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第418話 リセット後の賢者たち
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ノアは言いながら資料を一枚ずつ丁寧にアンソニー達に見えるように並べ始めた。
「まず賢者の石について。ここにははっきりと2つあるって書いてある」
「それは本当だと思うぞ。俺たちの所にもさっき地下から連絡があった。ちなみにその石の在り処はドラゴンの谷だそうだ」
お茶を飲みながらカインが言うと、ノアはコクリと頷いた。
「うん、ここにも同じことが書いてある。賢者の石は現存するものが2つあり、1つはドラゴンが、1つはドラゴンの聖地に、ってね。ドラゴンの聖地と言えば一般的にはドラゴンの谷だろうから間違いは無さそうだね」
「ですがノア、もう一つ困った事になっていまして」
大きなため息を落としながらシャルルが言うと、ノアは小首を傾げている。
「そのドラゴンの谷に、既にアメリア達がいるのですよ」
「そうなんだよ! しかも子供たちがそこに向かうらしいんだ!」
シャルルに続いてカインが声を荒らげたけれど、ノアはいつも通りニコッと笑って言った。
「ああ、そうなの? まぁでも心配ないんじゃないかな。ドラゴンの谷にはもう石はないし、子供たちが見つけるんじゃないかな」
「は?」
「ど、どういう意味です?」
「いや、そのまんまだよ。キリ、ノエルに大分前にオリバーが地下で撮ったあのラピスラズリの部屋の写真を送ってやってくれる? あとこの資料も。賢者の石は多分あそこにあるから」
「分かりました」
言いながらキリはラピスラズリの部屋の写真とノアが持っていた資料を子供たちに送信した。
そんなノアとキリを見てカインとシャルルはおろか、アンソニーとカールまでポカンとしている。
「この資料を見て。賢者の石について結構細かく書かれてるんだ。色や形、それからエリクサーの作り方まで書いてある。これを見る限り、確かに最初はドラゴンの里に賢者の石はあったみたいだね」
机の上に散らばった書類から一枚抜き取ったノアは、それを真ん中に置いた。
「これがスチュアート家にあったのかい?」
「うん。この書類の他にもスチュアート家がしてきた数々の犯罪履歴と、あと謎の本。泥棒はこの書類を持ち出そうとしてた。多分スチュアート家がアメリア達と合流してもう一つの賢者の石の話をしたんだと思う。隠してある場所もね。でも残念ながら、もうドラゴンの谷に石は無いんだよね」
ノアはニコッと笑ってもう一枚、別の書類を取り出した。
「これは?」
「これはラルフ兄さんに頼んで送ってもらった前回の戦争の時に教会から押収した経典の一部だよ。オズが解除した部屋に金銀財宝と一緒に隠されてた古文書の写しなんだけど、ここにね、とある宝石の話が出てくるんだよ」
「それが賢者の石だというのですか?」
「そう。ていうか、それしか無いでしょ。経典にはリセット後すぐの話が書かれてた。そこには誰かがリセット後に賢者の石をドラゴンの里から持ち出したって書いてある」
「それは変ですよ! リセットされた時に全ての生物は絶えたのでしょう!?」
勢い余って立ち上がったシャルルの肩を、後ろから誰かが叩いた。振り返ると
そこには自分と瓜二つの人間が立っている。シャルだ。
「お待たせしました。色々と面白いことが分かりましたよ」
にこやかにそんな事を言ってシャルルの隣に腰掛けたシャルは、胸元から2冊の本を取り出した。
「ノアの予想は正しいです。これはリセット前に書かれたと思われる文書と、リセット直後に書かれた文書です。これによれば、星のリセットを免れた人たちが居たようなんですよ。それはあの時たまたま地下に居た者達です」
「それはどういう事なんだい? あのリセットの威力は地下にまでは及ばなかったということなのかな? そもそもどうして君がこんな物を?」
「私の友人に、ルイス・キンバリーという友人がいましてね。彼に事情を話して貸してもらったんですよ。これによると地下がどうやらシェルターのような役割をしたようですね。当時の地下は古代の妖精たちが作った空間でした。人間も妖精も動物もドラゴンも自由に行き来できていたようです。そしてリセットの日、たまたま地下に居た生物だけが助かった。けれど決して数は多く無かったようですね。だからディノは彼らの存在に気づかなかった。そもそもディノはリセット後は星の姫を守るのに必死だったようなので、そこに目が向かなかったのでしょう」
