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第234話 流石のアリスも次元は超えられない
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ダニエルがポツリと言うと、突然誰かが服の裾を引っ張った。ふと足元を見ると、そこにはダニエルの長女アリアとリアンの次女、ローズがじっとこちらを見上げていた。
「な、なんだ? どうした?」
「私達がいるわ、パパ」
「いるよ~!」
「お、おお、そうだな」
何故か真顔のアリアと元気一杯のローズにダニエルがたじろいでいると、アリアが大きなため息を落として言った。
「安心して、パパ。私は結婚相手は優秀な庶民の次男を選ぶわ。その為にフォルス学園に入るの」
「そうだよ~! 私はね~フォルス学園に入って主席で卒業するの~! それからお城勤めして見目の良い旦那様見つけたらチャップマン商会に戻って来るんだ~」
「そ、そうなのか?」
「ええ。チャップマン商会は私とローズが守るの。ジャスミンには公爵家に嫁いでもらって、王家との繋がりを確固たる物にしておきたいわ。そして優秀な私の旦那と見目の良いローズの旦那と四人でチャップマン商会をさらに大きな商会にするつもり。だから安心してて」
「へ……へぇ……すげぇな」
一体誰の入れ知恵だ? と考えて一番に浮かんだのはノアだ。あいつならやりかねない。他所の家の子供にこんな風に吹き込んでいても何ら驚かない。
ダニエルは半眼になって胸元からスマホを取り出してノアに電話をする。
『はいはーい? アリスが迷惑かけてる~?』
「いや……アリスは相変わらずだが役には立ってる。そうじゃなくてお前だよ! お前、うちの娘とローズに何か吹き込んだだろ!?」
『僕が何か吹き込んだ? アリアとローズに? 一体何の話?』
「すっとぼけんな! こいつらの人生設計がマジでヤバイんだけど⁉」
ヤバイというより、しっかりしすぎてて怖いというのが正しい。野心に満ち満ちである。
『えー? 僕は知らないよー人聞きの悪い。むしろ子供には楽して生きてもらいたいからそんな人生設計立てさせる暇があったら僕が稼ぐよ~』
それを聞いてダニエルはすぐさま納得する。
「……そっか、お前子供大好きだもんな。そうだよな。お前が塩対応なのは俺達にだけだよな。すまん、勘違いだったわ」
『ちょっと待って。僕が疑われ損なんだけど? 一体何の話してるの?』
「いや、それがな――」
そう言ってダニエルが事の経緯を話すと、ノアは声を出して笑った。
『それ絶対僕じゃないよ! そうだな~……カインとか?』
「カ、カイン!? あんにゃろ~他人の娘に! サンキュ、ノア!」
『はいは~い。ついでにアリスにスマホ見なさいって伝えといて~』
「分かった。じゃな」
ダニエルはスマホを切って次はカインに電話した。カインは1コールで電話に出てくれた。
『ダニエル? どうした? 何かあったか?』
「いや、お前、うちの娘に何か吹き込んだ?」
『何かって?』
「実は――」
ダニエルは先ほどの説明を繰り返すと、カインまで声を上げて笑い出す。
『やー、ごめん! それ兄貴だわ。去年アリアとジャスミンとローズがうちに動物見に来たじゃん? そん時にアリアに相談受けたらしいんだ』
「相談?」
『うん。何か、チャップマン商会をもっと大きく1000年続く老舗にするにはどうしたらいいかってさ』
「せ、1000年……」
『そこらへんの数字設定が子供だよな~。で、兄貴はああ見えて生真面目だから的確、確実に会社を大きくする方法をアリアちゃん達に教えたって訳だ。多分それじゃないかな』
「ぜってーそれだ!! 子供になんつうこと吹き込んでんだ!」
