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第233話 大好評のリサイクルショップ

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「それしか理由がありません。こんな破廉恥な文章をあちこちの小屋や石板に残すなど、この人は相当この世界を謳歌していたのでしょう」

 サラリと言うキリにオリバーもルーイもユーゴも深く頷いた。

「これぇ、消されてたのも結構あったんだよねぇ。だから本当は多分もっとあったんだと思うよぉ」
「……災難だな、この当時の王妃は」
「ほんとそれだよ。まぁでも僕達が思ってたよりもずっとハッピーそうで良かったよ。ただそのおかげで変な誤解が生まれて後世の人達に多大な迷惑がかかってんだけどね」

 リアンの言葉に全員が苦虫を潰したような顔で頷く。

 そういう意味では皆が彼の18禁文章に惑わされ、挙句の果てに星を滅ぼす話になってしまっているのだ。初代メイリング王は調子に乗って浮かれてしまった事を本当に、心の底から反省してほしい。

「まぁこれが原因って訳じゃないんだろうけど、何かあちらがそう思ってしまうようなきっかけがあったんじゃないのかな。どうしても姉妹星に辿り着きたいと思ってしまうようなきっかけがさ」

 ノアで言うアリスのような、メイリングに何か強い願いを抱える王が居たのだろう、きっと。それが分かれば少しは対処のしようもありそうなものだが、それは本人に聞く他無さそうだ。

「こんなものかな。それじゃあアルファさん達はどこか安全な所に保護しないとね。どこがいいかな」

 ノアはそう言ってチラリとアルファとメリーアンに視線を向けると、手帳に何か書き込みながら顔もあげずに言った。

 ノアの手帳には『牢確保』と書かれていた――。
 

 
 一方ダニエルの元に送り出されたアリスとライラはチャップマン商会の倉庫の中で各地から集まった不用品の整理を手伝っていた。

「これもまだ使える! これも! 案外沢山集まったんだね」

 アリスは倉庫の中からお宝になりそうな物を探し出しては背中の籠に放り込んでいく。

 それを聞いてダニエルも困ったような嬉しそうな顔をして笑う。

「そうなんだよ。結構自分達で修理したり修繕してきてくれたりするから逆に捨てるもんが無いんだよな」
「いったん買い取りを止めた方がいいんじゃない? このままじゃ倉庫パンクしそうだよ」

 教科書を片手にテオが骨董品をしげしげと眺めて、簡単な値札をつけてアリスの籠に放り込みながら言った。こういう高級品は小さい頃から一流の物に触れて来たテオにしか価値が分からない。

 そういう意味ではテオの存在はこの倉庫の中においては大変貴重である。

「アリスー! これまだ直せるかしら?」

 倉庫の入り口の方からライラが叫ぶと、アリスはすぐさま振り返って駆けてくる。

「どれどれ……ああ、うん、大丈夫! この線取り換えたら新品だよ!」
「そうなの。それじゃあこれはヴォルトさん達に修理をお願いするわね」

 そう言ってライラは倉庫の外でそわそわした様子で待っていた雷の妖精に手渡すと、名前を呼ばれた妖精が嬉しそうに駆け寄ってきてライラから受け取った修理品を持って隣の倉庫に向かった。

「ぼくも! ぼくも修理!」
「あたしも! あたしも修理できる!」

 それを見ていた他の妖精達も声を上げてライラに詰め寄ってきた。

「ちょっと待ってね、そろそろ皆が修理品を持って――ああ、ほら来たわ。皆、よろしくね」

 ドレスのあちこちを引っ張られたライラは困ったように顔を上げると、修理品で籠が一杯になったダニエルとローズとアリスが戻ってきた。

 三人が籠を妖精達の前に置くと、妖精達は我先にと籠の中に入って行って中身を物色している。

 しばらくすると自分に修理出来そうな物を持って妖精達は隣の倉庫に駆けて行った。

「いや~あいつら頼りになるなぁ」

 そんな光景を見ていたダニエルが苦笑いを浮かべながら言うと、ライラもアリスも頷いた。

 元々この修理作業もチャップマン商会の皆で時間が空いた時にコツコツやっていたのだが、あまりにもリサイクルが好調過ぎて修理が追い付かなくなってしまったのだ。そんな時、チャップマン家(リアン宅)に住み着いているお手伝い妖精リンが言った。『僕が手先が器用な妖精達に声をかけてみましょうか?』と。

