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第350話 ライト家の奥様自慢

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「あ、ごめん。やっぱいい。聞きたくない。で、ルカ様達も動いてるんだろ?」

 カインがルードに尋ねると、ようやく写真撮影を終えたロビンが戻ってきた。

「ああ。ルカはステラの忠告も聞かず自身の騎士団を連れてまるで輩のようにあちこちで大暴れしている。まぁ今回子供たちが無事に見つかったのは……認めたくないがルカのおかげだな」
「やっぱルカ様強いんだな」
「ルカか? 強いぞ。ルーイですら未だにルカとは五分五分だからな。あいつは本当は王よりも騎士の方が向いていたんじゃないか。何せ驚くほどの脳筋だからな!」
「あー……うん、それは聞かなかった事にしとくよ。にしてもルカ様一人でいくつの地下道潰してんだ」

 言いながらカインはルードの地図を見て呆れた。地図上の赤いバツ印はルカが大暴れして潰した場所だ。ノア達は水攻めをしたようだが、ルカは直接現場に乗り込むという大変原始的な戦いを今もしている。

「まぁ、とは言っても重要そうな所は全部ノア君達に任せてるけどね」
「スルガのヒントの場所な。あそこらへんは多分下手に手出ししたらマズイだろうからな。暴れて何か壊して全部パーとかマジで洒落になんないから」
「しかしやはり妖精たちは優秀だ。こうやってヒントにない地下を的確に探し当ててくるのだから」

 ロンドはそう言って嬉しそうに目を細めて妖精が書いた小さな地図を取り出し、虫眼鏡を使ってそれを見る。

「ね。流石フィルだな。やっぱりあいつはお姫様だった」

 自慢げにカインが言うと、すぐさまルードが頷きながら言う。

「フィルも凄いけど、妖精たちの物に傍受かけたうちのメグも相当だから」
「何を言うか。そもそも嫁たちをまとめてアイデアを出しているのはサリーだぞ」

 互いの妻たちの凄い所をあげつついよいよ喧嘩にまで発展しそうになったその時、地下道探索の為にマーガレットと共にあちこちを偵察しているオスカーから連絡が入った。

「よぉ、どした?」
『あ、カイン? マーガレットが次の場所見つけたってさ。すぐに地図送るよ。これでもう12個めだよ! 一体どれほど掘ってたんだろう!?』
「マジかー、まだあんのか。分かった。それじゃあ待ってる。マーガレットによろしくな」
『分かった。それじゃあまた連絡するよ』

 そう言ってスマホを切ったカインは、すぐさまオスカーから送られてきた地図を開いて、それをルードとロビンに転送する。

「まさかマーガレットがここまでやるとはなぁ」

 新しく追加された地図を見てカインがため息を落とす。

「ほんとだよ。植物は地下で繋がってる……か」
「これはマーガレットのお手柄だな……流石花の妖精だ」

 カインとルードが部屋に閉じこもって重要な地下道以外にもしかしたら被害者はまだ居るのではないか、という結論を出して全ての地下道を探そうと思い立った時に名乗りを上げたのがマーガレットだ。

 マーガレットは星の上の全ての植物は地中で繋がっていると言っていた。その植物たちの力を借りてフィルマメントが居る妖精界と地上側から地中の探索をした所、思っていた以上にスルガがくれたヒントとは違う地下道が見つかったのだ。そしてそれは今も増え続けている。

 三人は顔を見合わせて地図を覗き込み、いつもふわふわした笑顔のマーガレットを思い浮かべた。
 
 
 
 時は少しだけ遡り、クラーク領に戻ったアランが一度過去に戻ろうとしていたシャルを呼びつけ、二人して研究室に缶詰状態になっていた。

 もう戦争まで日がない。戦える仲間たちを集めようと戻ってきたはいいが、妖精王からの連絡でそれどころではなくなってしまったのだ。

「これは……アラン一人ではキツイですね」
「本当ですよ。何です、この難解な魔法式は!」

 シャルとアランは妖精王から送られてきた未知の魔法式を見てゴクリと行きを飲んだ。

「一つでも間違えるとこれは転移する前に木端微塵になりますね」
「い、言わないでくださいよ! 考えないようにしてたのに!」
「ああ、すみません。根が正直なもので」

 悪びれる事なく言うシャルをアランが涙目で睨んでくるが、それどころではない。流石妖精王が送ってきた魔法式だ。複雑過ぎて最早どういう原理なのかも分からない。

 アランは深呼吸をして魔法式を間違えないよう一文字ずつ確認しながら魔法式ボードに書き写していく。

「しかしこれは妖精王の言語なのでしょうか? 全く読めませんね」
「ええ。古代文字とかそういうのでしょうかね。どちらにしてもとても複雑です」
「代わりましょうか?」
「いえ、せめて半分までは頑張ります」
「そうですか? それにしてもこの魔力は誰のものです? 物凄い質と量ですよ?」

 アランがボードに書き起こしていく際に込められた魔力は見たことも無いほど強力な魔力だ。確実に人間の物ではない。

「それが分からないんですよ。でも、妖精王の物ではないですね」
「謎ですね。妖精王の他にも誰かが手を貸してくれているのでしょうか……あと、このゲートの先の事もさっぱりですし、本当に大丈夫なんですよね?」

 怪訝な顔をして言うシャルにアランは少しだけ考えて言った。

「大丈夫かどうかは分かりませんが……ここまで来たらもう信じるしかありません。妖精王を」
「……そうですね」

 それから二人は無言で交代しながら妖精王から貰った魔法式をボードにひたすら書き写した。

 どれぐらいの時間が経ったのか、明るかった窓の外はすっかり薄暗くなっている。

「……はぁ……一日でこれほどの量の魔法式を書いたのは生まれて初めてです」

 アランはそう言ってよろよろとソファに腰掛けた。今はシャルが最終チェックをしている所だ。

 しばらくしてチェックが終わったシャルもソファに倒れるように腰掛ける。

「どうでしたか?」
「大丈夫です。見た限りではミスは無いはずです。あとはもう身体が木端微塵にならないよう祈るばかりですね」
「……そうならないようにする為のチェックなのですが」
「そうですが私だって人間ですから。AIの頃は一瞬でスペルチェックも出来ましたが、そういう方面のチート能力はもう無いんですよ」
「そうなんですか? なんだかあなたはいつまでもチートなイメージですけどね」
「それは光栄ですね」

 肩を揺らして笑うシャルを見てアランはホッとした。どうやらミスは本当に見当たらなかったようだ。

「では、適応しますか」
「ええ」

 アランの言葉にシャルは大きく頷く。二人は立ち上がってボードの上にパープルを乗せると、二人で妖精王に貰った最後の詠唱を始めた。

 するとボードは虹色に輝き、全ての魔法式がパープルに吸い込まれていく。突然の大きな魔力の流れにパープルの身体がめまぐるしく七色に変化する。それを見てアランはヒヤヒヤした様子だが、シャルはそれを見て薄く笑った。どうやら成功したようだ。

 そして最後の言葉を詠唱し終えた途端、パープルは元の紫色に戻った。

「成功したようですよ、アラン」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。やはりこれは妖精王の力でしょう。どこの妖精王かは分かりませんが」

 言いながらシャルが何だかツヤツヤになったパープルを持ち上げると、パープルは手のひらの上で律儀にお辞儀をする。そんなパープルにシャルは言う。

「さぁパープル、最後の一仕事です。全世界の仲間たちにこの数式を適応してやってください」

 シャルが言うと、パープルはコクリと頷いてその場で蹲った。

 そんな様子を見てアランはようやく成功したと思えたようで、ホッとした顔をしている。
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