「それではその方たちが賢者の石を隠した、と?」
モノクルを押し上げながらカールが言うと、シャルは不敵に笑った。
「その通りです。リセットで世界が終わった事を知った彼らは、自らを賢者と名乗り、隠れてしまった古代妖精の代わりに石をドラゴンの里に隠したそうです」
「それが何故今はディノの地下にあるんだい?」
「それはね、誰かがドラゴンの里からディノの地下に石を移動させたからだよ」
そう言ってノアは教会から没収した経典を指差す。
「ああ、そういう事か。誰かが賢者の石の存在に気付いて、地上の人間に見つからないようにする為にドラゴンの里から持ち出したということか」
「その通り。地上にいつまでもあったら、いつ誰に盗まれるか分らない。だから地下に隠したんだ。教会からしたらそれはとても都合が良かった。何せディノの地下にあれば地上の生物に見つかる事はない訳だ。ところが、今はもう地下に彼らも入れなくなってしまった。これは僕の勘だけど、スチュアート家は悪事の証拠が議会に提出されたから逃げたんじゃなくて、地下が妖精王の管轄になった事を知って急いでアメリア達と合流したのかもね」
「ねぇねぇ兄様、古代妖精ってあの観測者にお願いしたやつ?」
「そうそう。よく覚えてたね」
無駄に記憶力が良いアリスの頭をノアはグリグリと撫でていると、目の前でアンソニーとカールが怪訝な顔をしている。
「観測者? 今、観測者と言った?」
「うん、言ったよ」
「本当に……存在しているのか?」
長く生きてきたアンソニーでさえその存在は名前しか知らない。それなのにどうやって見つけたというのか。
「存在してるよ。見つけたのはレスターだけどね」
「そんなまさか……妖精王のさらに上位の存在が居るというのは聞いていたけれど、まさか本当に居るとは……。いやはや、君たちの情報網には本当に驚かされるよ」
「僕たちは特に何もしてないけどね。妖精たちが手を貸してくれたんだよ。彼らもこの星の住人で、この星を守りたいって心から思ってる」
「はは、そうだったね。僕たちは唯一妖精たちとはあまり繋がりを作れなかったんだ。妖精達は妖精王の言わば直属。僕たちのように妖精王の加護が無い者からしたら眩しすぎる存在だから」
アンソニーが髪をかきあげながら言うと、それを聞いてノアはニコッと笑う。
「だからって何も妖精界に閉じ込めなくても良かったと思うけどね。わざわざ妖精の存在をおとぎ話に仕立て上げたりしてさ」
「まず賢者の石について。ここにははっきりと2つあるって書いてある」
「それは本当だと思うぞ。俺たちの所にもさっき地下から連絡があった。ちなみにその石の在り処はドラゴンの谷だそうだ」
お茶を飲みながらカインが言うと、ノアはコクリと頷いた。
「うん、ここにも同じことが書いてある。賢者の石は現存するものが2つあり、1つはドラゴンが、1つはドラゴンの聖地に、ってね。ドラゴンの聖地と言えば一般的にはドラゴンの谷だろうから間違いは無さそうだね」
「ですがノア、もう一つ困った事になっていまして」
大きなため息を落としながらシャルルが言うと、ノアは小首を傾げている。
「そのドラゴンの谷に、既にアメリア達がいるのですよ」
「そうなんだよ! しかも子供たちがそこに向かうらしいんだ!」
シャルルに続いてカインが声を荒らげたけれど、ノアはいつも通りニコッと笑って言った。
「ああ、そうなの? まぁでも心配ないんじゃないかな。ドラゴンの谷にはもう石はないし、子供たちが見つけるんじゃないかな」
「は?」
「ど、どういう意味です?」
「いや、そのまんまだよ。キリ、ノエルに大分前にオリバーが地下で撮ったあのラピスラズリの部屋の写真を送ってやってくれる? あとこの資料も。賢者の石は多分あそこにあるから」
「分かりました」
言いながらキリはラピスラズリの部屋の写真とノアが持っていた資料を子供たちに送信した。
そんなノアとキリを見てカインとシャルルはおろか、アンソニーとカールまでポカンとしている。
「この資料を見て。賢者の石について結構細かく書かれてるんだ。色や形、それからエリクサーの作り方まで書いてある。これを見る限り、確かに最初はドラゴンの里に賢者の石はあったみたいだね」
机の上に散らばった書類から一枚抜き取ったノアは、それを真ん中に置いた。
「これがスチュアート家にあったのかい?」
「うん。この書類の他にもスチュアート家がしてきた数々の犯罪履歴と、あと謎の本。泥棒はこの書類を持ち出そうとしてた。多分スチュアート家がアメリア達と合流してもう一つの賢者の石の話をしたんだと思う。隠してある場所もね。でも残念ながら、もうドラゴンの谷に石は無いんだよね」
