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第405話 レックスを創造した理由
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「ディノ、答えよ。そなた何故レックスを生きながらえさせたのだ?」
静かな妖精王の声にディノはハッとして顔を上げ、そっと目を閉じた。それを見てレックスも目を閉じる。
「僕は……僕をディノが創ったのは……」
そこまで言ってレックスは黙り込んだ。流れ込んできたディノからのイメージは、感情というものを知ったレックスには少しだけ辛かった。
そんなレックスを見てノエルが眉を吊り上げる。もちろん、他の皆もだ。
「まさかとは思うけど、本当に地上を監視する為だけにレックスに命を与えたとか言わないよね? レックスはディノの事を親だと思ってるのに、それを裏切ったりしないよね?」
いつになく低いノエルの声にディノはそっと視線を伏せた。その仕草は肯定だ。
「だから石で創ったりなんかしたんだ? 何も考えないように、心を持たないように? いざという時に自分を蘇らせる為に」
冷たいテオの声が核に響き渡る。今にも幻のディノに殴りかかりそうになるのを止めてくれたのはジャスミンだ。
「テオ、落ち着いて。いくらそれを殴っても効かないわ。でもそうなの……こんな事になるのなら、小さい間に砕いておいてしまえば良かったわね」
「!?」
ニコニコしながらそんな事を言うジャスミンに皆はギョッとしたような顔をしたが、ノエルとアミナスだけは頷いている。これは本気だ。
「待って、最後まで……聞くから」
何だかどんどん暴走しそうなアミナスを見てレックスが言うと、それまで逆だっていたアミナスの髪が落ち着きを取り戻した。アミナスはどうやら怒りが頂点にまで達すると髪が浮き上がるらしい。まるで猫である。
「ディノ、いいよ。僕は何を聞いても怒らない。それに……何を聞いても決めるのは……僕だ。ディノじゃない」
今まではディノの言う通りに旅をしてきた。辛いとか悲しいとか感じる事もなく、ただ淡々と地上の様子をディノに送っていた。
けれどいつしかそれは虚しいと気づいた。まるで人形のようにずっと操られているだけの自分は、心まで石のようになってしまっていた。
強い視線をディノに向けると、ディノがそっとレックスに近寄ってきた。それをアミナスが阻止しようとしたが、レックスはそれを手で制する。
「大丈夫だよ、ありがとうアミナス」
「……うん」
レックスに止められたアミナスはディノを睨みつけながら一歩下がると、その場でずっと地団駄を踏んでいる。ああやって怒りをどうにかしようとしているのだろうか? 何だか手にとるようにアミナスの感情が分かってしまってレックスは思わず笑ってしまった。
ディノはレックスの前まで来るとレックスの胸を指さした。そしてその指先で今度は自分の胸を指差す。
「心臓の石がいるの?」
コクリ。頷いたかと思えば今度は続けて首を振る。
「どういう事? ドラゴンブラッドジャスパーがいるわけではないという事?」
コクリ。
「それは……あれでしょうか。ほら、父さん達がレプリカに行っていた時に話していた――」
「賢者の石、ですね」
レオとカイが言うと、ディノは何度も何度も頷く。
「そっか。で、ディノはレックスの事をどう思ってるの? その回答によっては僕たちは君に手は貸さないよ。たとえレックスがそれを望んでも」
きっぱりとしたノエルの言葉に子供たちはおろか、妖精王までもがディノを睨みつける。そんな子供たちを見てディノは一瞬嬉しそうな顔をしたけれど、すぐに切なげな表情を浮かべた。
「……ダメだ、分からない。ディノは答えを持ってないみたい」
いくらディノのイメージを読み取ろうとしても混沌としていて全く分からない。しょんぼりと肩を落としたレックスに助け舟を出したのはユアンだ。
「ディノは戸惑ってるんだろ、多分。最初はそれこそ自分の目の代わりとして創った存在のはずのお前を、いつしか本当に自分の子供、もしくは分身として感じるようになっちまって困ってるってとこなんじゃないか?」
