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第507話 人形たちは敵じゃない!
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一般の騎士や国民達にはオズワルドがどんな人物かと言う事はあまり知れ渡っていない。今回の事はきっと漠然と神との戦いだと聞かされているのだろう。
けれど自分たちは知っている。今回の戦争は全てが星のためであり、敵も味方も無いのだと言うことを。オズワルドでさえそれを承知でアンソニー達の計画に乗った。今になって思えば、彼はこの世界に来た時から自分の役どころを理解していたのではないだろうか。
アランの言葉に騎士は安心したように微笑んで、一礼してその場を立ち去る。
そこへネージュに居る蒼の騎士団を連れたアーロから連絡が入った。
『そちらはどうだ?』
「順調です。やはり王都周辺に多いようですね。セレアル、グランにはほとんど現れていないようです」
『そうか。こちらも同じだ。オルゾにはオズワルドが居るからか人形が多くいるようだが、そこから皆、まっすぐ王都の方へ向かって歩いて行くそうだ。俺達はこのまま後を追う。また連絡する』
「分かりました。お気をつけて」
スマホを切ったアランは王都を一望出来る崖に登り片手を上げた。それと同時に王都のあちこちに紫に輝く雷の矢が降り注ぐ。これが戦闘開始の合図だ。
合図を受けて王都に配備した騎士たちが一斉に動いた。アランはそんな光景を見下ろしながら次々に矢を放ったが、人形たちは伝令兵の言う通り、何度でも再生してくる。
それからどれぐらいの間魔法の矢を放っていたのか、流石に疲れが見え始めてきた頃、不意に胸に下げていたペンダントが光った。
これは結婚記念日にチビアリスとお揃いで作った二人の魔力が込められた魔石で作ったペンダントだ。互いの身に何かあった時、離れていても助け合える事が出来るようにと願いを込めたペンダントが熱を帯びる。
「アリス、僕を守ってくれてるの?」
意識を失ったままのチビアリスは今もずっと側に居てくれているのか。そう思うだけで不思議と力が湧いてくる。
アランは深呼吸を一つしてチビアリスが愛しそうにリリーを寝かしつける姿を思い出しながらペンダントに触れると、不思議な事にアランが今まで撃っていた矢の色が金色に変化した。それまでは意識して人形たちを狙っていたが、矢が金色に輝いた途端、意識せずとも矢は真っ直ぐに人形たちだけを撃ち抜いていく。
「こ、これは一体……」
それまでアランの魔法に撃ち抜かれていた人形たちは少なくとも苦しそうに倒れて再生していたというのに、金色の矢に変わった途端、人形たちはまるでその矢を待っていたかのように一斉に降ってくる矢を見上げている。
脳裏に不意に浮かんだのはアンソニーの言葉だ。アンソニーは正規の手段を踏んで魂を浄化したいと言っていた。それはこの人形達が一番良く理解しているのかもしれない。
そんな光景に驚いたのはアランだけではない。王都で戦っていた騎士たちもまた、突然襲いかかってくるのを止めた人形たちに驚いていた。
「愛の話が好き……か」
アンソニーは愛の話が好き。あれはもしかしたら、こういう事だったのではないだろうか。
まるで何かを突然理解したかのようにアランはハッとして顔を上げて声を張り上げた。
「皆さん! 聞いてください! 彼らを闇雲に斬りつけるのは止めてください! 彼らもまたこの星の愛すべき生命だったんです! 彼らはずっと彷徨ってきた。私達を取り巻く空気や水に溶け込んで、私達と一緒に長い時間を過ごしました。そんな彼らが望んでいるのは新しい命です! 彼らは敵ではありません! 彼らに慈悲と愛を!」
自分でも何を言っているのかよく分からないが、この金色に輝いた矢と、その矢を待っていたかのような人形たちの動きを見れば分かる。これが正解なのだと。
現に金色の矢を浴びた人形は、白い煙になって二度と再生しなくなった。
アランの言葉に騎士たちは戸惑ったような顔をして剣を下ろした。人形は襲いかかってこないが、消える事もない。
「慈悲や愛ったって一体どうすりゃいいんだ?」
「わからん。わからんが……この人形たちには何か事情がある事だけは分かった。そうか……お前たちは元は空気や水だったんだな……」
アランの言葉を聞いて何だか無性に切なくなった騎士の一人がポツリと言ってスッと人形に向かって剣を振り下ろした。すると不思議な事に剣が金色の光を帯びて、それと同時にどこからともなく風に乗って笑い声が聞こえてくる。男か女か子どもか大人かもよく分からない不思議な声に騎士たちは呆然としている中、剣で切られた人形は2つに裂けてその中から白い煙のような物が空気に溶けて消えていく。
「これで……いいのか?」
笑い声を聞いた騎士が言うと、周りの騎士たちもどよめいた。
ただの戦争だと思っていた。でもこれは普通の戦争ではないのかもしれない。自分たちのやっている事は、もしかしたらただの殺戮ではないのかもしれない。
騎士は声を張り上げた。
