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第407話 屋敷の秘密2

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「何故笑うのですか? ノア様」
「いや、君たちは本当に良いコンビだな、と思って」

 笑いを噛み殺しながらノアが言うと、二人はピタリと歩みを止めて同時に口を開く。

「冗談は止めてよ!」
「冗談じゃありません」
「ふっは! ご、ごめん」

 全く思った通りの反応が返ってきてノアが思わず吹き出すと、二人はとても不本意そうな顔をしている。こんな反応もそっくりで笑えるのだが、今はこんな事をしている場合ではない。

「はぁ。さて、行こうか二人共」
「うん」
「はい」

 三人はノアを先頭に歩き出した。

「で、どこへ行くのです? 闇雲に歩いていたのでは日が暮れますよ」
「それなんだよね。ねぇ、二人はこの屋敷何か変だと思わない?」
「えー? う~ん……何か閉塞感がある! 薄暗いからかな!?」
「明かりは十分入ってきていますよ。あんな大きな窓が山ほどついているのですから」

 そう言ってキリは廊下の窓を指さした。するとそれを見てアリスはまた腕を組んで考え込んでいる。

「閉塞感か……アリスはそう感じるの?」
「うん。何か息が詰まる感じ。うちの改造前の屋根裏部屋みたい」
「あれは天井が異常に低かったですからね。ですがどこかの誰かさんの案で天井をぶち抜いた事で今度は日が差しすぎて木が劣化してきていますよ。そろそろ改築しなければ」
「ぶー! 全部終わったらやるもん!」
「そうやって何でもかんでも先送りにして――ノア様?」

 アリスとキリの会話を聞いていたノアがふと顔を上げた。その顔は何かを思いついた時のように輝いている。

「それだ! アリス! キリ! 君たちは本当に天才なんじゃないの!?」
「え、な、なになに? むぎゅう!」
「い、痛い、痛いです、ノア様」

 突然ノアに思い切り抱きしめられた二人は咽ながらノアから距離を取ると、ノアは今度はニコニコしながら二人の手を取ってくる。

「違和感の正体が分かったかもしれない。行こう、二人共」

 ノアはそう言ってまだ怪訝な顔をしている二人を引っ張って外に出ると、裏に回って屋敷を見上げた。

「あそこの所、何かおかしくない?」

 ノアが指さしたのは一階部分と二階部分の間だ。そこが何故か異様に広く取られているのだ。

「あ! 中二階!?」
「そう。アリスが感じた閉塞感っって言うのはこれが原因だったんだよ」
「あの空間を作ったが為に天井が低かったと言うことですか?」
「そう。さて、あそこへ繋がる入り口はど――アリス!?」

 あの空間に行くためにはどうすればいいのかノアが考えようとするよりも先に、アリスは既にボーガンの矢をノアの背中からもう一本抜き取って、それを屋敷の壁に突き刺しだした。

「お嬢様……登る気ですか」
「うん! ちんたら全部の部屋探してらんないよ!  それにどっちみち壊すんだよね?」
「いや、それはそうなんだけどね、その前に中に居る人全員外に出るように言わないと。壁壊したら崩れるかも」
「大丈夫大丈夫! ちゃんとコンコンしながら壊せそうな所探すから!」

 建物が崩れる時は必ず壊してはいけない場所というものがある。そこさえ避ければ結構強い。自信満々にそう言って一階の窓枠に足をかけて登り始めたアリスを見て、ノアとキリが呆れたように呟く声が聞こえてくる。

「ノア様、お嬢様にスパイクつきの靴を渡したのは間違いなのでは?」
「う~ん……こういう使い方する為に渡した訳じゃないんだけどなぁ」

 単純にアリスとアミナスの体力を削りたかっただけなのだが。ノアはそんな言葉を飲み込んで言った。

「次の靴はツルツル滑るようにしとこうか」
「そうですね。それを履いて何度も何度も転べば流石に少しは普通の人間の動きを学習するのではないでしょうか」
「学習するかなぁ。今度はスケートみたいにして倍ややこしい事になりそうだけどね。あ、早速見つけたみたいだよ」

 ノアがアリスを指差すと、既にアリスは目的地に辿り着いていた。相変わらず登山家もびっくりの速さである。

「兄さま~! キリ~! ここいけそうだよ~」
「全力出しちゃダメだよ、アリス! ゆっくり慎重にね!」
「はいは~い! そいやっ!」

 アリスはノアの忠告を聞きつつ拳を思い切り壁に当てた。すると、途端にその部分の壁が崩れ落ちてくる。

「言わんこっちゃない。お嬢様! あなたには耳がついていないのですか!? その顔の両脇にあるものは飾りなのですか!?」

 思っていたよりも崩れてくる壁にキリが声を荒らげると、もう既にアリスはそこには居ない。壁の隙間から中に入り込んだようだ。

 相変わらず自由なアリスにため息を落としたキリは、アリスの登った場所を登り始めた。

「あ、そこから行くんだ?」
「ええ。中から扉を探してきます。スマホに送るのでノア様はそちらの仕掛けを解いてください」
「分かった。気をつけてね、二人共」
「はい。いざとなればお嬢様を盾にして逃げます」
「う、うん。そうして」

 それだけ言ってさくさく壁を登っていくキリを見送りノアはゾルの元に戻った。

「早かったですね。それで、違和感の正体は?」
「一階と二階の間に空間があるみたい。今アリスとキリが調査に入ってる。そろそろ入り口が送られてくると思うんだけど――あ、来た」

 アリスと違ってキリは優先順位を絶対に間違えない。アリスとノアに長年仕えているだけあって、人を頼るのも厭わない。そういう所はとても優秀な従者だ。

 まぁ、キリの場合は人を頼るというよりは、人を使うという方が正しいかもしれないが。

「寝室の床下と書斎の天井に出入り口があるみたい」
「そうか、では行きましょうか」
「うん。それじゃあ僕は寝室の方に行くよ」
「ああ、では私は書斎へ行きます」

 そう言って二人は部屋を出てそれぞれの場所へと向かった。
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