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第332話 番外編 アリスのクリスマス2022 パート1
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「――めでたしめでたし」
ノアは苦笑いを浮かべながら読んでいた本を閉じた。
おや? またこの季節が? そう思った方も居るでしょう。そう、またやってきました。この季節が。
ここはノエルの部屋だ。ノアはノエルを寝かしつけるために寝る前の絵本を読んでやっていた。そこへキリが控えめなノックと共にやってくる。
「ノア様、まだ寝ないんですか?」
「そうしたいのは山々なんだけどね、ノエルがまだおめめぱっちりなんだよね?」
「ね!」
ノエルはノアが読み終わった本をとりあげて、枕元に置いてあった本をノアの膝に置く。
「ですが今日は……」
困ったようなキリにノアは静かに頷いた。
「うん、分かってる。今日だけは早く寝かしつけないとって思ってたんだけど、何故か今日に限ってこうなんだよ」
いつもなら21時には既にぐっすりのノエルだが、何故か今日はなかなか寝ない。既に時間は23時だ。これはまずい。そろそろアリスをベッドに縛り付けるなりなんなりしないと、また奇声を上げて家を飛び出してしまう。
「困りましたね」
ノエルは今年で4歳になった。両親がアリスとノアという地獄の覇者のようなカップルの間に生まれた割にノエルは今のところ真っ当に、健やかに成長している。普段は聞き分けの良いノエルだが、何故かここぞという時だけは言う事を聞かない変な感の良さは、間違いなく両親譲りだとキリは思っていた。
キリとノアが目をランランと輝かせているノエルを見て困っていると、そこへレオとカイがやってきた。
「失礼します、旦那様。お嬢様のミルクが終わりました」
「奥様は既に疲れ果てたと言ってこんな時間に肉を所望していますが、どうなさいますか?」
「あー……ありがとう。今日はどれぐらい飲んだの?」
「分かりません。途中からもう誰も計らなくなりました」
「あ、そう。で、アリスが肉欲しがってるって? それじゃあ今日の夕食の残りのお肉でも与えておいて。何を言われても新しく出したりしなくていいからね」
「はい。カイ、行きますよ」
「はい、ちょ、お嬢様、それは俺の髪です、引っ張らないでください」
「へった! ペコペコ!」
「さっき終わったでしょう? はぁ……二歳になってもまだミルクを飲むなんて」
アミナスは2歳だ。それでもまだ寝る前にはアリスのミルクを欲しがる。これで大丈夫なのか? と不安になるカイだが、アリスもノアもそれを無理やり止めようとはしない。
「旦那様、アミナスはそろそろもうミルクを止める時期なのではないでしょうか」
「ああ、いいのいいの。嫌でもそのうち止めるよ。母親が食欲の権化みたいな人だからね、10歳超えてミルク欲しがっても僕は驚かないよ」
「10歳……」
「流石にそれは……止めます。このままでは奥様の胸が貧しくなるどころか、えぐれてしまうかもしれません……」
「ははは! それは困るね! それじゃあどうしたらアミナスがミルク卒業するか二人には考えてもらおうかな。ちなみにキリはアリスが子供の頃に意地汚く暴食してた時は色んな物に唐辛子の粉をかけてたね」
アリスの子供の頃を思い出してノアが笑うと、キリも珍しく目を細めて頷いた。
「懐かしいですね。そんな事もありました」
あの頃のキリはまだバセット家に来た所でアリスに多少の遠慮があった。今なら唐辛子の粉どころでは絶対に済まさない。
「それで奥様は暴食は止めたのですか?」
「やめる訳ないじゃない! アリスだよ? 辛い辛い言いながら食べてたよ。あんまりにもアリスはよく食べるから僕たちはそんなものって思ってたけど、初めてポリーさんに会った時は酷かったよね」