呆れたようなユアンの言葉を聞いてディノはまた何度も何度も頷いた。目に涙を浮かべてレックスを抱きしめようとするけれど、生憎ディノは生身ではないのでその腕は通り抜けてしまう。
「……そうなの? 僕が居なくなるのはディノも……嫌? だから鍵が持ち出された時もすぐに動かなかったの?」
恐る恐る尋ねると、ディノはしょんぼりと頷く。目にじんわり涙が浮かんでいるのは、ユアンの言う通りだからなのかもしれない。
「大人しく鍵を奪われたのは、もう目覚めるつもりも無かったということか。自分が目覚めるにはレックスを壊さなければならないと分かっていたから……」
神妙な顔をして妖精王が言うと、ディノはその通りだと言わんばかりに俯いたまま動かない。
「まとめると、ディノが目を覚ますにはレックスの心臓にある賢者の石とやらを取り出さなければならない。けど、それをするとレックスが壊れてしまう。そういう事?」
よく通る声でテオが言うと、ディノは一歩下がって今度ははっきりと頷いた。
「させないよ、そんな事。ディノ、どうにかして賢者の石だけを取り戻すことは出来ないの?」
ノエルの言葉にディノは首をゆっくりと左右に振る。どうやらどうやってもレックスという犠牲を捧げなければディノは蘇る事が出来ないようだ。
そんな中、アミナスはずっとレックスの手を握っていた。相変わらずレックスの手はひんやり冷たいが、今はアミナスの体温のせいで熱々である。おまけにちょっと湿っている。
「なにか方法がある! 絶対にある! 母さまがいっつも言うもん! 諦めたらそこで試合は終了だって! とある監督の名言だって言ってたもん!」
「俺もそう思います。いつもこういうピンチを乗り越えてきたのが父さん達です。俺たちはその血を引いてる。だからきっと見つけられるはずです」
「そうですね。諦めてしまっては本当にそこで終わりです。良かったじゃないですか。我々も鍵が見つかるまでにすべき事が出来ましたね」
カイとレオはそう言って手帳を取り出した。この手帳はキリが二人に毎年お揃いの物を買ってくれるのだ。この手帳はやるべき事とその為の手段を沢山書き込めるので、キリ自身が子供の頃によく使っていた物だと聞いた。
静かな妖精王の声にディノはハッとして顔を上げ、そっと目を閉じた。それを見てレックスも目を閉じる。
「僕は……僕をディノが創ったのは……」
そこまで言ってレックスは黙り込んだ。流れ込んできたディノからのイメージは、感情というものを知ったレックスには少しだけ辛かった。
そんなレックスを見てノエルが眉を吊り上げる。もちろん、他の皆もだ。
「まさかとは思うけど、本当に地上を監視する為だけにレックスに命を与えたとか言わないよね? レックスはディノの事を親だと思ってるのに、それを裏切ったりしないよね?」
いつになく低いノエルの声にディノはそっと視線を伏せた。その仕草は肯定だ。
「だから石で創ったりなんかしたんだ? 何も考えないように、心を持たないように? いざという時に自分を蘇らせる為に」
冷たいテオの声が核に響き渡る。今にも幻のディノに殴りかかりそうになるのを止めてくれたのはジャスミンだ。
「テオ、落ち着いて。いくらそれを殴っても効かないわ。でもそうなの……こんな事になるのなら、小さい間に砕いておいてしまえば良かったわね」
「!?」
ニコニコしながらそんな事を言うジャスミンに皆はギョッとしたような顔をしたが、ノエルとアミナスだけは頷いている。これは本気だ。
「待って、最後まで……聞くから」
何だかどんどん暴走しそうなアミナスを見てレックスが言うと、それまで逆だっていたアミナスの髪が落ち着きを取り戻した。アミナスはどうやら怒りが頂点にまで達すると髪が浮き上がるらしい。まるで猫である。
「ディノ、いいよ。僕は何を聞いても怒らない。それに……何を聞いても決めるのは……僕だ。ディノじゃない」
今まではディノの言う通りに旅をしてきた。辛いとか悲しいとか感じる事もなく、ただ淡々と地上の様子をディノに送っていた。
けれどいつしかそれは虚しいと気づいた。まるで人形のようにずっと操られているだけの自分は、心まで石のようになってしまっていた。
