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第413話 悪魔になるか、天使に戻るか
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はっきりと言い切ったカールにシャルルとカインが噴き出したその時、ずっと作業をしていたアランとアンソニーの嬉しそうな声が聞こえてきた。
「繋がりましたよ! モルガナです!」
「ああ、ありがとうアラン。けれどやはりアメリアは用心深いな。スマホは処分したか……」
いくらアメリアの番号を登録してもアメリアの声は聞こえなかった。アンソニー達に教えていた番号はとっくに処分してしまっているらしい。
「ですがモルガナと繋がったのは大きいですよ! さて、どこに居るんでしょうね」
そう言ってアランがスマホを操作すると、突然獣のようなうめき声が聞こえてきた。驚いてスマホを落としそうになったアランの手からアンソニーが冷静にスマホを取り上げる。
「モルガナの声だね」
「え!?」
どこからどう聞いても獣のうめき声のようだが、アンソニーは真剣な顔をしてスマホに聞き耳を立てている。
『お母様、お久しぶりね。どう? そろそろそのバラは咲きそうかしら?』
『うぅ……っぐ……』
『嫌だ、もう人語も話せないの? ちょっとあんた達どれだけオピリアを使ったの?』
『すみませぇん、どれだけ使ったらヤバいかなって話してたらどんどん調子に乗っちゃって!』
『もう! 抜くの大変なのよ? 誰か、どこかからあのブレスレット取ってきてちょうだい。さて、それじゃあお母様、お着替えしましょうね。あなたに服なんて上等な物、もう必要ないでしょ?』
『ううううーーー!!』
『ふふ、何言ってるのかさっぱり分かんない。私の体にあなた達が沢山つけた醜い傷跡、あれと同じものをあなたにも付けてあげるわ。ねぇ? 聖女の末裔さん』
『うっ……ふ……ぐぅっ! うぅうぅぅ!!』
『あなた達のせいで私はこんな事になったの。今すぐあなたを殺してそのバラを奪ってもいいのだけど、そのバラを背負うには体への負担が大きすぎる。だから開花直前になったらあなたを殺してあげるわ。その後バラは私に移り、願いを叶えたら根が張る前に引き剥がせば良いもの。それまではあの頃の私と同じように扱ってあげる。お父様への復讐はあっけなさ過ぎたもの。あれじゃあ私が報われないわ。ふふ! 楽しくなってきた! それじゃあお母様、それまで大事にそのバラを育ててね』
『う……うぅ……うぅぅぅ……』
「……」
そこで音声は途切れた。どうやらアメリアは本当にモルガナの服を剥ぎどこかへやってしまったようだ。それからしばらく聞こえてきたのは水音だったので、おそらくモルガナのスマホは水に投げ入れられたのだろう。
皆はしばらく無言だった。ただじっとアランのスマホを見つめている。そんな中、それまで腕を組んで黙っていたアンソニーが口を開いた。
「……いくつか分かった事があるね。アメリアは直前までバラを背負う気は無いということと、バラは根を張る前なら引きはがせると言う事が」
「そのようですね。ではモルガナを先に捕らえればいいかもしれません」
「そうだね。ただどこに居るのかはさっぱりだった。声が反響していたからどこかの洞窟か地下か……スマホが沈む時の音の深さからするとそこそこ深い湖か沼のそば、かな」
「すぐに割り出します」
「ああ、頼むよ。ん? どうかしたのかい? 皆して暗い顔をして」
「いや……想像以上になんて言うかアメリアって……」
「凄いだろう? こんなのは序の口だよ。彼女は両親に並々ならぬ恨みを持っている。そりゃそうだ。彼女はノアを仲間に入れる事に失敗してからというもの、ずっと教会に監禁されて拷問を受けていたのだから」
「え?」
「知らなかったかい? 彼女は16の時から教会でずっと拷問を受けていたんだよ。実の両親達の手によってね」
「……」
