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第276話 腐っても人妻アリス
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「爆弾積んでたの?」
「あ、カイン様。うん、そうなんだ。モブが撃退してくれたけど、逆に言えば誰かが侵入してきたって向こうにバレちゃったかも」
ラジコンをいじりながらアリスが言うと、オリバーがしょんぼりしてやってくる。
「悪かったっす」
「いや、いい。誰かの一部が吹き飛ぶよりは」
静かにアーロが言うと、オリバーは珍しくシュンと俯く。
「そんな顔しないでよモブ! 次何かあったらあんたが囮になってくれたらそれでいいから!」
「あんたも悪魔なんじゃないっすか!?」
悪戯に微笑んだリアンにオリバーは思わず突っ込むと、ナイフを構え直して通路の先に視線を向けた。何人かの足音が聞こえてきたからだ。
「来るっすよ」
「うん! モブ、さっきん所守ってて!」
「了解っす。カイン、あんたは俺と一緒に来て欲しいっす」
「おっけ」
カインの魔法は戦闘には全く役に立たない。下手に動くほうが危険である。短く返事をしてカインは大人しくオリバーに付き従った。
「誰だ!?」
角を曲がってやってきた男達は目の前の光景に目を見張った。アリスだ。
「お、お前……アリスか!」
「お! 何で知ってんの? もしかして私ってば地下でも有名人?」
おどけたアリスを見て男達はすぐさま短剣を構えた。地下の狭い場所では戦い辛いが、相手がアリスとなれば話は別だ。本気でやっても恐らく勝てない。それならばアリスを狭い場所まで追いやって一気に片付けた方がいい。
男達は互いにアイコンタクトを取って二手に分かれ、ジリジリとアリスとの間合いを詰めたがアリスは一向に動こうとしない。それどころか剣すら構えない。
「何故剣を構えない!」
「何故って、こんな狭い所で剣振り回したら危ないでしょ?」
そう言ってアリスは男達の思うように一歩ずつ後ろに下がった。そんなアリスを見て男の一人が口の端を上げる。
アリスの後ろには人が一人入れるかどうかの隙間があった。どうやら男たちはそこにアリスをはめ込みたいらしい。
「考えてる事丸わかりだよ! あの狭い所に私を押し込もうとしてるでしょ? でもざんね~ん! 私ね、その気になれば狭い所を広くする事が出来ちゃうんだよ! こんな風に♪」
アリスは拳に力を込めて横に合った壁を力いっぱい殴った。すると、壁は脆く崩れ落ちて、隙間が無くなる。
「っ!?」
「おい! 入口付近はヒコウキ以外の魔法は使えないハズだぞ!」
「どうなってるんだ! おい、誰か女王たちに知らせろ! すぐにだ!」
アリスのめちゃくちゃな力を見て男たちが口々に叫んだが、アリスはそんな事には気にも止めず、男たちの方に一歩近寄った。
「私のこの力は残念ながら魔法じゃないんだなぁ! 生まれつきなの!」
そう言ってアリスは男の一人の頭をボカッと殴った。その瞬間男は低く呻いて白目を剥いて倒れる。それを見た男たちは慌てて踵を返そうとしたが、通路の奥には既にアーロとリアンが立ち塞がっていた。
「はいストーップ。こっから先には行かせないよ?」
クローを構えたリアンはちらりと隣のアーロを見上げた。アーロは相変わらず冷たい顔をして男たちを眺めている。
そんなアーロを見て男たちがゴクリと息を呑んだのが分かった。孤高のアーロは健在である。
「王はどこに居る? お前たちの目的はなんだ?」
「こ、答える訳ないだろ! 俺たちは死んでも口を割らない! そう誓ったんだ! あの方た――」
「そうか。ではもう用は無い」
アーロはそれだけ言ってスルリと剣を抜いて電光石火の如く男たちを気絶させていく。そんなアーロを横目で見ていたリアンは少しだけ男たちに同情する。
