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第489話 バカなアイツ
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夜が明ける頃、仲間たちはそれぞれの配置に向かって出発しだした。いつも通りの何気ない挨拶と、また後で、という言葉が今日に限っては妙に重い。
「兄さま、レインボー隊から写真が届いたよ」
アリスは戦闘服に着替えながらノアにスマホを差し出すと、ノアはそれを見て頷く。
「霧が人形になったね。アリス、僕とキリはこのままアメリアを追うよ。何かあったら――」
「ホウ・レン・ソウ! でしょ?」
「そう。君が最も苦手とするやつだけど、今回ばっかりは状況を細かく教えてね。まぁリー君とオリバーがいるから大丈夫だとは思うけど」
ノアは言いながらアリスの髪を梳かして一つに束ねた。途中で解けてしまわないように強く結ぶ。
「それから、ハンナじゃないけど無茶はしないように。ちゃんと妖精王の粉持ってる?」
「持ってる! 兄さまは?」
「僕も持ってる。誰かに何かがあったらすぐにそれをかけるんだよ?」
「分かってる。兄さまも無茶はしないでね。これはお願いだからね」
「大丈夫だよ。無茶は前回の時に懲りたから」
前回の戦争の時にアリスを庇って一度死んだノアは、自分が死んだ事でアリスがあれほど悲しむとは思ってもいなかった。あんなアリスの顔はもう二度と見たくない。
ノアの答えを聞くなりアリスは安心したように頷いてノアに抱きついてくる。そんなアリスを抱きしめながら、ノアはそっとアリスの頬に口づけて部屋を出た。
広間にはもうリアンとオリバーとキリしか残っていない。キリ以外はアリス待ちだ。
「それじゃあリー君、僕たちも行くよ。アリスの事お願いね」
「分かった。あんた達も気をつけてね」
「っす。なんかあったらすぐに連絡するっす」
「うん、ありがとう。それじゃあキリ、行こうか」
「はい。それではお二人もお気をつけて」
そう言ってノアが妖精手帳にとある場所の名前を書くのを待って二人は出発した。
「はぁ、行っちゃったね」
「っすね。何か前の時とは違って今回は皆バラバラなんすね」
「ま、仕方ないんじゃないの。だって全世界が戦場なんだから」
言いながらリアンがソファから立ち上がったその時、ようやくアリスがいつもの調子で部屋に姿を現した。そんなアリスの出で立ちを見てリアンが苦く笑う。
「やぁやぁやぁ! お待たせ!」
「思い出すわ~あんたのその髪型! 地獄絵図だった鬼ごっこを」
「そうだったんすか?」
「そうなんだよ、鬼ごっこの授業はこいつ絶対この髪型だったんだよね。で、本当に鬼のような形相で迫ってくんの」
「……怖いっすね。でも俺にも覚えがあるっすね、そういや」
捕まえられた時、確かアリスはこんな髪型だった気がする。あの時のアリスの顔は未だに脳裏にこびりついている。
「で、僕たちはとりあえずあの渦巻く雲の下に向かえばいいのかな?」
「うん! あっちから首ゾワの気配がする!」
「そ、首ゾワの方なんだね。それじゃあ僕たちも行こうか」
「っすね。でもどうやって行くんすか?」
窓の外を見てオリバーが言うと、アリスが何故か胸を張る。
「それは大丈夫! ほらごらん! 来たよ、私達の大きな仲間たちが!」
アリスがそう言って窓の外を指差すと、そこには真っ黒のドラゴンが数十匹のドラゴンを引き連れてこちらにやってくるのが見えた。
「ドンじゃん!」
「そ! ドンとスキピオとレインボードラゴンが残ったんだ。スキピオ達はそれぞれレヴィウスとメイリング、フォルスとかに向かってるよ」
「そうなんすね……あいつらもバカだなぁ」
そんな事を言いながらも頼もしいドラゴンたちに思わず頬が緩む。
「みんなみ~んな、この星の仲間だからね! それじゃあレッツゴー!」
アリスが拳を振り上げると、そんなアリスを無視してリアンはスタスタと部屋を出ていく。あまりにも華麗にスルーされたのでちらりとオリバーを見ると、オリバーは戸惑ったような恥ずかしそうな顔をして小さく拳を上げてくれた。
