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第235話 滅多にない可愛いアリス

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「まぁもういいよ。それで、リサイクルは上手くいってるんだね」
「うん! めっちゃ順調! ていうか、思ってたよりも皆綺麗にして持ってきてくれててビックリした!」
「そうなんだ? やっぱり口コミでそういう噂が広がってるんだね。良い事だよ」
「リアン様の話によれば、リサイクルで浮いたお金でそのままうちのギルドの商会で買い物をする方がほとんどのようですね」
「そっか。それじゃあそろそろギルドの種類も増やそっか。保険の方も順調だし、全部片づけたらそっちも動かそう」
「そうですね。商品もですが保険の方も日に日に問い合わせが増えています」

 手帳をめくりながらキリは言う。全てが片付いてもやらなければならない事はまだまだ山ほどある。

「全く、忙しい人生です」
「でも楽しいでしょ?」

 アリスがニカッと笑いながら言うと、キリは渋々と言った感じで頷いた。

「まぁ、物乞いをしていた時には想像も出来なかった人生ではありますね」
「ごめんね、変な設定つけちゃって」

 ノアが申し訳なさそうに言うと、キリは真顔で首を振った。

「いえ、あの経験があったからこそ今の俺が居るので。今の俺でなければお嬢様もノア様も相手になど出来ません」
「キリ! もしかしてデレ!?」
「いやアリス。今のは遠まわしな僕達へのディスりだよ」

 嬉しそうに顔を輝かせたアリスを止めたノアにキリが不敵に笑う。

 キリ自身は気付いていないかもしれないが、キリだって相当に癖が強い。こんな事は言いたくないが、キリが仕えられるのもまたアリスとノアだけなのだ。

 と、言いたい所だが後から百万倍ぐらいになって返ってきそうなのでノアは口を噤んだ。

「さて、明日はカインから会議の生中継があるから二人とも耳と目を皿のようにしてあちらの言動、行動を見張るんだよ。何かおかしな事があったら都度、メモる事。いい?」
「はい」
「分かった。目と耳お皿にする!」
「うん、それじゃあそろそろ今日は休もうか。キリ、遅くまでありがとう。ミアさんによろしく」
「はい。それでは俺はこれで失礼します。おやすみなさい」
「おやすみ~!」
「おやすみ」

 キリを見送った二人はいつものようにベッドに上がった。ノアがブラシを持つと、アリスは待っていたかのようにノアに背を向けて座る。

「あーあー、またこんな毛玉作って。乾かす時ぐちゃぐちゃにしたんでしょ?」

 言いながらノアはアリスの髪を丁寧に梳かした。柔らかいアリスの髪は触っているだけで気持ちいい。

「兄さまがいっつもちゃんとしてくれるからいいもん!」
「もう、僕が先に死んだらどうするの?」

 冗談めかして言ったノアだったが、思いのほかアリスは勢いよく振り返ってノアをじっと見上げて強い口調で言った。

「今の嘘って言って」
「え?」
「今のは嘘って言って! 兄さまは私よりも先に死んだりしないって言って!」
「それは年齢的にも男女の寿命を見てもなかなか難しいと思うけど……」

 何せアリスは若返っているしな。そんな言葉を飲み込んだノアを見上げるアリスの目の縁にみるみる涙が浮かんだ。

「嫌だ! 私も兄さまと魂分ける! 一緒に棺桶入るんだもん!」
「……アリス」 
「絶対絶対嫌だから! そんな事言う兄さまなんて大嫌いっ!」

 脳裏に過ったのはシャルルとの最終決戦の時のノアだ。アリスを庇って自分を犠牲にしたノアの姿を思い出してアリスの目からとうとう涙が零れ落ちた。

 そんなアリスを見てノアが慌てる。

「ごめん、もう言わない。流石に妖精じゃないから魂を分ける事は出来ないけど」
「分ける! 出来る!」
「アリス……それじゃあ約束をしよう。どちらかが先に逝ったら、残った相手をすぐに迎えに行くって。ね?」
「……約束は駄目。兄さま破るもん」
「じゃあお願い。アリスが先に逝ったら僕をちゃんと迎えに来てね」
「……うん。兄さまもだよ」
「分かった。でもアリスだからな~。僕が迎えに行っても、もうちょっとだけ! とか言って結局ついて来なさそうなんだよな~」