強い視線をディノに向けると、ディノがそっとレックスに近寄ってきた。それをアミナスが阻止しようとしたが、レックスはそれを手で制する。
「大丈夫だよ、ありがとうアミナス」
「……うん」
レックスに止められたアミナスはディノを睨みつけながら一歩下がると、その場でずっと地団駄を踏んでいる。ああやって怒りをどうにかしようとしているのだろうか? 何だか手にとるようにアミナスの感情が分かってしまってレックスは思わず笑ってしまった。
ディノはレックスの前まで来るとレックスの胸を指さした。そしてその指先で今度は自分の胸を指差す。
「心臓の石がいるの?」
コクリ。頷いたかと思えば今度は続けて首を振る。
「どういう事? ドラゴンブラッドジャスパーがいるわけではないという事?」
コクリ。
「それは……あれでしょうか。ほら、父さん達がレプリカに行っていた時に話していた――」
「賢者の石、ですね」
レオとカイが言うと、ディノは何度も何度も頷く。
「そっか。で、ディノはレックスの事をどう思ってるの? その回答によっては僕たちは君に手は貸さないよ。たとえレックスがそれを望んでも」
きっぱりとしたノエルの言葉に子供たちはおろか、妖精王までもがディノを睨みつける。そんな子供たちを見てディノは一瞬嬉しそうな顔をしたけれど、すぐに切なげな表情を浮かべた。
「……ダメだ、分からない。ディノは答えを持ってないみたい」
いくらディノのイメージを読み取ろうとしても混沌としていて全く分からない。しょんぼりと肩を落としたレックスに助け舟を出したのはユアンだ。
「ディノは戸惑ってるんだろ、多分。最初はそれこそ自分の目の代わりとして創った存在のはずのお前を、いつしか本当に自分の子供、もしくは分身として感じるようになっちまって困ってるってとこなんじゃないか?」
呆れたようなユアンの言葉を聞いてディノはまた何度も何度も頷いた。目に涙を浮かべてレックスを抱きしめようとするけれど、生憎ディノは生身ではないのでその腕は通り抜けてしまう。
「……そうなの? 僕が居なくなるのはディノも……嫌? だから鍵が持ち出された時もすぐに動かなかったの?」
恐る恐る尋ねると、ディノはしょんぼりと頷く。目にじんわり涙が浮かんでいるのは、ユアンの言う通りだからなのかもしれない。
「大人しく鍵を奪われたのは、もう目覚めるつもりも無かったということか。自分が目覚めるにはレックスを壊さなければならないと分かっていたから……」
神妙な顔をして妖精王が言うと、ディノはその通りだと言わんばかりに俯いたまま動かない。
「まとめると、ディノが目を覚ますにはレックスの心臓にある賢者の石とやらを取り出さなければならない。けど、それをするとレックスが壊れてしまう。そういう事?」
よく通る声でテオが言うと、ディノは一歩下がって今度ははっきりと頷いた。
「させないよ、そんな事。ディノ、どうにかして賢者の石だけを取り戻すことは出来ないの?」
ノエルの言葉にディノは首をゆっくりと左右に振る。どうやらどうやってもレックスという犠牲を捧げなければディノは蘇る事が出来ないようだ。
そんな中、アミナスはずっとレックスの手を握っていた。相変わらずレックスの手はひんやり冷たいが、今はアミナスの体温のせいで熱々である。おまけにちょっと湿っている。
「なにか方法がある! 絶対にある! 母さまがいっつも言うもん! 諦めたらそこで試合は終了だって! とある監督の名言だって言ってたもん!」
「俺もそう思います。いつもこういうピンチを乗り越えてきたのが父さん達です。俺たちはその血を引いてる。だからきっと見つけられるはずです」
「そうですね。諦めてしまっては本当にそこで終わりです。良かったじゃないですか。我々も鍵が見つかるまでにすべき事が出来ましたね」
カイとレオはそう言って手帳を取り出した。この手帳はキリが二人に毎年お揃いの物を買ってくれるのだ。この手帳はやるべき事とその為の手段を沢山書き込めるので、キリ自身が子供の頃によく使っていた物だと聞いた。
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