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第364話 命を取るかダサさを取るか
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一瞬の躊躇いが命取りになる。アンソニーは痛いほどそれを知っていたというのに、キリの言い放ったカールの行き先を聞いて躊躇ってしまった。
「レプリ……カ?」
と、その時だ。頭上から何かがこちらにめがけて落ちてくる。ハッとした時には既に遅く、アンソニーの喉元には大剣が突きつけられていた。
「おま、え」
「無礼をお許しください、アンソニー王。ですが、あなたをここで逃がすわけにはいきません」
「……はは、随分成長したじゃないか。死に損ないの王子」
「……」
レスターはアンソニーに剣を突きつけながら唇を噛み締める。アンソニーの言う通り、レスターは死に損ないの出来の悪い王子だった。この世で自分が一番不幸だと思いこんでいるような、どうしようもない弱虫だったのだ。図星をつかれて剣先が震えたその時、
「おーっと聞き捨てならねぇなぁ! レスターは今やそんじょそこらの騎士じゃ相手にもなんねぇんだぞ! っと!」
レスターに続いて空から降ってきたのはロトだ。ロトはレスターの頭に着地して胸を張った。
「どうしてロトが自慢げになるのかが俺には分からないんだが」
二人を避けてダイアウルフ二匹と一緒に下りてきたカライスが言うと、そんな三人にアリスが目を輝かせた。
「どうしたの三人とも! え? 今どっから降ってきた!?」
辺りをキョロキョロと見渡しても何も無い。妖精手帳を使ったのかとも思ったけれど、どうやらそうでもないようだ。
「お嬢様、そんな質問は後で存分にしてください」
「そうだった! レスターありがと! そいやっ!」
アリスはレスターに大剣を突きつけられているアンソニーの頭に特大のゲンコツを落とす。
「く……っそ……」
アリスの特大ゲンコツを食らったアンソニーはどうにか剣で身体を支えようとしたが、それは出来ずにゆっくりと意識を失いながら口の端に笑みを浮かべる。
「……罠だね」
「ああ、そのようだ」
アンソニーが笑みを浮かべた事に気づいたセイの言葉にアーロはゆっくりと頷く。アンソニー達はアリス達に捕まるまでも想定に入れていたようだ。ではどうすればいいのか。アーロは立ち上がってキリに言った。
「キリ、アンソニーもカールの元へ送ってやれ。とりあえずこいつらは保留だ」
「ええ、分かりました」
この星のどこへ送ってもこの二人にはきっと助けが入るだろう。それならばひとまず他所の星に二人だけで移してしまう方がいい。
キリはアーロの言う通り妖精手帳に『レプリカ』と書いて、アンソニーの手にねじ込む。すると、途端にアンソニーの姿は目の前から消えた。
「で、あなた達は一体どこからやってきたのですか?」
一仕事終えたキリがレスター達に問うと、レスターはローブの下から何やら中途半端な大きさの透明な板を取り出した。
「これをノアに。観測者からの返事だよ」
「? これは日本語ですか」
「そうみたい。僕たちでは読めないけど、観測者はこちらに手を貸してくれるつもりみたい。僕たちはついさっきまで観測者の家に居たんだ」
「そうでしたか。で、何か有益な話は聞けましたか?」
キリが問うとレスターは剣を直しながら真顔で頷いた。
「うん、凄く重要な話が聞けた。でもそれは今回の事にはあまり関係なさそうだけど一応伝えておくね。姉妹星の正体は、あの月だそうだよ」
レスターはそう言って空を指さした。そんなレスターを見てキリもアリスもアーロもセイでさえポカンとして空を見上げる。
「ごめん、ちょっと何言ってるのか分からない。姉妹星が月?」
セイの言葉にレスターとカライス、そしてロトまでもが頷く。
