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第348話 壊れたリー君

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「ねぇねぇモブ、こいつらんとこの動物って、多分僕たちの知ってる動物と違う進化を遂げてると思うんだけど、どう思う?」
「いや、もう俺はここについてはノーコメントっす」
「ふぅん。僕はそのうち服とか着て二足歩行しだすと思うな!」
「リ、リー君? どうしたんすか!? 何か変っすよ!?」

 一体リアンにどんな心境変化があったのか、笑顔を絶やさずそんな事を言うリアンが何だか怖くなってオリバーが言うと、リアンはスッと笑顔を引っ込めた。

「そうでも考えないと、こいつらんとこ色々おかしいんだよ! あぁ、そうか。ライラがどんどんおかしくなったのはコイツとずっと同じクラスで隣の席だったからなんだ……なんか納得した」
「リー君! あんたは最後の砦なんっすよ! 分かった、正気を取り戻すためにちょっと一緒に旅行でも行こう! ね!?」
「はは……そだね。僕、疲れてんのかな」

 旅行か……それも案外悪くないかもしれないと思う程度にはどうやら自分は疲れている。これはもう完全にアリスと居すぎた弊害だ。そんな二人にノアがニコニコしながら言う。

「いいね。全部終わったら男子チームだけで旅行行こっか」
「じゃあじゃあ女子チームも行ってくる~!」
「いいですね。俺もたまにはお嬢様の事を何も考えずに過ごしたいです。ミアさんは連れて行ってもいいですか?」
「ダメだよ。男子だけって言ってるでしょ?」
「そうだよ! ミアさんは女子チームだもんね!」
「……では俺は留守番しています」
「それもダメ。キリは強制参加」
「……」
「俺も行っていいのか」
「もちろん」
「いや、あんた達から距離取る為に旅行誘ってんのに、あんたらが来たら意味ないっしょ」

 不貞腐れたキリと何故か嬉しそうなアーロを横目にオリバーが言うとノアはニコッと笑う。どうやらもう決定事項のようだと悟ったオリバーが慰めるようにリアンの肩を叩くと、リアンは大きなため息を落とした。

「……はぁ。アーバン、よく覚えときなね。こいつらと行動を共にするって事は、並大抵の精神じゃダメなんだよ。繊細な僕を見て? どんどんやつれてくんだから」
「まったまたぁ~! リー君が繊細だって。ウケる!」
「ウケないよ! 元々僕はめっちゃ繊細なんだよ! あんた達に無理やり鍛えられたんだよっ!」
「あ、治ったっすね」

 拳を握ってアリスに抗議するリアンを見てオリバーはホッと息をついた。リアンはやはりこうでなくてはならない。ついでに言うと、リアンもそんじょそこらの人達と比べたら十分に図太いと思う、とは言わないでおいた。

 仲が良いのか悪いのかよく分からない仲間たちを見てメリー・アンとアーバンはさっきから大爆笑している。そんな二人の顔を見て内心仲間たちは安堵していた。二人の顔からようやく不安が消えたからだ。

