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第318話 アリスに芸術は分らない

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「その兵士の数は詳しくは分からない。でも星だと思われる声は数でも勝てないって言ってたから、相当数だと思うよ。あと痣を持った人たちに関しての情報も一つ。恐らく痣を持つ人達は今も全国で次々に倒れてると思うけど、体はそのままで保っていてほしい。皆、死んだ訳じゃないってさ」
「……」

 それを聞いた途端、シャルルはスマホを握りしめてどこかへ連絡しはじめた。相手はどうやら妖精のようで、さっきからしきりに武器の話と痣の話をしている。

 そんなシャルルを見てルイスもどこかへ連絡しはじめた。

「ルーイか? ああ、ルイスだ。今すぐルーデリア全土に倒れた痣を持つ者たちの体の保護をするように、と触れを出してくれ! それから相手の出方が少し分かった。敵の数は依然として分からないが――」

 ルーイとユーゴはレスター達が妖精界へ戻った時に一緒にあのペンダントの紋章を調べるために騎士団に戻っていった。今はついでにあちこちに声をかけて騎士たちを集めている最中だが、今のノアの話を聞く限り全く足りないかもしれない。

「じゃ、僕は兄さんに伝えようか」

 二人に倣ってスマホを取り出したノアはラルフに直接電話して地下で聞いた話を簡潔に伝えると、一息ついて顔を上げる。

「という訳だからとりあえず各自情報交換してて。僕はもう限界!」
「あ、ちょノア!?」

 立ち上がってどこかへ行こうとするノアをカインが止めようとすると、ノアはくるりと振り返ってニコッと笑う。

「お風呂入ってくる。アリス! キリもおいで」
「こ、こんな時に風呂って……いや、さっきは風呂入ってくれば? とは言ったけどさ」

 事情を聞いた今となってはそれどころではない。

「こんな時でもどんな時でも気持ち悪いんだよ。カインは一日中体にナメクジ付けたまま過ごせる?」
「え、いや無理だけど」
「でしょ? それと同じぐらい僕は一日中汚れてるのは嫌なの。じゃ、あとよろしく」
「あ! おいコラ! 汚れとナメクジは! ……違くね?」

 それだけ言ってさっさと部屋からアリスとキリを連れて消えてしまったノアにカインが呆れたように言うと、リアンとアーロがスッと音もなく立ち上がる。

「そんな訳だからモブ、あとお願いね」
「すぐに戻ってくる。その間頼む」
「え!? ちょ、俺も風呂入りたいんすけど!?」

 オリバーの声も虚しくリアンもアーロも部屋から出て行ってしまった。オリバーはそんな二人にガックリと項垂れて大きなため息を落とす。

「貴族なんて嫌いだ……」

 ポツリとオリバーが言うと、そんなオリバーの肩をライラがポンと叩いた。

「大丈夫ですよ、モブさん。モブさんがたとえ公爵家だったとしてもリー君はモブさんに任せてたと思います!」
「いや、全然慰めになってないんすけど?」

 それはそれでどうなんだ? 嬉しそうに親指を立てるライラを見てオリバーはもう一度大きなため息をつくと、地下で起こった事を知っている範囲で話しだした。

 アリス達がさっぱりして戻ってきたと同時にオリバーが半眼で部屋を出て行った。どうやら相当怒っている。

 そんなオリバーを見てリアンは苦笑いを浮かべて机の上にあったおやつをいくつか避けはじめた。

「あーさっぱりした! もう、仕方ないからモブの好きなおやつ置いといてあげよう」
「リー君は優しいな! モブの好きなおやつを知っているのか?」
「当たり前だよ。仕事でも一緒だしこういう時も絶対に! 何故か! 僕たちはセットだからね!」

 嫌味で言ったのに何故かそんなリアンを見てアリスは何を想像したのかニヤニヤしているが、ノアはそんなリアンにキョトンとした顔をして言った。

「それについてはちゃんと理由があるんだよ? リー君とオリバーは凄くアリスとの戦い方と相性がいいんだよ」
「そなの?」
「うん。だから絶対に二手に分かれる時はこの3人はセットだったでしょ? アリスはすぐ特攻するから後衛ががら空きになるんだよね。その点君たちはどちらも出来るから安心安全!」