「確かにそう言ってたぜ! 姉妹星から見たらここは月に見えるらしい。つまり、俺様たちは月の住人なんだぞ!」
「う、嘘でしょ!? え!? つ、月に住んでるのはうさぎじゃないの!?」
動揺したアリスが咄嗟に言うと、さらに皆が混乱したような顔をする。
「うさぎ? 月にはうさぎが住んでるの?」
「という事は何か。俺はずっと自分の事を人間だと思っていたが、実はうさぎ……なのか?」
「アーロ、混乱しすぎておかしな事を口走っているのに気づいていますか? とりあえずお嬢様の話は当てになりません。ノア様に聞きましょう。そして俺たちはとりあえず他の出口を手伝いに行きますので、アーロとセイ様は怪我の手当をしてきてください」
「分かった。アーロ、行こう」
「ああ。うさぎか……確かにリサはうさぎっぽいが……うさぎか。そう思うとさらに可愛らしいな」
「うさぎは一旦忘れて。それじゃ、すぐ戻る」
そう言ってまだ混乱中のアーロの袖を掴んだセイは、そんなアーロを無視して妖精手帳に震える手でティナと書いた。そろそろアンソニーに切りつけられた脇腹のせいで意識を失いそうだったのだ。
「え、えっと、とりあえず観測者のお話はまた後でするという事で、僕たちも手伝います」
「助かります。では西の海に向かってください。そこにルカ様がいらっしゃるので」
「分かりました! ロト、カライス、行こう!」
「ああ!」
「分かった。それじゃあまた後で」
それだけ言って三人はレスターの腕に捕まる。レスターはそれを確認してルイスから貰った妖精手帳に『ルカ』と書いた。
三人を見送ったアリスとキリはその後アンソニー達が乗ってきたボートを調べてみたが、あいにく何も無かった。
「何もありませんね。ではお嬢様、俺たちも行きましょう」
「うん! 兄さま達、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫です。むしろあなたが居ない方がスムーズに進みますよ」
「ひどっ! もうほら! 行くよ!」
「ええ」
「さて、水は止まった。行こうか二人共」
「っす」
「はぁ、嫌だなぁ。誰が居るんだろ」
ノアとオリバーが居るので滅多な事にはならないと思いたいが、アリスが居ないとこんなにも不安なのだと言うことを初めて知ったリアンだ。
大きなため息をついてリアンは渋々ノアの後についていく。そんなリアンの心の内など気にもしないかのようにノアがにこやかに言う。
「この3人って初めてじゃない? 何か新鮮だなぁ」
「俺はあんまそんな風には感じないんすけど」
「僕も。あんたかアリスかってだけだもんね。つまり、どっちも最悪だって事なんだけどさ」
アリスとノアはどちらもあちこちで問題を起こすトラブルメーカーだ。どちらのチームに入ってもリアンは胃が痛くなる。
「またまたぁ~。リー君は照れ屋だなぁ。僕の方がアリスに比べたら数倍マシでしょ?」
冗談交じりにそんな事を言ったノアをリアンが鼻で笑った。
「まったまたぁ~。本気で言ってる? あんた達はどっちもどっちだよ?」
同じように返したリアンを見てノアはニコッと笑う。
「さて、冗談はこのぐらいにして、二人共、万が一の為に防災スライム被っておいてね」
「えー! あれダサいから嫌なんだけど!」
「そんな事言って。落ちてきた岩とかで頭かち割っても知らないよ?」
「はぁ……まぁ仕方ないか」
リアンはノアの言う通り防災スライムを足元の水たまりに浸して頭にかぶる。それを見てオリバーが真顔で言った。
「や、大丈夫っすよリー君。何か絶妙に似合ってるんで」
「はぁ!? こんなの似合うやついる――モ、モブ……」
オリバーに言われてリアンは眉を吊り上げて振り返ると、そこには防災スライムを被ったオリバーが無の表情で立っている。
「何も言わなくていいっす。試供品かぶった時にドロシーにも散々笑われたんで」
