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第419話 魔王もアリスのお願いは断れない!

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「気付いていたのかい?」
「そりゃ気づくよ。妖精はずっと人間の良き隣人だったはずなんだよ。それなのにいつの頃からか妖精たちは妖精界に姿を消し、表には姿を表さなくなった。その原因を作ったのはあなた達でしょ? 目的は人間の記憶から妖精の存在を消すこと、かな?」
「本当に君は……その通りだよ。妖精の存在は早く表舞台から消してしまいたかったんだ。一部の妖精はとても長生きだからね、人間に接触されてせっかく根回しした事が破綻するのはどうしても回避したかったんだ。ところがどこかの誰かさん達が妖精を奴隷化なんてしてしまってね。本当に参ったよ」
「そうです。だからあれほどしばらくは妖精界に居てくれと言っていたのに、ホイホイ出てくるのですよ、彼らは」
「あー……うん、あいつら基本的には好奇心の塊みたいな感じだもんな」

 古い年寄り妖精はそうでもないが、ロトのように若い妖精は好奇心がとても旺盛だ。とても素直だが、決して従順ではないので扱いに困るというのはフィルマメントと付き合って身に染みて感じたカインである。

「妖精界も一杯だって言うからディノの地下を紹介したら、そこから妖精達を奴隷として捕らえだした大馬鹿者達がいてね。それからずっと僕たちは妖精たちに嫌われたままだ」

 苦笑いを浮かべて言うアンソニーを見て一同は黙り込んだ。そんな中、アリスがキョトンとして言った。

「そうかなぁ? アンソニー王とカールさんは妖精に嫌われて無いと思うけどな」
「そうかい?」
「うん。なんかね、そんな感じがする」
「相変わらず適当ですね。まぁでもお嬢様のどうでも良い勘は恐ろしく当たるので、多分間違いないと思いますよ」
「ねぇ、なんであんたはいっつもそうやっていちいち噛みついてくるの? ねぇなんで?」

 相変わらずなキリにアリスがじりじりとにじり寄ると、そんなアリスをノアが捕まえる。

「アリス、これはキリの愛情表現なんだよ。ね? キリ」
「いえ、正直な感想を言っているだけですが」
「もう! めっ! それで、話を戻すよ。そんな訳で観測者に太古の妖精との連絡手段を調べてもらってるんだ。彼ならきっと太古の妖精達が今どこに居るかも知ってるだろうからね」
「なるほど。観測者に果たして何が出来るのかは分らないが、古代妖精の力は絶大だ。もしも味方になってくれたら、それはかなり心強いね」
「僕の想像だけど、観測者は他にも結構色んな事が出来るんじゃないかな。それこそあちらの世界に自由に行き来が出来たりとかね」

 そう言ってノアは観測者から届いた樹脂板を見せた。

「これはあちらの世界の技術なんだよね。樹脂で出来た板に直接印字してある。これを作ったのは多分3Dプリンターっていう機械なんだ。これがあるのはあちらの世界で、僕が居た時代、もしくはもっと未来の物。という事は観測者は行きたい時代を自由に操れるって事が分かる。これを利用しない手はないよね?」

 そこまで言ってちらりとアンソニーとカールを見ると、二人はノアの言いたいことがよく分らないのか、キョトンとしている。

「二人に聞きたいんだけど、ゲートをくぐる時にどうやって時間指定をするの? 一分一秒まで設定出来るの?」
「いいや、ざっくりとしか出来ないんだ。最低でも年単位だね。だから僕はヤエが亡くなる一年前に移動しようと思ってたんだけど――」

 アンソニーが言い終える前にアリスとシャルが慌てて首を振った。

「ムリムリムリ! 絶対にムリ! あの時代に何の知識も無しに一年は厳しいよ! ていうかアンソニー王どう見ても日本人じゃないからさ、下手に行ったら戦争始まった時とかにどんな仕打ち受けるか分かんないよ!」
「アリスの言う通りです。もっと昔からそこに住んでいて顔見知りも沢山居るのなら手を貸してくれる方もいるでしょうが、一年では下手したらスパイ容疑をかけられますよ」
「そうなのかい? ヤエの居た国の敵は僕達のような風貌をしているのか」
「そうですね。なのでそれは危険です。ヤエさんに会う前にあなた達は捕らえられてしまう可能性があります」
「そうか、それは困ったね」

 真顔でシャルとアリスにそんな事を言われてアンソニーは腕を組んで考え込んだ。結局、どうやっても八重子は救えないのかもしれない。そんな事を考えていた矢先、正面でノアが、ふふ、と笑った。

「だからこそ、観測者にお願いするんだよ。どうかヤエさんが亡くなる数分前に送ってもらえませんか? ってね」
「ノア様、それは流石に難しいのでは? 観測者もソラの部下という事は個人的な干渉は出来ないと思うのですが」
「それはどうかな? もちろん観測者に聞いてみない事には分らないけど、何か抜け道があるかもよ? 妖精王の時みたいにさ」

 そう言ってノアがニコッと笑うと、仲間たちはいつもの事だなんて言うが、アンソニーとカールは顔を分かりやすく引きつらせた。

「君はもしかして神をも恐れないのかい?」
「どうかな。僕は無神論者だからなぁ。強いて言うならアリスが僕の神様みたいなものかも。彼女の為に僕は生きて、今ここに居るんだから」

 そしていつだってアリスはノアの未来を導いてくれる。ライラではないが、これはもう神様に近い気がする。

「相変わらずノア様の愛はドロドロですね」
「キリにだけは言われたくないけどね……。という訳だからあなた達の実験室を見せてよ。どうやってゲートが開くのか、それを知らないと何も対策立てられないから」
「ああ、そうだね。僕たちの事も考えてくれるのか。これは予想外だったよ」

 笑みを浮かべてアンソニーが言うと、ノアはチラリとアリスを見た。アリスはそんなノアを見て拳を握りしめて激しく頷いている。

「アリスがね、絶対にあなた達も助けてって言うもんだから。まぁ乗りかかった船だし仕方ないよね」

 アリスのお願いはほとんど断れないノアだ。何が何でもこの二人を助けなければならない。

「なるほど。ありがとう、アリス」
「いいよ! 私も愛の話が大好きだから! はい、これ二人にもあげる」

 そう言ってアリスが取り出したのはいつものカップリング厨会員カードだ。それを受け取ったアンソニーはカードを裏返して概要を読んで吹き出す。

「ははは! 会員番号が凄い桁数だね。アリス、ヤエとニコラの分ももらえるかい?」
「いいよ! はい!」
「父さん?」

 そんな事をしている場合ではないのでは? とカールがアンソニーに視線を向けると、アンソニーは穏やかに微笑んだ。

「いいじゃないか。直接二人に会って渡せたら最高だろう?」

 言いながらアンソニーは会員カードを大切に胸ポケットに仕舞うのを見てカールも渋々カードを仕舞う。

「何か色々分かったな。とりあえず俺はシャルルと一緒に今の話を城に持ち帰ってルイス達に伝えるわ。お前らはどうする?」

 大きく伸びをしてカインが言うと、アランがようやくフードを取った。

「僕はノアと一緒にゲートを見てきます。シャル、あなたも来てくれますか?」
「構いませんよ」
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