「ええ。真っ先に寄生虫を疑われていました。なのでやんわりと、これが寄生虫のせいならお嬢様は今頃とっくに体を寄生虫に乗っ取られていますよ、とお伝えするとドン引きしていましたね」
「そもそもアリスの体の中で寄生虫が生きてられるかなぁ? 無理だよね、絶対」
「無理ですね。賭けてもいいです。お嬢さまになんて寄生しようものなら、寄生虫の方が裸足で逃げ出します」
「……」
「……」
アリスのあんまりな言われように双子たちはそっとノエルの耳を塞いだ。そして心の底から思うのだ。自分たちはまだまだだな、と。
「母さまは、きせいちゅう? なの?」
ノアの隣でじっと話を聞いていたノエルが不思議そうに言うと、ノアはそんなノエルの頭を優しく撫でて言う。
「それは流石にママが可哀想だよ、ノエル。でもう~ん……たまに人間では無いかもしれない、とは思うよね」
「人間では……無い……」
ノアの言葉に愕然としたノエルをノアは苦笑いをして自分の膝に乗せた。
「そうだよ。母さまは凄いんだよ、ノエル。ママがドラゴンなら僕なんてありんこだよ。それぐらいアリスは凄い」
「母さまは……ドラゴン。火を吹く?」
「まぁ、やれば出来るんじゃないかな、多分」
「ノア様! 余計な事をノエルに吹き込むのは止めてください。ノエル、いいですか? あなたはお嬢様の血を引いていますが、お嬢様ではありません。だから間違えてもお嬢様の真似をしようなどとは思わないように! いいですね?」
「う、うん。僕ドラゴンじゃないもん。無理だよ」
「そう、あなたはドラゴンじゃない。従って火も吹かないし奇声を上げて走り回ったり屋根から飛び降りたりしません。分かりましたか?」
「うん、分かった」
「よろしい。では人間はそろそろ寝る時間では?」
「まだ寝ない。だって、皆まだ起きてるもん。皆は人間でしょ?」
その流れで無理やり寝かしつけようとしたキリだったが、それにはノエルは案の定引っかからなかった。
「……」
駄目か。ノエルはアリスでは無いが確実にノアである。それはそれで心配なキリだ。
そこへ諸悪の根源、もといアリスが意気揚々とやってきた。
「に~いさま! あれ? 皆ここに居たの?」
「アリス! ……なに、その荷物」
「えっへへ! 毎年恒例のアレだよ! チビ達もおっきくなってきたし、そろそろ解禁かなって!」
そう言ってアリスは大きな袋の中から一枚の雑巾、もとい枕カバーを取り出した。
「……そのチビ達はまだ起きてるんだけど?」
「そうだけど……そうだ! 二人も今年は一緒に行こっか! ちょっと今年は凄いんだよ!」
「お嬢様!? 何を言い出すかと思えばあなたという人は!」
「いく! アミナスもブンブンする!」
「ブンブン? アミナス、母さまはブンブンするの?」
「うん! ブンブンするっていってた!」
そう言って上を指さしてぐるぐる振り回すアミナスを見てノエルとレオとカイは納得したように頷く。
「これで伝わるのが凄いですね……」
子供には子供の特別な言語があるのかもしれない。そんな事を考えながらノアをちらりと見ると、明らかにノアは引きつった笑みを浮かべている。さりげなくサーチをかけると、ノアのステータスの怒りの部分がMAXを超えそうになっているが、何故かアリスへの好感度は上がっている。謎である。
「はぁ……で、今年は何するの? どこ行くの?」
「いつもの所だよ! やっぱブランクあるから仲間の所だけにしとくつもり」
「そう。まぁ世界中の人を巻き込まないだけマシかな。それじゃあキリ、用意しようか」
「……はい。ミアさんも連れて行っていいですか」
「構わないけど、アニーはいいの?」
「もちろん連れて行きますとも! どうせこれから毎年これは行われて、いずれアニーも参加するんですから」
「ははは、もうヤケクソだね。はい、それじゃあ皆暖かい服格好に着替えて」
「父さま? どこ行くの? 何するの?」
