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第416話 バラ違い

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「そうですか、で、あそこまではどうやって行けば?」
「梯子があったけど、今はもう朽ち果ててる。自力で登るしかないと思う」

 淡々と言ったレックスにアルファは大きなため息を落としたその時、テオがズイっとアミナスを差し出してきた。

「ほらアミナス、仕事だ。この紐持ってあの棚からこのタイトルの本取ってきて」
「分かった! ちょっと待ってて!」

 テオに頼られた事が嬉しくてアミナスが太い柱にしがみついて一気に登り始めた。そんなアミナスを下から見上げていたアルファがポツリと言う。

「……早いですね」
「うん、アミナスは猿の化身だから。あ、見つけたみたいだ。アミナス、その本をリュックに入れて紐にくくりつけてそこから下ろして」
「分かった~! ぎゅ! ぎゅ! いっくよ~」

 アミナスは本を言われた通りリュックに詰め込んで紐にくくりつけてリュックを下ろした。すると今度は下からライアンが声をかけてくる。

「アミナス、今度は犬の棚の97番の『鉱石の歴史』という本を取ってくれ!」
「いいよ~。レックス、犬の棚はどこ~?」
「そこから三段下の棚。そこが犬科の棚」
「あいよ~! とうっ!」

 レックスの言う通り三段下に飛び降りたアミナスは言われた通り一冊の本を取り出してリュックに詰めてまた下ろす。

 こうして色んな棚から本を下に運んだアミナスは、ようやく下に降りる許可がもらえた。

「おかえり、アミナス」

 猿のように柱を伝ってあっちこっちに行き来するアミナスを下からヒヤヒヤしながら見守っていたノエルが戻ってきたアミナスの頭を撫でると、アミナスはニカッと笑う。

「うん! 他には? 他には取ってくる本ない!?」
「今のところはね。でも何も見つからなかったらまたお願いするかも」
「分かった! それじゃあ準備運動しとこっと」

 そう言ってストレッチをし始めたアミナスにレオが冷たい声で言う。

「邪魔なのでどこかで大人しく本でも読んでいてください。邪魔なので!」
「二回も邪魔って言った!」
「あなたのストレッチはストレッチではないのです。こんな所であんな事をされたらホコリが舞うので止めてください」
「ちぇ! はぁい」

 怖い顔でレオに詰め寄られたアミナスは、仕方なくそこらへんに積んであった本を漁ってみた。文字がびっしりの本は避けて、出来るだけ絵が沢山書いてあるものを選んでいると、どう見ても子供向けの絵本を一冊見つけた。

「へへ、いいのあった。えっとー『昔々、遠い昔のお話です。ある星にそれはそれは大きな大きな妖精が住んでいました。妖精はいつも不思議な石を持っていました。それは彼の宝物だったのです。石はラピスラズリよりもずっと深い青で、光に翳せばキラキラと虹色に光り、永遠の命の象徴とも言われる――』ぎゃん!」
「どうしてあなたは静かに本を読めないのですか! いちいち読み上げなくてもよろしい!」
「ぶー!」

 気分良く音読していた所をレオに邪魔されてへそを曲げたアミナスが本を閉じようとすると、突然アミナスの体がふわりと浮いた。

「でかしたアミナス! それ賢者の石の事だろ! なぁ? アルファ」
「ええ……驚きました。よく見つけましたね」

 感心したように言うと、アルファはアミナスから絵本を受け取ってパラパラとめくった。そしてある一箇所でピタリと手を止める。

「どうした?」
「大変だ……もしこれをアメリア達が知ったら……」

 そう言ってアルファは絵本を皆にも見えるように机に広げ、一箇所を指さした。それを今度はユアンが読み上げる。

「『世界が無くなり古代妖精が隠れた後、残された賢者は言いました。星がもう一度再生する時、この石はきっと邪魔になる。そうだ、隠してしまおう。誰にも見つからないように、この星を統べるドラゴンの里に』って、これお前……ドラゴンの谷の事か?」
「多分そうなんじゃないでしょうか。ドラゴンの里というのがドラゴンの谷のどこにあるのかは分かりませんが、少なくともジャスミンさん達のぬいぐるみによれば賢者の石は2つあり、そのうちの一つは今はレックスの中に、そして残りの1つはドラゴンの里にある、という事でしょう」

 アルファが顔を上げて言うと、ユアンは眉根を寄せた。

「参ったな。賢者の石があいつらの手に渡るのは避けたいが、もうそんな事に構ってる時間もない。ディノも目覚めさせなきゃならないし、やることが多すぎる!」
「初めの作戦からは大分乖離してますからね。アンソニー達にもこの事は知らせるべきでしょう」
「だな。アルファ、連絡頼むわ」
「ええ」
「む? お前のスマホはどうした?」

 いちいちアルファに連絡を頼むユアンに妖精王が首を傾げると、ユアンは淡々と理由を告げる。

「俺は元々持ってないんだ。こういうのは便利だがどうにも使いこなせなくて」
「そうなのか? こんなにも便利だと言うのに。では今まで連絡手段はどうしていたんだ?」
「俺だけ鳩だったな。スチュアート家で育ったおかげで何でも文書にして残す癖がついてるみたいだ」

 苦笑いを浮かべたユアンを見て妖精王は深く頷いた。

「鳩か……今どき我らでも使わんぞ。だがその習慣のおかげでスチュアート家が犯してきた罪が発覚したと先程シャルルが喜んでいたぞ。しかしスチュアート家も不思議な事をする。なぜ自ら犯した罪の証拠になるような文書を残したのだ?」
「ああ、それ残したの俺だから。あっちが俺の事を捨て駒にしようとしてる事なんて早い段階で分かってたから、家にとって都合の悪い事も全部残しておいたんだ。他の書類に紛れ込ませて」

 正に死なばもろともという奴である。

「危ない橋を渡るものだ。バレたらどうする気だったのだ」
「別にどうも。どのみち俺は使い捨てだ。それが早くなるか遅くなるかの違いなだけでな。ただ一番ビックリしたのは、よく親父達が言っていたバラというのが奴隷達の事だった事だな」
「おじいちゃんは知らなかったの?」
「知らなかったさ。俺たちの言うバラはヴァニタスに運ばれる魂を持った奴らの事で、まさか自分の家が率先して奴隷商紛いの事してたなんてな」
「よく知らないままで居ましたね。少しぐらい気付きそうなものですけど」

 不思議そうなアルファにユアンはフンと鼻を鳴らす。

「家督を正式に継ぐまでは教えないしきたりなんだそうだ。ちなみにその正式な家督を継ぐって言うのは、裏取引に参加するって意味らしいぞ。アンソニーが調べた限りでは」

 その話を聞いた時、要は奴隷を扱える程の精神があるかどうかを試されるという事なのだろうと理解したユアンは、早々に表舞台から離脱して本気で良かったと思った。あのまま正式に継いでいたら何をさせられていたか分かったものではない。

「アンソニー王は何でも調べられるんだね。凄いな」

 感心したようにテオが言うと、アルファが声を出して笑った。

「アンソニー達にはそれはもう沢山の目があちこちにありますからね。アメリア一派も沢山居ますが、いざという時はすぐにでも動ける目が全世界に散らばっているんですよ」
「なるほど。流石長生きしているだけあるな。とにかく人脈は凄そうだ。しかし結局賢者の石は地上にあるのか……」

 妖精王が途方にくれた顔で言うと、ユアンが腕を組んで少し考え言った。
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