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第423話 二人の男
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「おい! 本当にここにあるのか!?」
「そのはずです。谷にも里にも無かった。という事は、やはりあの経典の通りこの地下のどこかにあるのでしょう」
「はっ! 何故私がこんな事をしなければならないのだ! あの小娘、覚えていろよ! 大きな顔をしていられるのも今のうちだ」
「仕方がありません、旦那様。地下はもう妖精王の管轄です。アメリア達は妖精王の権限で入れないのですから。地図によるとこちらですね」
「その地図も当てになるのか? こんな事なら先にエリザべスを捕らえてユアンを戻すべきだったな。こういう汚い仕事こそあいつ向けだ」
二人の男はそんな事を話しながら通路をどんどん進んで行った。その直ぐ側に子供たちやユアン達が居ることも知らずに。
男たちが完全に通り過ぎたのを確認したノエルがチラリとユアンを見ると、ユアンは苦笑いを浮かべてノエルの頭を撫でる。
「お察しの通り、親父殿だな。一体何でここに……」
ベン・スチュアート。スチュアート家の現当主でユアンの父親だ。それが何故こんな所に?
「あ、それは多分これだと思う」
ノエルはそう言ってノアとアリスから届いていたメッセージを見せた。
ノアからのメッセージには『アメリア達からスチュアート家当主を引き離すため、ユアンが仕込んだ書類使って一時的に地下に誘導するから、アリス達が行くまでどこかで隠れている事!』と書かれている。
ちなみにアリスからは『ちょっと待っててね~! すぐ行く! ハグッ!』とあったので、ノエルは苦笑いを浮かべながらすぐに『ハグ!』と返しておいた。
「なるほど。ふぅ~ん、じゃ丁度いいな。そろそろ俺もあいつらにはうんざりしてたんだよ」
そう言ってユアンは口の端だけを上げて不敵に笑うと、おもむろに廊下に飛び出して行った。
「ス、スルガ! と、止めなくて良かったのか!?」
あまりのユアンの素早さに止める間も無かったライアンがハッとして言うと、アルファも我に返ったように右往左往しだした。
「そ、そうですね! あ、でもあなた達を置いて行く訳には! あ、でもアリスさんが来るんですよね?」
「うん、そうみたい」
「では安心ですね。スチュアート家の事はユアンに任せておきましょう。ノア様の言う通り、しばらくここで隠れていた方が良さそうですね」
アリスが来るなら安心だ。アルファが胸を撫で下ろしていると、今度はレオとカイが同時に声を上げる。
「ノエル様、父さんからです」
「俺にも来ました。賢者の石についての情報と……画像、ですね」
二人は同時にスマホをノエルとアルファに見せた。
「これは……ラピスラズリ? どこなのでしょうか?」
「分かんない。レオ、カイ、この画像がどことかは書かれてないの?」
「はい。画像だけですね」
「ですが賢者の石はどうやらラピスラズリにとてもよく似ているようです」
キリからの石の情報はとても簡潔だった。『ラピスラズリのような青。光に翳すと虹色に光り、大きさは拳大』だけである。
「それ、ラピスラズリの部屋だと思う」
「え!?」
ノエルの隣から双子たちのスマホを覗き込んでいたレックスが言うと、皆がギョッとしたような顔をしてレックスを見た。
「そんな部屋があるの?」
「ある。各宝石の部屋。でも入るにはちょっとだけ条件がある」
ノエルの質問にレックスが答えると、アルファはそれを聞いて顔をしかめる。
「各宝石の部屋、ですか。噂は本当だったんですね」
