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第481話 焦り
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「はぁ……突然何を言い出すのかと思ったら。そういうのは早く言ってよ。もうあんた達の準備しちゃったんだよ!?」
言いながらリアンはせっかくまとめたジャスミンとローズの荷物を解き出した。そんなリアンに申し訳無さそうな顔ひとつしないジャスミンとローズは、完全にリアンとライラの子だ。
「ごめんなさい、父さま。でもそれは別に解かなくてもあっちに持っていけばいいと思うの」
「ダメダメ。この荷物の大半は武器だから。あっちに行くなら行くで違うもの詰めないと。で、頑固な君たちの心境の変化は一体なんなの?」
「まぁリー君ってば、そんなの聞かなくても分かるじゃないの」
荷ほどきしながらどこか嬉しそうなリアンにライラはコロコロと笑う。
娘たちの自立心は尊重するが、守りは鉄壁にしないと! などと言いながら昨夜遅くまで二人のリュックにアリス特製の武器を詰めていたリアンだったが、本当のところは安全なレプリカに皆と一緒に移動してほしかったのだろう。
だから二人の面倒な荷ほどきもこんなにも嬉々としてやっているのだ。
完全に心の内をライラに読まれているリアンはさりげなく咳払いをする。
「なに? 僕には何も思いつかないんだけど?」
「何って……愛しかないじゃない! ねぇ? 二人共」
ライラが娘二人に視線を送ると、二人はすぐさま頷いた。
「テオがね~私達が一緒に行かないと商会千年計画が潰れるでしょって言うの~。それもそうだよね~って」
「ローズ、何度も言うけどチャップマン商会を流石に千年続けるのは難しいと思うよ?」
「そんな事ないもん! 父さまは商会を愛してないの~?」
「愛してない事はないけど、流石に千年続いて欲しいとはあんまり思ってないけど」
「ぶー!」
「こら! アミナスとかアリスの真似しないの! いつも言ってるでしょ? アリスは感染型だからって! 感染したら本当に危ないんだからね!」
「あら、私はアリスみたいな娘可愛いと思うけど……大地の化身が自分の娘だなんて、ちょっと胸がキュンとしない?」
「ぜんっぜんしないよ! 胸がギュッっとするよ! で、ジャスミンは?」
「私はね、巻き込まれたの。だってテオが、私と結婚する事が商会千年計画の始まりでしょ? って。だから仕方ないわね、って」
「ダメダメダメ! 良し、ジャスミンはこっちに残りなさい。僕とライラの側に居て。これからも一生、ずっと!」
「嫌よ。私だって母さまと父さまみたいに幸せな結婚生活を送りたいもの。それに相手がテオなら気を使わなくてもいいし、私の毒舌も慣れっこだから胃を傷めないからお互いにちょうどいいの」
「な、な、何言ってんの!? 相手公爵家だよ!? 言っとくけどうちみたいなミジンコ伯爵家とぜんっぜん違うんだよ!?」
というよりも何よりも、王家と親族になりたくないリアンである。正直家柄などどうでもいい。可愛い娘をどこかに嫁がせたくないという気持ちと、これ以上王家との繋がりを持ちたくない。それだけである。
「今どき家柄とか言ってんのナンセンスだよ~。アリスにぶん投げられちゃうよ~?」
「そうよ、リー君。それにテオ君は優しいし一途だし、そういうのを取っ払ったらとても良い結婚相手よ?」
「そ、そうかもだけど! テオには何の問題もないよ! 僕もあの子好きだよ! ただなぁ……姉が王妃……なんだよなぁ……ああ、思い出す……王子に目をつけられてからの日々……それもこれもぜんっぶあいつのせいなんだけど!」
一体どこでどう人生を間違えたのか、アリスと関わったばっかりに女装でプロポーズする羽目になるわ、ルイス達と友人になるわ、世界を救う羽目になるわ散々である。
今思えばアリスを一番最初に認識したのはあの学園での鬼ごっこの時だ。あの時リアンは洞窟にじっと隠れてただ時間が過ぎるのを待っていた。鬼ごっこは貴族が下っ端貴族を追い回すためだけに作られたゲームだった。そんなしょうもないゲームに参加するのはバカげている。どうせ負けるならせめて最後まで見つからずにいてやる。そう思っていたのに、結果は鬼が勝ち、それをやり遂げたのがアリスだったのだ。洞窟から出てアリスを初めて確認した時心に誓った。『あいつとは絶対に関わらないようにしよう』と。
リアンは机に突っ伏して長い長い溜息を落とす。
「その話はまた帰ってきたら話そうか……そもそもまだテオとジャスミンの口約束だもんね」
そうだ。そもそもテオは公爵家の次期当主だ。そんな家柄の人間が本気でミジンコ伯爵家を相手になどするはずがない。
「そっか! これはあれだ。ちっちゃい頃に当人同士の口約束で終わるパターンの奴だ。うん、そうだな! よし! それじゃああっちに何持っていく!? 二人共!」
リアンは自分に言い聞かせて勢いよく顔を上げた。ちょっと現実に目を向ければそんな事が起こるはずがない。そういう身分違いの恋物語は本の中だけで十分だ。
「……」
突然元気になったリアンを見てジャスミンとローズが何かを言いかけようと口を開いたその時、ライラがそんな二人をそっと手で制して口元に指先を当てて微笑んだ。そんなライラを見て二人は口を噤んで頷く。