これから一体何が始まるのかさっぱり分らないノエルが首を傾げて言うと、ノアはニコッと笑って言った。
「皆に叱られに行くんだよ」
と。
ルイス・キャロライン夫妻。
「いや~しかしいつまで見ていても飽きないな」
「そうね。ライアンの鼻の形はルイスにそっくり」
「エイダンの目元はキャロにそっくりだぞ。どのみち二人共美形だな!」
ルイスとキャロラインは可愛い我が子の寝顔をじっと見つめながら、顔を見合わせて笑った。
「はぁ……幸せだ。こんなにも幸せでいいのか」
「いいのよ、ルイス。アリスがいつも言ってるじゃないの。幸せは歩いてこっちにはやってこないって。自分から掴みに行くものなんだ、って。私たちはだから、この幸せを自ら掴み取ったのよ。色々頑張った甲斐があったわね」
「全くだ。一時はどうなる事かと思ったがな。だがキャロ、ここで安心していてはいけない。俺たちはまだまだ幸せを掴み取るぞ」
「もちろんよ。さて、それじゃあプレゼントを置いて私達も用意をしましょう」
そう言ってキャロラインはライアンとエイダンの枕元にプレゼントの箱を置いて部屋を出た。その後をルイスが不思議な顔をしてついてくる。
「準備? なんのだ? まだ寝ないのか?」
「ええ。何となくだけれどアリスが来そうな予感がするのよ」
「……それは本当か」
「ええ、ただの勘だけど、何となくあの子のはしゃぐ声が聞こえた気がするのよね……」
何故か最近こういう事が増えてきた。どこからともなくアリスの声がしたな、と思ったらその直後に大抵アリスは本当にやってくるのだ。
キャロラインの嫌なお告げにルイスが固まった。
「そ、そうか……では間違いなくやってくるな。ここ近年は大人しくしていたと思ったが……そうか、今年から解禁か」
「ええ……ハズレてくれればいいけれど、アリスだから」
「そうだな。アリスだもんな。よし、では迎え撃つ準備をしよう」
ルイスはそれだけ言うとキャロラインを廊下に残して颯爽とキッチンに向かって歩き出した。
「ルイスったら、そんな事言いながら嬉しそうなのよね」
来なかったら来なかったで寂しそうだったルイスをキャロラインは知っている。去年25日の朝に残念そうに枕元を見ていたルイスは、心のどこかでこの日を誰よりも待ち望んでいるのかしれない。
リアン・ライラ夫妻
「ふぁ……ライラ、まだ寝ないの? あの子達はもう寝たよ」
「ええ、もう少しだけ。リー君は先に寝ててもいいわよ?」
書斎で書き物をしていたライラが手を止めて言うと、リアンはそのまま書斎に入ってきて長椅子に寝転がった。
「寝ないよ。僕もここに居る」
「そう? 風邪引くといけないから毛布は被ってね」
「そんな事したら寝ちゃうじゃん! もう、ライラはちょっと働きすぎだよ。ふぁ……」
「リー君には言われたくないわ。それに眠いならベッドに行けばいいのに」
既に眠そうなリアンを見てライラが苦笑いすると、リアンは目を閉じながらポツリと言う。
「僕ね、次は男の子がいいなぁ」
「え」
「い、今の無しっ! もう遅いから、本当に早く寝なよ!?」
半分寝ぼけていたのか、自分が何を口走ったかを理解したリアンが飛び起きて両手で顔を覆うと、すぐさまそんなリアンにライラが飛びついてきた。
「私もよ、リー君。私もそろそろ男の子欲しいなって思ってた!」
「……ほんと?」
リアンは肩まであるサラサラの髪をかきあげてライラの顔を覗き込むと、ライラは恥ずかしそうにコクリと頷く。未だにたまにライラに片思いをしているのではないかとたまに不安になるリアンだが、こういうライラの顔を見ると、とても愛されていると感じる事が出来る。
リアンはライラを抱きしめてキスをしようとしてふと止めた。
「どうしたの? リー君」
「いや、今日って何日だった?」
「え? もう25日だけど……」
「だよね。ちょっと待ってて、ライラ。変態んみメッセージ送ってくる」
「ノア様に? 一体――」
「ちょっとね」
