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第236話 同胞の命

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 レックスの言葉を聞いてアミナスはすぐさま立ち上がった。アミナスはアリスにとてもよく似て、いつまでも細かい事を気にしないのだ!

「……単純が過ぎる……」

 そんなアミナスを見てレックスがポツリと言うと、子供達が全員笑う。

「レックス、それがアミナスの良い所だぞ。アミナスを見ていると細かい事など些細な事だといつも思えるんだ!」
「そうそう。俺もどっちかって言うとネガティブだからな~。アミナス見てると元気になるよ」
「お前達も親にそっくりだな」

 まるでキャロラインとカインのような事を言うライアンとルークに妖精王は苦笑いを浮かべつつ、オズワルドが新しく描いた地図を広げてピンを見つけた場所に印をつけた。

「やはり四季の庭に集中していたな。あとは食糧庫にも一本あったのか……」
「うん。よく見たら所々食料が無くなってた」

 神妙な顔をしたレックスにノエルが付け加える。

「つまり、誰かが外からやって来ては食料を盗って行ってたって事だよね。もしくは……誰かが地下に住んでる……のかもしれない」
「その場合、考えられるのは女王かカールでしょう。アンソニー王は流石にそうしょっちゅう城を空けられないはずです」
「そうですね。この情報も父さん達に伝えた方がいいと思います。オズワルド、お願いできますか?」

 生憎とこの部屋にはスマホが操作出来る場所は無い。カイが言うと、オズワルドは面倒そうに自分のスマホを取り出してリアンにメッセージを送った。本当はアリスに送りたかったが、アリスはスマホを見ない可能性も大きい。なので次にお気に入りのリアンに送った素直なオズワルドだ。

 するとすぐにリアンから電話がかかってくる。

『ちょっと! そういう大事な話は僕じゃなくて変態か宰相に送ってよね! てか今何時だと思ってんの!?』
「時間? ここ地下だから時間よく分からないけど、今何時?」
『はぁ……夜中の1時だよ。そっか、そこ地下だもんね……で、金のピンが見つかったってどういう事?』
「ノエルに電話代わる。説明めんどくさい」
『あんたね……』
「ノエル、ちょっと説明してやって」

 何やらリアンのお小言が始まりそうだったのでオズワルドはすぐさまスマホをノエルに渡してリーゼロッテの隣に腰かけると、リーゼロッテの小さな肩に頭を乗せて欠伸をする。夜の10時だと聞くと途端に眠くなるから不思議だ。

「あ、えっとこんばんは、リー君」
『はいはい、こんばんは。あんた達、時間分かんないのかもしれないけどちゃんと寝なきゃ駄目だよ。ご飯もちゃんと食べてるの?』
「あ、うん。ちゃんと食べてます」
『そ、ならいいけど。どこに行っても規則正しい生活を心がけるようにね。食事もバランス良く、あいつみたいに肉ばっか食べてちゃ駄目だからね!』
「う、うん」

 何だかお母さんみたいな事を言いだしたリアンにノエルは苦笑いを浮かべつつ、あれから地下で起こった事を簡潔にリアンに伝えると、リアンはノエルの話を聞きながらメモを取っているようだ。

『凄い情報ありがとう。多分、これでちょっと繋がると思う。こっちでも少しだけ進展したから簡単に伝えとくよ。あの赤ん坊は元貴族だって事が分かった。メイリングはもうずっと昔からそういう事をしてきたんだって事も。それからアメリアとカールがどれだけ探しても見つからないんだ。もしかしたら地下のどこかに居るかもしれないから今まで以上に気をつけて。また何かあったら連絡するよ。ありがとう』
「分かりました! また何かあったらこちらからも連絡します」
『ありがと。それじゃあちゃんと早く寝るんだよ! あんた達はまだ成長期なんだから』
「はい! おやすみなさい」
『はいはい、おやすみ』

