視線を送ったのは奥に居たルイスだ。
「え?」
「何てこと! しかもこんなに! 同じ年頃の子たちばかり!」
カテリーナは赤ん坊を抱きしめてルイスを怒鳴りつけた。これはもうルイスが浮気をしてどこかで作ってきた赤ん坊達に違いない。それをキャロラインは保護しろだなんて、どこまで優しいのか。
でもそんな事キャロラインが許してもカテリーナは絶対に許さない。
カテリーナは赤ん坊をもう一度キャロラインに渡してツカツカとルイスに近寄ると、ルイスを見上げて怒鳴った。
「今すぐお嬢様と離縁していただきます! ルイス様がこんなにも尻軽だったなんて軽蔑しました!!!」
「り、離縁!? 何故だ!」
突然の離縁宣告(しかも本人からではない)に驚いたルイスが固まると、そんな様子をじっと見ていたカインが笑った。
「お前の浮気を疑われてんだよ」
「俺が!? ば、ばか言うな! キャロが居るのに浮気などするはずないだろうが! 大体これだけの子どもを一斉に作れる訳ないだろう!?」
「いいえ、いいえ! そんな事分かりません! 同じ時期に沢山の方たちと、という事もあります!」
「王子ってば全く信用されてないじゃん。お姫さま、助けてやんなよ」
流石にルイスが可哀想で思わずリアンが助け舟を出すと、それまでポカンとしていたキャロラインがハッとしてカテリーナの腕を引いた。
「カテリーナ落ち着いてちょうだい。この子達は今しがた地下から送られてきたの」
「地下……から?」
そう言えばライアンも地下に行っていると言っていたが、もしかしたらその事と何か関係があるのだろうか?
「そうよ。この子たちも事件の被害者かもしれないの。この事は決して誰にも漏らさず、チームキャロラインで保護してやってちょうだい。出来るわね?」
真剣な顔でキャロラインが言うと、ようやくカテリーナは納得したように頷いた。
「もちろんです! チームキャロライン、一丸となってこの子たちを守り抜きます! サミーさんとステイシアさんをお借りしても?」
「もちろんよ。どこに匿うかは任せるわ」
「分かりました! それではすぐに他のメンバーたちを呼んできます!」
そう言ってカテリーナが出ていこうとすると、後ろからルイスが怒りのこもった声が聞こえてくる。
「待て、カテリーナ。お前、俺に何か言う事ないのか?」
一番年若いカテリーナはチームキャロラインの中でも一番のキャロライン厨だ。キャロラインへの愛はアリスやミアと同じぐらいだと言っても過言ではないほどだ。それは分かっているが、疑われたのは癪に触る。
ルイスの言葉にカテリーナはクルリと振り返った。
「謝りません! 私はまだお嬢様を私達から奪った王の事を信用していませんから!」
カップリング厨として二人が付き合っている時は微笑ましく見守れたが、いざ結婚したとなると心の底から素直に喜べない複雑なカテリーナである。
「な、な、なに!?」
「王はまだ色んな所がおが屑ですから! 立派な木材になったら謝罪いたします! それでは失礼いたします」
「まぁ、カテリーナってば。ごめんなさいね、ルイス」
バタンと勢いよく閉じられたドアを見てキャロラインが苦笑いする隣で、ルイスは唖然としてドアを見つめている。
「……おが屑が進化すると木材に……なるのか?」
「いやそこじゃないだろ? てかお前、まだ信用されてないの? そっちのが問題じゃない?」
「大丈夫よ、カイン。ああ見えてあれはカテリーナの愛情表現なの。ノアやリー君と同じでああやってルイスに甘えているのよ」
「え?」
「ん?」
にっこり微笑んだキャロラインを見て突然名前を出されたノアとリアンが顔を見合わせる。二人の顔には明らかに「そうだっけ?」と書かれているが、誰もそれには触れないでおこうと口を噤んだ。
「まあいい。で、これで赤ん坊は全部か? 一人、二人、三人――」
数えると全員で15人居る。ノアが先程言っていた数と同じなのでこれで全てだろう。
ルイスが赤ん坊を数えているのを横目にノアは青ざめて震えているアルファの前にしゃがみ込んでニッコリと笑った。
「さてアルファさん、何隠してるのかな? この子たちの正体があなたには分かってるんじゃない?」
「そ、それは……」
「さっさと言った方がいいと思うよ? 変態はね、それこそ蛇のようにしつこいから」
「そっすよ。嘘ついたら泣いて懇願するまで許してくれないし離してくれないっすよ」
「まるっきりお嬢様の事ですね。そしてその後は安定の豚小屋行きです」
にっこり笑顔のノアが異常にしつこいのは仲間内では有名だ。キリの言葉に仲間たちは全員真顔で頷いた。
そんな中、今までずっと黙っていたライラがにこりと微笑んで呟く。
「裏切り者には死を」
突然のライラの言葉に仲間たちは全員ギョッとした顔をしてライラを見る。
「な、なんですか? それは」
驚いたメリーアンがライラに問うと、ライラは真顔で言う。
「『アリス・バセットの受難』に出て来る有名なノア様の名台詞です。オビにも記載されていました! ちなみに一番人気の名台詞はアリスの『筋肉は! 裏切らない!』です! そんな訳なのでアルファさん、早く言った方がいいと思います」
ライラの言葉にアルファとメリーアンは二人して首を傾げている。
「それ、ずっと思ってたんだけど僕そんな事言ったっけ?」
ライラの言葉に青ざめてアルファの腕を揺さぶるメリーアンを見ながらノアが小さく首を傾げて小声でライラに問うと、リアンの隣のライラがすかさずテヘペロをした。
「あ、すみません。ちょっと脚色しました。その方が迫力出るかなって」
物語に山場と名台詞は必須だ。その為には捏造も厭わないライラである。そしてそんな脚色した名台詞は各巻の帯にまでなっている。
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