「あんた……せめて話は最後まで聞いてやんなよ」
「どうせ無駄話だ。興味がない」
「あ、そ」
気を失った男たちを一人ずつ縛り上げながらリアンは男たちの服の中を探る。こんな追い剥ぎのような真似にすっかり慣れてしまった自分に嫌気がさしつつ作業を続けていると、後ろから何か引きずるような音が聞こえてきた。
「リー君、縄余ってない?」
「え? あるけ……いや、流石にそこまで脱がすのはどうなの?」
振り返って縄を渡そうとしてリアンは絶句した。アリスが伸びた男たちを素っ裸にして引きずってきていたからだ。
「だって探るの苦手なんだもん! それにほら、私こう見えて人妻だから他の男子を弄るのはちょっとね! テヘペロ!」
「人妻だったら余計に他の男を裸なんかにしちゃ駄目でしょ!? せめて下着は履かせといてやんなよ!」
「えぇ~? 下着の中にこそ何か隠してるかもじゃ~ん!」
「そうだな。尻の中に隠している奴もいるぐらいだ。リー君、手袋はないか?」
「あるけど何する気!? 止めたげなよ!? 縛って動けなくしといたら十分でしょ!?」
「そうか? 念には念を入れておいた方が――」
「却下! はい、これ」
真顔で言うアーロの横腹を軽く殴ったリアンは縄をアーロとアリスに渡して黙々と男たちを縛り上げる。やっぱりこいつらの方がどう考えても悪魔だ。
「お待たせ~って、あれ? もう戦闘始まってたの?」
呑気な口調でノアがアリス達の所までやってくると、そこには既に数人の男たちが素っ裸で縛り付けられて気を失っている。
「あ、兄さまだ! あのね、突然襲ってきたから捕まえといたよ!」
「そっか。ありがと、アリス。でも何で皆全裸?」
ノアの言葉にリアンがうんざりだとでも言いたげに白い目をアリスとアーロに向けた。
「コイツらが下着の中に何か隠してるかもって。ねぇ、あんたもうちょっとコイツに恥じらいとかそういうの教えた方が良くない!?」
「アリスに? 恥じらいを? 無理だよ! アリスは男の裸を見ても何とも思わない人なんだから!」
「そうです、リアン様。お嬢様は人間も動物だと信じているので、何を見ても動じません。それはもう恥じらいとかそれ以前の問題なのです」
「そうだゾ! 動物は皆一皮むけば肉と骨! 何を恥ずかしい事があるか!」
自信満々に言うアリスにとうとうリアンは目を閉じた。
「そだね。人間も動物。動物は服着ないもんね。あんたにはそれが普通だったよ。だったらもう一生素っ裸で森駆け回ってれば!?」
「リー君、そんな事言ったらアリスは本気にするから止めて。で、何か話した?」
「話す前にアーロが倒しちゃった」
「え? ネチネチ言いくるめなかったの?」
「そんなあんたみたいな事出来ないよ。でも女王に知らせろとは言ってた。だからこの地下のどこかには居るんだと思うよ」
リアンの言葉にノアは首を傾げつつ振り返った。
「王じゃなくて女王って言ったの? まぁいっか。それじゃあ皆、行こう。多分こういう罠があちこちにあると思うから、皆気を引き締めてね」
そう言って爆発したというラジコンの一部を振ったノアを見て仲間たちは表情を引き締めた。
先頭はいつだってアリスだ。その隣を歩くのはノア。こうしておかないとアリスはすぐに道を外れて迷子になってしまうからだ。
けれど今回は違った。先頭はアリスだが、その隣は誰もいない。
『アリス、君の勘を信じるよ』
ノアはそう言ってアリスの背中を押したのだ。地下は一直線ではなかった。四方八方に伸びた地下通路は、どこへ続くのか見当もつかない。
しばらく仲間たちは半信半疑でアリスについて行っていたが、それまで道をマッピングしていたシャルがふと顔を上げた。
「そろそろバセットの森を出たようですよ」