「アラン様の言うとおりだ! この人形たちは敵じゃない! 彼らにもう一度新しい命を与えてやるんだ!」
そして、その声は次々に空気に乗ってはるか遠くまで伝搬していった。
けれど自分たちは知っている。今回の戦争は全てが星のためであり、敵も味方も無いのだと言うことを。オズワルドでさえそれを承知でアンソニー達の計画に乗った。今になって思えば、彼はこの世界に来た時から自分の役どころを理解していたのではないだろうか。
アランの言葉に騎士は安心したように微笑んで、一礼してその場を立ち去る。
そこへネージュに居る蒼の騎士団を連れたアーロから連絡が入った。
『そちらはどうだ?』
「順調です。やはり王都周辺に多いようですね。セレアル、グランにはほとんど現れていないようです」
『そうか。こちらも同じだ。オルゾにはオズワルドが居るからか人形が多くいるようだが、そこから皆、まっすぐ王都の方へ向かって歩いて行くそうだ。俺達はこのまま後を追う。また連絡する』
「分かりました。お気をつけて」
スマホを切ったアランは王都を一望出来る崖に登り片手を上げた。それと同時に王都のあちこちに紫に輝く雷の矢が降り注ぐ。これが戦闘開始の合図だ。
合図を受けて王都に配備した騎士たちが一斉に動いた。アランはそんな光景を見下ろしながら次々に矢を放ったが、人形たちは伝令兵の言う通り、何度でも再生してくる。
それからどれぐらいの間魔法の矢を放っていたのか、流石に疲れが見え始めてきた頃、不意に胸に下げていたペンダントが光った。
これは結婚記念日にチビアリスとお揃いで作った二人の魔力が込められた魔石で作ったペンダントだ。互いの身に何かあった時、離れていても助け合える事が出来るようにと願いを込めたペンダントが熱を帯びる。
「アリス、僕を守ってくれてるの?」
意識を失ったままのチビアリスは今もずっと側に居てくれているのか。そう思うだけで不思議と力が湧いてくる。
アランは深呼吸を一つしてチビアリスが愛しそうにリリーを寝かしつける姿を思い出しながらペンダントに触れると、不思議な事にアランが今まで撃っていた矢の色が金色に変化した。それまでは意識して人形たちを狙っていたが、矢が金色に輝いた途端、意識せずとも矢は真っ直ぐに人形たちだけを撃ち抜いていく。
「こ、これは一体……」
それまでアランの魔法に撃ち抜かれていた人形たちは少なくとも苦しそうに倒れて再生していたというのに、金色の矢に変わった途端、人形たちはまるでその矢を待っていたかのように一斉に降ってくる矢を見上げている。
脳裏に不意に浮かんだのはアンソニーの言葉だ。アンソニーは正規の手段を踏んで魂を浄化したいと言っていた。それはこの人形達が一番良く理解しているのかもしれない。
そんな光景に驚いたのはアランだけではない。王都で戦っていた騎士たちもまた、突然襲いかかってくるのを止めた人形たちに驚いていた。
「愛の話が好き……か」
アンソニーは愛の話が好き。あれはもしかしたら、こういう事だったのではないだろうか。
まるで何かを突然理解したかのようにアランはハッとして顔を上げて声を張り上げた。
「皆さん! 聞いてください! 彼らを闇雲に斬りつけるのは止めてください! 彼らもまたこの星の愛すべき生命だったんです! 彼らはずっと彷徨ってきた。私達を取り巻く空気や水に溶け込んで、私達と一緒に長い時間を過ごしました。そんな彼らが望んでいるのは新しい命です! 彼らは敵ではありません! 彼らに慈悲と愛を!」
自分でも何を言っているのかよく分からないが、この金色に輝いた矢と、その矢を待っていたかのような人形たちの動きを見れば分かる。これが正解なのだと。
現に金色の矢を浴びた人形は、白い煙になって二度と再生しなくなった。
アランの言葉に騎士たちは戸惑ったような顔をして剣を下ろした。人形は襲いかかってこないが、消える事もない。
「慈悲や愛ったって一体どうすりゃいいんだ?」
「わからん。わからんが……この人形たちには何か事情がある事だけは分かった。そうか……お前たちは元は空気や水だったんだな……」
アランの言葉を聞いて何だか無性に切なくなった騎士の一人がポツリと言ってスッと人形に向かって剣を振り下ろした。すると不思議な事に剣が金色の光を帯びて、それと同時にどこからともなく風に乗って笑い声が聞こえてくる。男か女か子どもか大人かもよく分からない不思議な声に騎士たちは呆然としている中、剣で切られた人形は2つに裂けてその中から白い煙のような物が空気に溶けて消えていく。
「これで……いいのか?」
笑い声を聞いた騎士が言うと、周りの騎士たちもどよめいた。
ただの戦争だと思っていた。でもこれは普通の戦争ではないのかもしれない。自分たちのやっている事は、もしかしたらただの殺戮ではないのかもしれない。
騎士は声を張り上げた。
「アラン様の言うとおりだ! この人形たちは敵じゃない! 彼らにもう一度新しい命を与えてやるんだ!」
そして、その声は次々に空気に乗ってはるか遠くまで伝搬していった。
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