「噂? 何かそんな噂があったのか? 我でも宝石の部屋など持っていないぞ」
「ええ、そうなんです。一部の人たちがよく言ってたんですよ。地下には金銀財宝が眠っている。ディノの力の源は鉱石そのものだ。だから今でもお宝はずっとこの地下にあるはずだ、なんて噂があったんですよ」
「ふむ。そしてそれは噂ではなく、本当にある、と?」
「ある。だけど鉱石を宝石として見るような人たちは入れない」
「鉱石を宝石として見る? どういう事?」
謎掛けのようなレックスの言葉にテオが首をひねると、レックスが真顔で言った。
「そのまんまの意味。欲があると入れない。そういう部屋なんだ」
「なるほどね。泥棒対策って事か。じゃ、決まりだね。そこに行こう」
いつだって決断が早いテオが言うと、ジャスミンが横腹を抓ってきた。
「バカね、テオってば。今はここで大人しくユアンさんが戻るのを待つべきでしょ?」
「そんな事言ってる間に見つかったらどうするの?」
「さっきの人たちに見つけられると思うの?」
「そうだよ~。さっきの二人は欲が服着て歩いてるような人たちだよ~? 無理無理!」
キャハハ! と呑気に笑うローズにその場に居た全員が思わず頷いてしまった。確かにその通りだ。もしもレックスの言う事が本当なら、あの二人は逆立ちしても入れまい。
「それもそうか。それにしてもアリスはどうやって来るつもりなんだろう? アリスは地下への入り方知ってるの?」
「どうなんだろう……? でも母さまだからどうにかするんじゃないかな」
そう言ってニコッと笑ったノエルにテオも真顔で頷く。
「そうだな。アリスだもんな。それにしてもここでただ待つだけって言うのも……ん? そう言えばアミナスどこ行ったの?」
「え? あ! ほんとだ居ない!」
テオに言われてノエル達は辺りを見渡して青ざめた。何だかもう嫌な予感しかしない。
「はぁ……お手洗いでしょうか?」
「希望はそれですが、絶対に違うと思います」
「……そうですね。カイ」
「……はい、行ってきます」
双子は疲れ果てたように短い会話をしてカイが立ち上がった。こういう時は唯一アミナスを止められるカイの出番だ。
「我も行こうか」
「お願いします、と言いたいところですが、あなたは直接手を出せないでしょう?」
「む、そうであった……不甲斐ない」
たまには良い所を見せなければ! と思った妖精王だったが、規約を思い出してしょんぼりと体育座りをする。
「では行ってきます。くれぐれも皆さんは動かないでくださいね」
「カイ、気をつけてね」
「はい」
ノエルに労いの言葉をかけてもらいつつ部屋から出たカイは、先程ユアンが走っていった方角を目指した。
「そのはずです。谷にも里にも無かった。という事は、やはりあの経典の通りこの地下のどこかにあるのでしょう」
「はっ! 何故私がこんな事をしなければならないのだ! あの小娘、覚えていろよ! 大きな顔をしていられるのも今のうちだ」
「仕方がありません、旦那様。地下はもう妖精王の管轄です。アメリア達は妖精王の権限で入れないのですから。地図によるとこちらですね」
「その地図も当てになるのか? こんな事なら先にエリザべスを捕らえてユアンを戻すべきだったな。こういう汚い仕事こそあいつ向けだ」
二人の男はそんな事を話しながら通路をどんどん進んで行った。その直ぐ側に子供たちやユアン達が居ることも知らずに。
男たちが完全に通り過ぎたのを確認したノエルがチラリとユアンを見ると、ユアンは苦笑いを浮かべてノエルの頭を撫でる。
「お察しの通り、親父殿だな。一体何でここに……」
ベン・スチュアート。スチュアート家の現当主でユアンの父親だ。それが何故こんな所に?