「それじゃあドンちゃん! 皆たち! あそこの黒い渦までゴーだ! 途中危ないと思ったらすぐに引き返すこと! オッケー!?」
アリスの声にドラゴン達は一斉に返事をする。それを聞いたアリスは満足げに頷いて腕を組んでドンの頭の上に立った。
「いやあんた! なんでそんなとこ立ってんの!?」
一体あそこにどんな仕掛けがあるのか、ドンが飛び上がってもアリスはビクともしない。相変わらず無茶苦茶なアリスにリアンがドンの背中のカゴから叫ぶと、アリスは首だけで振り返ってニヤリと笑って足元を指差す。
「ここに足を引っ掛ける私とアミナス専用鞍がついてるの! だから大丈夫だよ!」
「そういう問題じゃないんだよ! いいからさっさとこっち来なさい!」
足元の仕掛けなどどうでもいい。ただただ怖いのだ! マッハで飛ぶドラゴンの頭の上に直立不動で腕組をして立つ人間など、それはもう確実に人間ではない。
「ふははは! リー君は兄上のような事を仰る! だが我はここから動かぬ! なぜなら飛んでいる最中はこの仕掛けは外れないようになっているからである!」
「何やってんのぉ!? このバカチンはもぉぉぉぉぉ!!!!」
「リー君、あんま酸素薄い所でキレたら血圧上がって脳の血管切れるっすよ!」
「だって、あいつ……あいつがバカだからぁぁ!!!」
半泣きでオリバーにしがみついたリアンはアリスを指さしながら滔々とアリスのぐちを語りだす。そんなリアンを抱きとめながらオリバーはよしよしとリアンの頭を撫でながら思う。
「あんたのストレスの大半はアリスなんっすね。ていうか、やっぱ全部終わったらどっか遊びに行った方がいいっすよ」
「……そうする。あいつの居ない所に行きたい。あいつが開発した物とか無い所に行きたい」
「……それはもはや秘境っすね」
大体どこへ行ってもアリスの影響を受けた商品や食べ物で溢れている。それを見てもアリスを思い出すのなら、もうリアンの心が休まる場所などほとんど無い。
結局リアンは髪を振り乱してドラゴンの頭に乗るアリスを写真に収めてライラに送った。きっとライラはこんなアリスでも喜ぶに違いないのだから。
「兄さま、レインボー隊から写真が届いたよ」
アリスは戦闘服に着替えながらノアにスマホを差し出すと、ノアはそれを見て頷く。
「霧が人形になったね。アリス、僕とキリはこのままアメリアを追うよ。何かあったら――」
「ホウ・レン・ソウ! でしょ?」
「そう。君が最も苦手とするやつだけど、今回ばっかりは状況を細かく教えてね。まぁリー君とオリバーがいるから大丈夫だとは思うけど」
ノアは言いながらアリスの髪を梳かして一つに束ねた。途中で解けてしまわないように強く結ぶ。
「それから、ハンナじゃないけど無茶はしないように。ちゃんと妖精王の粉持ってる?」
「持ってる! 兄さまは?」
「僕も持ってる。誰かに何かがあったらすぐにそれをかけるんだよ?」
「分かってる。兄さまも無茶はしないでね。これはお願いだからね」
「大丈夫だよ。無茶は前回の時に懲りたから」
前回の戦争の時にアリスを庇って一度死んだノアは、自分が死んだ事でアリスがあれほど悲しむとは思ってもいなかった。あんなアリスの顔はもう二度と見たくない。
ノアの答えを聞くなりアリスは安心したように頷いてノアに抱きついてくる。そんなアリスを抱きしめながら、ノアはそっとアリスの頬に口づけて部屋を出た。
広間にはもうリアンとオリバーとキリしか残っていない。キリ以外はアリス待ちだ。
「それじゃあリー君、僕たちも行くよ。アリスの事お願いね」
「分かった。あんた達も気をつけてね」
「っす。なんかあったらすぐに連絡するっす」
「うん、ありがとう。それじゃあキリ、行こうか」
「はい。それではお二人もお気をつけて」
そう言ってノアが妖精手帳にとある場所の名前を書くのを待って二人は出発した。
「はぁ、行っちゃったね」
「っすね。何か前の時とは違って今回は皆バラバラなんすね」
「ま、仕方ないんじゃないの。だって全世界が戦場なんだから」