「そんな事分かるの?」
カインがシャルに尋ねると、シャルはコクリと頷いた。
「あ、カイン様。うん、そうなんだ。モブが撃退してくれたけど、逆に言えば誰かが侵入してきたって向こうにバレちゃったかも」
ラジコンをいじりながらアリスが言うと、オリバーがしょんぼりしてやってくる。
「悪かったっす」
「いや、いい。誰かの一部が吹き飛ぶよりは」
静かにアーロが言うと、オリバーは珍しくシュンと俯く。
「そんな顔しないでよモブ! 次何かあったらあんたが囮になってくれたらそれでいいから!」
「あんたも悪魔なんじゃないっすか!?」
悪戯に微笑んだリアンにオリバーは思わず突っ込むと、ナイフを構え直して通路の先に視線を向けた。何人かの足音が聞こえてきたからだ。
「来るっすよ」
「うん! モブ、さっきん所守ってて!」
「了解っす。カイン、あんたは俺と一緒に来て欲しいっす」
「おっけ」
カインの魔法は戦闘には全く役に立たない。下手に動くほうが危険である。短く返事をしてカインは大人しくオリバーに付き従った。
「誰だ!?」
角を曲がってやってきた男達は目の前の光景に目を見張った。アリスだ。
「お、お前……アリスか!」
「お! 何で知ってんの? もしかして私ってば地下でも有名人?」
おどけたアリスを見て男達はすぐさま短剣を構えた。地下の狭い場所では戦い辛いが、相手がアリスとなれば話は別だ。本気でやっても恐らく勝てない。それならばアリスを狭い場所まで追いやって一気に片付けた方がいい。
男達は互いにアイコンタクトを取って二手に分かれ、ジリジリとアリスとの間合いを詰めたがアリスは一向に動こうとしない。それどころか剣すら構えない。
「何故剣を構えない!」
「何故って、こんな狭い所で剣振り回したら危ないでしょ?」
そう言ってアリスは男達の思うように一歩ずつ後ろに下がった。そんなアリスを見て男の一人が口の端を上げる。
アリスの後ろには人が一人入れるかどうかの隙間があった。どうやら男たちはそこにアリスをはめ込みたいらしい。
「考えてる事丸わかりだよ! あの狭い所に私を押し込もうとしてるでしょ? でもざんね~ん! 私ね、その気になれば狭い所を広くする事が出来ちゃうんだよ! こんな風に♪」
アリスは拳に力を込めて横に合った壁を力いっぱい殴った。すると、壁は脆く崩れ落ちて、隙間が無くなる。
「っ!?」
「おい! 入口付近はヒコウキ以外の魔法は使えないハズだぞ!」
「どうなってるんだ! おい、誰か女王たちに知らせろ! すぐにだ!」
アリスのめちゃくちゃな力を見て男たちが口々に叫んだが、アリスはそんな事には気にも止めず、男たちの方に一歩近寄った。
「私のこの力は残念ながら魔法じゃないんだなぁ! 生まれつきなの!」
そう言ってアリスは男の一人の頭をボカッと殴った。その瞬間男は低く呻いて白目を剥いて倒れる。それを見た男たちは慌てて踵を返そうとしたが、通路の奥には既にアーロとリアンが立ち塞がっていた。
「はいストーップ。こっから先には行かせないよ?」
クローを構えたリアンはちらりと隣のアーロを見上げた。アーロは相変わらず冷たい顔をして男たちを眺めている。
そんなアーロを見て男たちがゴクリと息を呑んだのが分かった。孤高のアーロは健在である。
「王はどこに居る? お前たちの目的はなんだ?」
「こ、答える訳ないだろ! 俺たちは死んでも口を割らない! そう誓ったんだ! あの方た――」
「そうか。ではもう用は無い」
アーロはそれだけ言ってスルリと剣を抜いて電光石火の如く男たちを気絶させていく。そんなアーロを横目で見ていたリアンは少しだけ男たちに同情する。
「あんた……せめて話は最後まで聞いてやんなよ」
「どうせ無駄話だ。興味がない」
「あ、そ」