ジャスミンとローズにははっきりと見えていた。テオとジャスミンが周囲の根回しによって本当に数年後に結婚する事になるという未来が。そしてその時のリアンの形相はとても言葉では言い表せないということも。
言いながらリアンはせっかくまとめたジャスミンとローズの荷物を解き出した。そんなリアンに申し訳無さそうな顔ひとつしないジャスミンとローズは、完全にリアンとライラの子だ。
「ごめんなさい、父さま。でもそれは別に解かなくてもあっちに持っていけばいいと思うの」
「ダメダメ。この荷物の大半は武器だから。あっちに行くなら行くで違うもの詰めないと。で、頑固な君たちの心境の変化は一体なんなの?」
「まぁリー君ってば、そんなの聞かなくても分かるじゃないの」
荷ほどきしながらどこか嬉しそうなリアンにライラはコロコロと笑う。
娘たちの自立心は尊重するが、守りは鉄壁にしないと! などと言いながら昨夜遅くまで二人のリュックにアリス特製の武器を詰めていたリアンだったが、本当のところは安全なレプリカに皆と一緒に移動してほしかったのだろう。
だから二人の面倒な荷ほどきもこんなにも嬉々としてやっているのだ。
完全に心の内をライラに読まれているリアンはさりげなく咳払いをする。
「なに? 僕には何も思いつかないんだけど?」
「何って……愛しかないじゃない! ねぇ? 二人共」
ライラが娘二人に視線を送ると、二人はすぐさま頷いた。
「テオがね~私達が一緒に行かないと商会千年計画が潰れるでしょって言うの~。それもそうだよね~って」
「ローズ、何度も言うけどチャップマン商会を流石に千年続けるのは難しいと思うよ?」
「そんな事ないもん! 父さまは商会を愛してないの~?」
「愛してない事はないけど、流石に千年続いて欲しいとはあんまり思ってないけど」
「ぶー!」
「こら! アミナスとかアリスの真似しないの! いつも言ってるでしょ? アリスは感染型だからって! 感染したら本当に危ないんだからね!」
「あら、私はアリスみたいな娘可愛いと思うけど……大地の化身が自分の娘だなんて、ちょっと胸がキュンとしない?」
「ぜんっぜんしないよ! 胸がギュッっとするよ! で、ジャスミンは?」
「私はね、巻き込まれたの。だってテオが、私と結婚する事が商会千年計画の始まりでしょ? って。だから仕方ないわね、って」
「ダメダメダメ! 良し、ジャスミンはこっちに残りなさい。僕とライラの側に居て。これからも一生、ずっと!」
「嫌よ。私だって母さまと父さまみたいに幸せな結婚生活を送りたいもの。それに相手がテオなら気を使わなくてもいいし、私の毒舌も慣れっこだから胃を傷めないからお互いにちょうどいいの」
「な、な、何言ってんの!? 相手公爵家だよ!? 言っとくけどうちみたいなミジンコ伯爵家とぜんっぜん違うんだよ!?」
というよりも何よりも、王家と親族になりたくないリアンである。正直家柄などどうでもいい。可愛い娘をどこかに嫁がせたくないという気持ちと、これ以上王家との繋がりを持ちたくない。それだけである。
「今どき家柄とか言ってんのナンセンスだよ~。アリスにぶん投げられちゃうよ~?」
「そうよ、リー君。それにテオ君は優しいし一途だし、そういうのを取っ払ったらとても良い結婚相手よ?」
「そ、そうかもだけど! テオには何の問題もないよ! 僕もあの子好きだよ! ただなぁ……姉が王妃……なんだよなぁ……ああ、思い出す……王子に目をつけられてからの日々……それもこれもぜんっぶあいつのせいなんだけど!」
一体どこでどう人生を間違えたのか、アリスと関わったばっかりに女装でプロポーズする羽目になるわ、ルイス達と友人になるわ、世界を救う羽目になるわ散々である。
今思えばアリスを一番最初に認識したのはあの学園での鬼ごっこの時だ。あの時リアンは洞窟にじっと隠れてただ時間が過ぎるのを待っていた。鬼ごっこは貴族が下っ端貴族を追い回すためだけに作られたゲームだった。そんなしょうもないゲームに参加するのはバカげている。どうせ負けるならせめて最後まで見つからずにいてやる。そう思っていたのに、結果は鬼が勝ち、それをやり遂げたのがアリスだったのだ。洞窟から出てアリスを初めて確認した時心に誓った。『あいつとは絶対に関わらないようにしよう』と。
リアンは机に突っ伏して長い長い溜息を落とす。
「その話はまた帰ってきたら話そうか……そもそもまだテオとジャスミンの口約束だもんね」
そうだ。そもそもテオは公爵家の次期当主だ。そんな家柄の人間が本気でミジンコ伯爵家を相手になどするはずがない。
「そっか! これはあれだ。ちっちゃい頃に当人同士の口約束で終わるパターンの奴だ。うん、そうだな! よし! それじゃああっちに何持っていく!? 二人共!」
リアンは自分に言い聞かせて勢いよく顔を上げた。ちょっと現実に目を向ければそんな事が起こるはずがない。そういう身分違いの恋物語は本の中だけで十分だ。
「……」
突然元気になったリアンを見てジャスミンとローズが何かを言いかけようと口を開いたその時、ライラがそんな二人をそっと手で制して口元に指先を当てて微笑んだ。そんなライラを見て二人は口を噤んで頷く。
ジャスミンとローズにははっきりと見えていた。テオとジャスミンが周囲の根回しによって本当に数年後に結婚する事になるという未来が。そしてその時のリアンの形相はとても言葉では言い表せないということも。
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