 それからしばらくして、窓の外に金色の大きな瞳が見えてアリスは立ち上がって外に飛び出した。そんなアリスに皆が続く。

「ドンちゃん!」
「ギュ!」

 思ったよりも早く到着したドンの背中にはまだ小さなドラゴン達が乗っている。それを見てアーバンとメリー・アンは目を輝かせた。

「か、可愛い……」
「可愛いよね? そうだよね!? さて、それじゃあドンちゃんとチビちゃん達、アーバンとアンさんをバセット家に連れてってあげて」
「ギュギュ!」

 ドンは二人に手を差し出して握手するとしゃがみこむ。背中にはしっかり二人分の鞍がついていた。きっと手紙を受け取ったハンナ達が二人の為に用意してくれたのだろう。

 こうしてアーバンとメリー・アンはバーリーを飛び立った。
 

「あの二人、本当に大丈夫なんすかね?」

 飛び去ったドンを見ていたオリバーがポツリと言うと、アーロが少し考えて言った。

「大丈夫だろう。俺が思うに、もうあちらは今更誰かを攫おうなどしないはずだ」
「なんの根拠があるんすか?」
「それぐらいもう佳境だろうからな。ヴァニタスとオズワルドが合体した事で既に計画の半分以上は終わっている。今更生贄も必要ないだろう」
「アーロの言う通りだよ。あっちはもう大方計画が終わってる。だから余計に案外あっさり捕まると思うんだよ。たとえ僕たちに掴まったとしても、あの二人は確実に姉妹星に行く算段をつけてるだろうから」
「しいて言えばアメリアが気になるな。キャスパーとモルガナの愛人だった指導者はもう本当にこの世には居ない。牢から連れ出されたモルガナが頼るのは間違いなくカールではなくアメリアだろう」
「それなんだよ。奴隷商の元締めがあと一つ、金のピンを持ってる。アメリアを何とかしないといけないんだ。とは言っても? アンソニーとカールという後ろ盾を失くした彼女が行き着く先は知れてるけどね」

 そう言ってノアはニコッと笑った。
 
 
 
「た、大変だ……つまりどういう事だ!?」

 ジャスミンとローズが持っていたぬいぐるみを使ってそれぞれの英雄たちの盗聴をしていた子供たちは、最後にアリスにチャンネルを合わせていた。そこで聞いてしまった事実にライアンがブルブルと震える。

「つまり、アンソニー王とカールが何が何でも姉妹星に行きたくてそればっか研究してる間に、あのニセモノ聖女達が裏でこっそり悪巧みしてたって事だよ」

 かなりかいつまんだテオを見てノエル達が苦笑いを浮かべているが、簡単にまとめるとつまりはそういう事だ。

「でもそんな事出来んのかな? 何でずっと気付かなかったんだろう?」

 不思議そうに首を傾げたルークにテオがまた淡々と言う。

「気づかないでしょ、そんなの。じゃあ聞くけどルークは自分の領地で起こってる事件とかそういうの全部把握してる?」
「……してない」
「でしょ? つまりそういう事なんだよ。アンソニー王もカールもずっと姉妹星の研究をして訳でしょ? で、生贄の魂についてもニセモノ聖女やキャスパー達に任せてた訳だ。おまけにキャスパー達が連れてきてた人達はほとんどが身寄りもない人や子供たちで居なくなっても誰も気付かない。むしろ手を組んでた、まである。そんな所で裏で何しようが実行してるのが身内や手下だとしたらまぁ、なかなか気付かないんじゃないの」
「僕もそうだと思う。良くも悪くもアンソニー王もカールも世間に全く目を向けてなかったんだと思う。ていうか、長生きしすぎてもうそういうのに執着すら無いのかも。だってもうちょっとでやっと念願が叶うんだよ? 手下がやってる事なんて目も向けないと思う。でも最終的にはそれを知ってあの貴族誘拐事件に繋がったんだと思う」
「むしろそれすらわざと分かりやすいようにやった可能性がありますね、この感じだと」
「ええ。奴隷を買った貴族がどんどん捕まってる。そういう噂がフォルス学園で流れるほどです。という事はもしかしたらリリーさんが逃げたのも予定調和だったのでしょうか?」
「かもしれないね。リリーさんが逃げてメイリング王を名乗る人がレヴィウスで探し回った。それだけで十分話題にはなるよね」

 ノエル達が頭を悩ませているのを他所にアミナス達はさっさと話に飽きて既に夕食作りを開始していた。

「ディノ大丈夫? これぐらいの火ならいけるかな?」

 アミナスの問いかけにレックスがちらりとディノを見て頷く。

「大丈夫そう。作れる?」
「うん。ブヨブヨになるかもだけど、パスタはどうにか茹でられるよ」
「アミナス、パスタだけ茹でてどうするの? ソースが何も無いわ」
「そうだよ~、どうやって食べるの~?」
「ふふふ! 天才アリスの愛娘、アミナスにかかれば! このレトルトハンバーグがあっという間にミートソースに早変わり! そいやっ!」
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