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第549話 得体のしれない子
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「こっちのパパと同じ髪の色……パパ?」
「違う。ていうか、こっちのパパってなんだ? 他にもパパがいんのか?」
「いる。あっちに居た。今はこっちに居る。目の色も似てる。やっぱりパパ?」
「パパはこんな髪と目の色してんのか? 顔は覚えてるんだろ?」
「分かんない。体動かすの苦手だから」
「……?」
体を動かすこととパパの顔を覚えているかどうかは何か関係があるのか? 子どもの言う事はよく分からない。
ユアンはため息をついて少女の隣に腰掛けると、少女は人懐っこくユアンの膝の上によじ登ってくる。
「で、どうしてお前はここに居るんだ?」
「褒めてもらおうと思ったらここに居た。パパの気配がしたのに、ぐちゃぐちゃして分かんなくなっちゃった」
「そうかよ。気配辿る子供って何だよ……? なぁ、お前幽霊とかじゃねぇよな?」
「幽霊……幽霊……」
少女はそう言って視線をしばし彷徨わせたかと思うと、突然ハッとして話しだした。
「幽霊、それは死んだ者が成仏出来ずに現世に姿を現すこと。もしくは死者の霊。誰しもに見える訳ではないので、その存在は概念と言えよう」
「お、おお……急にスラスラ喋るじゃねぇか……何なんだよ、こいつ」
何だか怖くなってきたユアンが息を呑むが、少女は一向にユアンの膝から降りようとはしない。それどころか、ユアンにピタリと隙間なく張り付いてくる。もう絶対に離れないぞという強い意志を感じた少女を、ユアンは仕方なく抱きかかえてどうしたものかと考え込んだ。
「恰好つけて出てきた手前、戻りにくいんだよなぁ」
しかも自分はスマホも持っていない。だから誰とも連絡を取ることが出来ない。
どうしようもなくて途方に暮れていたその時、先程自分がやってきた廊下からユアンを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ユアンー! どこまで行ったんですかー? おーい! 居たら返事してくださーい!」
「しめた! アルファ! こっちだ!」
何という良いタイミングでやってくるのか! 思わずユアンが叫ぶと、腕の中で少女が急いで耳を塞いだ。
「あ、悪い。うるさかったか」
「大きくてはっきり聞こえる。耳……これが耳……」
「?」
何だかよく分からない少女だ。というよりも、ここにいつまでも居たら危ない。早いところこの少女をレプリカに送ってやらなければ。
ユアンはアルファの声がした方に向かって歩きだすと、ちょうど角をアルファが曲がってきた所だった。
アルファはユアンを見つけるなりホッとした顔をして、次の瞬間にはユアンが抱いている少女を見て眉根を寄せる。
「えっと……隠し子、とかですか?」
「なんでだよ! 迷子だよ! アルファ、こいつをレプリカに送ってやってくれるか? どうやら親とはぐれたみたいだ」
「はぐれた? えっと、お嬢さん、あなたはどこから来たのですか? 住んでいた場所の名前とか分かりますか?」
アルファが微笑みながら少女に問うと、少女は少しだけ考えて天井を指さした。
「地上からって事か?」
「違う。もっと上。それも違う気がする……中? 外?」
「?」
「始終この調子なんだよ。結局パパも誰か分からんん。なぁ、パパの名前分かるか?」
「こっちのは知らない」
「こっちのは?」
取り留めのない少女との会話にとうとうアルファも首をかしげた。この少女、何かが変だ。そう思うけれど、見た目は完全に少女なので放り出して行く訳にもいかない。
「偽名を使っていたとかそういう事なんでしょうか?」
「どうなんだろうな。とりあえず誰かレインボー隊持ってるか? こいつをレプリカに送ってやらないと。あっちについたら誰かに連絡をしてそれから――」
ユアンがそこまで言ったその時だ。突然少女がユアンの腕の中から飛び降りた。そして廊下のさらに奥に向かって一目散に走り出す。
「あ! おいこら! 止まれ!」
「パパが居る! あっちにパパがいる!」
「はぁ? まさかパパもここで迷子になってんのか?」
ユアンとアルファが顔を見合わせて少女を追いかけて角を曲がると、そこにはもう少女の姿はどこにも無かった――。
「ア、アルファ……」
少女が消えた廊下の先を見てユアンは一歩後退りすると、後からやってきていたアルファにぶつかる。
「はい?」
「俺たちは子供を追いかけていた。よな?」
「はい」
「お前にも見えてた……よな?」
「……はい」
「……どこ行ったんだよ? ここ、一本道だし転移装置も無いはずだぞ」
「……」
「黙るの止めろよ!」
完全に沈黙してしまったアルファを押しのけてユアンは廊下をくまなく探し回ったが、もう少女の痕跡はどこにも無い。
「そうだ! パパ! パパがあっちに居るって言ってたよな!?」
「言ってましたね。でもユアン、ここから先は核ですよ」
「……今核に居る男って」
「妖精王、観測者、ノア様、キリ君ですね」
「あの小娘、俺の髪と目の色見てパパと一緒だって言ったんだ。その中で俺と同じような髪色と目の色してるのって……」
「ノア様……ですね」
アルファがポツリと言うと、それまでビクビクしていたユアンがスックと立ち上がった。
「あいつ、ぶっ殺してやる!」
「え? あ、ちょ! ユアン!」
止めるアルファを振り切ってユアンが核に向かって走り出した。どうやらノアの隠し子か何かかと思い込んだようだ。なんだかんだ言いながら、やはりユアンはアリスが可愛いらしい。
だがそれは多分ただの勘違いだろう、と思いながらアルファもユアンの後を追う。たとえ天地がひっくり返ってもノアは浮気など絶対にしないし、アリス以外の女性を愛することも無いだろうから。
