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第251話 悪魔的な考え

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 アーバンは頷いて息を殺し、ドアに張り付いた。

 それを確認したノアはまるで友人にでも挨拶するかのように部屋の中の人物たちにドア上部についた小窓から明るく声をかける。

「やぁ二人とも。ごめんね、なかなかアーバンが見つからなくて、もう少し待っていてくれる?」

 ノアの声に部屋の中に居た二人はハッとした顔をして今まで飲んでいたお茶を置いてこちらに近寄ってくる。

「あの! やっぱり私達が直接探しに行った方がいいんじゃ……」
「その通りです。僕たちはすでに色々ご迷惑をおかけしてるのに、これ以上迷惑をかけるわけには」
「迷惑だなんて! もしも僕が今君たちを勝手に解放したのがキャロラインにバレたら、ルーデリアの民を守るためですもの! 迷惑だなんて思わないわ! って言われて叱られちゃうよ。それに……ちょっと嫌な噂を聞いてさ」
「嫌な噂……ですか?」
「うん。どうやらシュタにあちら側の騎士が何度か来たみたいなんだ。もしかしたらアーバンは既にあちらに捕まってる可能性もあるかも……」
「そ、そんな……!」

 ノアの言葉にメリーアンが青ざめてその場に力なくへたり込んだ。それを慌ててアルファが支える。

「もちろん僕たちはアーバンを見捨てたりなんてしない。直近だと一昨日シュタにやってきたらしいんだ。その時に和紙を落として行ったらしい。それが何かの手がかりになるかどうかは分からないけど、調査をしてまた報告に来るよ。あと、足りない物とかあったら何でも言ってってルイスからの伝言だよ」

 ノアが視線を伏せて言うと、アルファの表情が陰った。

「そうですか……。それではアーバンの事はお任せします。よろしくお願いします」
「うん。それじゃあまた来るよ」

 そう言ってノアはのぞき窓を閉じてくるりと踵を返して階段を降りる。その手はしっかりとアーバンと繋がれている。途中で隠れていたアランと合流して塔の下まで降りてきたノアは、そのまま城に入ってエントランスの所で振り返った。

「ごめんね、辛かったよね」

 アーバンの頭を撫でながらノアが言うと、アーバンは少しだけ笑って首を横に振った。

「それで、あの二人は君のご両親?」
「ううん、知らない人だった。二人とも魔法がかかってたよ」
「なるほど。本当の顔とかも分かるのかな?」
「うん」
「そっか。もしかして男の人はこんな人じゃなかった?」

 ノアは胸元から一枚の絵姿を取り出してそれをアーバンに見せた。するとアーバンは大きく目を見開いて頷く。

「この人! この人だったよ!」

 興奮した様子でアーバンが思わず身を乗り出すと、ノアは苦笑いを浮かべながらアーバンの頭を撫でてくれる。

「ビンゴだよ、カイン、アラン。あれがユアンだ」
「それじゃあメイリングの宰相は……」
「一人しか居ない。あれがアンソニーだよ。こうやってずっと入れ替わって色々画策してきたんだろうね」

 ノアの言葉にアランとカインは頷いた。名前と顔と素性を入れ替える事で撹乱しようと目論んだのか、それとももっと他に意図があるのかは分からないが。

「女性の方も魔法がかかっていたんですよね?」
「うん。何ていうか、スンってした顔の人だった。あんまり特徴がなくて……ペタっとした……」

 何と表現すればいいのか分からなくてアーバンがしどろもどろに話していると、ノアが突然何かを思いついたかのように手帳に何かを描き出した。

「もしかしてこんな感じの人じゃなかった?」
「そう! 何で分かったの!?」
「ん? 勘かな。そっか、アメリアは今牢の中、か」
「えっ!? あれ、アメリアなのかよ!? てか、アメリアこっち来たら死ぬんだよな!?」
「そのはずなんだけど、まず間違いなくあれはアメリアだよ。アメリアはとにかくツルンとした特徴のない卵みたいな顔だったんだ。だから絵も描きやすい。それにしてもやっぱりアメリアは地下に出入りしてたんだ。ついでにアリスが入ったディノの庭か青年期に戻るって言う夏の庭に入ったのも確定だろうね。この絵で分かるって事は彼女もまた若返ってるって事だから」

