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第417話 初恋の重み

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「そうでもないかもしれないぞ」
「どういう意味だ?」
「ドラゴンの谷には確かいくつかディノの地下と繋がる通路があったはずだ。ドラゴンの里に誰が石を隠したのかは知らんが、もしかしたら……もう一つの賢者の石もこの地下に隠されている可能性もあると思わないか?」
「確かに!」

 ユアンの言葉にノエルはハッとした。ディノはドラゴンの始祖だ。もしも自分が大切な何かを隠すとしたら、自分の部屋かもしくはノアの部屋に隠す。絶対に誰も迂闊に探す事が出来ないからだ。ノア以外は。

「どのみちもう地上から地下へ降りる道はどこも閉ざされてる。あちらから入ってくる事は出来ないんだ。地下からドラゴンの谷の近くまで行ってみるか」

 こうでもしておかないと、子供たちはただじっとしているなんて絶対に出来そうにない。賢者の石が地下にあろうが無かろうが、子供たちを何かに夢中にさせておきたいユアンが言うと、案の定子供たちは目を輝かせて「冒険だ!」と喜んだ。

「いいんですか? ユアン」
「いいんだよ。どのみち他にやることもないしな」

 ユアンはそう言ってアミナスが見つけた絵本を閉じて机の上にそっと置いた。

「それじゃあそろそろ行く?」

 レックスの言葉に全員が頷いた。そこへカインから妖精王に連絡が入った。

『妖精王! 今大丈夫か?』
「おお、婿か、どうした? そうだ、忘れぬうちに伝えておこう。攫われた赤ん坊だが、生きているぞ皆。ちなみに地上に居るようだ」
『そうか! それは朗報だ! でさ、こっちにもさっきキャロラインから連絡があってさ、子供たちには内緒にしててほしいんだけど、どうやらアメリア達の居場所が分かったんだよ』
「なに!? どこだ!」
『ドラゴンの谷だ』
「……遅かったか……」

 カインの言葉を聞いて妖精王は青ざめた。まさかもうアメリア達がドラゴンの谷に居るとは思ってもいなかったのだ。

『遅かった?』
「ああ、実は今な――」

 妖精王は今自分たちがユアンとアルファと一緒に居る事と、核で聞いたレックスとディノの関係について簡単に説明すると、案の定カインは怒った。

『ふざけんな! そんな事させる訳ないだろ! で、何かヒントはあったのか?』
「ああ。それがどうやら賢者の石は2つあったようなんだ。そして重要なのはここからだ。そのうちの1つはドラゴンの里にあるそうだ」
『……マジか。アメリア達はどこかでそれを知ったって事か? てか、ドラゴンの里はドラゴンの谷にあるのか?』
「恐らくな。どこであいつらがそれを知ったかは分からんが、こちらでは石に関する絵本をアミナスが見つけたんだ。きっとあちらもそういう古代の事にまつわる何かを保管しているのかもしれない」

 スマホ越しにカインが息を呑み黙り込む。いつまでも話し始めないカインに業を煮やしたのか、不意にルークが近寄ってきてスマホを貸せと妖精王に言ってきた。

「父さん?」
『……あ、ルークか。どうした?』
「僕たちは今から地下からドラゴンの谷の近くまで行くよ」
『はぁ!? ダメだ! 危ない事するなって言われてるだろ!?』
「危ないことはしないよ。僕たちは僕たちに出来る事をする。絶対にレックスを助けたいから」
『……』
「止めても僕たちは行く。父さん、もう迷ってる時間も立ち止まってる時間もないよ。ジャスミン達の予言の日まであと3日しか無いんだから」
『……そうだな。悪い、ありがとルーク。だけど地上には出るなよ? それだけは約束だ。愛してる』
「うん、僕も愛してる。それじゃあまた」

 いつもの調子に戻ったカインにルークは笑みを浮かべてスマホを切り、妖精王に返した。

「父さんはたまに凄く意気地なしになっちゃうんだよね」

 困ったような笑顔を浮かべてそんな事を言うルークの頭を妖精王が撫でた。

「そうだな。婿とフィルはよく似ている。お前のような息子が居て二人は幸せだ」
「へへへ。さて、それじゃあ行こ!」

 そう言ってルークは颯爽と歩き出そうとしたところでユアンに止められた。

「おい、手は繋げよ。誰でもいいから」
「あ、はい」

 なんだかんだ言いながら世話焼きなユアンにルークは小さく頷いてとりあえず隣に居たライアンの手を掴むと、ライアンは一瞬残念そうにチラリとアミナスを見る。

「ライアン、言いたい事は分かるけど、俺も我慢してるんだからな!」
「分かっている! 分かっているが……はぁ……初恋は実らないと言うのはやはり本当なのだな。心が痛い……」

 相変わらずレックスと嬉しそうに手を繋ぐアミナスを見てライアンはとぼとぼと歩き出した。

 そんな子供たちを後ろから眺めながらポツリとユアンが言う。

「初恋か。はは、まぁもっと苦しくなるのはこれからだけどな」
「……あなたの言葉は重いんですよ。さぁ、ではレックス、案内をお願いします」
「うん。こっち」

 そう言って、何故かずっとしっとりしているアミナスの手を握り直してレックスは歩き出した。



 洗いざらい吐いたグレイグの言葉を頼りにスチュアート家の資料を集め、後のことはゾル達に任せてバセット領に戻ってきたアリス達の元にカインからメッセージが届いた。そこには簡潔に『これからそっち行く。あと、シャル呼んどいて』と書かれている。

「アリス、シャルを呼んでおいてくれる?」
「おっけー!」

 アリスがノアの言う通りすぐさまシャルにメッセージを送っていると、どこからともなくカイン達が現れた。

 それと行き違いにアリスとキリが挨拶もそこそこに部屋を出ていく。

「便利だね、このメモ用紙は」

 カインの腕を掴んだまま一緒にやって来たアンソニーは感心したように何度も今しがた破かれたメモを見ていると、そんなアンソニーにカールがコホンと咳払いをして諫める。

「父さん、そんな物に興味を示している場合ではないのですよ」
「そうは言うけれど、これがあればどこへでも行けるのかい? これを使ってアメリアの所にも行けるのでは?」

 アンソニーの言葉にカールがハッとしてシャルルを見たが、シャルルは残念そうに首を横に振った。

「無理です。これは妖精王の加護に基づいているので」
「そうか、無理か。残念だね」

 モルガナもアメリアも妖精王の加護はない。どうやらあの二人の所へは一瞬で運んでくれる事は無いようだ。

「お茶とお菓子持ってきたよ~」

 ようやく部屋に戻ってきたアリスは、皆の前にさっさとお茶とお菓子を配ってお気に入りのソファに座った。そんなアリスを確認してノアが机の上に数枚の資料を置く。

「これは何だい?」
「スチュアート家から盗み出されそうになってた資料だよ」
「盗み出されようとしていた?」
「そう。寸前の所で盗もうとした人を捕まえて書類を貰ってきたんだ。あそこの書類、多分ユアンが仕込んだんじゃないかな。スチュアート家を陥れる為に」
「ユアンが?」
「そう。処刑される前からあの人は多分、ずっとこうやって色んな資料をスチュアート家に持ち込んでたんだと思う。いつかこうなる事を見越してね。でもそれとは多分別の書類だよ、これなんだけど」
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