ライラが最後まで言い終える前にリアンはスマホを操作してノアにメッセージを送った。何となく、今年からまたアリスの発作が起こりそうな気がした。
ノアは苦笑いを浮かべながら読んでいた本を閉じた。
おや? またこの季節が? そう思った方も居るでしょう。そう、またやってきました。この季節が。
ここはノエルの部屋だ。ノアはノエルを寝かしつけるために寝る前の絵本を読んでやっていた。そこへキリが控えめなノックと共にやってくる。
「ノア様、まだ寝ないんですか?」
「そうしたいのは山々なんだけどね、ノエルがまだおめめぱっちりなんだよね?」
「ね!」
ノエルはノアが読み終わった本をとりあげて、枕元に置いてあった本をノアの膝に置く。
「ですが今日は……」
困ったようなキリにノアは静かに頷いた。
「うん、分かってる。今日だけは早く寝かしつけないとって思ってたんだけど、何故か今日に限ってこうなんだよ」
いつもなら21時には既にぐっすりのノエルだが、何故か今日はなかなか寝ない。既に時間は23時だ。これはまずい。そろそろアリスをベッドに縛り付けるなりなんなりしないと、また奇声を上げて家を飛び出してしまう。
「困りましたね」
ノエルは今年で4歳になった。両親がアリスとノアという地獄の覇者のようなカップルの間に生まれた割にノエルは今のところ真っ当に、健やかに成長している。普段は聞き分けの良いノエルだが、何故かここぞという時だけは言う事を聞かない変な感の良さは、間違いなく両親譲りだとキリは思っていた。
キリとノアが目をランランと輝かせているノエルを見て困っていると、そこへレオとカイがやってきた。
「失礼します、旦那様。お嬢様のミルクが終わりました」
「奥様は既に疲れ果てたと言ってこんな時間に肉を所望していますが、どうなさいますか?」
「あー……ありがとう。今日はどれぐらい飲んだの?」
「分かりません。途中からもう誰も計らなくなりました」
「あ、そう。で、アリスが肉欲しがってるって? それじゃあ今日の夕食の残りのお肉でも与えておいて。何を言われても新しく出したりしなくていいからね」
「はい。カイ、行きますよ」
「はい、ちょ、お嬢様、それは俺の髪です、引っ張らないでください」
「へった! ペコペコ!」
「さっき終わったでしょう? はぁ……二歳になってもまだミルクを飲むなんて」
アミナスは2歳だ。それでもまだ寝る前にはアリスのミルクを欲しがる。これで大丈夫なのか? と不安になるカイだが、アリスもノアもそれを無理やり止めようとはしない。
「旦那様、アミナスはそろそろもうミルクを止める時期なのではないでしょうか」
「ああ、いいのいいの。嫌でもそのうち止めるよ。母親が食欲の権化みたいな人だからね、10歳超えてミルク欲しがっても僕は驚かないよ」
「10歳……」
「流石にそれは……止めます。このままでは奥様の胸が貧しくなるどころか、えぐれてしまうかもしれません……」
「ははは! それは困るね! それじゃあどうしたらアミナスがミルク卒業するか二人には考えてもらおうかな。ちなみにキリはアリスが子供の頃に意地汚く暴食してた時は色んな物に唐辛子の粉をかけてたね」
アリスの子供の頃を思い出してノアが笑うと、キリも珍しく目を細めて頷いた。
「懐かしいですね。そんな事もありました」
あの頃のキリはまだバセット家に来た所でアリスに多少の遠慮があった。今なら唐辛子の粉どころでは絶対に済まさない。
「それで奥様は暴食は止めたのですか?」
「やめる訳ないじゃない! アリスだよ? 辛い辛い言いながら食べてたよ。あんまりにもアリスはよく食べるから僕たちはそんなものって思ってたけど、初めてポリーさんに会った時は酷かったよね」
「ええ。真っ先に寄生虫を疑われていました。なのでやんわりと、これが寄生虫のせいならお嬢様は今頃とっくに体を寄生虫に乗っ取られていますよ、とお伝えするとドン引きしていましたね」
「そもそもアリスの体の中で寄生虫が生きてられるかなぁ? 無理だよね、絶対」