 ホクホクした様子でノアが言うと、リアンは何かに納得したように頷いてアリスを睨みつけた。

「まぁそれもコイツの意識がある時だけどね。リミッター外したら僕たちは逃げる一択だよ」
「テヘペロ! いだだだ!」

 リアンに睨まれたアリスはすかさずテヘペロをしたが、リアンに頬を思い切り引っ張られた。

「それで、全部聞いた?」

 ノアが言うと、ルイス達は全員が途端に表情を引き締めて頷いた。

「あらかた聞いたが、お前たちが別行動した先の事は分からんと言っていたぞ」
「ああ、それはさっき話した通りだよ。オズとヴァニタスが合体してリゼは星の中心で眠ってる。で、アランはまだ戻らない?」
「ああ。俺たちもずっとメッセージを送っているんだがな……」

 これほどアランと連絡が取れないとなると、おそらくチビアリスもリーゼロッテのように意識が戻らないのだろう。

 視線を伏せたルイスを見てノアが何を思ったかアリスの手を掴んだ。

「分かった。それじゃあそろそろ迎えに行ってくるよ。まだチビアリスがどうにかなった訳じゃない。早まってお葬式とかされても困るしね」

 苦笑いを浮かべたノアにアリスも拳を握って強く頷く。

「絶対連れてきます! 正義の使者アリスにお任せ! キメッ!」
「だ、そうだからちょっと行ってくるね」

 そう言ってノアは妖精手帳に『アラン』と書いた。普段であれば次の瞬間には目の前にアランがいるのだが、この時ばかりは何かが途中で邪魔をしてアリスとノアはクラーク家のどこかの部屋の前に放り出されてしまう。

「いったた……ん? アラン様は?」
「何かが途中で干渉したみたいだね」

 言いながら目の前のドアを見つめ途方に暮れていると、廊下の先から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「アリス様! ノア様!」
「ん? おー! アレックスじゃん!」

 アリス達が振り返ると、そこには疲れた笑顔を浮かべるアレックスが両手に大量の薬品を持って立っている。

「お二人共こんな所でどうされたんですか?」
「アラン様呼びに来たんだよ~。てかそれ何?」
「アラン様を、ですか……それは今は少し難しいかもしれません……」

 そう言ってアレックスは視線を持っていた薬品に落とした。そんなアレックスを見てノアが問いかける。

「アラン、やっぱり落ち込んでる?」
「……はい。お二人は事情を?」
「うん、知ってる。今あちこちでバラの痣を持つ人達が犠牲になってる」
「そうですか……ではやはりアリス様だけではないんですね」

 悲しそうに睫毛を揺らしたアレックスを見てノアはさらに言った。

「ちょっと話聞かせてくれる?」
「あ、はい。もちろんです。ちょっと待ってくださいね」

 アレックスはそう言って部屋のドアを叩いて中に居るであろうアランに声をかけた。

「アラン様、頼まれていた薬品をここに置いておきます」
「……」

 中からは何の返事もない。最近ずっとそうなのだろう。アレックスはがっくりと肩を落として振り返り、アリスとノアを別の部屋に案内してくれた。

「は~よっこいしょっと。アラン様のおうちに来るの何気に初めてだな~。ふむふむ、調度品はなかなか」
「調度品の良し悪しなんて分かるの? アリス」

 キョロキョロと辺りを見渡すアリスにノアが苦笑いを浮かべて言うと、アリスはノアを睨んで鼻で笑った。

「兄さま、作れない人ほど良し悪しは分かるもんだよ! 絵が描けない人ほどバランス悪いことに気づくでしょ? キリとか! それと一緒だよ!」
「……うん。でもアリスが絵のバランスの話をするのはちょっとどうかと……ていうか、多分絵もキリの方が上手いかと……」
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