「う、うん……いや! でもこれだけ言わせて! モブ度が増してるね!」
肩を震わせてそんな事を言うリアンをオリバーが全力で睨んでくる。
「レプリ……カ?」
と、その時だ。頭上から何かがこちらにめがけて落ちてくる。ハッとした時には既に遅く、アンソニーの喉元には大剣が突きつけられていた。
「おま、え」
「無礼をお許しください、アンソニー王。ですが、あなたをここで逃がすわけにはいきません」
「……はは、随分成長したじゃないか。死に損ないの王子」
「……」
レスターはアンソニーに剣を突きつけながら唇を噛み締める。アンソニーの言う通り、レスターは死に損ないの出来の悪い王子だった。この世で自分が一番不幸だと思いこんでいるような、どうしようもない弱虫だったのだ。図星をつかれて剣先が震えたその時、
「おーっと聞き捨てならねぇなぁ! レスターは今やそんじょそこらの騎士じゃ相手にもなんねぇんだぞ! っと!」
レスターに続いて空から降ってきたのはロトだ。ロトはレスターの頭に着地して胸を張った。
「どうしてロトが自慢げになるのかが俺には分からないんだが」
二人を避けてダイアウルフ二匹と一緒に下りてきたカライスが言うと、そんな三人にアリスが目を輝かせた。
「どうしたの三人とも! え? 今どっから降ってきた!?」
辺りをキョロキョロと見渡しても何も無い。妖精手帳を使ったのかとも思ったけれど、どうやらそうでもないようだ。
「お嬢様、そんな質問は後で存分にしてください」
「そうだった! レスターありがと! そいやっ!」
アリスはレスターに大剣を突きつけられているアンソニーの頭に特大のゲンコツを落とす。
「く……っそ……」
アリスの特大ゲンコツを食らったアンソニーはどうにか剣で身体を支えようとしたが、それは出来ずにゆっくりと意識を失いながら口の端に笑みを浮かべる。
「……罠だね」
「ああ、そのようだ」
アンソニーが笑みを浮かべた事に気づいたセイの言葉にアーロはゆっくりと頷く。アンソニー達はアリス達に捕まるまでも想定に入れていたようだ。ではどうすればいいのか。アーロは立ち上がってキリに言った。
「キリ、アンソニーもカールの元へ送ってやれ。とりあえずこいつらは保留だ」
「ええ、分かりました」
この星のどこへ送ってもこの二人にはきっと助けが入るだろう。それならばひとまず他所の星に二人だけで移してしまう方がいい。
キリはアーロの言う通り妖精手帳に『レプリカ』と書いて、アンソニーの手にねじ込む。すると、途端にアンソニーの姿は目の前から消えた。
「で、あなた達は一体どこからやってきたのですか?」
一仕事終えたキリがレスター達に問うと、レスターはローブの下から何やら中途半端な大きさの透明な板を取り出した。
「これをノアに。観測者からの返事だよ」
「? これは日本語ですか」
「そうみたい。僕たちでは読めないけど、観測者はこちらに手を貸してくれるつもりみたい。僕たちはついさっきまで観測者の家に居たんだ」
「そうでしたか。で、何か有益な話は聞けましたか?」
キリが問うとレスターは剣を直しながら真顔で頷いた。
「うん、凄く重要な話が聞けた。でもそれは今回の事にはあまり関係なさそうだけど一応伝えておくね。姉妹星の正体は、あの月だそうだよ」
レスターはそう言って空を指さした。そんなレスターを見てキリもアリスもアーロもセイでさえポカンとして空を見上げる。
「ごめん、ちょっと何言ってるのか分からない。姉妹星が月?」
セイの言葉にレスターとカライス、そしてロトまでもが頷く。
「確かにそう言ってたぜ! 姉妹星から見たらここは月に見えるらしい。つまり、俺様たちは月の住人なんだぞ!」
「う、嘘でしょ!? え!? つ、月に住んでるのはうさぎじゃないの!?」
動揺したアリスが咄嗟に言うと、さらに皆が混乱したような顔をする。