『でもアリアとローズは真剣に聞いてたらしいよ。ジャスミンは微妙だったって』
「ああ、ジャスミンはマイペースなんだ。あいつは嫌な事は絶対にしない。そうか……犯人はルードさんか……何か間違えて本当にジャスミンとテオが結婚なんて事になったらどうすんだ……」
『別にいいんじゃん? 俺はテオとジャスミンは結構お似合いだと思うけどな。てか、兄貴の事だから下手したら既に根回ししてたりして――』
「!!!」
『嘘だって! 流石にそこまではしないでしょ。でも将来そんな話が出たらライト家はジャスミンたちの応援するよ。自由恋愛万歳だよ』
「お前なぁ……まぁとりあえず分かった。あいつらに何か他に夢中になるような事が見つかる事を願ってるわ」
『ははは! 別にいいじゃん。今のままでも』
「お前は良くてもうちは良くねぇ! 何よりもリアンの胃に穴が開いたらどうすんだ! ったく! じゃな! 色々きな臭い話も耳にしてるからお前らも気を付けてな」
『サンキュ! そっちも気を付けて』
「ああ」
そう言ってスマホを切ったダニエルは倉庫の中で物色しているまだ幼い娘たちを見ながら大きなため息を落とす。ノアじゃないが、子供達には何の憂いも無い未来を歩んで欲しい。
アリアがルードにそんな相談をしたのは、きっとチャップマン商会の未来を案じての事だったのだろう。アリアはエマに似て責任感が強くてとても優しいから。
「俺達が頑張るしかねーか。よっしゃ! 働こ!」
ダニエルは自身の頬を両手で叩いて気合いを入れると、籠を背負ってまた倉庫の中を漁り始めた。
ちなみにダニエルはアリアはエマに似て責任感が強く優しい娘だからあんな将来設計を立てたのだと思い込んでいるが、実際アリアは本当に単純にチャップマン商会が千年続く商会にしたいと思っている事をダニエルは知らない。
だからこの先アリアとローズはこの人生設計のままの人生を歩む事になる。そしてこの二人に目をつけられたジャスミンとテオもまた巻き込まれるのだが、それはまた別のお話だ。
その日の夜、アリスはダニエルに言われてスマホを確認してノアから大量のメッセージが届いていた事を知るなり、急いでライラを連れて秘密屋敷に戻った。
「ねぇアリス? どうしていっつも僕のメッセージを無視するのかな?」
「む、むひひへははへひゃはいほ(む、無視してた訳じゃないよ)」
ノアに両手で顔を押さえつけられたアリスはどうにかノアから視線を逸らそうとするが、それはノアが許してくれない。
「そうかなぁ? キャロラインにはすぐに返信するのにどうして僕のだけ読めないんだろうねぇ?」
「ひ、ひいはまほひゃほはいんははほはおほはひはうっへひうは(に、兄さまとキャロライン様のは音が違うっていうか)」
「へぇ? だったら僕のもキャロラインのと同じ音にしといたら解決するのかなぁ?」
「ほ、ほうはほうへ~……いひゃいいひゃい!(ど、どうだろうね~……痛い痛い!)」
思い切り横に頬を伸ばされたアリスがじたばたと暴れると、ノアはそんなアリスを見てにっこりと笑う。そもそもよく通じるなと思っているアリスだが、相手はノアだ。多分何も話さなくてもアリスの考えなどお見通しなのだろう。
「ノア様、そこらへんで許してやってください」
「ひひ~~(キリ~~)」
珍しいキリの助け舟にアリスが思わずキリに手を伸ばすと、キリはその手を冷たく払いのけた。酷い従者も居たものである。
「助けた訳ではありません。それ以上やるとお嬢様の頬が元に戻らなくなります」
「それは困るね。はぁ、いつになったら僕はアリスに追いかけてもらえるんだろうね」
わざとらしくため息を落としたノアに向かってキリとアリスは真顔で言った。
「それは一生無理では」
「流石に私も次元は超えられないよ」
「……」