 そう言ってノアは手帳に描いたアメリアをカインとアランに見せた。

「俺、ふと思ったんだけどさ」
「うん?」
「その絵、ちょっと貸してくんない? 気になることがあるんだ」
「かまわないよ。はい、どうぞ」

 カインの申し出にノアが手帳を千切ってカインに差し出した。するとカインはアメリアの似顔絵を内ポケットに仕舞いこむ。

「サンキュ。それじゃあクラーク領に戻るか。ついでにリリーさんに会いたいんだけど、やっぱ男は無理かな?」
「無理だと思います。リリーさんは実の祖父にも怯えるので。何か聞きたいんですか? アリスを呼びましょうか」
「ああ、頼める? いやさ、もしかしてリリーさんが地下であったミリアって子、アメリアなんじゃねって思ったんだけどさ」

 別に確信があった訳ではないけれどカインが言うと、ノアはぽんと手を打った。

「ああ! 確かにそうかもね。もしリリーさんが会ったのがアメリアだったとしたら、アメリアこそが地下から赤ん坊を地上に送り出してたのかも。そして今回の作戦を実行する為に地上に出てきたはいいけど、思わぬ足止めを食らっちゃった訳だ。で、赤ん坊がオズワルド達に見つかった」
「ああ。タイミング的にもばっちりじゃん? 今までずっと見つからなかったアメリアと、正体不明の大量の赤ん坊が突然見つかったなんて、あっちは相当焦るだろ? そりゃレヴィウスで必死になってリリーさん探すよな?」
「そうですね。こちらが地下の存在を知ってしまったのも大きかったのかもしれません。あと予定外だったのはオズワルド……ではないでしょうか」
「オズワルド? なんでだよ?」
「オズワルドはこっちと親密になりすぎている気がしませんか?」

 アランの問にノアとカインは少し考えて同時に頷く。

「確かにそうかも。僕たちとオズワルドがここまで親密になる事は想定していなかったかもしれないね。あちらはオズワルドをまだ何かに使う気でいる。てことは、もしかしたらその為にわざとリゼちゃんと会わせた可能性もあったりするかな?」

 ノアがいつものようにニコッと笑うと、カインとアランが嫌そうに引きつった。

「お前、またロクでも無いこと考えてる?」
「絶対そうですよ。ノアがこの顔で笑う時は大抵悪魔のような事を考えてる時ですから」

 そう言ってアランは先程から頭上で繰り広げられる会話に聞きっていたアーバンの耳をそっと塞いだ。

 これから絶対にノアはとんでもない事を言い出すという確信があったからだ。そんなアランの行動を確認してからノアは話し出す。

「酷いな、二人とも。でも確かに悪魔のような考え方かもね。キャロラインが言ったみたいに、もしもヴァニタスが負の感情を取り込んで育つのだとすれば、そしてそれを使ってオズワルドに何かさせるのだと仮定すれば、僕ならまずオズワルドにリゼっていうおもちゃを与えて、夢中になった所でおもちゃを奪うよね?」
「……」
「……」
「ちなみにこの奪うって言うのは単純に殺してしまうって意味ね。一縷の希望も残さないよ。完全に絶望してもらう為に」
「……最低ですね」
「……全くだ」
「でもそれが最短で最善だよ。一番簡単にオズワルドを絶望させられるでしょ?」
「だとしても……って言いたいところだけど、あいつらはやるだろうな」

 何せ悪魔のような所業を次から次へとやってのけるのだ。あちらにこちらの常識が通用するとは思えないし、ノアのような思考で居なければならないのもまた事実だ。
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