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第495話 それぞれの王たち

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「そうね。まずは親からはぐれた子たちを保護しないと。孤児院の子たちも心配だわ」
「ええ。幼い子を連れた方たちの事はドロシーさんとエマさん、それからマリーさんに任せておけば問題ないわ。さぁ行くわよ、オリビア。久しぶりの乗馬ね!」
「ええ! 早駆けなんて何年ぶりかしら!?」

 頬を染めて席を立った二人をルカとヘンリーが慌てて止めた。

「こ、こら待ちなさい! 早駆けなど冗談だろう!? 一体君は今いくつだと思ってるんだ!」
「まぁ! 失礼ね。私だってキャロと一緒に練習してきたんだもの。それに乗ると言っても妖精の馬よ。ティナが私達に預けてくれた子たちがいるの。彼らは絶対に私達を落としたりしないわ」

 頬を膨らませて唇を尖らせたたオリビアを見てヘンリーはバツが悪そうに視線を逸した。そんなオーグ夫妻とは裏腹に、ルカとロビンは目を輝かせて「妖精の馬!?」と喜んでいる。

「そ、それは見てみたいな! 俺も乗せてくれるか?」
「後でね。それにまずは仲良くならないと。ロビン、どこへ行くつもり?」
「え? いや、妖精の馬が来ているなどと聞いては、それなりのもてなしをしなければ……」

 そう言ったロビンの手にはどこから出したのか、立派な人参が握られている。

 それを見たステラは呆れたようにため息をついて、男たちを置いてオリビアの手を掴み部屋を後にした。

「ははは! なかなか個性的な方たちなのだな! こんな事ならもっと早くに付き合いを始めていればよかった!」

 ステラとオリビアの行動力を見てラルフが声を出して笑うと、すぐに真顔になってルカ達に頭を下げる。

「これを機に、貴殿たちには礼と詫びを言いたい。長い間大陸の人間は幻の島の事はすっかり忘れてしまっていた。本当に……申し訳ない事をしていたと思う」
「何を言うか。それはお互い様だぞ、ラルフ王。それに、どのみち我々が同盟を組んでいてもあの戦争は起こったし、今回の事も避けようが無かったはずだ。それが多分、アンソニー王達の作戦だったのだろうからな。全く、まんまとしてやられたな!」

 アンソニー達の事情をあらかた聞いたルカ達は、心の底からアンソニー達に同情した。もっと早くに頼ってくれれば良かったのに、とは思うが、頼られた所で国を守る事で精一杯だった自分たちにはきっと理解出来なかっただろう。

「アンソニー達はルイスの代を選んだ。我々の仕事はと言えば、彼らにその地位を約束する事だけだ。それを果たした今、我らもまた知らぬうちに彼らの計画の一端を担っていたのだろう。それはラルフ王、あなたもだ」
「私? 私は何も……」
「いいや。前回の戦争が終わり、ノアと和解をした事はかなり大きな出来事だ。何せノアとアリスに強力な後ろ盾が出来たのだからな。ただの伯爵家から、レヴィウスの代四王子の称号が戻ったのはかなりこちらに有利になったはずだ」

 ノアに権力を持たせるのは危険だとノアを知る者たちは反対したようだが、ノアをよく知る者たちこそラルフ王の決定に賛成したという。

 それは、彼が悪魔じみていたとしても優秀な人材だったからだ。野放しにするよりは鎖をつけた方がいいと考えた者もいたようだが、彼はそんな鎖すらも最大限に利用している。

「あれは色々巷では言われているが、本心は……贖罪だな。私たちは幼いノアが幽閉されるのをただ見ていた。助けてやる素振りすら見せずに。オピリアによって兄弟の仲は悪くなり、その上ノアまで消えるなんて思ってもいなかった。全てを知った時、私達は心の底から後悔した。どこかでノアに会えたら、どこかでまだノアが生きていたら、今度こそ彼を守る、と。末っ子だから可愛かったんだ、本当は」
『それは少し言い過ぎでは? ともあれ我々は彼にもう一度出会えた訳ですが……まぁ、結婚していた事と嫁があんなだった事は少し……いや、大分戸惑いましたね』

 オルトはいつでも元気なアリスを思い出して苦笑いを浮かべてメガネを押し上げた。最初こそどうしてこんな娘を? と思ったが、ノアの本質が分かるにつれてノアにアリスの存在は必須だと思うようになったのは誰にも内緒だ。

「ははははは! アリスはな! 何せ勲章を俺の目の前でポケットに無造作に突っ込んだようなやつだからな! なんであれノアとアリスの後ろ盾が出来たのは大きな出来事だ。さて、それでは我々もそろそろ仕事をしようか。あちらに戻った時に世界が混乱していてはルイス達に呆れられてしまう」
「ルカどのの言う通りだな。お前たち、聞こえているな? 全ての領主に伝えよ。どんなに些細ないざこざも見逃すな、と」

 ラルフが天幕の外に向かって声をかけると、返事と共に数人の足音が遠ざかっていく。

「さて、では我々も行くとしよう」

 ラルフが立ち上がると、それに続いて各国の要人たちは立ち上がった。こんな風に各国の主要人物が何の下心もなく同じ方向を向くのは初めてのことではないだろうか。

 ラルフはそんな事を考えながら天幕を後にした。
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