何もそんなにはっきりと否定しなくてもいいと思う。ノアは無言で二人を睨んでソファに腰を下ろした。
ここは秘密屋敷のアリスとノアの部屋だ。斜め向かいがキリとミアの部屋になっている。
「な、なんだ? どうした?」
「私達がいるわ、パパ」
「いるよ~!」
「お、おお、そうだな」
何故か真顔のアリアと元気一杯のローズにダニエルがたじろいでいると、アリアが大きなため息を落として言った。
「安心して、パパ。私は結婚相手は優秀な庶民の次男を選ぶわ。その為にフォルス学園に入るの」
「そうだよ~! 私はね~フォルス学園に入って主席で卒業するの~! それからお城勤めして見目の良い旦那様見つけたらチャップマン商会に戻って来るんだ~」
「そ、そうなのか?」
「ええ。チャップマン商会は私とローズが守るの。ジャスミンには公爵家に嫁いでもらって、王家との繋がりを確固たる物にしておきたいわ。そして優秀な私の旦那と見目の良いローズの旦那と四人でチャップマン商会をさらに大きな商会にするつもり。だから安心してて」
「へ……へぇ……すげぇな」
一体誰の入れ知恵だ? と考えて一番に浮かんだのはノアだ。あいつならやりかねない。他所の家の子供にこんな風に吹き込んでいても何ら驚かない。
ダニエルは半眼になって胸元からスマホを取り出してノアに電話をする。
『はいはーい? アリスが迷惑かけてる~?』
「いや……アリスは相変わらずだが役には立ってる。そうじゃなくてお前だよ! お前、うちの娘とローズに何か吹き込んだだろ!?」
『僕が何か吹き込んだ? アリアとローズに? 一体何の話?』
「すっとぼけんな! こいつらの人生設計がマジでヤバイんだけど⁉」
ヤバイというより、しっかりしすぎてて怖いというのが正しい。野心に満ち満ちである。
『えー? 僕は知らないよー人聞きの悪い。むしろ子供には楽して生きてもらいたいからそんな人生設計立てさせる暇があったら僕が稼ぐよ~』
それを聞いてダニエルはすぐさま納得する。
「……そっか、お前子供大好きだもんな。そうだよな。お前が塩対応なのは俺達にだけだよな。すまん、勘違いだったわ」
『ちょっと待って。僕が疑われ損なんだけど? 一体何の話してるの?』
「いや、それがな――」
そう言ってダニエルが事の経緯を話すと、ノアは声を出して笑った。
『それ絶対僕じゃないよ! そうだな~……カインとか?』
「カ、カイン!? あんにゃろ~他人の娘に! サンキュ、ノア!」
『はいは~い。ついでにアリスにスマホ見なさいって伝えといて~』
「分かった。じゃな」
ダニエルはスマホを切って次はカインに電話した。カインは1コールで電話に出てくれた。
『ダニエル? どうした? 何かあったか?』
「いや、お前、うちの娘に何か吹き込んだ?」
『何かって?』
「実は――」
ダニエルは先ほどの説明を繰り返すと、カインまで声を上げて笑い出す。
『やー、ごめん! それ兄貴だわ。去年アリアとジャスミンとローズがうちに動物見に来たじゃん? そん時にアリアに相談受けたらしいんだ』
「相談?」
『うん。何か、チャップマン商会をもっと大きく1000年続く老舗にするにはどうしたらいいかってさ』
「せ、1000年……」
『そこらへんの数字設定が子供だよな~。で、兄貴はああ見えて生真面目だから的確、確実に会社を大きくする方法をアリアちゃん達に教えたって訳だ。多分それじゃないかな』
「ぜってーそれだ!! 子供になんつうこと吹き込んでんだ!」
『でもアリアとローズは真剣に聞いてたらしいよ。ジャスミンは微妙だったって』
「ああ、ジャスミンはマイペースなんだ。あいつは嫌な事は絶対にしない。そうか……犯人はルードさんか……何か間違えて本当にジャスミンとテオが結婚なんて事になったらどうすんだ……」
