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第563話 不穏な連絡

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「昼間のとは比べ物にならないよな。規模もだけど、やっぱ凶暴性もかなり増してる。おまけに武器や魔法も模倣するんだろ?」
「ええ……私の武器を模倣されるのは避けたいのでこうして地下に下りてきましたが、地上の彼らは大丈夫でしょうか……」
「それなら大丈夫だ。こちらもレインボー隊が役立ってくれている」

 そう言ってルイスはカールに束になった書類を見せた。それはノアの所に居るレッド君と、ユアンに預けられているレッドα君が状況を判断して先程からこちらに居るレインボー隊にこまめにメッセージを送り続けてくれているのだ。

「さっき俺がアリスちゃんにおにぎり送ったじゃん? それもこいつらが送ってくれるんだ。そろそろ無くなるぞ~ってさ」

 殺伐とした状況の中でポツンと書き込まれるアリスのおにぎり事情に、実は救われているのはカインだけではないはずだ。

「そうですか。それでは安心――すみません、父からです」

 それを聞いて胸を撫で下ろしていたカールのスマホが突然鳴り響いた。

 カールはその場を離れてスマホを取ると、珍しく焦ったようなアンソニーの声が聞こえてくる。

『カール、アメリアは居なかった。誰かが地上に残っているみたいだ。彼女を追う術が僕にはもう無い。どんな手を使ったのか、妖精王の真名書でも追えなくなってしまっている。彼女は誰かと組んでいる』
「え? 誰か、とは?」
『分からない。少なくとも妖精王、観測者の目をかいくぐれるほどの実力者だという事しか』
「まさか、オズですか?」
『何とも言えない。妖精王曰く、坑道には確かにオズの気配があったが、その後すぐにその場から立ち去ったのだろうと言うことが分かっている。カール、僕はこのままユアン達と合流するよ。君は地下に居るんだろう? この事を他の皆に伝えてやってくれるかい?』
「分かりました。父さん、気をつけて。今回の人形は学習します。その事を頭の隅に置いておいてください」
『分かった。ありがとう』
「無茶はしないでくださいね! もうすぐ……願いが叶うんですから」

 カールの切実な言葉にアンソニーは笑いながら返事だけしてスマホは切れた。

 途絶えてしまったスマホを見てカールはため息を落とすと急いで部屋に戻り、今しがたアンソニーから聞いた話を全員に伝えた。

「妖精王と観測者の目すらかいくぐるだなんて……嘘だろう?」
「嘘だとどれほどいいか。ですが父が本気で焦っていました。ということは、父にも皆目検討がつかないと言うことです。アメリアがどんな手を使い、誰と手を組んでいるのか全く分かりません」
「そんな……そんなのどうすりゃいいんだよ!?」

 カインが思わず怒鳴ると、ルイスが小さく咳払いをして言った。

「落ち着け、カイン。ひとまずアメリアの事は置いておこう。今我々が考えなければならないのはオズだ」
「そうですよ、カイン。こういう時こそ冷静に判断するのが宰相の努め。私たちはレインボー隊から送られてくる情報を元に、人形とオズの現状をまとめて皆と共有する必要があります」
「……そうだよな。ごめん。悪かったな、ルイス」
「いや、いい。お前は昔から誰よりも熱い奴だって事を俺はもう知っている。でもその後は必ず冷静になって最善の手を考えることもな。実は俺たちの中では一番アリスの思考に近いのもお前だしな」

 カインは昔から先に起こりそうな事態を見越して悲観したりするが、それは逆を言えばそういう事態になることもきちんと想定に入れられているということだ。ノアとつるんで一見エグい作戦を立てたとしても、カインはさらにその先の事態も見据えている。それをする事によって毎回生まれた副産物は、いつだってカインのおかげなのだ。

「それは褒められてるのか貶されてるのか分かんないな」
「褒めているぞ。アリスのようにはなかなかなれないが、俺はアリスの思い描く世界は楽しそうだと思うからな。そういう世界に近づけるために俺たちはこの地位にいるんだ」
「そうだな。せっかくの地位だ。よし、それじゃあ俺はこのままノアに各地の状態を連絡してくる。ルイスはキャロラインな」
「分かった」
「父がユアン達と合流するようなので、私はユアンと連絡を取ります」
「では私はここでもう少し資料をまとめよう。ああ、カールさん、これをアンソニー王に送ってやってください」

 そう言ってオルトは小さな箱に詰め直したおにぎりをカールに渡した。それを見てカールは一瞬驚いたように目を見開き、続いて子供のような笑顔を見せる。

「ありがとうございます。それではまた後で」
「あ、ああ。また後で」

 おにぎりが入った小箱を持って部屋を出ていくカールの後ろ姿を見送りながらオルトはぽつりと呟く。

「彼もまた、無理やり大人にならざるを得なかったのだろうな……」

 周りの状況に振り回され、幼少期を棒に振ったカール。

 そしてそのまま永遠の命などという呪いに自ら飛び込み、今もなお父親と消えた母親の縁を繋ぎ直す為に生きている。

「ああ……俺らとは比べもんになんないぐらい、彼の人生はめちゃくちゃだ。だからこそ絶対に成功させないと。だろ?」
「ああ、そうだ。では俺たちも行こう。真の平和の為に。皆の幸せの為に」
「ああ」

 カインは少しだけ俯いてルイスの言葉に頷いた。こんな所で倒れる訳にはいかない。絶対に失敗する訳にはいかない。自分達の背中にはこの星の全ての生物の命が背負われているのだから。
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