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第362話 星と観測者の正体

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「それって、何の意味があるんだ?」
「そうねぇ、その星の発展度合いというか幸福指数というか、そういうのを測るのよ。あとは大まかな星の動きよね。星も生き物だから、管理者も居れば観測者も居るのよ」
「凄いお仕事なんですね……」

 レスターには全く想像できないけれど、観測者というのは何やら物凄く大変そうな仕事だ。

「で、あの乗り物は一体なんなんだ? あれは魔法で動いてるのか?」
「え~また説明するの~? あれは有人ドローンよ。地球っていう星の2030年から買い付けてきたの! いいわよ~地球。あっちは第三次世界大戦がポイントだったわね。大分発展してきたわ。一時危なかった事もあったけど」

 言いながら観測者は遠い目をする。

 地球は何度も何度も戦争を繰り返し、とうとう星の危機という所までいったが、すんでの所でソラの救済措置が入った。そのおかげで今は生物たちの幸福指数は高いし、発展指数もなかなかだ。やはりソラの介入が入るとどの星も一気に加速する。

「えっと、ごめんなさい。あなたの言ってる事がほとんど分からないんだけど、地球って言うのはもしかして姉妹星の事でしょうか?」
「ええ、あなた達はそう呼んでるわね。アタシ達は今は地球って呼んでる。ちなみにここは月」
「月、ですか。夜に出るあの月と同じ?」
「ええ。あなた達から見てあの月こそが地球なの。面白いでしょ?」
「つ、つまりどういう事なんだ? カライス」
「よく分からん」
「……」

 観測者の言っている事が本当かどうかは分からない。分からないけれど、これは大きな情報ではないだろうか。月に誰かが住んでいるなんて考えた事など今までただの一度も考えた事がなかった。

「えっと……観測者様は地球に簡単に行けるんですか?」
「行けるわよ。ていうか、あなた達でも簡単よ。場所と方法さえ分かればね」

 そう言って観測者はパチンとウィンクをした。

「場所と方法……?」
「そう、場所と方法。でも隠されているの、ずっと。誰でも通れるようになると色々困るから。私たちが」
「観測するのにって事か?」
「緑の子は鋭いわね。そうよ、観測する為には他の星の知識に触れられては困るのよ。それでもたまに裏技使って行き来しちゃう子っているのよね~」

 困ったわ、と言って観測者は頬に手をあてて大げさにため息を落とす。

「ノアだ……」

 今回の戦争が始まって少ししてから、ノアは姉妹星からやってきたという事を本人から直接聞いた。どんな手を使ってこちらにやってきたのかは知らないが、観測者の反応を見る限り、絶対に正当な技を使っていない事が分かる。

「そうノアちゃん! まさかあんな技使うなんて誰も思ってなかったの! もうビックリだったわよ、あの当時! 仲間内でも話題でね! まぁでもソラが追い出さなかったって事は、この星の発展に必要だったって事なのよね。今起こっている事は全て星の成長に必要不可欠な栄養素って事。で、アタシに何か用事だったのよね?」
「あ! そうでした! そのノアからお手紙を預かってきました!」

 そう言ってレスターがちらりとカライスを見ると、カライスは胸元から一通の封筒を取り出した。それを受け取った観測者は早速中を読んで声を出して笑う。

「流石裏技使って来ただけあるわ~! なるほど、アタシも使おうっていうのね? いいわよぉ~久しぶりの大掃除楽しみね!」
「な、何が書いてあったんですか?」

 何故かテンションが上がる観測者にレスターが問うと、観測者はまたウィンクをして、秘密、と口元に人差し指を当てる。

「えっと、つまり手伝ってくれると言うことでしょうか?」
「ええ。ちょっとまってね、お返事出すから!」

 そう言って観測者は場所を移動して、部屋の隅にあったカーテンで仕切られた個室の中にあった小さなデスクに座る。

「そ、それは一体……」

 観測者が移動した場所には何やら箱が置いてあり、観測者は手元の文字が沢山書かれた板を何やらポチポチと押し始める。

「ああこれ? パソコンよ。これがソラの量子コンピューターに繋がってて――って言っても分からないわね。そうね、あなた達の持ってるレインボー隊とスマホの合体バージョンよ。うんと高性能なね」

 言いながら観測者は机の上のキーボードを叩き、文章を作って刷り出しを押してプリンターを動かした。

「あ、しまった! 3Dモードのままだわ……ま、いっか。はい、これ。悪いんだけどこの樹脂板ノアちゃんに渡してくれる?」
「あ、はい」

 レスターは目の前で一体何が起こったのかさっぱり分からないまま板を受け取り読もうとしたが、生憎なんて書いてあるのかさっぱり分からない。

「ノアちゃんは用心深いわね。日本語で書いてあったから日本語で返しておいたわ」

 そう言って観測者はカラカラと笑った。そんな観測者を見てレスターも釣られたように笑うと、ふと机の端に置いてあった一冊の本が目にとまる。

「あれ? これライラさんのお気入りだ」
「ライラちゃん? ああ、そう言えばあの子ファンだっけ。それあげるわ。ライラちゃんに渡してあげてちょうだい」
「え!? で、でも……い、いいんですか?」
「ええ、構わないわよ。今朝三冊届いたのよ。アタシは一冊あれば十分だから」
「あ、ありがとうございます! あ、でももう持ってるのかな」
「持ってないわよ~。だってまだ発売されてないもの~。発売日は全宇宙統一、来月の13日よ!」
「そ、そうなんですか。それじゃあライラさん大喜びですね、ありがとうございます。あ! あとこれ、お土産です」

 そう言ってレスターは本を大事にポシェットに仕舞うと、代わりにアリス工房の最新コスメセットを取り出した。

 それを受け取った観測者は大層喜ぶ。

「やっだ~! パパベア印の新商品!? いつ買いに行こうかって思ってたのよ! あ! 石鹸もあるじゃない! 食べ物とかこういう物の質はこっちの方が地球よりも遥かに安くて良いのよね~。ありがと! アリスにお礼伝えておいてね。それにしても……どうしてアタシはあの子が生まれた時に目をつけなかったのかしら!? あの子観測してたら絶対に面白かったのに!」

 観測対象は毎度変わるが、今度は絶対にバセット家の子孫にしようと既に心に決めている観測者だ。ついでにドンの子孫も追いたい。

「つ、伝えておきます。すみません、何度も来ちゃって」
「いいのよ~。こんな辺鄙な所で一人暮らしで寂しい思いしてんのよ。たまには誰かとこうやって話さないと腐っちゃうわ! ん? このフレーズいいな。メモメモ、と」

 観測者はそこまで言って徐にメモを取り出す。そんな観測者を不思議そうに三人が眺めていた。

「さて! それじゃあお使いお願いね。帰りはワープゾーン繋いであげるからそれで戻るといいわ! こっちよ」
「ワープ?」
「なんだ、それ」
「分からん」

 観測者が一体何の事を言っているのか分からないまま三人は観測者についていく。

 部屋を移動した三人の前には大きな鏡があった。いや、正確には鏡ではない。何せ自分たちを映していないのだから。代わりにそこに映し出されていたのはアリスだ。

「ア、アリス!?」
「あぶねぇ! なんだ、あいつ!?」
「両手剣であんな動きをする奴は初めて見たな」

 鏡の中のアリスは誰かと戦っていた。その脇ではアーロとセイが脇腹と腕を抑えアリスを見ていて、キリは男を一人縛り上げている。

「あらら~アリスってば劣勢じゃない。あ、何だ本気出してないのね~」

 観測者はそう言って鏡の中を指さした。
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