「違う。ていうか、こっちのパパってなんだ? 他にもパパがいんのか?」
「いる。あっちに居た。今はこっちに居る。目の色も似てる。やっぱりパパ?」
「パパはこんな髪と目の色してんのか? 顔は覚えてるんだろ?」
「分かんない。体動かすの苦手だから」
「……?」
体を動かすこととパパの顔を覚えているかどうかは何か関係があるのか? 子どもの言う事はよく分からない。
ユアンはため息をついて少女の隣に腰掛けると、少女は人懐っこくユアンの膝の上によじ登ってくる。
「で、どうしてお前はここに居るんだ?」
「褒めてもらおうと思ったらここに居た。パパの気配がしたのに、ぐちゃぐちゃして分かんなくなっちゃった」
「そうかよ。気配辿る子供って何だよ……? なぁ、お前幽霊とかじゃねぇよな?」
「幽霊……幽霊……」
少女はそう言って視線をしばし彷徨わせたかと思うと、突然ハッとして話しだした。
「幽霊、それは死んだ者が成仏出来ずに現世に姿を現すこと。もしくは死者の霊。誰しもに見える訳ではないので、その存在は概念と言えよう」
「お、おお……急にスラスラ喋るじゃねぇか……何なんだよ、こいつ」
何だか怖くなってきたユアンが息を呑むが、少女は一向にユアンの膝から降りようとはしない。それどころか、ユアンにピタリと隙間なく張り付いてくる。もう絶対に離れないぞという強い意志を感じた少女を、ユアンは仕方なく抱きかかえてどうしたものかと考え込んだ。
「恰好つけて出てきた手前、戻りにくいんだよなぁ」
しかも自分はスマホも持っていない。だから誰とも連絡を取ることが出来ない。
どうしようもなくて途方に暮れていたその時、先程自分がやってきた廊下からユアンを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ユアンー! どこまで行ったんですかー? おーい! 居たら返事してくださーい!」
「しめた! アルファ! こっちだ!」
何という良いタイミングでやってくるのか! 思わずユアンが叫ぶと、腕の中で少女が急いで耳を塞いだ。
「あ、悪い。うるさかったか」
「大きくてはっきり聞こえる。耳……これが耳……」
「?」
何だかよく分からない少女だ。というよりも、ここにいつまでも居たら危ない。早いところこの少女をレプリカに送ってやらなければ。
ユアンはアルファの声がした方に向かって歩きだすと、ちょうど角をアルファが曲がってきた所だった。
アルファはユアンを見つけるなりホッとした顔をして、次の瞬間にはユアンが抱いている少女を見て眉根を寄せる。
「えっと……隠し子、とかですか?」
「なんでだよ! 迷子だよ! アルファ、こいつをレプリカに送ってやってくれるか? どうやら親とはぐれたみたいだ」
「はぐれた? えっと、お嬢さん、あなたはどこから来たのですか? 住んでいた場所の名前とか分かりますか?」
アルファが微笑みながら少女に問うと、少女は少しだけ考えて天井を指さした。
「地上からって事か?」
「違う。もっと上。それも違う気がする……中? 外?」
「?」
「始終この調子なんだよ。結局パパも誰か分からんん。なぁ、パパの名前分かるか?」
「こっちのは知らない」
「こっちのは?」
取り留めのない少女との会話にとうとうアルファも首をかしげた。この少女、何かが変だ。そう思うけれど、見た目は完全に少女なので放り出して行く訳にもいかない。
「偽名を使っていたとかそういう事なんでしょうか?」
「どうなんだろうな。とりあえず誰かレインボー隊持ってるか? こいつをレプリカに送ってやらないと。あっちについたら誰かに連絡をしてそれから――」
ユアンがそこまで言ったその時だ。突然少女がユアンの腕の中から飛び降りた。そして廊下のさらに奥に向かって一目散に走り出す。
「あ! おいこら! 止まれ!」
「パパが居る! あっちにパパがいる!」
「はぁ? まさかパパもここで迷子になってんのか?」
ユアンとアルファが顔を見合わせて少女を追いかけて角を曲がると、そこにはもう少女の姿はどこにも無かった――。
「ア、アルファ……」
少女が消えた廊下の先を見てユアンは一歩後退りすると、後からやってきていたアルファにぶつかる。
「はい?」
「俺たちは子供を追いかけていた。よな?」
「はい」
「お前にも見えてた……よな?」
「……はい」
「……どこ行ったんだよ? ここ、一本道だし転移装置も無いはずだぞ」
「……」
「黙るの止めろよ!」
完全に沈黙してしまったアルファを押しのけてユアンは廊下をくまなく探し回ったが、もう少女の痕跡はどこにも無い。
「そうだ! パパ! パパがあっちに居るって言ってたよな!?」
「言ってましたね。でもユアン、ここから先は核ですよ」
「……今核に居る男って」
「妖精王、観測者、ノア様、キリ君ですね」
「あの小娘、俺の髪と目の色見てパパと一緒だって言ったんだ。その中で俺と同じような髪色と目の色してるのって……」
「ノア様……ですね」
アルファがポツリと言うと、それまでビクビクしていたユアンがスックと立ち上がった。
「あいつ、ぶっ殺してやる!」
「え? あ、ちょ! ユアン!」
止めるアルファを振り切ってユアンが核に向かって走り出した。どうやらノアの隠し子か何かかと思い込んだようだ。なんだかんだ言いながら、やはりユアンはアリスが可愛いらしい。
だがそれは多分ただの勘違いだろう、と思いながらアルファもユアンの後を追う。たとえ天地がひっくり返ってもノアは浮気など絶対にしないし、アリス以外の女性を愛することも無いだろうから。
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