「無理ですね。賭けてもいいです。お嬢さまになんて寄生しようものなら、寄生虫の方が裸足で逃げ出します」
「……」
「……」
アリスのあんまりな言われように双子たちはそっとノエルの耳を塞いだ。そして心の底から思うのだ。自分たちはまだまだだな、と。
「母さまは、きせいちゅう? なの?」
ノアの隣でじっと話を聞いていたノエルが不思議そうに言うと、ノアはそんなノエルの頭を優しく撫でて言う。
「それは流石にママが可哀想だよ、ノエル。でもう~ん……たまに人間では無いかもしれない、とは思うよね」
「人間では……無い……」
ノアの言葉に愕然としたノエルをノアは苦笑いをして自分の膝に乗せた。
「そうだよ。母さまは凄いんだよ、ノエル。ママがドラゴンなら僕なんてありんこだよ。それぐらいアリスは凄い」
「母さまは……ドラゴン。火を吹く?」
「まぁ、やれば出来るんじゃないかな、多分」
「ノア様! 余計な事をノエルに吹き込むのは止めてください。ノエル、いいですか? あなたはお嬢様の血を引いていますが、お嬢様ではありません。だから間違えてもお嬢様の真似をしようなどとは思わないように! いいですね?」
「う、うん。僕ドラゴンじゃないもん。無理だよ」
「そう、あなたはドラゴンじゃない。従って火も吹かないし奇声を上げて走り回ったり屋根から飛び降りたりしません。分かりましたか?」
「うん、分かった」
「よろしい。では人間はそろそろ寝る時間では?」
「まだ寝ない。だって、皆まだ起きてるもん。皆は人間でしょ?」
その流れで無理やり寝かしつけようとしたキリだったが、それにはノエルは案の定引っかからなかった。
「……」
駄目か。ノエルはアリスでは無いが確実にノアである。それはそれで心配なキリだ。
そこへ諸悪の根源、もといアリスが意気揚々とやってきた。
「に~いさま! あれ? 皆ここに居たの?」
「アリス! ……なに、その荷物」
「えっへへ! 毎年恒例のアレだよ! チビ達もおっきくなってきたし、そろそろ解禁かなって!」
そう言ってアリスは大きな袋の中から一枚の雑巾、もとい枕カバーを取り出した。
「……そのチビ達はまだ起きてるんだけど?」
「そうだけど……そうだ! 二人も今年は一緒に行こっか! ちょっと今年は凄いんだよ!」
「お嬢様!? 何を言い出すかと思えばあなたという人は!」
「いく! アミナスもブンブンする!」
「ブンブン? アミナス、母さまはブンブンするの?」
「うん! ブンブンするっていってた!」
そう言って上を指さしてぐるぐる振り回すアミナスを見てノエルとレオとカイは納得したように頷く。
「これで伝わるのが凄いですね……」
子供には子供の特別な言語があるのかもしれない。そんな事を考えながらノアをちらりと見ると、明らかにノアは引きつった笑みを浮かべている。さりげなくサーチをかけると、ノアのステータスの怒りの部分がMAXを超えそうになっているが、何故かアリスへの好感度は上がっている。謎である。
「はぁ……で、今年は何するの? どこ行くの?」
「いつもの所だよ! やっぱブランクあるから仲間の所だけにしとくつもり」
「そう。まぁ世界中の人を巻き込まないだけマシかな。それじゃあキリ、用意しようか」
「……はい。ミアさんも連れて行っていいですか」
「構わないけど、アニーはいいの?」
「もちろん連れて行きますとも! どうせこれから毎年これは行われて、いずれアニーも参加するんですから」
「ははは、もうヤケクソだね。はい、それじゃあ皆暖かい服格好に着替えて」
「父さま? どこ行くの? 何するの?」
これから一体何が始まるのかさっぱり分らないノエルが首を傾げて言うと、ノアはニコッと笑って言った。
「皆に叱られに行くんだよ」
と。
ルイス・キャロライン夫妻。
「いや~しかしいつまで見ていても飽きないな」
「そうね。ライアンの鼻の形はルイスにそっくり」