 ありえる。思い切りありえる。まぁアリスが幸せならそれでいいので、その時はうっかり成仏してしまわないようアリスの側で頑張るだけである。

 ノアが苦笑いを浮かべてそんな事を言うと、アリスは珍しくノアに真顔で抱き着いてきた。

「……言わないよ。兄さまが居ない世界はきっと楽しくないもん……」
「っ!」

 一年に一度あるかないかのアリスの可愛い台詞にノアは思わずアリスを押し倒し、その頬に口付ける。

「もしかしたら僕が思ってるよりもずっと、僕は君に愛されてるのかな?」

 吐息交じりに呟くと、アリスが少しだけ微笑む。

「そうだよ。私が愛してるのはノアだけだよ。ずっと前から」
 そう言ってアリスはそっと目を閉じた。
 
 
 
「ピンはこれで全部か?」

 オズワルドは持っていた金のピンをレックスに渡すと、子供達を見渡した。

「あと3本無い。それからディノのピースも」

 受け取ったピンをポシェットに仕舞いながらレックスが言うと、ノエルがふと口を開いた。

「もしかしたら最後のピースとピンは敵が持ってるんじゃないのかな?」
「そう考えるのが妥当ですね。これだけくまなく探しても見つからなかったと言う事はそういう事でしょう」

 大人達が話してくれた事を思い出しながらレオが呟くと、隣でカイも頷いている。

「恐らく持っているのは女王と呼ばれていた人かと。後はメイリング王でしょうか?」
「我はカールが怪しいと踏んでいるぞ! どちらにしても残りのピースとピンはあちらにあるのだろうな……。それをどうやって取り戻すかが問題だ」
「まさかお前、直接対峙する気か?」

 意気込んだ妖精王を見てオズワルドが呆れたように言うと、妖精王は難しい顔をして言った。

「いざとなれば、それもやむを得ん。妖精王の名をはく奪されたとしても、我はこの星を守ってみせる」
「クロちゃん……よし! その時は私も戦うよ!」

 大袈裟に神妙な顔をした妖精王にアミナスが言うと、妖精王は小さく首を振った。

「いや、お前達はここに居ろ。最前線に子供達を立たせるなど、流石の我にも出来んからな」
「でも私も星助けたいもん!」

 何よりも自分達の住んでいる星だ。大事な時に仲間外れは嫌だ。そう思うのに、誰もアミナスには賛同してくれない。

「アミナス、妖精王の言う通りだよ。僕達が出て行っても父さま達の足手まといにしかならないよ。何より、父さまも母さまも妖精王と同じ事を言うと思う」
「兄さままで!」
「ノエル様の言う通りです。お嬢様、我々が頼まれた事は何でしたか?」
「……危なくない程度に情報を集める事……」
「そうです。それは裏を返せば、外は危ないから表に出てくるなと言う事です。特に我々はあの英雄たちの子供なんです。我々の誰かがあちらに捕えられでもしたら、それこそ英雄たちに成す術はないのです」
「……ぶー……」

 いつもよりもずっと覇気無くアミナスは頷いた。本当はそんな事分かっている。自分が行っても誰の役にも立たないだろう。

 けれど自分だってこの星に住む一人なのだ。少しぐらい手伝いたいと思うのはそんなにも悪い事だろうか。

 そんなアミナスの心を汲み取ったのか、レックスがポンとアミナスの頭に手を置いた。

「僕らはもう十分に彼らの役に立っている。何故なら今までにも様々な情報をアリス達に提供したからだ。物事を進めるには役割がある。僕達は僕達に割り当てられた役割をきちんと果たそう」
「レックス……うん。分かった。じゃあ他にも何か無いか探しに行こ!」
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