『別にいいんじゃん? 俺はテオとジャスミンは結構お似合いだと思うけどな。てか、兄貴の事だから下手したら既に根回ししてたりして――』
「!!!」
『嘘だって! 流石にそこまではしないでしょ。でも将来そんな話が出たらライト家はジャスミンたちの応援するよ。自由恋愛万歳だよ』
「お前なぁ……まぁとりあえず分かった。あいつらに何か他に夢中になるような事が見つかる事を願ってるわ」
『ははは! 別にいいじゃん。今のままでも』
「お前は良くてもうちは良くねぇ! 何よりもリアンの胃に穴が開いたらどうすんだ! ったく! じゃな! 色々きな臭い話も耳にしてるからお前らも気を付けてな」
『サンキュ! そっちも気を付けて』
「ああ」
そう言ってスマホを切ったダニエルは倉庫の中で物色しているまだ幼い娘たちを見ながら大きなため息を落とす。ノアじゃないが、子供達には何の憂いも無い未来を歩んで欲しい。
アリアがルードにそんな相談をしたのは、きっとチャップマン商会の未来を案じての事だったのだろう。アリアはエマに似て責任感が強くてとても優しいから。
「俺達が頑張るしかねーか。よっしゃ! 働こ!」
ダニエルは自身の頬を両手で叩いて気合いを入れると、籠を背負ってまた倉庫の中を漁り始めた。
ちなみにダニエルはアリアはエマに似て責任感が強く優しい娘だからあんな将来設計を立てたのだと思い込んでいるが、実際アリアは本当に単純にチャップマン商会が千年続く商会にしたいと思っている事をダニエルは知らない。
だからこの先アリアとローズはこの人生設計のままの人生を歩む事になる。そしてこの二人に目をつけられたジャスミンとテオもまた巻き込まれるのだが、それはまた別のお話だ。
その日の夜、アリスはダニエルに言われてスマホを確認してノアから大量のメッセージが届いていた事を知るなり、急いでライラを連れて秘密屋敷に戻った。
「ねぇアリス? どうしていっつも僕のメッセージを無視するのかな?」
「む、むひひへははへひゃはいほ(む、無視してた訳じゃないよ)」
ノアに両手で顔を押さえつけられたアリスはどうにかノアから視線を逸らそうとするが、それはノアが許してくれない。
「そうかなぁ? キャロラインにはすぐに返信するのにどうして僕のだけ読めないんだろうねぇ?」
「ひ、ひいはまほひゃほはいんははほはおほはひはうっへひうは(に、兄さまとキャロライン様のは音が違うっていうか)」
「へぇ? だったら僕のもキャロラインのと同じ音にしといたら解決するのかなぁ?」
「ほ、ほうはほうへ~……いひゃいいひゃい!(ど、どうだろうね~……痛い痛い!)」
思い切り横に頬を伸ばされたアリスがじたばたと暴れると、ノアはそんなアリスを見てにっこりと笑う。そもそもよく通じるなと思っているアリスだが、相手はノアだ。多分何も話さなくてもアリスの考えなどお見通しなのだろう。
「ノア様、そこらへんで許してやってください」
「ひひ~~(キリ~~)」
珍しいキリの助け舟にアリスが思わずキリに手を伸ばすと、キリはその手を冷たく払いのけた。酷い従者も居たものである。
「助けた訳ではありません。それ以上やるとお嬢様の頬が元に戻らなくなります」
「それは困るね。はぁ、いつになったら僕はアリスに追いかけてもらえるんだろうね」
わざとらしくため息を落としたノアに向かってキリとアリスは真顔で言った。
「それは一生無理では」
「流石に私も次元は超えられないよ」
「……」
何もそんなにはっきりと否定しなくてもいいと思う。ノアは無言で二人を睨んでソファに腰を下ろした。
ここは秘密屋敷のアリスとノアの部屋だ。斜め向かいがキリとミアの部屋になっている。
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