ノアはニコッと笑ってもう一枚、別の書類を取り出した。
「これは?」
「これはラルフ兄さんに頼んで送ってもらった前回の戦争の時に教会から押収した経典の一部だよ。オズが解除した部屋に金銀財宝と一緒に隠されてた古文書の写しなんだけど、ここにね、とある宝石の話が出てくるんだよ」
「それが賢者の石だというのですか?」
「そう。ていうか、それしか無いでしょ。経典にはリセット後すぐの話が書かれてた。そこには誰かがリセット後に賢者の石をドラゴンの里から持ち出したって書いてある」
「それは変ですよ! リセットされた時に全ての生物は絶えたのでしょう!?」
勢い余って立ち上がったシャルルの肩を、後ろから誰かが叩いた。振り返ると
そこには自分と瓜二つの人間が立っている。シャルだ。
「お待たせしました。色々と面白いことが分かりましたよ」
にこやかにそんな事を言ってシャルルの隣に腰掛けたシャルは、胸元から2冊の本を取り出した。
「ノアの予想は正しいです。これはリセット前に書かれたと思われる文書と、リセット直後に書かれた文書です。これによれば、星のリセットを免れた人たちが居たようなんですよ。それはあの時たまたま地下に居た者達です」
「それはどういう事なんだい? あのリセットの威力は地下にまでは及ばなかったということなのかな? そもそもどうして君がこんな物を?」
「私の友人に、ルイス・キンバリーという友人がいましてね。彼に事情を話して貸してもらったんですよ。これによると地下がどうやらシェルターのような役割をしたようですね。当時の地下は古代の妖精たちが作った空間でした。人間も妖精も動物もドラゴンも自由に行き来できていたようです。そしてリセットの日、たまたま地下に居た生物だけが助かった。けれど決して数は多く無かったようですね。だからディノは彼らの存在に気づかなかった。そもそもディノはリセット後は星の姫を守るのに必死だったようなので、そこに目が向かなかったのでしょう」
「それではその方たちが賢者の石を隠した、と?」
モノクルを押し上げながらカールが言うと、シャルは不敵に笑った。
「その通りです。リセットで世界が終わった事を知った彼らは、自らを賢者と名乗り、隠れてしまった古代妖精の代わりに石をドラゴンの里に隠したそうです」
「それが何故今はディノの地下にあるんだい?」
「それはね、誰かがドラゴンの里からディノの地下に石を移動させたからだよ」
そう言ってノアは教会から没収した経典を指差す。
「ああ、そういう事か。誰かが賢者の石の存在に気付いて、地上の人間に見つからないようにする為にドラゴンの里から持ち出したということか」
「その通り。地上にいつまでもあったら、いつ誰に盗まれるか分らない。だから地下に隠したんだ。教会からしたらそれはとても都合が良かった。何せディノの地下にあれば地上の生物に見つかる事はない訳だ。ところが、今はもう地下に彼らも入れなくなってしまった。これは僕の勘だけど、スチュアート家は悪事の証拠が議会に提出されたから逃げたんじゃなくて、地下が妖精王の管轄になった事を知って急いでアメリア達と合流したのかもね」
「ねぇねぇ兄様、古代妖精ってあの観測者にお願いしたやつ?」
「そうそう。よく覚えてたね」
無駄に記憶力が良いアリスの頭をノアはグリグリと撫でていると、目の前でアンソニーとカールが怪訝な顔をしている。
「観測者? 今、観測者と言った?」
「うん、言ったよ」
「本当に……存在しているのか?」
長く生きてきたアンソニーでさえその存在は名前しか知らない。それなのにどうやって見つけたというのか。
「存在してるよ。見つけたのはレスターだけどね」
「そんなまさか……妖精王のさらに上位の存在が居るというのは聞いていたけれど、まさか本当に居るとは……。いやはや、君たちの情報網には本当に驚かされるよ」
「僕たちは特に何もしてないけどね。妖精たちが手を貸してくれたんだよ。彼らもこの星の住人で、この星を守りたいって心から思ってる」
「はは、そうだったね。僕たちは唯一妖精たちとはあまり繋がりを作れなかったんだ。妖精達は妖精王の言わば直属。僕たちのように妖精王の加護が無い者からしたら眩しすぎる存在だから」
アンソニーが髪をかきあげながら言うと、それを聞いてノアはニコッと笑う。
「だからって何も妖精界に閉じ込めなくても良かったと思うけどね。わざわざ妖精の存在をおとぎ話に仕立て上げたりしてさ」
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