気を失った男たちを一人ずつ縛り上げながらリアンは男たちの服の中を探る。こんな追い剥ぎのような真似にすっかり慣れてしまった自分に嫌気がさしつつ作業を続けていると、後ろから何か引きずるような音が聞こえてきた。
「リー君、縄余ってない?」
「え? あるけ……いや、流石にそこまで脱がすのはどうなの?」
振り返って縄を渡そうとしてリアンは絶句した。アリスが伸びた男たちを素っ裸にして引きずってきていたからだ。
「だって探るの苦手なんだもん! それにほら、私こう見えて人妻だから他の男子を弄るのはちょっとね! テヘペロ!」
「人妻だったら余計に他の男を裸なんかにしちゃ駄目でしょ!? せめて下着は履かせといてやんなよ!」
「えぇ~? 下着の中にこそ何か隠してるかもじゃ~ん!」
「そうだな。尻の中に隠している奴もいるぐらいだ。リー君、手袋はないか?」
「あるけど何する気!? 止めたげなよ!? 縛って動けなくしといたら十分でしょ!?」
「そうか? 念には念を入れておいた方が――」
「却下! はい、これ」
真顔で言うアーロの横腹を軽く殴ったリアンは縄をアーロとアリスに渡して黙々と男たちを縛り上げる。やっぱりこいつらの方がどう考えても悪魔だ。
「お待たせ~って、あれ? もう戦闘始まってたの?」
呑気な口調でノアがアリス達の所までやってくると、そこには既に数人の男たちが素っ裸で縛り付けられて気を失っている。
「あ、兄さまだ! あのね、突然襲ってきたから捕まえといたよ!」
「そっか。ありがと、アリス。でも何で皆全裸?」
ノアの言葉にリアンがうんざりだとでも言いたげに白い目をアリスとアーロに向けた。
「コイツらが下着の中に何か隠してるかもって。ねぇ、あんたもうちょっとコイツに恥じらいとかそういうの教えた方が良くない!?」
「アリスに? 恥じらいを? 無理だよ! アリスは男の裸を見ても何とも思わない人なんだから!」
「そうです、リアン様。お嬢様は人間も動物だと信じているので、何を見ても動じません。それはもう恥じらいとかそれ以前の問題なのです」
「そうだゾ! 動物は皆一皮むけば肉と骨! 何を恥ずかしい事があるか!」
自信満々に言うアリスにとうとうリアンは目を閉じた。
「そだね。人間も動物。動物は服着ないもんね。あんたにはそれが普通だったよ。だったらもう一生素っ裸で森駆け回ってれば!?」
「リー君、そんな事言ったらアリスは本気にするから止めて。で、何か話した?」
「話す前にアーロが倒しちゃった」
「え? ネチネチ言いくるめなかったの?」
「そんなあんたみたいな事出来ないよ。でも女王に知らせろとは言ってた。だからこの地下のどこかには居るんだと思うよ」
リアンの言葉にノアは首を傾げつつ振り返った。
「王じゃなくて女王って言ったの? まぁいっか。それじゃあ皆、行こう。多分こういう罠があちこちにあると思うから、皆気を引き締めてね」
そう言って爆発したというラジコンの一部を振ったノアを見て仲間たちは表情を引き締めた。
先頭はいつだってアリスだ。その隣を歩くのはノア。こうしておかないとアリスはすぐに道を外れて迷子になってしまうからだ。
けれど今回は違った。先頭はアリスだが、その隣は誰もいない。
『アリス、君の勘を信じるよ』
ノアはそう言ってアリスの背中を押したのだ。地下は一直線ではなかった。四方八方に伸びた地下通路は、どこへ続くのか見当もつかない。
しばらく仲間たちは半信半疑でアリスについて行っていたが、それまで道をマッピングしていたシャルがふと顔を上げた。
「そろそろバセットの森を出たようですよ」
「そんな事分かるの?」
カインがシャルに尋ねると、シャルはコクリと頷いた。
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