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第440話 淡い初恋

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 アリス達が探していた大きな賢者の石。果たしてそれは、突然に見つかった。

「……こ、これはまた……」

 目の前に現れた巨石にアルファがゴクリと息を呑む。

「見つけたのはいいが、ど、どうやってこれを運ぶのだ?」

 妖精王はドラゴンの拳と言うにしても大きすぎる岩を見上げながら言うと、同じように石を見上げていたキリが懐中電灯を取り出した。

「一応確認しておきます」

 断りを入れて石に懐中電灯を当てると、不思議な事に光が当たった部分だけが虹色に光った。間違いなくこれが賢者の石のようだ。

「おい皆! ここ! ここが欠けているぞ!」

 巨石の裏に回り込んでいたライアンが皆に手を振ると、子供たちがゾロゾロとやってくる。

「ほんとだねぇ~誰かが齧った後みた~い」

 ライアンが見つけた場所はちょうど子供サイズの握りこぶしぐらいの穴がぽっかりと開いていた。

「これがレックスの心臓に入っているのかしら」
「そうなんじゃない? 凄いな、レックスは本当に石で出来てるのか」

 感心したように言うテオに、何故かライアンとルークが自慢げに頷く。

「そうだぞ! あいつは凄いんだ。何でも知っているしな!」
「そうそう。あの歳でずっと一人で旅してただけあるよ。うん、レックスは凄い!」
「何でお前らが自慢げなの? レックスはライバルでしょ?」
「だからだ! しょうもない男にアミナスが奪われるのは何というか、こう、腹の虫が収まらんのだ!」
「ライアンは正直だな。でも俺もそう……レックスなら……かろうじて身を引ける……と思う」
「ああ、そう。レックスを越えようとは思わないだ。まぁ別に僕としてはそっちに方が都合がいいけど」

 このまま順当にいけば次の王位継承でライアンが王になった時、政の補佐をしなければならないのはオーグ家の次期当主であるテオだ。その時にライアンかルークの嫁がアミナスになるのだけは絶対に避けたい。

 テオの言葉にライアンとルークは一瞬ハッとした顔をして互いの顔を見合わせて何かに気づいたように闘志を燃やす。

「本当だな! テオの言う通りだ! 最初から諦めたらそこで終わりだぞ、ルーク!」
「本当だよ! テオ、叱咤激励ありがとう!」
「あ、いや別に叱咤激励はしてないんだけど……聞いてない……」

 どうやら余計な事を言ってしまったと気づいたテオが助けを求めるようにノエルを見たが、ノエルはただニコニコしているだけで何を考えているのかさっぱりだ。

「テオってばおバカね。見ていて」

 そう言ってジャスミンが一歩前に出て盛り上がるライアンとルークの肩を軽く叩いた。

「ねぇライアン、ルーク、確かに最初から諦めるのは良くないわ。でも最初から勝負が決まりきっている場合はそれ以前の問題だと思うの。だってね、不毛でしょ? 時間の無駄じゃない? そもそもあなた達みたいにお城で何の苦労もなく今まで生きてきた小童が、野生の中で生きてきたアミナスを制御出来るの? 絶対に無理よね? 何よりもアミナス自身がずっと言ってるじゃない。レックスが笑うと心臓がサンバを踊るんだって。ここにもう答えは出ているわ。あなた達が今更何をしたってどんな事をしたってレックスのようにはなれない。アミナスの体力についていく事も出来ない。それが出来るのは……レックスかノエル、カイだけよ」
「……小童」
「……何しても……無理……」

 ニコニコ笑顔のジャスミンはもしかしたらライアンとルークの傷が浅いうちに引導を渡してくれようとしているのかもしれない。そうかもしれないけれど、あまりにも刺さる棘が二人の心を抉りすぎる。

「ジャ、ジャスミン! 言い過ぎ! 言い過ぎだから!」

 暴走しかけたジャスミンの口を慌てて塞いだテオは、ジャスミンを自分の後ろに隠してライアンとルークの頭を慰めるように撫でた。

「二人共、それは恋心じゃないと僕は思うよ」
「え?」
「なんで?」
「二人のそれは、強いアミナスに対しての憧れだと思う。だって考えてもみて? アミナスは間違いなくああなるよ」

 そう言ってテオは振り返って嫌がるノエルを巨石の上に引っ張り上げようとしているアリスを指さした。

「ノエル! ほら、ポーズ取って! 兄さまに送るから!」
「ちょ、母さま押さないで、落ちる! 滑るんだってば!」
「大丈夫! ちゃんと掴んでるから! はい、ニカッ!」
「ニ、ニカッ」
「良し! あ!」
「え? ちょ、わぁぁぁ! 何で離すのぉぉぉ!」
「ノエルぅぅぅ~~!」

 ツルツルに磨き上げられた巨石からノエルが滑り落ちていく。それをアリスはすかさず下に回り込んで無事にキャッチしてノエルに叱られて笑っている。

「お前ら、あれがアミナスと結婚するって事だよ。あれを笑って許せるの? それともノアみたいに圧かけてちゃんと説教できる?」
「……無理かもしれん」
「俺も……多分ビックリして気絶する。ノエル凄い」
「そうだろ? アミナスのあんな所も愛せなきゃいけないんだ。だって、それがアミナスなんだから」
「……」

 静かなテオの言葉に二人は俯いて黙り込んだ。淡い恋心が砕け散った瞬間だった。

「それにしても大きいですね。で、これをどうすればいいんですか?」
「え?」

 キリの言葉にアリスはキョトンと首を傾げた。そう言えばそうだ。見つけはしたものの、これをどうすればいいのだ。

「賢者の石は無事に見つけました。で?」
「で……えっと……で?」

 キリの視線から逃れるように妖精王を見ると、妖精王もオロオロしながら視線を彷徨わせる。結局誰もその先を知らないのである。
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