 それからリンはすぐさま友人たちに連絡を取り、気付けば修理妖精があちこちから集まってきてくれていたという訳だ。

「しっかし本当にいいのかね? 一日働いて対価は好きな物一個だけとか俺、ちょっと胃が痛ぇんだけど」
「いいんじゃないかな。だって、あっちが言い出したんでしょ?」

 勉強の時だけつける眼鏡を外しながらテオが言うと、横からジャスミンが脇腹を小突いてきた。

「テオ、どうしてそんな言い方するの? 私もそう思ってクッキーを焼いて来たの」
「ジャスミン! 居ないと思ったらそんな事してたの?」
「ええ。やっぱりどう考えても割に合わないと思ったんだもの。あの子達が選ぶのはどれも値段がさほどつかなそうな物ばかりだし……」

 人間と違って妖精達が持ち帰る物はほとんどが価値が無いような物ばかりだ。サイダーの瓶に入っていた玉や綺麗な端切れ、何に使うのかよく分からないネジ一本など、報酬としてはあまりにも価値が無い。

 けれど妖精達は物の価値よりも、今自分が本当に欲しい物を欲しがるのだ。それは彼らの本能のようなものである。

「やっぱジャスミンもそう思うか? 今まで捨ててたような物まであいつら綺麗に直しちまうから、マジで給料払いたいんだけど」

 ジャスミンが焼いて来たクッキーに手を伸ばしながら言ったダニエルの手をジャスミンがはたく。

「これは妖精達のだって言ってるでしょ! 私達のはマリーとエマがもうちょっとしたら持ってきてくれるからもう少し我慢して!」
「おお、すまん。……怒ると怖いのはジャスミンだよな。こんなとこはリアンそっくりだぜ」

 手をはたき落されたダニエルがポツリと言うと、一部始終を見ていたテオが呆れたようにダニエルを見上げてくる。

「普段はライラさんなのにね。ジャスミンは曲がった事大嫌いだから。ジャスミン半分貸して。僕も一緒に持って行くよ」

 言いながらジャスミンの手からたっぷりとクッキーが乗ったお皿をほとんど受け取ったテオはスタスタと歩き出す。

「ありがとう、テオ。ちょ、ちょっと待って! それじゃあちょっと行ってきます」

 そんなテオを慌てて追いかけながらジャスミンが言うと、全員がニヤニヤしながら見送ってくれた。

「いや~ライラさん、お宅の娘さんにテオ君はゾッコンですなぁ!」
「そうかしら? どうしましょう! 将来テオ君が義理の息子に……?」
「やりましたなぁ! テオ君は素晴らしい青年ですぞ! 何せあのキャロライン様の弟ですからな! これでチャップマン商会の未来は明るいですなぁ!」
「嫌だわ、アリス! 気が早いわよ。ああ、でも絶対に孫は可愛いわ……どうしましょう、娘の事なのにカップリング厨が疼いてしまうわ!」
「ははは! ライラさんも随分気が早い! だが、分かる! 拙者も胸の高鳴りを抑える事が出来ませぬ! うっ!」

 そう言って胸を押さえて前かがみになったアリスを見てライラは笑うが、それを見ていたダニエルは笑えない。

「な、なぁお前らさ、小芝居してるとこ悪ぃんだけど、現実的にそれは無くね? つか相手公爵家だぞ? んな事になったらそれこそリアンが胃潰瘍起こすぞ?」

 おまけにテオは間違いなくオーグ家を継ぐ。どんなに間違えてもチャップマン商会の跡取りにはならないだろう。

 そんなダニエルの心配を他所にアリスとライラは既にジャスミンとテオの将来を妄想して楽しんでいる。

「……駄目だこりゃ」
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