「エイダンの目元はキャロにそっくりだぞ。どのみち二人共美形だな!」
ルイスとキャロラインは可愛い我が子の寝顔をじっと見つめながら、顔を見合わせて笑った。
「はぁ……幸せだ。こんなにも幸せでいいのか」
「いいのよ、ルイス。アリスがいつも言ってるじゃないの。幸せは歩いてこっちにはやってこないって。自分から掴みに行くものなんだ、って。私たちはだから、この幸せを自ら掴み取ったのよ。色々頑張った甲斐があったわね」
「全くだ。一時はどうなる事かと思ったがな。だがキャロ、ここで安心していてはいけない。俺たちはまだまだ幸せを掴み取るぞ」
「もちろんよ。さて、それじゃあプレゼントを置いて私達も用意をしましょう」
そう言ってキャロラインはライアンとエイダンの枕元にプレゼントの箱を置いて部屋を出た。その後をルイスが不思議な顔をしてついてくる。
「準備? なんのだ? まだ寝ないのか?」
「ええ。何となくだけれどアリスが来そうな予感がするのよ」
「……それは本当か」
「ええ、ただの勘だけど、何となくあの子のはしゃぐ声が聞こえた気がするのよね……」
何故か最近こういう事が増えてきた。どこからともなくアリスの声がしたな、と思ったらその直後に大抵アリスは本当にやってくるのだ。
キャロラインの嫌なお告げにルイスが固まった。
「そ、そうか……では間違いなくやってくるな。ここ近年は大人しくしていたと思ったが……そうか、今年から解禁か」
「ええ……ハズレてくれればいいけれど、アリスだから」
「そうだな。アリスだもんな。よし、では迎え撃つ準備をしよう」
ルイスはそれだけ言うとキャロラインを廊下に残して颯爽とキッチンに向かって歩き出した。
「ルイスったら、そんな事言いながら嬉しそうなのよね」
来なかったら来なかったで寂しそうだったルイスをキャロラインは知っている。去年25日の朝に残念そうに枕元を見ていたルイスは、心のどこかでこの日を誰よりも待ち望んでいるのかしれない。
リアン・ライラ夫妻
「ふぁ……ライラ、まだ寝ないの? あの子達はもう寝たよ」
「ええ、もう少しだけ。リー君は先に寝ててもいいわよ?」
書斎で書き物をしていたライラが手を止めて言うと、リアンはそのまま書斎に入ってきて長椅子に寝転がった。
「寝ないよ。僕もここに居る」
「そう? 風邪引くといけないから毛布は被ってね」
「そんな事したら寝ちゃうじゃん! もう、ライラはちょっと働きすぎだよ。ふぁ……」
「リー君には言われたくないわ。それに眠いならベッドに行けばいいのに」
既に眠そうなリアンを見てライラが苦笑いすると、リアンは目を閉じながらポツリと言う。
「僕ね、次は男の子がいいなぁ」
「え」
「い、今の無しっ! もう遅いから、本当に早く寝なよ!?」
半分寝ぼけていたのか、自分が何を口走ったかを理解したリアンが飛び起きて両手で顔を覆うと、すぐさまそんなリアンにライラが飛びついてきた。
「私もよ、リー君。私もそろそろ男の子欲しいなって思ってた!」
「……ほんと?」
リアンは肩まであるサラサラの髪をかきあげてライラの顔を覗き込むと、ライラは恥ずかしそうにコクリと頷く。未だにたまにライラに片思いをしているのではないかとたまに不安になるリアンだが、こういうライラの顔を見ると、とても愛されていると感じる事が出来る。
リアンはライラを抱きしめてキスをしようとしてふと止めた。
「どうしたの? リー君」
「いや、今日って何日だった?」
「え? もう25日だけど……」
「だよね。ちょっと待ってて、ライラ。変態んみメッセージ送ってくる」
「ノア様に? 一体――」
「ちょっとね」
ライラが最後まで言い終える前にリアンはスマホを操作してノアにメッセージを送った。何となく、今年からまたアリスの発作が起こりそうな気がした。
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