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第420話 オリバーに優しいノア

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「分かった。それじゃあアリスとキリはアメリアの所に向かってもらおうかな。リー君と一緒に」
「分かった! でも兄さま、モブは?」
「オリバーはね、ドロシーがおめでたなんだってさ。もう日も無いし、少しだけそっとしておいてやりたいんだよね」
「え!? そうなの!? 分かった! それじゃあ私がモブの分まで頑張ってくる!」

 ドロシーとオリバーに二人目が出来たと聞いてアリスは鼻息を荒くして目を輝かせた。そんなアリスを見てノアはニコニコしている。

「ノア様、やけにモブさんに優しいですね。何か裏があるのでは?」
「裏だなんて。オリバーにも本気出してもらわないといけないからね。しばらく二人にして絶対守らないとって思わせるには丁度いいでしょ?」
「……そうですね」
「キリ、分かってただろ? わざわざ聞くなよ」

 相変わらずなノアの返答に項垂れるキリを見てカインが苦笑いを浮かべて立ち上がった。

「さて、それじゃあ行くか。ホウ・レン・ソウ忘れんなよ。行くぞ、シャルル」
「ええ。それではまた」

 カインが妖精手帳に『ルイス』と書いたのを確認してシャルルはカインの肩に捕まり、そのまま消えた。

「では我々も行きましょう。時間が惜しいです」

 モノクルを押し上げながらカールが言うと、ノアとアランとシャルが立ち上がる。

「それじゃあキリ、アリスをお願いね。それからアリス、キリとリー君の言う事ちゃんと聞くんだよ。あ! それからこれ。グレイグの代わりに行ってきて。その時にちゃんとあちらを追えるようにしておく事。いい?」
「はぁい!」

 まるで子供のようにノアに頭を撫でられたアリスはポケットから妖精手帳を取り出した。

「……返事だけはいつも完璧なんですよね、あなたは」
「そんな事ないも~ん。他も完璧だも~ん! それじゃ私達も行こ! まずはリー君のとこっと!」

 妖精手帳を破る直前にキリの腕をがっちり掴んだアリスはいつものようにニカッと笑った。
 
 
 
 ルーデリアの城にやってきたカインとシャルルはその足でルイスの執務室に向かった。

「ルイス、入るぞー」

 カインが声をかけると、中から元気が全くないルイスの声が聞こえてきたので、カインは遠慮なく執務室のドアを開けた。

「どうした? 何か絶望みたいな声が聞こえてきたんだけど」
「カインとシャルルか。いやな、スチュアート家から押収した資料を読んでいたんだが、もうなんと言うか……吐きそうだ」

 そう言ってルイスは山のように積まれた書類の隙間に突っ伏した。

「そんなにも酷いのですか?」
「酷いなんてもんじゃない。これはもう人間の仕業じゃないぞ」
「絶対読みたくないな……」

 何となく想像がつくだけにカインが視線を逸らすと、ルイスが涙目で顔を上げる。

「俺だって読みたくないぞ! だが裁くにはちゃんと読まなければ……うっぷ」
「いや、そんなになるまで読まなくていいよ。罪状がありすぎて間違いなく極刑なんだから。まぁ、それは無事に未来を掴み取れたらの話だけどな。で、何か進展あったか?」
「進展か? そうだな……各国の騎士団の配備が完了したぞ。オズがどんな風に凍結されていた魂を使ってくるのか分らないから、とりあえず主要都市の全てに騎士たちを配備する事になったんだ。ちなみにエリスさんが伝令をしてくれている。フォルスにも行ってくれて、イライジャから先程完了したと連絡があった」
「ええ、私にもありました」

 シャルルは机の上の資料にチラリと目を通してそれをすぐさま伏せた。

「あと3日です。あと3日で全てが始まるんですね」
「……ああ。会議でも話していたんだが、全てが始まる前日は皆、それぞれ家族と共に居ようと言う話になったんだ。その時に一度、子供たちも呼び戻そうか、と」
「ああ、いいんじゃね。今更焦っても出来ることは全部やったしな。後はもうディノが目覚めるかどうかってとこだし」
「そうですね。でもその為には誰かがアメリアから最後の金のピンを取り返さなければいけません。全てはそこにかかっています。こういう時に頼れるのはやはりアリスでしょうか」
「最後はやはりアリス頼みか。ライラではないが、ここは大地の化身を信じて待つとしようか」
「そうですね。ではルイス、お手伝いしますのでさっさと終わらせましょう」
「だな。ほら、貸してみな。こんなもん、どのみち有罪なんだからそれらしい罪でっち上げりゃいいんだよ」
「お、お前! 宰相の癖に何という事を!」
「あのなぁ、何回も言うけど時間が無いんだよ! こんなもんちんたら読んでる場合じゃないんだって! つべこべ言わずに貸せ!」

 ルイスから無理やり判子を奪い取ったカインは次から次へと判を押していく。そんなカインを見てルイスは呆然としているが、シャルルがそんなルイスの肩を叩いた。

「ルイス、カインの言う通り、どのみちここにある資料は全て犯罪の証拠です。もしも善行をしていたのなら、最初から隠す必要も無いでしょう? それにカインはああ見えてちゃんと一応中身に目を通していますよ」
「……そうか?」

 シャルルの言う通りカインは書類にチラリと視線を落としている。そのうちの何枚かは端に避けているので多分シャルルの言う通りなのだろうが、何となく信用できない。

「ルイス、喉乾いた。お茶入れてきて」
「あ、私も欲しいです、お願いします」
「お前たち、一体俺を何だと――ちょっと待ってろ」

 カインが弾いた書類をシャルルが確認して何やら書き込んでいる。二人の顔は真剣そのもので、何となく邪魔をするのが躊躇われたのでルイスはため息を落としながら仕方なく部屋を後にした。とびきり美味しいお茶でも淹れてやろう、などと思いながら。
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