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第414話 ドラゴンの谷

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「キャロライン? どうしたんだ?」
『大変よ! 今サマンサから連絡があったの! 絵美里が攫われたわ!』
「は!?」
『犯人はアメリアよ。今もずっとアメリアはアーバンの石を持ってるんだけど、彼女たち今はドラゴンの谷に居るみたいなの!』
「ドラゴンの谷!?」
『ええ! ルイスにもはもう伝えたわ!』
「それ、アリスちゃん達には……」
『まだ言ってないの。言ったらあの子、間違いなくドンちゃんに飛び乗って無茶するでしょう? だからそうなる前にあなたに伝えたのよ』
「分かった。ドラゴンの谷な。キャロライン、お前も無茶すんなよ?」
『ええ、大丈夫。ティナに止められたわ。一応セイさん達にも伝えたから、連絡してみちょうだい』
「了解。それじゃあな」

 そう言って電話を切ると、カインは顔を上げた。

「アメリアの居場所が分かった。ドラゴンの谷だ」

 カインの言葉にその場に居た全員が絶望の表情を浮かべる。

「よりにもよってドラゴンの谷……まさかとは思うけど、また何かを犠牲にしたのかな」
「そうとしか考えられません。考えられるのはドラゴンの卵や雛を人質にしているのでしょうね」
「彼女のやりそうな事だ。それじゃあ僕たちの取るべき手段は決まったね。ここでの作業は終了だ。バセット領に移動しよう」
「……何する気だよ? 言っとくけどドンとスキピオに何かやらせようとしてるんなら絶対に反対するからな!?」

 何より生き物が大好きなカインが目を吊り上げると、アンソニーは肩を竦めて笑った。

「そんな事はしないよ。ドンとスキピオだけで行っても犬死にするのがオチだ。僕はノアとシャルに会いたいんだよ。彼らなら僕よりもずっと合理的に判断するだろう?」
「そ、それはノアとシャルも悪魔の部類……だと?」

 引きつってシャルルが言うと、カールが当然だとでも言いたげにモノクルをお仕上げた。

「何か間違っていますか? 彼らはなかなかアメリアに通じるものがあると思いますが?」
「……否定出来ない」

 カインはポツリと言って妖精手帳を取り出した。
 
 

 その頃アミナス達はぬいぐるみで英雄たちを盗聴しながら地下で盛大にパーティーをしていた。前哨戦というやつだ! とアミナスは言ったが、誰もそれには賛同してくれなかった。悲しい事である。

「アミナス、もしかしてローストビーフ全部持ってきたの?」
「うん! はい、これタレ」

 そう言ってアミナスは皆の前に肉塊とアリス秘蔵の万能ダレを配ると、一人手を合わせて肉に齧りついた。

「……おいノエル、お前妹の躾はしっかりしろよ」

 あまりにも豪快なアミナスを見かねたユアンが言うと、ノエルは苦笑いしながら肉にナイフを入れる。

「無理だよ。3日も一緒に居たらおじいちゃんもすぐに分かるよ」
「3日もいりませんよ、ノエル様」
「そうです。三時間も一緒に居たら嫌でも気付きます。あ、これはダメなヤツだな、と」

 ノエルの言葉にレオとカイはおろか子供たち全員が頷いた。それを見て妖精王とアルファが苦笑いを浮かべる。

「アリスさんの娘さんですからね、もう色々と規格外ですよ、ユアン」
「そうだぞ。なにせこの娘は嵐と雷鳴の中生まれてきたのだ。出生からして信じられないほど何かしらの加護がある」
「それはあんたがつけたんじゃないのか?」
「いいや、我は何も関与していないぞ。元々こういう魂なのだ、諦めよ」

 言いながら妖精王はローストビーフを分厚く切り分けて上品に口に運ぶ。

「肉なんて食うの久しぶりだな」
「本当ですね。美味しい! 相変わらずアリスさんは料理上手ですね」
「それだけが取り柄だもん。ねぇ? ノエル」

 ローストビーフにタレをかけながらテオが言うと、すかさず双子が頷いた。

「流石に僕は頷かないけど、まぁ大半の人たちにはそう思われてるかも」
「そんな事ない! 母さまは超人類だもん! 凄い所一杯だよ!」

 未だに何一つアリスに勝てないアミナスが鼻息を荒くして言うと、全員がなんとも言えない顔をして曖昧に頷く。

「何ていうか、アリスはベクトルの違う凄いなんだよな……」
「そう言えばお主が初めてアリスの存在を知ったのはいつなのだ?」
「俺か? 俺はフォルス学園に覆面が奇襲をかけた時だよ。キャスパーがまた余計な事してたから後を追ったんだ。そうしたら……」

 そこまで言ってユアンは青ざめた。あの時の光景は今も瞼の裏に焼き付いている。

「片手で覆面の頭蓋骨割って笑ってたんだぞ……あれが娘だなんて絶対に思わないだろ?」
「むしろあなたは今も信じてませんもんね?」
「ああ。でもあれはどう見ても若かりし頃のエリザベスなんだよなぁ……」

 おまけに時系列的に絶対にユアンの子である。こんな事になるならあの時もっとよく調べて無理矢理にでもアリスを引き取っていれば、もう少しぐらいはまともな淑女に育ったのではないだろうか。今になってそれが悔やまれる。

「なるほどな。災難だったな、色々と」

 同情するかのように妖精王が言うと、ユアンは眉を下げて乾いた笑いを浮かべる。

「で、飯食い終わったらとりあえず移動するか。にしてもこのぬいぐるみは便利だな。面白い話も聞けたし、もう地下の動物は地上に逃したんだろ?」

 ユアンの思惑通り、ノア達はスチュアート家でユアンが隠した書類を見つけたようだ。

 ユアンの言葉にディノは大きく頷きレックスを抱きしめる仕草をしている。それが無事に見つかれば、レックスを壊さなくても済むと考えているのだろう。

「先程の話ですね。賢者の石は世界に2つある。じゃあまずはディノの部屋に行きますか? そこにもしかしたら何かヒントがあるかもしれません」
「ディノの部屋には無いと思う。あるとしたらディノの書斎」
「ディノの書斎? んなもんあんのか?」
「ある。ディノは本が大好き。多分蘇ったらアリス工房から出た本とかも揃えだすと思う。それぐらい好き」
「漫画とか言うのは子供たちに人気だったな。じゃあまずは書斎から行ってみるか」

 何かを探すにはうってつけの場所だ。ディノは自分に関する事は徹底的に隠していた。だからこそ何があってもおかしくない。

 ユアンの提案にその場に居た全員が急いでローストビーフを食べだす。それを見てユアンは苦笑いを浮かべて言った。

「ゆっくり食えよ、喉に詰めんぞ」

 と。
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