「うさぎ? 月にはうさぎが住んでるの?」
「という事は何か。俺はずっと自分の事を人間だと思っていたが、実はうさぎ……なのか?」
「アーロ、混乱しすぎておかしな事を口走っているのに気づいていますか? とりあえずお嬢様の話は当てになりません。ノア様に聞きましょう。そして俺たちはとりあえず他の出口を手伝いに行きますので、アーロとセイ様は怪我の手当をしてきてください」
「分かった。アーロ、行こう」
「ああ。うさぎか……確かにリサはうさぎっぽいが……うさぎか。そう思うとさらに可愛らしいな」
「うさぎは一旦忘れて。それじゃ、すぐ戻る」
そう言ってまだ混乱中のアーロの袖を掴んだセイは、そんなアーロを無視して妖精手帳に震える手でティナと書いた。そろそろアンソニーに切りつけられた脇腹のせいで意識を失いそうだったのだ。
「え、えっと、とりあえず観測者のお話はまた後でするという事で、僕たちも手伝います」
「助かります。では西の海に向かってください。そこにルカ様がいらっしゃるので」
「分かりました! ロト、カライス、行こう!」
「ああ!」
「分かった。それじゃあまた後で」
それだけ言って三人はレスターの腕に捕まる。レスターはそれを確認してルイスから貰った妖精手帳に『ルカ』と書いた。
三人を見送ったアリスとキリはその後アンソニー達が乗ってきたボートを調べてみたが、あいにく何も無かった。
「何もありませんね。ではお嬢様、俺たちも行きましょう」
「うん! 兄さま達、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫です。むしろあなたが居ない方がスムーズに進みますよ」
「ひどっ! もうほら! 行くよ!」
「ええ」
「さて、水は止まった。行こうか二人共」
「っす」
「はぁ、嫌だなぁ。誰が居るんだろ」
ノアとオリバーが居るので滅多な事にはならないと思いたいが、アリスが居ないとこんなにも不安なのだと言うことを初めて知ったリアンだ。
大きなため息をついてリアンは渋々ノアの後についていく。そんなリアンの心の内など気にもしないかのようにノアがにこやかに言う。
「この3人って初めてじゃない? 何か新鮮だなぁ」
「俺はあんまそんな風には感じないんすけど」
「僕も。あんたかアリスかってだけだもんね。つまり、どっちも最悪だって事なんだけどさ」
アリスとノアはどちらもあちこちで問題を起こすトラブルメーカーだ。どちらのチームに入ってもリアンは胃が痛くなる。
「またまたぁ~。リー君は照れ屋だなぁ。僕の方がアリスに比べたら数倍マシでしょ?」
冗談交じりにそんな事を言ったノアをリアンが鼻で笑った。
「まったまたぁ~。本気で言ってる? あんた達はどっちもどっちだよ?」
同じように返したリアンを見てノアはニコッと笑う。
「さて、冗談はこのぐらいにして、二人共、万が一の為に防災スライム被っておいてね」
「えー! あれダサいから嫌なんだけど!」
「そんな事言って。落ちてきた岩とかで頭かち割っても知らないよ?」
「はぁ……まぁ仕方ないか」
リアンはノアの言う通り防災スライムを足元の水たまりに浸して頭にかぶる。それを見てオリバーが真顔で言った。
「や、大丈夫っすよリー君。何か絶妙に似合ってるんで」
「はぁ!? こんなの似合うやついる――モ、モブ……」
オリバーに言われてリアンは眉を吊り上げて振り返ると、そこには防災スライムを被ったオリバーが無の表情で立っている。
「何も言わなくていいっす。試供品かぶった時にドロシーにも散々笑われたんで」
「う、うん……いや! でもこれだけ言わせて! モブ度が増してるね!」
肩を震わせてそんな事を言うリアンをオリバーが全力で睨んでくる。
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