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第406話 屋敷の秘密

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「そうだね。ディノ、絶対に見つけてくるから。レックスを壊さないでも君が目覚める方法を」

 強い声でノエルが言うと、ディノも力強く頷く。

「では私達の最後の仕事も決まりましたね、ユアン」
「そうだな。はぁ、めんどくせぇことしやがって。情移すんなら最初から創んなよな」

 ため息を落としてそんな事を言うユアンにアミナスが顔を輝かせてまた飛びつく。

「手伝ってくれるの!?」
「仕方ねぇだろうが。お前らだけじゃどこに何があんのかも分かんねぇだろ?」
「やった~! おじいちゃんありがとう!」
「おじいちゃって言うな! ところでその間、姫はどうする?」

 飛びかかってきたアミナスを抱きとめてユアンが言うと、どこからともなく不思議な音が聞こえてきた。それはこの世の全ての音を混ぜたような不思議な響きだ。

「星だ。何か言ってる」

 その声に聞き覚えがあるレックスが言うと、全員がシンと静まり返った。するとまるでそのタイミングを見計らっていたかのように不思議な音が言葉になる。

『大丈夫、大丈夫。その時が来たら水をここに招き入れる。ここに来た兵士は妖精の木の餌食になる』
「……なかなか怖いこと言うんだね、星って」

 星の声を聞いたテオがポツリと言うと、何故かアミナスとノエルが食事の準備をし始めた。

「え、行かないの?」

 そんな二人の行動に思わずテオが聞くと、アミナスはいつものように親指を立ててニカッと笑って言う。

「何か始める前に絶対しなきゃいけないこと。それは食事だよ!」

 と。
 
 
 
「大した物は見つからないねぇ」

 ノアは服の裾を払って大きく伸びをした。

「まぁ元々それは望み薄ですから仕方ない」

 ノアの隣で騎士団の指揮を取っていたゾルが言うと、ノアは大きなため息を落とす。

 ちなみにここにやってきたのはアリスとノアとキリだけだ。アーロ達はエリザベスの護衛の方に回ったのだ。

「壁紙を全て剥がし終えました!」

 部屋の真ん中で立ち尽くす二人の元に騎士団の一人がやってきて敬礼をしながら言うと、ゾルは頷いて次の指揮を出す。

「ではキリとアリスさんを連れて全ての壁のチェックを頼む。二人が何かしら反応した所は破壊していい」
「はっ!」

 ゾルの指令を受けて騎士はゾルに持ってきたメモを渡して足早に部屋から立ち去って行った。

「ゾルさんも案外大胆なんだね」

 呆れたようにノアが言うと、ゾルは珍しく鼻で笑う。

「君たちに倣ってね。これぐらいでもしないとこの大きな屋敷は調べ尽くすことが出来ません。どこかに隠し通路の一つや二つはありそうですし」
「確かに。地下には流石に何も無かったけど、隠し通路や隠し部屋はありそうなんだけどな。この屋敷の見取り図みたいな物は無いのかな……」
「あったら最初に確認してますよ。それが無いからこうして手作業で見取り図を作っているのに」

 言いながらゾルは今しがた騎士が持ってきたメモを目の前の大きな紙に写し取っていった。

「でも大分出来上がってきたね。それにしても変な空間とかはどこにも無いけど、何か違和感があるんだよね、この屋敷」
「ええ。それは私もずっと感じているんですが、その正体が分からない」
「これは自分の足を使った方がいいのかな」
「かもしれません。行きますか?」
「うん、ちょっと見てくるよ」

 ノアはそう言って割烹着を脱ぐと部屋の隅に立てかけてあったボーガンを担ぐ。部屋の中でボーガンを放つことはないだろうが、ボーガンの矢はそれだけで立派な武器だ。
 

 ノアが廊下を歩いていると、どこからともなくアリスの奇声が聞こえてきた。続いて何かを殴打する音と瓦礫が崩れるような音が聞こえてくる。

「ふふ、頑張ってる頑張ってる。最近アリスは動き足りないって嘆いてたから丁度良かった!」

 鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌でノアが違和感の正体を突き止めようと屋敷の中を歩き回っていると、突然後ろから背中に衝撃が走った。

「に~いさま!」
「アリス? あれ? 破壊活動はもう終わったの?」
「うん! 兄さまは武器持ってどこ行くの?」
「……どうしてそんなニコニコなの?」
「だって暴れるんでしょ!? 危ない所に行こうとしてるよね!?」

 アリスはノアを見上げてニカッと笑うと、ノアは苦笑いを浮かべてボーガンの矢を一本貸してくれた。ボーガン用なので短いが、無いよりはずっといい。

 矢を受け取ったアリスはそれを二つに折って合わせ、持っていたハンカチでグルグル巻く。こうすればシャフトの部分が多少太くなる。

「すぐ改造するね、アリスは。危ないかどうかはまだ分からないけど、一応ね」

 そう言ってノアはまた歩き出した。その隣をぴったりとアリスがくっついてくる。小さい頃から全く変わらない距離感にノアが幸せを噛み締めていると、突然隣を歩いていたアリスがつんのめった。

 驚いて振り返るとそこには相変わらず無表情なキリが立っている。

「お嬢様、何故そんな物を持って部屋を徘徊しているんですか? あなたの仕事は不審な場所を破壊する事だったはずですが?」
「キリ! 今蹴った!? 思い切り蹴ったよね!?」
「ええ、蹴りました。生憎俺は腕より足のほうが長いので」
「普通お嬢様の背中を躊躇なく蹴る!? それにこれは兄さまにもらったんだもん! 今から兄さまの護衛するんだもん!」
「そうなんですか? ノア様」
「え? あー……うん、まぁ、そう……かな?」
「煮え切らないですね。どうせお嬢様が無理やりくっついて行こうとしているのでしょう? わかりました。俺も行きます。武器はあった方がいいですか?」
「えっと、それじゃあこれ、はい」

 真顔でグイグイ詰め寄ってくるキリに苦し紛れにノアはまたボーガンの矢を渡すと、キリはそれを躊躇いなく折って短くして振る。

「ありがとうございます。これで刺せます」
「あ、うん」

 アリスにしてもキリにしてもどうしてこんなに切り替えが早いのか。というか、何故この二人はいつも全く同じ行動を取るのか不思議である。

「で、どこ行くの?」
「う~ん、決まってない。ていうか何かこの屋敷の造りが気になってさ」
「ふむふむ! それじゃあその違和感探しにしゅっぱ~つ!」
「どこへ出発するのですか。まずはどこへ行くか決めるべきです」

 ノアの言葉を聞いて意気揚々と歩き出そうとしたアリスの首根っこを、すかさずキリは掴んで引きずり戻した。そんなアリスとキリを見てノアは始終ニコニコしている。
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