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第398話 ライラとリアンの徹夜のお仕事の成果

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 アーバンにお礼を言ってスチュアート家までやってきたアリス達は、重厚で厳つい屋敷を見上げていた。スチュアート家の周りには既に立入禁止の立て札が至るところに立てられている。

「兄さま、こんな目立ってもいいの?」
「むしろ目立つようにしてるんだよ。さて、それじゃあ始めようか。妖精たちお願いね」

 ノアの掛け声に大量に集まった転移妖精達が一斉に声を上げて屋敷を取り囲むように散らばった。そこへ近所の様子を見に行っていたキリとアーロが戻ってくる。

「ノア様、思惑通り続々と外には人が集まってきています」
「おっけ。アーロは?」
「裏もだ。事情を聞かれたので丁寧に説明しておいたぞ」

 一体何事かと集まってきた人達にアーロとキリはルイスから預かったルイスのサインが入った、罪人の家を取り壊すための許可証を見せて回った。こうしておけばスチュアート家はさらに戻りづらくなるというのがノアの考えだ。

「うんうん、順調順調。キリ、屋敷が消えたらサーチでどこかに何か埋まってないか探してくれる?」
「もちろんです。お嬢様、何故指を鳴らしているのでしょう?」

 ふと見るとアリスは屋敷を見上げて拳を握りしめ、指をパキパキと鳴らしている。

「え? 運んだ後取り壊すんでしょ?」
「それは調査が終わってからだよ、アリス。だからまだ指は鳴らさなくていいよ」
「な~んだ! 移動させたらすぐに壊すんだと思ってた!」
「……素手でか?」

 指を鳴らしていたという事はそういう事だろうと考えたアーロの問いに、アリスはコクリと頷く。そんなアリスを見てキリが冷たく言った。

「ゴリ――お嬢様に任せておけば取り壊しは簡単です。問題は後片付けです」
「ゴリラって言おうとした!? 今ゴリラって言おうとした!」
「まぁまぁアリス。いつもの事でしょ? キリは普段から内心ではアリスの事をゴリラって呼んでるよ、きっと」
「ええ。たまにうっかり建前と本音が逆になってしまうのです。だからもういっそゴリラと呼んでも構わないでしょうか?」
「構わない訳ないでしょ! バカなんじゃないの!? で、兄さまこの家どこに送るの?」
「ん? 騎士団の寮の裏庭だよ。今頃騎士団の皆が首を長くして待ってるんじゃないかな」

 主要の騎士以外は今は城で警備にあたっている。そこに先程レヴィウスの騎士団居残り組も合流したとゾルから連絡が入った。

「ゾルさんはルカ様の所ではないのですね」
「そうみたい。でも誰か指揮する人が居ないと困るからゾルさんがこっちに残ってくれて良かったよ。さて、それじゃあ始めよっか」

 そう言ってノアが手を挙げると、配置についた転移妖精たちが一斉に魔法を使いだした。すると、屋敷がゴゴゴと地響きを立てて地面から浮き上がり、一瞬にしてその場から跡形もなく消え去る。

 その途端、屋敷の外から凄まじい歓声が聞こえてきた。アリスが振り返ると、そこには今にも柵の中に突入してきそうな勢いの領民達が手を叩き歓声を上げていた。

「……スチュアート家は恐怖政治でもしていたのか?」

 そのあまりの喜びようにアーロがポツリと言うと、領民の一人が何やら新聞を柵の内側に投げ入れてくる。

「これは?」
「新聞みたい。号外だってさ。えっとね~……うわぁ……超ネタバレされてる! 兄さま見てこれ!」

 アリスは拾った新聞をノアに渡すと、ノアは新聞にサッと目を通して新聞を投げ入れた領民に近づいた。

「これはいつ発行されたの?」
「今朝の早朝だ。新聞売りがそこら中でばら撒いてたんだ!」

 鼻息を荒くして興奮した様子で言う領民にノアは大きく頷く。

「ライラちゃんとリー君にお礼言わないとね。きっと急いで刷りだして配ってくれたんだろうね。これでこっちもやりやすくなった」
「流石我が心友達! 鼻が高過ぎて最早折れそうですぞ! ははははは!」

 ノアの言葉を聞いてアリスはふんぞり返って高笑いをすると、そんなアリスを見て領民達はさらに騒ぐ。

 どうやら心友二人は昨日一日でこの新聞を作り、色んな所で撒いてくれたようだ。新聞を発案した時ははっきり言って不安だったけれど、やっぱり作っておいて良かったと心の底からアリスは思う。

 そこへ屋敷跡のサーチを行っていたキリが戻ってきた。

「ですがこれはマズイのでは? 結構赤裸々に書いてますよ?」
「だからいいんだよ。皆が監視をしてくれるようになるからね。それにさっきのミアさんからの情報と照らし合わせれば、アメリア達の居所も掴めると思うし。で、どうだった? 何かあった?」

 未だにアメリア達は見つかっていない。珍しくイライラした様子のセイから連絡があったのはついさっきだ。今頃あちらも必死になって隠れているのだろうが、地下の管轄がディノから妖精王に移ったと子どもたちから連絡があった時点でアメリア達はもう地下で派手に動くことは出来ない。何せ地下での一切の魔法が使えなくなってしまったのだ。逃げる場所などもう限られているに等しい。

「いえ、何も。スチュアート家は地下に道を作ったり庭に何かを埋めたりする事は無かったようです。慎重ですね」

 この分だともしかしたら屋敷からも何も出ないかもしれない。

 キリがそんな事を言うと、アーロが珍しく表情を歪ませた。

「あの家の人間は昔から用心深いからな。ところで結局オズワルドの居場所は掴めたのか?」
「まだだね。ていうか、流石のライラちゃんもオズのスマホは登録してなかったみたいなんだ」
「そうか。まぁオズワルドが見つかった所で遠くから見張るぐらいしか出来る事もないだろうしな」
「そうですね。何せ相手は元神ですから。それでカイン様達の方はどうなんです?」
「なんかね、バラの資料まだ読んでるって言ってたよ!」
「……どうしてお嬢様が知っているんですか?」
「え、だって妖精たちがそう言ってたってフィルちゃんから連絡あったんだもん。なんかね、バラは寄生植物なんだって! モルガナの心臓にびっしり絡みついてるらしいよ!」
「気味が悪いな。ではモルガナを殺すしか無いということか?」
「それがそうでもないみたい。宿り主が死んだら今度はアメリアに移っちゃうんだって」
「そうなんだ。てことは遺伝性なの?」
「んー……遺伝と適当? みたいな感じ?」

 アリスが首を傾げて答えると、キリがコイツマジかの視線を向けてくる。

「どうして一番肝心な所だけそんなにフワッとしているのでしょうね?」
「そ、それは妖精たちに聞いてよぉ! とにかくそういう事らしいよ! だからアンソニー達もモルガナ殺せなかったみたい!」
「なるほどね。バラが移るのは優先順位があるって事なのかな。まぁ何にしてもバラがアメリアに移るのは避けたいね。アメリアは何か良からぬこと考えてそうだし」

 真顔でノアが言うと、アメリアの性格をよく知るアーロも頷いた。

「そうだな。モルガナはまだ純粋に言われた事だけをやり遂げるタイプだが、アメリアはそこに自分の欲も絡ませるからな。その割にいつも詰めが甘いのがアメリアだ」
「厄介な性格ですね。で、我々は屋敷の捜査に加わりますか?」
「そうだね。とりあえずは皆からの連絡待ちだし。それじゃ、移動するよ」

 ノア達はそう言って集まっていた領民達に、監視よろしく! と伝えてその場を後にした。
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