 挨拶をして切ったスマホをオズワルドに返すと、ノエルは今リアンから聞いた情報を皆に話す。それを聞いてライアンとルークは分かりやすく青ざめた。

「そ、それはだ、大丈夫なのか!?」
「アメリアとカールが地下に居るかもって事? ヤバイじゃん」

 アメリアとカールなど、思いっきり敵の大将枠ではないのか。慌てるライアンとルークを見てレックスが静かに首を振った。

「多分大丈夫。ピンやピースを持っているだけでは決められた部屋にしか入れない。ディノの許可をもらうには、ディノか僕の体の一部を持っている必要があるんだ」
「つまり、ピンとピースで入れる部屋以外に居れば安心って事?」
「そう。この地図に丸をつけておく。ピンとピースで自由に入れるのはここと、ここ。それから――」

 言いながらレックスは地図に丸をつけていく。それをじっと見ていたレオとカイがふと口を開いた。

「こうやって見ると、入れるのは生活に必須な場所だけなんですね」
「逆に言えば、生活するには困ら無さそうだと言う事です」
「でも炊事場やお風呂は僕達も使ってるけど一度も誰かに会った事はないよ」
「きっとご飯だけ取りに来てるんだよ! お腹減ったら元気なくなるもん!」
「お嬢様、そんなお嬢様ではないのですから流石にそれはないのでは?」

 呆れたようなカイの言葉にアミナスが口を噤んだが、何かを考え込んでいたノエルが徐にアミナスを抱きしめた。

「アミナス! その通りかもしれないよ!」
「ノエル様?」
「どういう事です?」
「アメリアもカールも生活圏には行き来できるけどここには住んでない。でも食材が減ってるって事は何かそうせざるを得ない理由があるって事だと思う。おまけに食材はここのを盗るんだから外でも暮らせないって事だよね?」

 生きる為に必要不可欠な物。それは何を置いても食料である。だからアミナスの言った事は多分正解なのだ。ピンを使ってここに出入りしていた理由は食材を盗りに来ていたとしか考えられない。

「あとはあの春の庭だろうな。あそこに捨てられた赤ん坊を外の世界に出す役目をしてたんだろ」

 リーゼロッテの肩に頭を乗せて目を閉じていたオズワルドが言うと、妖精王が怒りで震えだした。

「何と言う事を! 同胞の命を一体何だと思っているのだ!」
「何とも思ってないんだろ。自分達は崇高で優秀だなんて勝手に勘違いしてるんじゃないの」
「何が崇高で優秀だ! 我らからすれば皆等しく人間は人間だ! それ以上でも以下でも無い!」
「俺らからすればそうだけど、あいつらはそうは思わないんだろ。何せ俺を変な力を使って呼び寄せるような奴らだぞ? ろくでもないに決まってる」

 本気で妖精王の力を制御できるとでも思っているのだろうか? はく奪されたとは言え、人間にオズワルドの力を使いこなせるとは思わない。

 呆れたオズワルドに何故か子供達が申し訳なさそうに視線を伏せた。

「何か……人間がごめんなさい」

 ポツリと言ったノエルに妖精王は慌てて口を噤み、慰めるようにノエルの頭を撫でる。

「お、お前達の事ではないぞ⁉ 勘違いするなよ!? オズ! お前も何とか言わんか!」
「何とかって何をだよ。俺にとっては人間も動物のうちの一つだ。そのうちの一部が暴走してるだけの話で星にはつきものだろ。そうやって多くの生物を巻き込んで勝手に廃れていく。もう何度も見て来たんだ、今更だよ。むしろ学習しなさすぎて呆れるね」
「お、お前と言う奴は!」
「こんな事で嘘ついてどうする。その度にお前達は天変地異を起こして自ら生物を淘汰していたじゃないか。それを隠すのか?」
「うっ……そ、それはだな……」

 別に今の妖精王が何かをした訳ではないが、職業柄ズバリと痛い所をつかれた妖精王が黙り込むと、オズワルドはふふんと鼻で笑う。

「どうすればそんな事にならないんだろう……」

 ポツリと漏らしたノエルにアミナスがニカッと笑った。
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