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第397話 オリバーの喜び

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 ドロシーは俯いてティナの服をギュっと握った。

「ありがとう、ティナ。私、されたら嫌なことをする所だった」
「ああ。それが理解出来たのなら問題ない。伝えてやれ。きっとオリバーは今まで以上にはりきるんじゃないか?」
「そうかな? でも本当にまだ分からないの」
「そんなものすぐに調べてやる! ほら来い。キャロ、部屋を貸してくれるか?」
「もちろんよ! ああ、今から楽しみすぎるわ! やっぱりドロシー似かしら!?」
「ドロシーに似た女の子だったらそれはそれは可愛いだろうな! 男の子のサシャでさえあれだからな! 何せサシャのあまりの美しさに妖精が妖精と間違えるぐらいだから相当だぞ!」
「本当に! モブさんはお顔が薄味だから次も絶対にドロシー似だと私も思うわ!」
「……次はオリバーに似るもん……多分」

 仲間たちは皆こぞってドロシーに似た方がういいと言うしオリバーでさえそう言うが、ドロシーはオリバーに似るようにいつだって願っている。

 けれど今回の事で皆の思想や思考で世界は動いているのだと聞かされてからは、多数決でもしかしたら次の子もドロシーに似てしまうかもしれないと思うドロシーだ。

「お待たせしました~! はい、これドロシーさん羽織ってください! そしてこれは妊娠初期に良いと言われている特製のお茶とお菓子です! ブランケットも持ってきたので足元はこれで覆ってくださいね!」
「あ、ありがとうございます。いただきます」

 ミアが持ってきてくれたお茶を飲んで皆の喜ぶ顔を見たら、何だか胸のつかえが無くなった気がして、ドロシーはようやく心の底から笑うことが出来た。
 
 
 
 その頃肝心のオリバーはと言えば、どこの領主でもないのでリアンの所にくっついてきていた。

「ほんっとうにあいつらだけは、全部終わったらどうしてくれようか……」

 アリスからの電話を終えて書類を睨んでさっきから突発的に出てくるくしゃみに悩まされながらリアンが言うと、ソファでリアンが目を通し終えた書類をまとめながらオリバーが苦笑いを浮かべた。

「まぁまぁ。これで地下の動物たちも救えるなら良かったじゃないっすか。俺たちは地上の事だけ考えてたっすけど」
「まぁねぇ、そうなんだけどさ。にしても地下の動物はやっぱり地上の子たちとは違う進化の仕方してるよね。あんな初見でフレンドリーな動物もそうそう居ないよ」
「っすね。俺もビックリしたっす。あと動物たちとの通訳をレインボー隊がするのにもビックリしたっす。あいつらどこまで進化すんすかね」
「いやほんとそう! グリーンがさ、最近絵じゃ飽き足らずに造形始めたんだけどさ、これがもう凄いの何のって。あんたうちの広場の噴水見た?」
「ああ、何か話題なんすよね?」
「そうなんだよ! あれ設計して作ったのグリーンなんだよね。ちょっと芸術方面に突出しすぎ感あるけど、本当にあの子達ヤバいよ」
「そういやうちの桃も――ん? ドロシーからだ。リー君、ちょっと抜けるっす」
「はいよ~」

 リアンはオリバーが部屋から出ていくのをニヤニヤして見送った。ここで話さずわざわざ部屋を出るのはオリバーとドロシーがいつまでもラブラブだからだ! とアリスが言っていたのを思い出したのだ。

 しばらくしてオリバーが無言で戻ってきたけれど、その顔は何かを堪えているようで唇が微かに震えている。

「なに、どうしたの? 離縁でも言い渡された?」

 てっきり唇が震えているのは怒りか悲しみを堪えているのだろうと思ったリアンが尋ねると、オリバーは真っ赤な顔を両手で覆い、その場で何度も地団駄を踏む。

「え、怖いんだけど」
「や、ちょっともう……はぁぁ……」

 ドロシーからの電話で完全に動揺しているオリバーをリアンが気味が悪いものでも見るように覗き込んでくるが、それどころではない。

 オリバーはソファに座って深呼吸をしてどうにか平静を保とうとするが、無理だ。顔が思いっきりニヤける。

「ちょっと何なの。気持ち悪いんだけど?」
「妹っす」
「は?」
「サシャに妹が出来たんすよ。ティナに診てもらったって。妖精は凄いっすね! もう性別まで分かるんすから!」

 とうとう堪えきれなくなったオリバーが早口で言うと、リアンが一瞬ポカンとしたかと思うと無言でスマホを弄りだした。

「何してんすか?」
「報告してんの。あんた、しばらくドロシーんとこ帰りなよ。報告はちゃんとするから」
「え? いや、産むのは俺じゃないんすけど……」
「産むのはあんたじゃなくても! ちょっとでも側に居てやんなって言ってんの! これからどうなるか分かんないだから!」
「……そっすね。リー君、ありがとう」
「いいよ。いつか身体で返してもらうから。あと、おめでと」

 リアンはそう言って妖精手帳に『ドロシー』と書き付けてオリバーにペタリと貼った。オリバーは泣きそうな笑ってるような不思議な顔をして部屋から消えてしまう。

「……絶対に星守らなきゃ。よし! やるか! あー……でもちょっとだけ仮眠しよ」

 そう言って両頬を叩いて気合を入れたリアンは、次の瞬間にはソファに転がってあくびを噛み殺した。昨日はライラと一日中作業していた挙げ句、徹夜でふらふらだったのだ。
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