今までアメリアはただの勘違いしたお嬢様なのだと思っていたけれど、どうやらそうではなかったようだ。アンソニー達と同じように彼女にもまた何か思う所があり、それが今の結果に繋がっている。
「彼女に同情はすべきではないよ。それ以上の犠牲を彼女は既に出しているのだから。そして彼女はノアの件が失敗したのは絵美里のせいだと言うことを知っている。だからこれからも絵美里を許しはしないだろう。彼女の執念深さは甘く見ちゃけいけない」
「絵美里は赤ん坊だぞ!? これ以上何やらせるんだよ?」
「さてね。それは僕にも分からないけれど、彼女が美しさや若さに執着したのはその体に刻まれた無数の傷跡のせいだ。絵美里にも同じことをするつもりかもね。赤ん坊に戻して抵抗する事が出来ないのをいいことに」
「殺しは……しないってことか?」
「聞いただろう? 彼女は簡単に死なれる事を望んでいない。何よりもバラを育てるには負の感情が餌になる。そういう意味ではモルガナや絵美里への拷問はとてつもなく好都合なんだよ」
「……悪魔かよ」
「悪魔だよ。元々は天使だったんだけれどね。人は皆、生まれた時は無垢で何者でもない天使だ。けれど少しずつこの世界に馴染み人間になっていく。そしてその先は悪魔になるか、人間のまま一生を終えるかのどちらかなんだよ」
「稀に天使のまま育ったり天使に戻る人もいますけどね。そういう方達はこの世界では大抵表舞台には出てきません。どこかでひっそりと活動しているものです。報いなど何も無くても」
「それは……そうかもしれませんね。ユアンが正にそうだと思いますよ。あなた達は長く生きた事で色々達観してしまっていますね」
苦笑いを浮かべたシャルルにアンソニーとカールも困ったように笑って頷く。
「だから僕たちは君たちにお願いしたいんだ。僕たちがこの世界を去った後、できれば次はそういう人たちにこそスポットを当ててやって欲しい。彼らこそ本当に尊敬すべき人達なんだから」
「……そうだな。頑張るよ。で、これでモルガナの声も聞こえなくなって――ん?」
カインのスマホが突然震えて話を中断すると、珍しくキャロラインからの電話だった。
「繋がりましたよ! モルガナです!」
「ああ、ありがとうアラン。けれどやはりアメリアは用心深いな。スマホは処分したか……」
いくらアメリアの番号を登録してもアメリアの声は聞こえなかった。アンソニー達に教えていた番号はとっくに処分してしまっているらしい。
「ですがモルガナと繋がったのは大きいですよ! さて、どこに居るんでしょうね」
そう言ってアランがスマホを操作すると、突然獣のようなうめき声が聞こえてきた。驚いてスマホを落としそうになったアランの手からアンソニーが冷静にスマホを取り上げる。
「モルガナの声だね」
「え!?」
どこからどう聞いても獣のうめき声のようだが、アンソニーは真剣な顔をしてスマホに聞き耳を立てている。
『お母様、お久しぶりね。どう? そろそろそのバラは咲きそうかしら?』
『うぅ……っぐ……』
『嫌だ、もう人語も話せないの? ちょっとあんた達どれだけオピリアを使ったの?』
『すみませぇん、どれだけ使ったらヤバいかなって話してたらどんどん調子に乗っちゃって!』
『もう! 抜くの大変なのよ? 誰か、どこかからあのブレスレット取ってきてちょうだい。さて、それじゃあお母様、お着替えしましょうね。あなたに服なんて上等な物、もう必要ないでしょ?』
『ううううーーー!!』
『ふふ、何言ってるのかさっぱり分かんない。私の体にあなた達が沢山つけた醜い傷跡、あれと同じものをあなたにも付けてあげるわ。ねぇ? 聖女の末裔さん』
『うっ……ふ……ぐぅっ! うぅうぅぅ!!』
『あなた達のせいで私はこんな事になったの。今すぐあなたを殺してそのバラを奪ってもいいのだけど、そのバラを背負うには体への負担が大きすぎる。だから開花直前になったらあなたを殺してあげるわ。その後バラは私に移り、願いを叶えたら根が張る前に引き剥がせば良いもの。それまではあの頃の私と同じように扱ってあげる。お父様への復讐はあっけなさ過ぎたもの。あれじゃあ私が報われないわ。ふふ! 楽しくなってきた! それじゃあお母様、それまで大事にそのバラを育ててね』