「あ、それは多分これだと思う」
ノエルはそう言ってノアとアリスから届いていたメッセージを見せた。
ノアからのメッセージには『アメリア達からスチュアート家当主を引き離すため、ユアンが仕込んだ書類使って一時的に地下に誘導するから、アリス達が行くまでどこかで隠れている事!』と書かれている。
ちなみにアリスからは『ちょっと待っててね~! すぐ行く! ハグッ!』とあったので、ノエルは苦笑いを浮かべながらすぐに『ハグ!』と返しておいた。
「なるほど。ふぅ~ん、じゃ丁度いいな。そろそろ俺もあいつらにはうんざりしてたんだよ」
そう言ってユアンは口の端だけを上げて不敵に笑うと、おもむろに廊下に飛び出して行った。
「ス、スルガ! と、止めなくて良かったのか!?」
あまりのユアンの素早さに止める間も無かったライアンがハッとして言うと、アルファも我に返ったように右往左往しだした。
「そ、そうですね! あ、でもあなた達を置いて行く訳には! あ、でもアリスさんが来るんですよね?」
「うん、そうみたい」
「では安心ですね。スチュアート家の事はユアンに任せておきましょう。ノア様の言う通り、しばらくここで隠れていた方が良さそうですね」
アリスが来るなら安心だ。アルファが胸を撫で下ろしていると、今度はレオとカイが同時に声を上げる。
「ノエル様、父さんからです」
「俺にも来ました。賢者の石についての情報と……画像、ですね」
二人は同時にスマホをノエルとアルファに見せた。
「これは……ラピスラズリ? どこなのでしょうか?」
「分かんない。レオ、カイ、この画像がどことかは書かれてないの?」
「はい。画像だけですね」
「ですが賢者の石はどうやらラピスラズリにとてもよく似ているようです」
キリからの石の情報はとても簡潔だった。『ラピスラズリのような青。光に翳すと虹色に光り、大きさは拳大』だけである。
「それ、ラピスラズリの部屋だと思う」
「え!?」
ノエルの隣から双子たちのスマホを覗き込んでいたレックスが言うと、皆がギョッとしたような顔をしてレックスを見た。
「そんな部屋があるの?」
「ある。各宝石の部屋。でも入るにはちょっとだけ条件がある」
ノエルの質問にレックスが答えると、アルファはそれを聞いて顔をしかめる。
「各宝石の部屋、ですか。噂は本当だったんですね」
「噂? 何かそんな噂があったのか? 我でも宝石の部屋など持っていないぞ」
「ええ、そうなんです。一部の人たちがよく言ってたんですよ。地下には金銀財宝が眠っている。ディノの力の源は鉱石そのものだ。だから今でもお宝はずっとこの地下にあるはずだ、なんて噂があったんですよ」
「ふむ。そしてそれは噂ではなく、本当にある、と?」
「ある。だけど鉱石を宝石として見るような人たちは入れない」
「鉱石を宝石として見る? どういう事?」
謎掛けのようなレックスの言葉にテオが首をひねると、レックスが真顔で言った。
「そのまんまの意味。欲があると入れない。そういう部屋なんだ」
「なるほどね。泥棒対策って事か。じゃ、決まりだね。そこに行こう」
いつだって決断が早いテオが言うと、ジャスミンが横腹を抓ってきた。
「バカね、テオってば。今はここで大人しくユアンさんが戻るのを待つべきでしょ?」
「そんな事言ってる間に見つかったらどうするの?」
「さっきの人たちに見つけられると思うの?」
「そうだよ~。さっきの二人は欲が服着て歩いてるような人たちだよ~? 無理無理!」
キャハハ! と呑気に笑うローズにその場に居た全員が思わず頷いてしまった。確かにその通りだ。もしもレックスの言う事が本当なら、あの二人は逆立ちしても入れまい。
「それもそうか。それにしてもアリスはどうやって来るつもりなんだろう? アリスは地下への入り方知ってるの?」
「どうなんだろう……? でも母さまだからどうにかするんじゃないかな」
そう言ってニコッと笑ったノエルにテオも真顔で頷く。
「そうだな。アリスだもんな。それにしてもここでただ待つだけって言うのも……ん? そう言えばアミナスどこ行ったの?」
「え? あ! ほんとだ居ない!」
テオに言われてノエル達は辺りを見渡して青ざめた。何だかもう嫌な予感しかしない。
「はぁ……お手洗いでしょうか?」
「希望はそれですが、絶対に違うと思います」
「……そうですね。カイ」
「……はい、行ってきます」
双子は疲れ果てたように短い会話をしてカイが立ち上がった。こういう時は唯一アミナスを止められるカイの出番だ。
「我も行こうか」
「お願いします、と言いたいところですが、あなたは直接手を出せないでしょう?」
「む、そうであった……不甲斐ない」
たまには良い所を見せなければ! と思った妖精王だったが、規約を思い出してしょんぼりと体育座りをする。
「では行ってきます。くれぐれも皆さんは動かないでくださいね」
「カイ、気をつけてね」
「はい」
ノエルに労いの言葉をかけてもらいつつ部屋から出たカイは、先程ユアンが走っていった方角を目指した。
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