言いながらリアンがソファから立ち上がったその時、ようやくアリスがいつもの調子で部屋に姿を現した。そんなアリスの出で立ちを見てリアンが苦く笑う。
「やぁやぁやぁ! お待たせ!」
「思い出すわ~あんたのその髪型! 地獄絵図だった鬼ごっこを」
「そうだったんすか?」
「そうなんだよ、鬼ごっこの授業はこいつ絶対この髪型だったんだよね。で、本当に鬼のような形相で迫ってくんの」
「……怖いっすね。でも俺にも覚えがあるっすね、そういや」
捕まえられた時、確かアリスはこんな髪型だった気がする。あの時のアリスの顔は未だに脳裏にこびりついている。
「で、僕たちはとりあえずあの渦巻く雲の下に向かえばいいのかな?」
「うん! あっちから首ゾワの気配がする!」
「そ、首ゾワの方なんだね。それじゃあ僕たちも行こうか」
「っすね。でもどうやって行くんすか?」
窓の外を見てオリバーが言うと、アリスが何故か胸を張る。
「それは大丈夫! ほらごらん! 来たよ、私達の大きな仲間たちが!」
アリスがそう言って窓の外を指差すと、そこには真っ黒のドラゴンが数十匹のドラゴンを引き連れてこちらにやってくるのが見えた。
「ドンじゃん!」
「そ! ドンとスキピオとレインボードラゴンが残ったんだ。スキピオ達はそれぞれレヴィウスとメイリング、フォルスとかに向かってるよ」
「そうなんすね……あいつらもバカだなぁ」
そんな事を言いながらも頼もしいドラゴンたちに思わず頬が緩む。
「みんなみ~んな、この星の仲間だからね! それじゃあレッツゴー!」
アリスが拳を振り上げると、そんなアリスを無視してリアンはスタスタと部屋を出ていく。あまりにも華麗にスルーされたのでちらりとオリバーを見ると、オリバーは戸惑ったような恥ずかしそうな顔をして小さく拳を上げてくれた。
「それじゃあドンちゃん! 皆たち! あそこの黒い渦までゴーだ! 途中危ないと思ったらすぐに引き返すこと! オッケー!?」
アリスの声にドラゴン達は一斉に返事をする。それを聞いたアリスは満足げに頷いて腕を組んでドンの頭の上に立った。
「いやあんた! なんでそんなとこ立ってんの!?」
一体あそこにどんな仕掛けがあるのか、ドンが飛び上がってもアリスはビクともしない。相変わらず無茶苦茶なアリスにリアンがドンの背中のカゴから叫ぶと、アリスは首だけで振り返ってニヤリと笑って足元を指差す。
「ここに足を引っ掛ける私とアミナス専用鞍がついてるの! だから大丈夫だよ!」
「そういう問題じゃないんだよ! いいからさっさとこっち来なさい!」
足元の仕掛けなどどうでもいい。ただただ怖いのだ! マッハで飛ぶドラゴンの頭の上に直立不動で腕組をして立つ人間など、それはもう確実に人間ではない。
「ふははは! リー君は兄上のような事を仰る! だが我はここから動かぬ! なぜなら飛んでいる最中はこの仕掛けは外れないようになっているからである!」
「何やってんのぉ!? このバカチンはもぉぉぉぉぉ!!!!」
「リー君、あんま酸素薄い所でキレたら血圧上がって脳の血管切れるっすよ!」
「だって、あいつ……あいつがバカだからぁぁ!!!」
半泣きでオリバーにしがみついたリアンはアリスを指さしながら滔々とアリスのぐちを語りだす。そんなリアンを抱きとめながらオリバーはよしよしとリアンの頭を撫でながら思う。
「あんたのストレスの大半はアリスなんっすね。ていうか、やっぱ全部終わったらどっか遊びに行った方がいいっすよ」
「……そうする。あいつの居ない所に行きたい。あいつが開発した物とか無い所に行きたい」
「……それはもはや秘境っすね」
大体どこへ行ってもアリスの影響を受けた商品や食べ物で溢れている。それを見てもアリスを思い出すのなら、もうリアンの心が休まる場所などほとんど無い。
結局リアンは髪を振り乱してドラゴンの頭に乗るアリスを写真に収めてライラに送った。きっとライラはこんなアリスでも喜ぶに違いないのだから。
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