『う……うぅ……うぅぅぅ……』
「……」
そこで音声は途切れた。どうやらアメリアは本当にモルガナの服を剥ぎどこかへやってしまったようだ。それからしばらく聞こえてきたのは水音だったので、おそらくモルガナのスマホは水に投げ入れられたのだろう。
皆はしばらく無言だった。ただじっとアランのスマホを見つめている。そんな中、それまで腕を組んで黙っていたアンソニーが口を開いた。
「……いくつか分かった事があるね。アメリアは直前までバラを背負う気は無いということと、バラは根を張る前なら引きはがせると言う事が」
「そのようですね。ではモルガナを先に捕らえればいいかもしれません」
「そうだね。ただどこに居るのかはさっぱりだった。声が反響していたからどこかの洞窟か地下か……スマホが沈む時の音の深さからするとそこそこ深い湖か沼のそば、かな」
「すぐに割り出します」
「ああ、頼むよ。ん? どうかしたのかい? 皆して暗い顔をして」
「いや……想像以上になんて言うかアメリアって……」
「凄いだろう? こんなのは序の口だよ。彼女は両親に並々ならぬ恨みを持っている。そりゃそうだ。彼女はノアを仲間に入れる事に失敗してからというもの、ずっと教会に監禁されて拷問を受けていたのだから」
「え?」
「知らなかったかい? 彼女は16の時から教会でずっと拷問を受けていたんだよ。実の両親達の手によってね」
「……」
今までアメリアはただの勘違いしたお嬢様なのだと思っていたけれど、どうやらそうではなかったようだ。アンソニー達と同じように彼女にもまた何か思う所があり、それが今の結果に繋がっている。
「彼女に同情はすべきではないよ。それ以上の犠牲を彼女は既に出しているのだから。そして彼女はノアの件が失敗したのは絵美里のせいだと言うことを知っている。だからこれからも絵美里を許しはしないだろう。彼女の執念深さは甘く見ちゃけいけない」
「絵美里は赤ん坊だぞ!? これ以上何やらせるんだよ?」
「さてね。それは僕にも分からないけれど、彼女が美しさや若さに執着したのはその体に刻まれた無数の傷跡のせいだ。絵美里にも同じことをするつもりかもね。赤ん坊に戻して抵抗する事が出来ないのをいいことに」
「殺しは……しないってことか?」
「聞いただろう? 彼女は簡単に死なれる事を望んでいない。何よりもバラを育てるには負の感情が餌になる。そういう意味ではモルガナや絵美里への拷問はとてつもなく好都合なんだよ」
「……悪魔かよ」
「悪魔だよ。元々は天使だったんだけれどね。人は皆、生まれた時は無垢で何者でもない天使だ。けれど少しずつこの世界に馴染み人間になっていく。そしてその先は悪魔になるか、人間のまま一生を終えるかのどちらかなんだよ」
「稀に天使のまま育ったり天使に戻る人もいますけどね。そういう方達はこの世界では大抵表舞台には出てきません。どこかでひっそりと活動しているものです。報いなど何も無くても」
「それは……そうかもしれませんね。ユアンが正にそうだと思いますよ。あなた達は長く生きた事で色々達観してしまっていますね」
苦笑いを浮かべたシャルルにアンソニーとカールも困ったように笑って頷く。
「だから僕たちは君たちにお願いしたいんだ。僕たちがこの世界を去った後、できれば次はそういう人たちにこそスポットを当ててやって欲しい。彼らこそ本当に尊敬すべき人達なんだから」
「……そうだな。頑張るよ。で、これでモルガナの声も聞こえなくなって――ん?」
カインのスマホが突然震えて話を中断すると、珍しくキャロラインからの電話だった。
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